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壁が壊された。
永田は、改めて壁を作るために、自分の影を解放した。
いや、しようとした。
だが気が付くと、永田は地面に倒れていた。
太ももが大きく切れていた。
動脈をやってしまったのか、大量の血が飛び散っていた。
しまった!
永田は、ほぞをかんだ。
長距離攻撃の男が、いつの間にかワゴン車の影から永田を見ていた。
そして、二人の男は、方南町の街に消えていった。
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「兄貴。あの餓鬼は諦めるのか?」
良治はフルフェイスのヘルメットをかぶったままで問いかけた。
「あの車には餓鬼はいねぇ。
男が窓を開けた時、影の気配がなかった。
俺は、あの男に逃げ場所を吐かせようとして車の扉を開けようとしたんだ」
大男は説明した。
だが腑に落ちない。走っている車から、どうやって餓鬼は消えたのか?
「待てよ!」
大男は立ち止まる。
「きっと、もう一人いたんだ!
影繰りだ。それなら餓鬼の力で、車から落ちられる」
「俺たち、ずっとバイクで後ろを走ってたんだぜ?」
「陸橋だ。
あそこで道路を突き抜けて、下の道に落ちたんだ!」
影のオーラを纏えば、通常の何倍もの力が出せる。個人差もあるが、陸橋から落ちるぐらいなら、餓鬼一人を抱えても屁でもない。
大男は目の前の陸橋に目を走らせた。
「横断歩道歩道に落ちたんだ。
だが餓鬼の影に気が付かなかったという事は、パンクさせた後だ。前の車に気を取られちまったからな。
ってことは、まさにあの場所だ」
大男は陸橋の下を指さした。
「駅があるぜ」
良治が言う。大男は考え込んだ。
この時間なら、車の方が都内どこに行くにいしても早いはずだ。
だが、裏をかく、という事はあり得た。
何より方南町は確かに繁華街だが、地下鉄の駅のため、駅前商店街というほどの街並みはない。
そのため、タクシー乗り場と言った場所も特別にはなかった。
のんびり手を上げて車を待っているよりは、新宿まで出て車を確保するか、それとも仲間と落ち合う方が早いかもしれない。
だが携帯電話は余程のことが無ければ使わないはずだ。
専用の機械があれば、盗聴もGPSによる位置特定も容易なのだ。
「見てみるか、地下鉄。
餓鬼の影が見つかればしめたもんだ」
大男は言うと、方南町の駅に走り出した。
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「あの…、あな…、先輩の蝶も影なんですよね?
僕は、そんな風に影を使えないんですか?」
少女は不思議そうに誠を見た。
「美鳥。
川瀬美鳥よ。美鳥と呼んでいいわ。
影繰りには色々な種類の能力があるの。
影を実体化する様な私のような能力もあれば、誠君のような目には見えない力もある。
でも、あなたの力は十分強いわ。
それに、戦略を立て、自分の能力を使いこなすことで、まだまだ強くなれる。
あなたが影の実体化の力を持つのは…、不可能ではないけれど、確率は高くないわね。
二つの能力を持った影繰りは、そう多くないのよ」
「そうなんですか…。出来たら面白いなぁ、と思ったんですけど…」
「ん、どんなこと?」
「いや、大したことじゃないんですけど、落ちる力があるなら、もう一つ、登る力を使えれば面白いな、って。
こう、床からピョンと」
誠は自分の影を床に映して、手を上下させた。
美鳥はそれを鋭い目で見た。
「影を実体化させる場合、イメージが大切なのよ。
あなたの場合、明確なイメージが出来ているみたいね。影を纏ってみて」
小指の先から影の糸を伸ばして、体に巻き付ける。
「イメージ通りに影を動かせてみて」
誠は床から影が飛び出るイメージを頭に描いてみたが、自分の手の影はそのままだった。
「そういう感じで練習を続けて行けば、もしかしたらいつか実体化が出来るようになるかもしれないわ。
私の蝶も実体化するまでには何ヶ月もかかったのよ」
「そうなんですか?」
はしゃいだように誠は言うと、せっせと影を動かそうとし始めた。
美鳥は、その様子に、かすかに頬を緩ませた。




