98. 革命とは
【革命】とは被支配階級が、支配階級を倒して政治権力を握り、国家や社会の組織を根本的に変えることである。
豊は革命軍との接触を図る為、ビットマン氏から受け取ったメモを頼りに、情報屋を探していた。場所はハガンカ西裏通り奥。【風のいななき亭】という名の酒場があり、豊は昔映画で見たであろう、荒野のガンマンの様に扉を開け、真っ直ぐカウンターへと向かった。
「いらっしゃい、注文は?」
スキンヘッドに鍛えた身体つきの厳ついバーテンダーが、豊へ話しかける。
「ドガルドからハガンカへ、良い酒が流れたと聞いてやって来た」
コレが情報屋の合言葉となる、バーテンダーは「こちらへどうぞ」と、言うとカウンターの奥へと豊を案内した。酒場の造りは大きく、客が三十人は余裕で座れる程であり、非常に賑わっている様にに見える。
客層は荒くれ者達がほとんどで、中には豊の様に、情報を求めて来たであろう身なりの良い客も存在した。
情報屋を待つ少しの時間、酒を楽しんでいた客のひとりが、ジョッキ片手に豊のもとへやって来た。
「よぉ、にいちゃん、アンタどっから来たんだ? あんま見ねえ面だな」
「私はハガンカ北の村出身です、今はハガンカとリパランスを行き来して行商を営んでおります」
自分から情報を明らかにする事で、余計な散策を回避する会話術だ。
それが成立するのは、人が知らないものに対して警戒と恐怖を抱く生き物故である。
フォルトゥナ教団である豊の顔を、周りの人間は何故知らないのかと言うと、豊が以前と比べて体積が半分になるくらい痩せていたからである。ギルダムで活動をしていた時期は、【第六の術】発動前。それに加え、フォルトゥナ教団団長の名前や顔に関しては、神聖化され過ぎている為、恐れ多いという意味で誰も口にしない。
ハガンカ北の村は、過去に盗賊の襲撃を受けて滅んでおり、フォルトゥナ教団の活動によって復興を果たしている。
ハガンカの人間ならば、その事情は知っていて当然であり、ジョッキの男は豊に同情したのか、女性給仕に注文すると酒を一杯奢ってくれた。
「すまなかったなにいちゃん。大変だろうが強く生きろよ」
と言い残し、男は自分の席へと戻っていく。
この街でハガンカ北の村については、触れられる事はない。それ程までにロシィ達を襲った惨劇は酷いものだった。
しばらくすると店の奥から情報屋らしき女が現れた。
「情報屋のジョマだ、よろしく。料金はギルダム通貨で受け付ける。情報の種類や質によっては交換でも構わないよ」
「求めるのは、革命軍に接触する為の方法、出せるのは今後、爆発的に需要が上がる商品の情報です」
「商人か、先に話してもらおう。安心してくれ、アンタの情報が確かならば、報酬情報は必ず出す」
「エウロ王がフォルトゥナ教団との友好規定を結んだ際、共同で開発した料理の原材料が小麦、チーズ、トマトである事が分かっている。エウロ王は民衆にこの画期的な料理を広める事で、信頼の回復を計画しているようだ」
「ネタの出処は?」
「王に仕えるメイド達、彼女達もその料理を【炎の料理人】から馳走になり、この世の物とは思えぬ衝撃を受けたという話だ」
半分は本当で半分は嘘。ピザの正体を隠しながら話を進めていく、材料はともかくとして、ピザの製法については、金が動く国家機密。そう易々と教える訳にはいかない。式典に招かれた来賓、各地の代表には、材料と製法が既に伝わっている。国民の間でも少しずつ噂が広がっていた為、豊の話には信憑性があった。情報屋であれば、少しは耳にした事のある内容だろう。
「分かった。私の持つ革命軍の情報を出そう。あそこで飲んでいるのが革命軍幹部の一人、マシュロだ」
「えぇ……」
困惑を隠せない豊は、この世界の教養レベルを完全に侮っていた事を再認識させられた。この店が裏通りとはいえ、革命軍の幹部ともあろう人物が、こうも表立った軽率な動きをするとは思ってもみなかったのだ。
しかし、裏を返せばそれだけ、この組織は自分達に圧倒的な自信を持つ根拠を有していると言える。この世界において、個人の秘めているレベルは謀を跳ね飛ばす要因なのだろう。
「気軽に話しかけても大丈夫なんですかね……?」
「マシュロは気のいい奴だ、エールの一杯でも奢ってやれば気を許すぞ、ツマミでもいいんじゃないか?」
ジョマの助言通りに、エールとツマミを持ち出し、マシュロへと接触を図る。
仲間と酒を交えながら、政治について論議をしていた彼は、現在の王政について不満を持っており、革命によって自分達が王となり代わるという話をしていた。
「興味深い話をしていますね、詳しく話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
豊の横槍にマシュロと仲間達は、一瞬警戒を見せるが、豊が大皿の料理を彼らのテーブルに乗せ、ピッチャーからジョッキへ、エールを振る舞うと、程なくして緊張は解かれた。
「私はホウジョウ。行商人です。私も実は現在の王政に対して思うところがあり、是非とも革命軍の活動に、一枚噛ませていただきたいと思いまして」
豊は下の名前を伏せて自己紹介をした。顔は知られていなくとも、【ユタカ】という名前は、フォルトゥナ教団の活動により、広く知れ渡っている。
この世界では珍しい名前故、素直に名乗れば正体がバレてしまう恐れがある。豊は用心深かった。現在の王政に対して不満がある点、この店まで辿り着いたという情報網、料理や酒を振る舞う気前の良さなどを買われ、豊はマシュロ及び、その仲間達と席を共にする事が出来た。
話を進めていくに連れて、革命軍の内部が明らかになってゆく。元々革命軍の幹部達は各地で、腕っ節の強い冒険家や傭兵などをやっていた。当時はまだ、豊が転移してくる前だった為、今よりも深刻な程に土地は痩せ、人々は病に飢えと苦しんでいる時期だった。
国が一大事の際に王は、効果的な解決策を出せずにいた。それ故に人々の不満は解消されることなく、溜まりに溜まっていた。
そんなある日、圧倒的力を持ってして現れたのが、革命軍の現リーダー
【革命児レヴォリオ】
レヴォリオは、今まで人の力ではなし得なかった、巨大モンスターをたった一人で仕留め、その討伐報酬を全て物資へと変え、貧しい村々を支援して回っていた。
彼の姿、実力に惹かれて集まったのが革命軍である。
実の所、恐慌にも近い状況に対し、王政もただ指を咥えていただけではなく、目立たないところで、税を少なくして国民の負担を減らし、裕福な貴族からの支援を集め、まとめて管理していたが、国民の全てがその事実を知っているわけではなく、直接支援という特別目立った行動を起こしていたレヴォリオが支持されているというだけの話であった。
そこへ、フォルトゥナ教団の圧倒的物資と知識による救援活動、結局王は何もせず、フォルトゥナ教団の力により国は持ち直した。という様に一部の目には映るのであった。結果として、豊の行なっていた救済は民は救っても国の信頼を揺るがす事となっていた。
この場で事実を話そうとも埒があかないのは言うまでもない。豊はマシュロを通してリーダーであるレヴォリオと話が出来ないかを持ちかけた。表向きは革命軍が必要とする物資の融通である。酒が入り、気を良くしていたマシュロは豊を大層気に入り
革命軍のアジトがある区間にまで招き入れた。




