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「影は見えねぇな」
良治は言ったが、大男は良治の肩を叩いて、お前はメットを脱いで顔の墨を落としておけ、と命じ、改札口に歩いていった。
駅員が一人、退屈そうに座っている。
「あの、申し訳ありません。中学生くらいの男の子が、誰かと、ここを通らなかったでしょうか?」
とっておきの、人当たりの良い笑顔を浮かべて、聞いた。
「あ、私は良治、その男の子の父親でして、どうも中学生になってから、年頃でしょうか、時々、フラッと夜遊びに出ることが多くなりましてね。
まぁ、俺の息子ですから少々悪いのは仕方ないんですが、まだチビ助なんですよ。
身長が一六〇にも足らない程でね。
少しは痛い目にでもあった方が懲りるんでしょうが、最近はシャレにならないこともありますしね、親心としては心配で」
ああ、と四〇代ぐらいの、子持ちであろう駅員は微笑んだ。
「たぶんその子なら、女の子の手を引いて、先ほど走っていきましたよ。
悪いことをするような子には見えませんでしたけどねぇ」
「ああ、ゆきちゃんと一緒でしたか。
だから、だなぁ。
背伸びして見せたいんでしょうね、彼女に」
「難しい年頃ですからね」
駅員は笑った。
「有難うございます。
ちょっと新宿まで探しに行ってきます」
言うと、スイカで駅に降りた。
しばらくして良治は、何気ない顔をして、フルフェイスのメットを抱えて改札を通過した。
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永田は自分で止血をして、影を纏って姿を消すとメールを打った。
このスマホは通常の電波の周波数とは違う回線を利用しているので、そう簡単に傍受されることはない。
だが永田が動けないのは敵にバレている。
位置が特定できれば、いかに周波数が内調だけの回線を使用していようと特定不可能、という訳にはいかない。
だが美鳥に知らせておく必要があった。
打ち終わると、永田は煙草に火を点けた。
それにしても応援の野郎、遅いなぁ…。
思いながら、煙を吐いた。




