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フォルトゥナ戦記~キモオタだって異世界でモテたい!~  作者: メアー
ギルダム王国式典 後編
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93. 支点力点作用点



 王都中央から西の監視塔がギャリオンの担当となる。


 魔力が他の皆よりも少ないギャリオンは、戦闘おにぎりとポーションを大量に渡されており、少しずつ回復しながら監視塔まで辿り着く。


「やっぱり来たわね、命知らずが……!」

 現れた影はローブにマントと魔術師の身形をしており、フードと仮面で顔を隠しているが、良く通る特徴的な高い声をしており、女であると判断できた。


「やはり予想は当たっていましたか、貴女が術印を守っているということで間違いありませんね?」


「そうよ……あなたの事はよく知っているわ。黒鉄の竜巻、ギャリオン……あなたの様な物理専攻型が来るだなんて、私は幸運だったわ」


「幸運とは、また随分と下に見られたものだな……!」


 魔鉱鋼剣を構えるギャリオン、魔術師の女は城壁に使われている煉瓦を使い、ほんの一瞬で魔導人形ゴーレムを数体作り出した。


「折角だからあなたを殺す私の名を教えて上げるわ。私はモーデン、土の魔術師、モーデン・クレイガー! 今はただの雇われ魔術師だけど、必ずこの名を轟かせ! 天下を取ってみせるわ!」


 二メートルを超える魔導人形ゴーレム達を前に、ギャリオンは即座に武器を撃鉄へと切り換える。無機物相手に斬撃は無意味。術師を倒すか核を破壊するしかない。重さを軽減する為に、魔鉱鋼剣は下ろしておく。


「かかって来なさい! 黒鉄の竜巻がどれ程の実力か試してあげるわ!」


ギャリオンの闘気が高まる。魔導人形ゴーレムの腕が振り下ろされると、撃鉄で相手の右腕を吹き飛ばす。余りにも早い薙ぎ払いの速度に、モーデンは己が目を疑った。


「な! 何が起こったというの……!」


 腕の修復を実行するも、ギャリオンの攻撃でゴーレムの左腕は消滅する。余りにも強い衝撃を受け、爆発四散したのである。


「くそ! なんてデタラメな威力なの! 魔導人形ゴーレム達! 一気に取り囲んで押し潰しなさい!」




「俺がなんと呼ばれているか、貴女は知っていたはずだ」



刹那


ギャリオンの放った竜巻の鎚撃が周囲の人形達を一撃で破壊する。


「奥義、【黒鉄回旋こくてつかいせん!】」


魔導人形ゴーレム達は、次々と竜巻に呑み込まれ煉瓦へと還っていく。


「なんてやつなの⁉ 私のゴーレムちゃんがこんなにあっさり‼」


「竜巻はな、人の手に負えないから竜巻なんだ……!!」


 次々と魔導人形ゴーレムが紙屑の様に、次々と辺りに散らばっては煉瓦へと戻っていく。


「こんなところで使う気は無かったけど仕方ないわね……」


 モーデンが懐から液体の入った瓶をふたつ取り出すと、煉瓦に叩きつけて術を発動させ――


「やらせる訳無いだろうがッ!!」


 突進したギャリオンの放つ撃鉄の一閃が、モーデンの頭をかすめる。


「ア、アンタ! か弱い美女になんて事すんのよ! そんなの当たったら死んじゃうじゃない‼ 美人の損出は世界の損出よ⁉」


「人を殺める結界を張る様な連中に、情けをかける義理は無い!」


容赦ない怒涛の攻撃が空を切り、衝撃が煉瓦を砕き散らせる。


「ひひっ! ごもっとも! 言ってみただけよ! そもそもそんなに時間は必要じゃないから……ね!」


 素早くその場に手を付き術式を刻むと、瓶から溢れた液体が、周囲の魔導人形ゴーレムと、煉瓦を大量に取り込み圧縮。


 先程ギャリオンが砕いたゴーレムとは違った雰囲気を醸し出す、赤黒いゴーレムが完成した。


「この威圧感……もしや……!」


 ギャリオンが感じていた重圧。それは嘗て、国境砦で対峙した大猿の変異体とよく似ていた。


「芸術家ならば、手塩に掛けた自慢の作品は自慢したくなっちゃうわよね……まぁ、あなたにはココで死んでもらうつもりだから見せてあげるわ。数々の魔獣実験を糧とし、完成させた。合体する魔導人形ゴーレムよ!」


