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フォルトゥナ戦記~キモオタだって異世界でモテたい!~  作者: メアー
ギルダム王国式典 後編
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94. 魔導生命体




 王都中心から東の監視塔を担当するのは金の魔術師こと、マリーゴールド。


 城壁まで到着した彼女は、ひとり、肩透かしを受けていた。


 監視塔には術印を守る為、刺客が送り込まれていると考えたが。その場はひどく閑散としていた。マリーゴールドは、実は辺りに潜んでいたり、見えない敵という線も考え、慎重且つ、迅速に歩みを進めた。


 最上部にある監視塔へ向かう為、城壁内部には、階段が用意されており、それを延々と登っていけば、地上三十メートルの城壁上部まで行く事ができる。


 罠が張られている可能性も考慮し、魔力感知のみならず、一歩一歩を慎重に進んで行く。


「おかしい……この東の監視塔は、ヴァマルドの軍事侵攻対策で他の監視塔より配置される兵が多いはずだが……」


 国境の山脈地帯がドラゴンに守られているとはいえ、監視塔及び城壁近辺にはかなりの兵士が集結しているはずであった。異様な静けさがマリーゴールドに正体不明の不安を感じさせる。体力と魔力をこまめに回復させながら、階段をあがる途中、城壁上部から戦いの音が響いてきた。


 急いで駆け上がるとそこでは、白竜騎士団団長ギースが、形容し難い相手と死闘を繰り広げていた。辺りには兵士の残骸らしきものが散乱しており、戦いの激しさを物語っている。


 生き残っているのはギースのみ、今は彼に協力して、この場を切り抜けるのが最も良い選択だと考え、加勢する。


「ギース! 一人でよく頑張ったな!」

煉瓦を魔術で巻き上げ、嵐を巻き起こし、相手を足止めしながら、ギースに回復ポーションと戦闘おにぎりを渡す。


「金の魔術師殿っ! 助かります!」


 マリーゴールドの加勢と支援に、これ幸いと戦闘おにぎりにかぶりつき、ポーションで流し込んでゆく。


「火急につき、味わえず申し訳ない!」


「ギース、どうなってるんだ」


煉瓦の嵐が敵の動きを封じている間、ギースは現在状況を説明した。


 東の城壁監視塔を警備していた際に、赤い月の結界が発動。エナジードレインにより兵は倒れ、突如現れた正体不明の敵に、仲間たちは次々と飲みこまれていったという。


「辛うじて動けた我々、白竜騎士団精鋭隊が対抗しましたが、今では私一人を残して全滅する有様です……奴は強過ぎる……身体に魔獣を宿し、様々な方法で我々を苦しめたのです」


「この結界内じゃあ、私も思った様に魔術が使えない。一撃で奴を葬る様なデカイのは無理だ。ここはまず監視塔の天辺に印されているであろう、術印を破壊し、結界の効果を弱める事が先決だ」


「わかりました、なんとかして此処を切り抜けましょう」


会話が終わるのと同時に煉瓦の嵐が打ち消される


「オォオォオォン――――――‼」


言葉にならない叫びが耳をつんざく。敵の身体は、一見普通の人の様だが、右半身が赤黒い泥の様な物体に飲み込まれており、攻撃の際、様々な形状となって

二人に襲い掛かる。


「あの黒い部分に飲み込まれたら、自力では抜け出せなくなります! ご注意を!」


「ありゃあ寄生型の魔導生命体か⁉ なんてものを出してきやがる‼」


寄生型魔導生命体きせいがたまどうせいめいたい


 魔術により生み出された意思を持つ生命体。

生命と形状を維持する為には、大量のエネルギーが必要になる。

故に、貯蔵量の潤沢な生物である、人間や大型獣などに取り付こうとする。


 生命体の素には、生命力が強く単体で増える細胞を持つ寄生型モンスターが使われており、そのモンスターは本来、宿主が失った部位、例えば腕や足などの役割をする代わりに、宿主から栄養を受け取り、互いに助け合うという。運命共同体型のモンスターであった。


 本来は欠損部位を補う医療の分野で、活躍する事が期待されていたが、人に寄生した際、その特徴的な活動の複雑さから消費するエネルギーが非常に多く、実用化はされなかった。


