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フォルトゥナ戦記~キモオタだって異世界でモテたい!~  作者: メアー
ギルダム王国式典 後編
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92. 連鎖する爆炎


 南東の城壁監視塔へ向かうはロシィとルルのコンビ。颯爽と王都を走り抜け、城壁内部の階段を駆け上がる。


『ロシィ、この先に多分術印を守る敵がいるケロ……。ルルはプロテクションを張りながら、ロシィの死角をなくすように戦うケロ』


「うん、ルルちゃん任せたよ……」


『こんな時の為に、今までせっせと作った能力値ステータス補助ポーションを使うケロ』


能力値ステータス補助ポーション】

 豊の料理の様に、能力値ステータスに対して補正効果を持つ水薬。

これは、ルルの技能スキルによって作成された水薬なので、料理の技能スキルと効果が重複する仕様となっている。能力値ステータス全体に僅かな上方修正が掛かるため、実際レベルが三から四程上昇した状態になる。この効果は料理とは異なり、一回の戦闘で消失する。


 ポーションで能力値ステータスの底上げを図ると、剣を抜き、階段を上がりきる。城壁の幅は約五メートル程で、遮蔽物などの隠れる場所はなく、落下防止の柵が設置されているだけであった。


 遠目に監視塔を確認すると、兵士が倒れているのを発見。ロシィは急いで駆け寄り、兵士を動かそうとした。


 その瞬間、わずかな起動音と共に、兵士に仕掛けられた罠が大爆発を引き起こす。

城壁の上部は、えぐり取られた様に吹き飛び、それと同時に塔の反対側から、毛皮のマントを羽織った男が現れる。


「こんな罠に引っかかるなんて、やはりギルダムの人間は愚か者ばかりだな……」


 仕掛けられていたのは、いわゆる、ブービートラップ。戦争で使われる戦術の一種であり、一見無害なものに対して仕掛けられる罠で、第二次世界大戦でも使用された例もある。その害悪性から数多くの人が、大きな被害を受けている。


「この爆炎の魔術師。バルフ様の罠で死ねた事を誇りに思いな……」


「勝手な事をッ!! 言うなッッ……!!」


 ロシィは煙を巻き上げてバルフに対し斬りかかった。即座に反応した爆炎の魔術師は、マントの端を両断されながらもそれを回避。


「まさかあの爆発で生きているとは驚いたぜ……魔力剥奪陣の中を動くだけはある……ただのガキではないとは思ったが……まさか無傷とはな……」


 今の爆発で、かけていたプロテクションは二枚とも失ったが、フードに隠れたルルが新たに掛け直し、さらにマントをマスクにして黒煙を吸うのを防いだ。

 城壁には風が全く吹いておらず、滞留する煙の中、戦いを強いられる事となる。


「特別にこのバルフ様自ら遊んでやる……ぜっ!!」


 言葉を待たずして、ロシィはバルフへと斬り込んでいく。


「お前、早いな……このバルフ様を本気にさせようなんざ……っ!!」


 ロシィの放つ斬撃が次々と空を斬り裂いていき、バルフも細身の剣を抜き応戦する。互いの剣術はスタイルが異なるものの、共に手数と速度の勝負となる。


 二刀流による連撃に対して、バルフの立ち方は軸足を後ろにし、身体を相手に対し半身にしながら一気に踏み込み、距離を詰めてからレイピアによる高速の刺突を繰り出す。地に足を付け、軸足はいつでも攻めと守りの姿勢を取れる様になっており、その姿勢から生まれる体重移動は無駄がなく素早い。


 幾度となく攻撃が交わされダメージは積もってゆく、バルフは自分よりも遥かに小さい手練れを相手にした事はないが、ロシィは常に自分よりも大きい相手と対峙してきた。この経験の差は如実に戦闘へ表れていき、徐々にバルフは追い詰められていく。


「やめだやめだ! こんな強いガキが相手なら、手加減なんて出来ねぇ!」


 一際大きな薙ぎ払いでロシィを遠ざけると、バルフは姿勢を半身状態から正面立ちへと切り換える。


「焼けろッ!」


 指が弾かれるのと同時に、燃え盛る炎がロシィへと一直線に向かっていく。


 それを魔鉱鋼の短剣で打ち払い、回避するとそのままの勢いを利用しながら、【紅葉連刃】を放ち、回転後には斜め打ち下ろしを繰り出した。


 バルフそれをレイピアで絡める様に巻き込んで逸らすと、間を置かずに爆破魔術を発動、プロテクションを一枚を破壊する。


「なんだなんだなんだぁ! お前手応えが不自然だなぁ!」

 プロテクションは不可視であるため、その正体は容易に見破れない。しかし、攻撃の瞬間、手応えが武器を通して伝わってくるのにも関わらず、ロシィには負傷が無い。


 破られた障壁はその度、フードに隠れたルルが掛け直す。


ロシィは怯まずに直進していく、防御を全てルルに任せて攻撃を繰り返す。


「この煙の中でそれだけの運動量、そろそろ限界だろう? 俺様は爆炎の魔術師、こんな戦いは慣れているが、お前はそうじゃないはずだ、じきに呼吸が苦しくなって動けなくなる!」