「そうですか……ついでに貴女方の目的などにも興味がありますね……」


 ギャリオンは撃鉄を構え直し、足元の耐久度を確かめている。


「あら〜私の事が気になるだなんて、意外と肉食系なのかしら? まぁいいわ、教えてあげる……私はね、天才魔術師なの……本来、ビックハットと金の魔術師の名は私が貰うべきだったのに……先代の爺様達はあんなペチャパイちんちくりん女を選びやがったのよ……」


「なるほどなるほど」


 ギャリオンは既にこの女の憎しみの矛先が、マリーゴールドに向けられているのは理解していた。


 下手な横槍は相手の怒りを買い、必要な情報を逃す危険性があった為、今は聞き上手に徹した。その間、戦闘おにぎりとポーションで、回復を欠かさず行なっていた。


 モーデンはフォルトゥナ教団や、現在の世界の在り方を良く思わない組織の雇われ魔術師だと喋り出したが、詳しい情報は持ってはいなかった。


 彼女は依頼で邪法と呼ばれる、生け贄を使う方法を用いて、モンスターを強くする実験や、強化ゴーレムを作る研究に携わっており、それが先代ビックハット達の耳に入った事で、ビックハット門派を破門となってしまった。


 彼女いわく、邪法の発展は魔術の新たなる革新を遂げる、唯一の方法だと主張したが、極めて残忍なその方法に、先代達には認めて貰えなかった。


 人を犠牲にしてまで得られるものが、モンスターの強化やゴーレムの強化では

割りに合わないと彼らは判断したからだ。


「強いモンスターの素材は、人々の生活を豊かにしてくれるし、ゴーレムは人々を厄災から守る役割を担えるわ……。それを理解しない奴らなんかよりも、理解してくれる組織の方が賢い……。いくら使えないゴミの様な人間でも、未来への礎にはなれるんだもの……。その方がみんな幸せになれるでしょ?」


「なるほど、貴女には貴女なりの意思や目的があって、行動していると……そういう訳ですね……?」


「話がわかるじゃないの、あなたはこっち側の人間ね、よかったわ」


「何故そう事を急ぐのですか? 目的が人々の豊かな暮らしならば、この様に極端な手段にでなくても、まだ方法はあるのではありませんか?」


「人間の寿命は短いわ……今、人間の平均寿命は良くて四十歳まで生きるかどうかよ、そんなに待っては居られないわ……。今なんの役にも立ってない無能を材料にして魔術技術を革新させれば、そう遠くない未来には、皆豊かに暮らせてたくさんの人々を救える、組織はそう約束してくれたわ!」


「手段は違えど、目的は我々フォルトゥナ教団とあまり変わりはありません。私達の先駆者であるユタカさんは、その能力を使い二年余りで、ギルダム王国を立て直しました。人類の救済もそう遠くはありません。考えを改めてみては頂けませんか?」


「ダメよ、フォルトゥナだなんて聞いた事のない神様の教団なんて信じられないわ、

【人間の問題は人間が解決しなければならない】!私は純粋なアリア教者だもの……邪教なんかには頼らない……。それに、私の力で救済をしないと、意味がないもの……私の力をみんなに認めて貰わなくちゃ……私は天才なんだから……!」


「価値観の違い、と言えばそれまでですが、貴女の考えは自分勝手で短絡的過ぎます。貴女がアリア教に拘る事により、自らの視野を狭めている事が、わからないのですか? オレは日夜、ユタカさんの崇高なる理念や考えに触れ、広い視野と価値観で物事を判断すべきだと教えられました。貴女は天才なのでしょう? 宗教や、自己肯定感にすがる理由など無いはずだ」



「うるさいわよ……私はすがってるんじゃない……アリア教の在り方に共感して好きでやってんのよ! 弱い奴は死んで強い奴が生きる! コレが当たり前なのよ! 弱い奴は強い奴から搾取され、喰われて死んでゆく! 弱い者は淘汰され、だから人は成長できる!……私は強い……私は天才なんだから……絶対に負けたりなんかしない……!」


 彼女の瞳は今を見ていない。過去に起こった出来事に囚われ、己を否定した環境が全て悪いのだと、自らの殻に閉じ籠っている。価値観以外にも相容れない要素があると理解したギャリオンは、豊ならどう説得したのだろうかと思った。


 彼ならばこの女性を救えたのだろうか、なんと言えば彼女は納得するのか。


 刻々と過ぎていく時間と減っていく自身の魔力に、ギャリオンはもう状況は危険な領域へと突入したと感じ、本来の目的である術印の破壊を決行する。


「残念ながら時間切れです。貴女を説得出来なかったのが心残りだ」


 ギャリオンは心底悔しそうに見える。


「仕方ないわ、あなたと私は違う人間だもの……じゃあ、死んでね」



 散々焦らされた魔導人形ゴーレムは、一歩一歩ギャリオンへと向かっていく。


 振り払われた煉瓦の腕が襲いかかる。ギャリオンは高い跳躍から腕を伝い、赤黒い魔導人形ゴーレムの頭部目掛けて走る。撃鉄から繰り出される痛撃は決して軽くない。振り下ろされた連打を浴びながら、魔導人形ゴーレムは平然と立ち尽くし、ギャリオンに対して拳を振るい続ける。それを躱すと拳は魔導人形ゴーレム自身へとめり込みダメージを色濃く残す。