 更に、現在対峙している、この魔導生命体は改良が施されており、積極的に他生物のエネルギーを奪うように条件付けされていた。


「以前にヴァマルドで人体実験が行われているという話を聞いたが……今回関わってる組織はアリア教団だけじゃないようだな……‼」



 二人は人間部分が剥き出しになっている左半身に攻撃を集中させながら、監視塔へと距離を詰める。赤黒い泥の様な肉体が無数の触手へと変化し、鞭の様に襲い掛かる。


 ギースは攻撃を躱し、マリーゴールドは煉瓦を利用して壁を作り出し回避


「あいつ、手当たり次第に人間を取り込んでいるのか……」


 エネルギーが不足しているせいなのか、魔導生命体は、辺りに散らばっている人間の残骸を取り込んでいる。


「魔術師殿! 無事ですか!!」


「ギース! こいつは私に任せて術印を破壊しろ!」


「よろしいのですか……? 貴女一人で……」


「私に考えがある! だが、こんな状況じゃ全部説明できん! 任せろ!」


 ギースが監視塔へと走った、それと同時に彼へ集中する寄生体の攻撃。


「術印を守る事が最優先の様だな!」


 マリーゴールドはマントの裏ポケットから試験管を数本取り出し、寄生体へと投げつける。中身の液体は【王水】。金を溶かす事で有名であり、濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合してできる橙赤色の液体。腐食性が強く、人体にとっても極めて有害なものである。


 こんな物が生物の表面に付着すれば

「ーーーーーーーーーーッッ!!」

対象の表面は焼けただれ、落ちる


「やっぱり魔導生命体には効果が薄いか……ガラス洗浄用に取っておいたやつだからな……」


 マリーゴールドの反応はイマイチであったが、時間を稼ぐには十分であった。


 その隙に、魔術式が施された煉瓦を、広い範囲で積み上げてゆく。マリーゴールドの思考が驚くべき速さで駆け巡る。僅かな時間で地面には大きな魔術式陣が完成していた。


「よし、後はギース次第だな」


 マリーゴールドの読みでは、魔導生命体に、ドレイン封じの処置は施されていない。これは意図的に処置をしない事で、魔導生命体を飢餓状態にし、周りの生命体からエネルギーを取り込ませようとしているのであろう。


 エネルギーが続く限り不死身ではあるが、無くなれば跡形も無く消える。


 場を混乱させ、最後は証拠を残さない戦力、コレは魔導生命体を生物兵器とし、実用が出来るという前例を作った事に他ならない。


 ありとあらゆる可能性や憶測が、マリーゴールドの脳内で飛び交うが、今はその時ではない。敵が王水のダメージに気を取られている間に、監視塔の天辺から声が響く

ギースが術印の破壊に成功したのだ。



 赤い月の結界内部において、弱い魔力は全て吸い取られてしまう。だが、術式を書き込んで発動させる方法は、それの影響を受けにくい。発動時に流す一定量以上の魔力が、吸引力を上回るからである。


 それと同じ様に、体内で膨大な量の魔力を練り上げ、一気に体現させれば、魔術の発動も可能だが、持続時間や威力の面から考慮すると現実的ではない。


 マリーゴールドは、一度術式に行き渡った魔力は、結界の影響を受けずに発動が出来る。という事を利用して術式を用意し、結界が弱まると同時に、術式を発動させたのである。


「魔導生命体、お前の為に用意した魔術式陣だ、なんだと思う?」


 魔術式陣は結界と同じく、術式を書いた範囲にのみ作用するものである。


 マリーゴールドが魔導生命体相手に書き上げたのは【搾り上げる拘束】


これは、陣内に存在する相手のエネルギーを魔力に変換して重力を発生させ、その場に拘束する魔術である。ただ単に相手を動けなくするだけだが、エネルギーを常に消費し続けている。魔導生命体を対象にした時、この術は真価を発揮する。


 対象者が抗えば抗う程に、重力はあがり、エネルギーを奪う量は増える。人を襲い、奪い続ける事しか出来ない魔導生命体は、しばらくして命を搾り取られ、宿主の半身を喰らい尽くした跡、霧散していった。


「お前みたいなバカに、この術は破れんよ」

 マリーゴールドの言う通り、この術、発動条件の割には解除するのが容易なものであり、ちょっと機転の利く魔術師であれば書き換えが可能な程、制約が弱い。

こんな相手でもなければ滅多に使わない拘束術なのだ。



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