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シャドーダンス  作者: 六青ゆーせー
1/99

少しバトル系のものを書いてみます。

たぶん1週間に1度ぐらい投稿できたら、と思っています。

1 

それは、錯乱した精神が見せた幻影だったのかもしれない。

小田切誠の両足の間から、二本の黒い棒が伸びている。背後からの街灯に照らされて出来た黒い影だ。

それが、ムズッと揺らいだ気がした。


誠の前方では、男が、もう仕事を終えたところだった。駆けつけて来た警察官を事も無げに、長大なサバイバルナイフで刺殺して、誠の方を振り向いた。




男は、黒い乗用車に乗ってやってきた。

そのまま一人の歩行者、スーツを着たサラリーマンらしい男、に車を突っ込ませ、サラリーマンをビルと車の間に挟んだ。


わざと速度を落とし、ローギアで、丁寧に壁に挟んだ後で、サラリーマンが血反吐を吐いて絶命するまでアクセルをゆっくり踏み続けた。


その後、男は車を降りると、通りかかったカップルをサバイバルナイフで切り殺した。


駅からは近いが、裏通りにあたるその場所は、元々、夜には人通りは疎らだ。

誠がその場に居合わせたのは、塾の帰り道だったから、というだけだった。


車がサラリーマンを挟み込んだところを目撃し、誠は乗っていた自転車から転げ落ちた。

カップルが殺されている間に一一0番をかけていた。


幸い、男はしばらく誠に気が付かなかった。細い通りを一本超えて、電信柱に自転車をぶつけて転び、へたれ込んだまま低い位置で全てを目撃したためだった。


だが、駅前の交番から警察官が駆けつけ、誠に一声かけたため男に存在を知られてしまった。

そして、その警官も、あっさりと他愛なく殺されてしまい、男はのっそりと誠に近づいてきたのだ。


足元の影が揺らいで見えた。

と、その影の頭が、不意に持ち上がって誠を見た。


影には目も口もないから、見たというのは変かもしれなかったが、そのように感じた。

そして、影は言ったのだ。


「どうするよ? 死ぬぜ、お前は。

俺と指切りしなくっちゃな」


影の頭が、笑うように揺れた。


「どうするよ?」


誠は、影の頭越しに男を見ていた。

男は少しも急ぐことなく、しかし確実に近づいて来ていた。


「ゆ…、指切り?」


「知らないのかよ、お前。

指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、ってやつだよ」


「なん…、で、指切り?」


「そういう約束だからださ。

昔からの約束だから、しなきゃならないんだ、判るだろ、もう中学生なんだからよ」


ごくり、と誠は唾を飲んだ。


「どう、なんの? 指切り…、したら?」


「助けてやんよ。

何しろ指切りの約束だからな」


影が震えて、笑った。


話している間にも、男は近づいてきて、ナイフを振り上げた。

その顔には何の感情も浮かんでいない。


僕を殺すつもりだ…。


誠にも、それが判った。


死ぬ? 指切りする? 影と? 自分の影と? 助けるって、どうやって?


頭の中に色々な思いが浮かんだが、誠は心が決断する前に喋っていた。


「指切り、する…」


指切りは、いたってスムーズに行われた。むしろ滑稽なほどに。

無表情にナイフを振り上げる男の前で、殺されようとする誠は自分の影と指切りをしたのだ。


ユ・ビ・キ・リ ゲ・ン・マ・ン。


ウ・ソ・ツ・イ・タ・ラ ハ・リ・セ・ン・ボ・ン、ノー・マ・ス。


「指切った」


どこからか響いた声と同時に、誠の小指がポトリと落ちた。


あ…。


血は出なかった。


その代わりに、影が小指の切り口から、誠の中に入ってきた。


あっ、ああっ…。


それは誠の体内を駆け巡り、誠は突然、勃起した。


あっ、あっ、あっ…。


パンツの中で射精していた。

ズボンが生暖かく濡れる。


「さぁ、やってやんなよ」


誠の中で、影が囁いた。


誠は、夜闇に一人頷き、立ち上がった。


太ももを精子が伝う。


男と目が合った。

急に立ち上がった誠を、目の動きだけで追っていた。


刹那、男が消えた。


いや、消えたのではなかった。男は、首だけを残して、地面に沈みこんでいたのだ。


「と・う・か?」


誠の中で、影が教えていた。


誠は頷くと、自転車を起こし、かごから落ちたカバンを拾い、自転車に乗って帰路についていた。

細い十字路には、首まで埋まった男と、誠の小指が落ちていた。

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