 例え、短剣であろうとロシィにとっては身体に合わぬ鉄の塊。それを酸素の少ない中で長い時間振り回せば、当然彼女には大きな負荷がかかる。攻撃力を高める為とはいえ、運動量と遠心力を利用した軌道で攻撃を繰り返せば尚更である。ましてや、結界内でのエナジードレインが消耗に拍車をかける。能力値ステータスの補正によって普段以上の戦いは可能だが、それにも時間的な制限がある。


 戦い続けるロシィとプロテクションを張り続けるルルは、魔力、体力共にかなり消費していた。連撃をレイピアで大きく弾かれ、ロシィは遂に力尽きて膝をつく。肩で息をし、顔には疲労が見える。バルフはここで、初めてロシィの顔を見た。


「こんな、小さいガキに俺様は手を煩わされたのか……! 一体どんな鍛え方を……! フォルトゥナ教団ってのは頭がおかしいんじゃねぇのか……! しかし、かなりの強敵だったがこれで終わりだ! 念の為に、この世に塵ひとつ残さず、最大火力であの世に送ってやるぜ……!」


「いやぁ……やめてぇ……!来ないで~!」


 バルフは長めの詠唱に入ると、追い詰められたロシィは、泣き喚きながら取り乱し、戦闘用ポシェットから小瓶を数本取り出してバルフへと放り投げる。割れた小瓶からは液体が零れ落ちていくが、彼女の行動になんら意味はなく、子供の悪足掻きだと思ったバルフは、構わず魔術を構築していく。


「さぁ待たせたな! 俺の最大火力魔術、【獄炎熱衝メノアボレアス】の威力をその身に受けろ!」


 バルフが両腕を上げると巨大な火球が体現する。それよりも一瞬早く、ロシィが全力でその場を離れると――


 別の大爆発が引き起こされた。



 ロシィが放り投げた小瓶には。

炎剛竜、マグマディアマントスの火炎袋に蓄積されていた

【気化する燃料の濃縮液】が入っていた。


 小瓶が割れて外気に触れた燃料は、急激な速度で気化し、辺りに漂った。

今日は無風、気化した燃料はその場に留まり続け、バルフの魔術により引火、大爆発を引き起こした。


 この捨て身の作戦は以前に豊が使った方法であった。火山での戦いを近くで見ていたロシィは今回の状況、炎を使う相手を考慮し、最悪の場合は、纏めて術印を吹き飛ばす算段であった。


 装備していたそよかぜのマントの受け流し効果と、朝方食べたカレーライスによる、炎熱耐性上昇の効果がなければ、おそらくはもっと被害は大きかったことだろう。


 あの取り乱した様子も、全ては小瓶を大した物ではないと錯覚させる為の演技だった。彼女の見た目にバルフは最後まで騙されたということだ。マリーゴールドの石の城壁を瞬時に溶解させ、引火すればマグマディアマントスの内臓ですら焼き尽くす燃料である。人間が対策も無しに喰らえば、ひとたまりもないだろう。


 大爆発でプロテクションは全て吹き飛び、監視塔の術印は塔ごと消え去る。


 バルフの姿は何処にもなかった、おそらく大爆発に巻き込まれたのだろう、床にはマントと人型の焼け跡だけがあった。


「子供だからって、甘く見たらダメなんだよ~」


 ロシィの勝利は確定したかに思えた。


「そりゃあそうだよなぁ。お前みたいな手練れのガキが、あんな土壇場で取り乱すわけがねぇ……」


「はぁ~……しつこい……!」


 両者とも、相手の性質は戦いの中で分かっていた。こんな規模の大きい作戦に参加している人物が、一筋縄ではない事を。爆発の直前、バルフは術が発動する瞬間、異変に気付き、近くに転がっていた死体を盾にして、爆風に逆らわず吹き飛んだ。幸い、装備していたマントが自身の属性用に新調した、高精度の炎熱耐性だったおかげで、即死を免れたのだった。


「クソ……今の爆風で回復アイテムも全部吹き飛んじまった……。恨むぜクソガキ……!」


「無味無臭の液体なのに、よく気が付いたねぇ」


「バカ野郎が、こちとら炎の魔術師だぞ。まさか、マグマディアマントスの火炎袋なんか持ち出してくるとは思わなかったがな。恐らく濃縮したんだろうが、それが間違いだ。濃度が上がれが必然と成分が濃くなり、本来はしない臭いも気になるレベルには高まる。呆れるぜ、濃縮の精度の高さといい、威力といい、臭い以外は文句の言いようがねぇ。フォルトゥナ教団はやっぱり頭がおかしいみたいだ」


「もうおしゃべりはいいよね? 捕まえるから」


 ロシィがロープを取り出そうとして、ポシェットに手を伸ばしたその瞬間。


『ロシィ! 伏せるケロ!』


「【爆! 解!】」

 その言葉と共に、大規模な爆炎が立ち上り、バルフは炎の中で崩れてゆく。ルルの一言で、炎に巻き込まれるのを回避できたが、発せられる熱気は周囲を取り囲み、肺を焼き尽くす様に熱い。


「捕まって堪るかよぉ! 仲間を売るぐらいなら俺様は死を選ぶ! ざまぁみろクソガキ! 情報なんか一つたりとも! くれてやるものかぁ!」


 轟々と燃え盛る火炎の中で、炎の魔術師が叫ぶ。自らの死を選ぶ程に、自分たちの情報を秘匿した彼を、ロシィとルルは静かに見守る事しか出来なかった。


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