21
19
「登ったぜ兄貴!」
良治が言った。
「おし、良治、後輪をパンクさせろ」
20
車がふらつきだした。
「パンクさせられたよ」
落ち着いた声で、永田が報告する。
車は少しづつスピードを落とした。
「もう少しです。あと十メートル」
「誠君、ちょっと覚えておいて」
少女が言った。
「小指から自分の影を出して、体全体を覆うようにイメージするの。
やってみて」
誠は言われたとおり、影をまとった。
「上手いわ。それじゃあ行くわよ」
少女は、誠の腰と、足の下に手を入れた。
えっ、お姫さま抱っこ?
誠はうろたえたが…。
車が思うところに来ると、誠は迷わず少女と二人、落下した。
21
ワゴン車は速度を落とし、徐行しながら陸橋を降りた。
そのまま歩道側へ寄せると、ハザードを点けて停まった。
二台のバイクも、車の後ろに停まり、大男たちはワゴン車に歩いて行った。
ワゴン車は黒のスモークガラスだったので、中の様子は全く見えない。だが、影の気配は感じなかった。
とはいえ、側溝に停車した車に、何の動きも見えないのは不自然だ。
「兄貴、奴ら、銃でも構えてるんじゃないだろうな?」
「密室の中は、俺の感知能力では探れないからな。
こんなことなら防弾チョッキでも持ってくれば良かったな」
大男は言い、良治を手ぶりで下がらせた。
「俺の影のオーラなら、銃弾ぐらいは弾くからな。
お前は援護射撃の出来るところにいてくれ」
大男は自分の小指の影を開いた。影がとぐろを巻くように大男を包む。それから、ゆっくり運転席に近づいた。
生真面目なサラリーマンといった風の、キッチリ分けた髪に黒ぶちメガネの男が、スマホで何か話している。
安心させておいて、左手で銃を撃つなど、この世界では当たり前だ。
影繰りは強い力を持ってはいるが、不意打ちで銃を撃たれたり、ナイフを刺されれば通常人と変わらずにダメージを受けてしまう。
だが周囲の目も気にしなければならなかった。環七通りの賑やかな繁華街で、誠を襲撃した時のような技を披露するわけにもいかない。
大男はいたって愛想の良い笑顔を作り、窓ガラスを人差し指でコンコンと叩いた。
サラリーマンは、今、気がついた、というように振り向き、左手を拝むように持ち上げた。
銃は持っていないようだ。
「いやぁ済みません。
急にタイヤがパンクしてしまって。
今、ジャフを呼んだところですよ」
餓鬼が、このワゴン車に飛び込むのは目撃している。クソ芝居を続けられて、ジャフ、おそらく援軍、を呼ばれたら逃げるしかなかった。
大男は人の好い笑顔を浮かべたままで、言った。
「餓鬼を渡せばよし、渡さないなら、この車ごと破壊するぞ」
サラリーマンは謙虚に頭を下げながら答える。
「ほぅ、ここでですか? やってみればよろしいでしょう」
こいつは相当場慣れした、おそらく影繰りだな、と大男は判断した。
だが時間が立てば、立つほど自分たちが不利になるのは明白だ。
大男は、自分の肉体を包む影の濃度を一気に上げた。
そのままワゴン車のスライドドアに手をかけ、引き剥がそうと試みた。だが…。
突然、大男は自分の目の前に影の壁があることに気が付いた。
あのサラリーマンの能力のようだ。
壁を作る能力か…、と大男は考えた。
防御に特化した能力なのか、大男の力のように攻防ともに使えるものなのか見極める必要がある。
大男は、背後に一歩、飛び退いた。
背中が何かに、ドンッと当たった。
振り返ると自分の後ろにも壁が出来ていた。
二重壁か?
一瞬、思ったが、どうやら壁はドーム状で、自分たちはいつの間にか閉じ込められたらしかった。