「無駄よ黒鉄の竜巻! 竜巻であろうとも、巨岩を破壊する事は出来ない! 如何に竜巻が強かろうとそれを超え、耐えうる強度さえあれば、竜巻は恐るるに足らず!  おとなしく私の作品の前に敗れるがいいわ!」


 魔力が徐々に奪われる所為で、撃鉄を魔法鎚に変化させるだけの魔力を練り上げる事が出来ない。練り上げたそばから魔力が奪われる様では、魔術発動まで辿り着けない。


 ギャリオンには残された手段は、撃鉄での物理攻撃しかなかった。

(【|全てを砕く、会心の一撃クリティカル・ブレイク】さえ使えれば……!)

彼は、こんな時豊ならどうするのか、考えを走らせていた。


 重量と強度のある相手、狭い戦場に高い城壁。魔導人形ゴーレムを城壁から落とせば、勝機は見えるかもしれない。しかし、如何なる怪力であろうとも、煉瓦を数トン圧縮した相手を吹き飛ばす手段はない。


 ギャリオンは豊が村で作っていた。【あるもの】を思い出していた。


 対峙する相手の周りを確認し、条件を揃えていく。


 何度も繰り出される重い攻撃を回避しながら、相手に悟られぬ様、着々と準備を進めていく。トドメを刺そうと魔導人形ゴーレムが踏み込んだその足元には、先程ギャリオンが下ろした魔鉱鋼剣が、砕けた煉瓦によって隠されていた。


 誘導によって、魔導人形ゴーレムがギャリオンに対し、巨大な腕の攻撃が空振り終わった後、魔鉱鋼剣を片足で踏んだ瞬間、剣は大きく傾き、先端が跳ね上がる。ギャリオンは渾身の力で撃鉄を振り下ろす、対象物は魔鉱鋼剣。名工ダルタニアスの名剣は、固いだけではなく、その柔軟性と耐久性にこそ真髄がある。


 すると、数トンはある魔導人形ゴーレムの片足が浮き上がった。


 いとも簡単に浮き上がった魔導人形ゴーレムに、驚きを隠せないモーデンだったが、この事態をすぐに把握した。

「そんな! こんなことで!!」


 豊が村に作った【あるもの】とはシーソーの事である。


 テコの原理により、魔導人形ゴーレムを作用点。剣の作りと煉瓦で支点。叩く部分を力点とし、魔導人形ゴーレムのバランスを崩したのだ。


 足を上げさせ、バランスを崩すだけならば、数トン分のエネルギーは必要ではないが、ギャリオン渾身の一撃は、結果としてゴーレムを軽く浮かせる程の力となった。


 総重量が数トンにも及ぶ、二足歩行の対象物が、軸足に全ての重量を預ける。軸足の両面積は決して広くはない。一点に集中した体重は、石と煉瓦で造られた城壁の床が抜けるのには十分過ぎた。


 幅が五メートルしかない城壁の上で、片足立ちで床を抜き、バランスを失った魔導人形ゴーレムは、必然的に、大きく転倒する事を余儀なくされる。


 後は続けて、撃鉄によるフルスイングの追撃を仕掛ける、狭い足場に重い身体。一度崩したバランスに強力な追撃。これらは全て同じ箇所への連続攻撃となる。


「【黒鉄回旋こくてつかいせん!】」


からの


「【|全てを砕く、会心の一撃クリティカル・ブレイク】」


 蓄積した損傷の上に、ダメ押しの奥義が炸裂した。


 条件をすべて満たし、赤黒の魔導人形ゴーレムは三十メートル下まで落下していき、地面にめり込んで動かなくなった。|全てを砕く、会心の一撃クリティカル・ブレイクによる衝撃が、内部に秘められた核をも破壊したのである。


 とっておきの作品を壊されたモーデンは、形勢の悪さを感じ取り、その場から即座に王都外へ逃げ出した。

「次はこうはいかないからね……!」


 ギャリオンは術印の破壊をし、結界が弱まるのを確認してから、

しばしの休息に入った。


「この結界内だといくら食べてもすぐに腹が減るなぁ……」

本日五個目の戦闘おにぎりにかぶりつき、他の皆がどうなったか案じるのであった。


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