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母に起こされて誠は目覚めた。
事件のことは知れ渡っていて、お通夜は警察の解剖の後、一週間後になることまで決まっていた。
「誠、前にお爺ちゃんのお葬式に着た服、持ってるわね?」
忙しく夕飯を作りながら言う。
「もう着られないよ。中一の時だよ」
真が言うと母は慌てたが、学生服でもいいんでしょ、と誠が聞くと首を傾げた。
「詰襟なら黒だからいいんだろうけど、ブレザーはどうなんでしょうね? 山田さんに聞いてみるわ」
慌てて電話をかける。
結局、喪章を付ければいいだろう、という事で話はついたようだ。
今日ぐらい、塾を休んでもいい、と言われたが、誠は行くことにした。
じっとしていると、また感情が暴れ出しそうだ。
七時過ぎに誠は家を出た。自転車で高円寺の塾に走った。
何も考えられないように、フルスピードで。
自分を追いかけてくる影の存在があることなど、必死でペダルを回す誠は、気づくはずもなかった。
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二人の影繰りは、誠の塾の向かいのビルの屋上で観察を続けていた。
誠の小指は、本人には指切りをする以前と変わっては見えなかったが、影繰りにしてみれば、灯台の明かりのように光り輝く目印だった。
十一月のその日は、日中二十三度まで気温が上がって暑いほどだったので、塾の窓も開いていて、誠を感知するのは造作もなかった。
「おい、良治、もうそろそろ時間だぞ」
ピアスをすべて外した細身の男は、三個目のハンバーガーにかぶりついていた。
色々味を変えて、最低三個のハンバーガーを一食で腹に収めないと気が済まないのが、この男の習慣だった。
「もうか?」
もごもご口を動かせながら、良治は聞いた。
「九時半だ。そろそろ終わる時間だぜ」
ん、と微かな返事をし、良治はコーラを飲みほした。




