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フォルトゥナ戦記~キモオタだって異世界でモテたい!~  作者: メアー
ギルダム王国式典 後編
91/254

90. 赤い月の式典

始まります。


 一ヶ月の準備期間を設け、式典は盛大に執り行われる事となる。


 今日は、式典当日の朝。豊達、フォルトゥナ教団の面々は

揃って食卓を囲んでいた。並んでいるのは、南アジアより生まれ、英国を経由。黄金の国へと辿り着いて独自に進化、世代を超えて、定番へと登りつめた天下の家庭料理【カレーライス】である。


「はーい! お待ちどうさま。ユタカ特製スペシャルカレーの出来上がりでい!!」


 カレーライスの素晴らしい出来に、思わず江戸っ子化を果たす豊を、華麗にスルーし、皆は各々食事にとりかかる。


「やっぱりユタカさんのカレーは刺激があって美味いですね。あっ、お代わりは自分でしますから大丈夫です」


 ギャリオンが早々と一皿目を平らげ、二皿目を意気揚々と盛り始めた。


「ギャリオン! ライスには限りがあるのだ! 私の分も残しておくのだぞ!」


ユピスがライスの残量を懸念する横で、ロシィとルルが口いっぱいに頬張る。


「おいしー!」 「んまいケロ!」


 数十種のスパイスからなる芳醇なる香りは、脳へ素早く届いて、良く効いてくる。身体は抗うこと叶わず、皿から口へ、スプーンの往復する速度を少しずつ早めていく。


「ユタカ、私のカレーをもっと辛くしたい、辛いソースをくれ。ハラペーニョやカイエンヌよりも辛いやつな」


「それではハバネロなど如何でしょうか?」


 辛さを求めるならば、量を増やすべきと考えるのは浅い。旨味を損なわずして辛さを求めるためには、質と密度が重要となるのだと、豊は語る。


 特にこの世界においては、能力値ステータスが存在する為、高いレベルを持つ人間の耐性力は、通常の人間とは大きく異なる。以前話題にあがった、薬効を打ち消す件も、世の中の医療には大きく影響を及ぼしている。


「ほんの一滴の刺激が、カレーをより一層高みへと向かわせる……あ、ラッシーも用意してくれよ!」


 ラッシーとは、ヨーグルトと牛乳をベースに作られる飲み物である。

牛乳に含まれる、【カゼイン】という名のタンパク質が辛さの元である【カプサイシン】と結びつく事で、舌が感じる辛さを抑えてくれる上に、胃腸の粘膜を守る働きがあるのだ。


「それではコレをどうぞ、手につかないように気をつけてねマリー」


 豊が過剰なる糧のサブメニューから、赤い液体の入った目薬サイズの入れ物取り出し、マリーゴールドへと渡した。


 これは【暴君の涙】と呼ばれる商品で、ハバネロに秘密の成分を混ぜた一品。食べる毎に涙が溢れる程辛いが、旨さを損なわせない上品さがある。


「最高でも、三滴が限度ですぞ。それ以上は胃腸がもちませぬ」


 言いつけを守り、まずは一滴垂らす。一滴でも伝わる可視化された様な辛さに、マリーゴールドは魅了されてゆく。


「ふふふっ……! 天才ってのは引き際を弁えた奴の事、なんだぜ……」


 最初の一滴で満足したマリーゴールドは、カレーのおかわりを所望した。

興味半分で試したギャリオンとユピスは、ラッシーを三杯程飲み干す事となる。


 朝カレーを済ませた豊達は、式典の会場へと向かってゆく。



 舞台は、城門から街を見下ろせる中央街広場。古来より、王が新しい決まり事を民衆に宣言する際などに、此処が利用されており、今日の為にと、特別会場が建築されていた。その作りは頑強そのものであり、投石や矢などの遠距離武器が届きにくい様に工夫が凝らされている。


 当日、王はその場に立ち、今回交わされた誓約について、高らかに宣言をする手筈となっていた。


 会場となる広場の周辺には、盗賊団の件で顔見知りとなった、白竜騎士団団長、ギース・マカダミアンが兵の指揮をとり警護にあたっている。


 各地の代表である貴族、重役達は、用意された来賓席に集められ、複数の兵や個別の用心棒に厳重に警護されている。その中には、豊が世話になった貴族である、ビットマン・ルーティーンの姿も見られた。


