96. 本当の目的とは
空に亀裂が走り、天がガラスの様に割れ、赤い月の結界は崩れ去った。
五箇所の城壁監視塔に施された、全ての印術が破壊されたのである。空の色は元に戻り、いつもと変わらない日の光がギルダム王国へと降り注がれる。
エウロ王は結界の崩壊を知り、その場に座り込んで呼吸を整えた。豊が渡してくれた戦闘おにぎりとポーションは大いに役立った。
飲み食いしながら魔術改竄を行なう姿には、普段の気品や優雅さなど微塵も感じなかったが、それもまたよし、とエウロ王は素手でおにぎりを平らげていく。
その後、豊達により救援活動が行われ、疲弊した全ての国民に食事が振る舞われた。過剰なる糧によるものではなく、実際に豊が作った料理を食べる事で、能力値が改善し、国民は以前よりも遥かに元気な状態になっていった。
後日改めて式典を開き、この度起こった事件についての説明がされた。
幸い、結界による死者が出なかった事と、王と豊の言葉により、軽率な言動を取ろうとする人々は、予めなだめる事が出来た。王は事件の首謀者を突き止め、必ずや粛清を加えると民衆に約束をした。
フォルトゥナ教団の面々が手に入れたそれぞれの情報には、アリア教団とヴァマルド国の介入があったという話だが、誰一人として物的証拠を掴む事叶わず、アリアス国、ヴァマルド国に対する補償を請求する迄には至れなかった。
少数精鋭で王都へ乗り込み、証拠を残さず無差別な破壊活動。何もかもが計画的に行われた。今回の目的が式典の妨害ではなく、純粋に約十万の人々から魔力を奪うだけならば、かなりの魔力を集める事が出来た事だろう。
「しかし、謎の組織は、僕達フォルトゥナ教団に対峙した際、大きな痛手を負ったはずだ」
金棒の巨人族、爆炎の魔術師、土の魔術師、魔導生命体、白き支配者。これらを全て撃退した事と膨大な魔力の奪取により、組織はこれから表立った行動は控えるであろうと考えた。
「油断は出来ないが、今後は組織の動きにも警戒していくべきだと思う」
豊達が話をしている中、遅れて現れたのはマリーゴールドであった。彼女は何やら神妙な面持ちだった。
「今さっき城の内部に被害が無いかと調べてきたんだがな、やられたよ」
奴らの狙いはマリーゴールド作。完成した【魔導力源設計図】であった。
「さっき城内の書庫へ向かったら、厳重に保管されていた機密書類がゴッソリとやられていた。混乱に乗じて盗みに入ったんだろう」
「組織の狙いは魔導力源の奪取……という事は、ロビエトが関わっている線もあるという訳ですな?」
「そうだ……まさか、金庫が壁ごと盗まれるなんて、考えてもみなかったぜ……」
ヴァマルド、ロビエトとが技術面で協力関係にあるのは、以前から周知の事実であったが、そこにアリアスが加わる事で、組織の規模がどれ程のものなのか、より不鮮明になってしまった。
最悪の場合、三国が手を組んでギルダム王国の失墜や、支配を企んでいる可能性すらある。今後の目論みとしては、なんらかの形で各国々の情報を手に入れ、組織の全貌を明らかにする事。
次に、謀られるであろう活動を未然に防ぐ。という運びとなる。
「マリー、盗まれた魔導力源の設計図なんだけど、完成さえすれば兵器にも流用出来るのではなかろうか?」
「単純に熱量を魔力に変換して貯蔵し、増幅させる装置だからな転用は幾らでも出来るだろう、ヴァマルドにちょっとしたツテがある。準備が出来次第、私自ら調査しよう」
その後の話し合いにより、フォルトゥナ教団はいくつかのパーティに別れ、各国々へ渡り、情報を集める事となる。