 様々な思惑が錯綜する中、満を辞して、ギルダム王国式典は開催された。


 音楽隊による盛大な演奏が響き渡り、人々の注目は、式典の舞台へと注がれる。


 豊達フォルトゥナ教団の面々は、此度こたびの式典において、重要な立ち位置にある為、王族と同じ特別席にて、王の側で警戒警護を務めていた。

この距離ならば、王の身に何があろうと即座に対処が可能だ。


 万が一の為に、王本人にはプロテクション二枚、足元には魔力感知式防壁が用意されている。


 続けて、音楽隊が王の登場に合わせて楽器を奏でると、民衆からは大きな歓声が上がった。この歓声量は、単にエウロ王が民衆に慕われているというだけではない。


 何故かというと、今回の宣言よりも以前に、ギルダム王国とフォルトゥナ教団の友好協定が交わされるという情報が、まことしやかに囁かれていたからだ。


 しかし、これは豊陣営側がわざと流したもの。あらかじめ、噂程度の情報をじわじわと人々の間に広めておき、事実を思考、受け止める期間を設けたのである。


 各地の危機を救っているフォルトゥナ教団と、友好関係を取り付ける事が出来るエウロ王は、優秀な王だと民衆に喧伝し、彼らの信頼を取り戻す算段である。


 中には順序を逆に、エウロ王がフォルトゥナ教団に救援を要請した事で、各地の人々が救われたのだと勘繰る者も居た。


 この案により、王の登場を心待ちにしている層が出来上がり、その歓声につられ、周りも声をあげるという結果へと繋がったのであった。


 音楽が止み、一時その場は王の手により静寂に包まれる。国民一人一人に届く様、魔術道具である拡声器を使い、エウロ王はこの度の友好協定について詳細を語ってゆく。その間、開催の前から人々に配られていた、【フォルトゥナ教聖書】についても触れられ、催事は着々と進んでいく。


 エウロ王の話が終盤へと差し掛かり、締めの言葉へと移ろうとした瞬間。


 マリーゴールドが周囲の異変に、いち早く気付いた。



「強大な魔力反応だ! 身構えろ!!」



 王、貴族、民衆への襲撃に対しては、考え得る限り用意可能な策を用意してある。しかし、その襲撃は豊達の想像を遥かに超えた形で行われる。


「コレは個人をどうこうする規模の魔術じゃねぇぞ……!!」


 太陽は陰り、血の様に赤い月が現れる。大地からは黒い瘴気が溢れ、人々の身体からは魔力が失われていく。


「マリー! この感じだとエナジードレイン系統か!?」

魔力総量の多い豊達は、辛うじて、その場に立っていた。


「察しがいいな! この術式と感覚からして大規模な強制狂集ドレイン結界だ!誰かは知らんが、この王都を丸ごと呑み込むつもりらしい!」


 周辺の人々はまるで、重量が何倍にもなったかの様な感覚に襲われ、堪らず地に伏せる。それは豊達も例外ではなかった。


「身体がめちゃくちゃ重い……センパイ! ルルちゃん! 無事ですか!?」


「なんとか……! なるかも……!」

「プロテクションが無かったらヤバかったケロ……!!」


「結界内の人々から、無差別に魔力を吸い取る術式だな……。魔力が無くなれば命を吸い取る程に強力なものだが……範囲が広い分、即死までとはいかないようだな……! 民草をも無差別とは……! ふざけた事を……!」


 ユピスの言う通り、大規模な結界であっても、即死までは至らず、レベルを体得している人物ならば、少しは堪えられる。しかし、一般の人間はそういう訳にもいかない。何とかして状況を打開すべく思考を巡らせると、マリーゴールドから声があがる。


「お前ら! 結界発動と同時に強い魔力反応が五つ発生した! 各自散開して根源を叩くしか手はない!!」


「ユタカ! この状況での戦力分散はリスクが高い! この次に何があるか分からんぞ!」

 ユピスは戦力の分散による各個撃破を懸念しているが、状況が状況である。


「僕達は魔力があるからまだ耐えられる! しかし、他の一般人はそうはいかない! 迷っていては、その間、人々が死ぬ!」


「お主ら‼ 無事か‼」


 豊達に声を掛けたのはエウロ王であった。


「ワシが時間を稼ごう。現役を退いてからしばらく経つが、魔術の鍛錬は怠った日は無かった。こんな事しか出来んが頼まれてくれ‼ バルベロン! ノスタール! 手を貸せい!」


「ははっ!」

 王政経済大臣バルベロンと王政立法大臣ノスタールが、エウロ王の補助に入る。


 エウロ王が錫杖を握りしめると魔術を詠唱し、結界へと向ける。彼が行なっているのは、術式の書き換えという高等技術。術式に外部から手を加えて、本来の力を弱めようというのだ。


 これにより、その場全員の行動制限は解かれ、戦闘が可能となった。


 更には王の周りに控えていた宮廷魔術師達も、彼を支える様に周りを固め、結界の抵抗を行い、負担を少しでも減らそうとしている。


「長くは持たない……そなた達にはすまないが民を……人々を……頼む……!!」


 大規模なエナジードレインに加えて、既に発動している術式の書き換えという、高等技術を駆使する王の身体には、想像を絶する負担が掛かっている。迷っている時間はなかった。



「やるしかねぇ! ユタカ! 強い魔力反応は、王都を囲むように作られた五箇所の城壁監視塔からしている! いくぞ!」


 豊、ロシィとルル、ギャリオン、マリーゴールド、ユピスでそれぞれ五箇所の監視塔へと向かう事になる。


 残された時間は少ない。豊達はそれぞれの目的地へ走り出した。

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