86. 魔術の修行
王政大臣バルベロンを王都へと送り届けるのと同時に、パピロスで知り合った兄弟も一緒に連れていく事となった。
二人が働いている砂糖工房には、村の代表から直接話を通してもらい、元気になったお婆さんは、喜んで兄弟を送り出してくれた。
エドワルド九歳、アルフレッド八歳。二人とも幼いながらも、両親の死や貧困の環境的逆境により、凡人よりも想いの力が強い。それ故に、魔術適性を感じたのだろう。
最初に、魔術師ギルドでの登録、ロシィの時と同じ様に、受付を済ませてレベル申請を行う。王都にある仕立て屋で二人の服を作り、身支度を整える。
「ユタカの兄ちゃん、オレ達にこんな高価なもん買わなくったっていいんじゃないか? なんか悪ぃよ……」
「レベル申請をさせてもらった上に鍛えてもらえるのに……。こんな高い装備まで用意してもらえるなんて……」
「僕は教育には手を抜かない主義なんだ。二人にはよく食べ、よく学び、よく育ってもらいたい」
豊はロシィと同様に、二人を救世主として育て上げる気でいた。食料や必要な準備を整え、豊とロシィ、ルル、エドワルド、アルフレッドは魔装車に乗って、王都から少し離れた草原地帯へとやってきた。あたりには森、湖、草原が広がっており修行に適した環境であった。
まず豊は、【時を駆ける創造】を使って土から小屋を作った。
「君達二人にはコレを憶えてもらう」
ユタカオリジナルの創造魔術【時を駆ける創造】
この魔術を開花させ、使いこなすことが出来れば、この先、一生喰いっぱぐれないという事を兄弟はすぐに理解出来た。
「レベル上げや訓練の前にやっておく事がある」
それは【レベル抑制ボーナス】である。
トート神との対話で明らかになった、【誓約と制約の儀式】による強化であった。二人にコレを説明し納得、了承をとり、いよいよ修行が始まる。
豊の飯をたらふく食べる事から一日は始まる。
食事による能力値の補正により体力、筋力などの能力値が上昇し、手をつけることの出来る範囲を広げる。全体の数値がほんの少し上昇するだけで、レベルがいくつか上昇した時と同じ効果が得られる。これにより、肉体強化が為され、すぐにでも、戦闘訓練を行う事が可能となったのだ。
豊を相手にした組手、魔術よりも先にやるべき事は基礎体力。
「なあ、魔術を習うよりも先に、どうして体力が必要なんだ?」
エドワルドの疑問はもっともである。しかし、この世界の魔術師達の間では
基礎体力をつける事はもはや常識である。精神力と集中力を付けるにはどうしても基礎体力が必要であった。筋肉の増加による血の流れの構築は、魔力の流れにも通じている。この流れに滞りがなければ、脳による情報の処理が加速し、魔術の発動や管理制御が改善する。
ならば何故、組み手なのか、理由は簡単で【時を駆ける創造】を憶えたところで二人が肉体的に弱ければ、悪用しようと企む者に捕まり、強制的に利用されるのは目に見えている。それを防ぐ為である。
こういった理由を全て兄弟に伝える事で、物事には理由があるという事も理解させていく。豊の教育には理不尽な事は一切なく、肉体的はストレスフルであっても、精神的ストレスフリーで兄弟は、みるみるうちに知識や経験を吸収していく。
豊やロシィも二人に教えながらも、自分の鍛錬を欠かさず修行に打ち込んだ。
魔術鍛錬と体術、座学を繰り返し、一週間が経過した。
「二人とも大分力が付いてきた様だね」
本来であれば、肉体の周期を考慮すれば、この様な短期的修練法は得策ではない。しかし、それを可能にしているのが、豊の料理により発生する能力値の強化と、ロシィとルルによる急速回復を目的とした【ヒール】なのである。
ヒールの作用は新陳代謝を促し、肉体の修復を助けるものである。
修行で受けた肉体的損傷を、魔術で強制的に修復する事で、肉体は短期間で爆発的に成長する。これは脳の負傷にも有効であることが実証されている。
「勿論さ! オレ達はまだまだ強くなっていくぜ!」
「僕達、これからも頑張って強くなります、世の中の理不尽に負けないために!」
「二人はどんどん強くなって頼もしくなってきたね〜」
「がんばってるケロ〜」
「オレとアルなら最強のコンビになれるぜ! ユタカの兄ちゃんもすぐに追い越してやるからな」
「お〜? 言ったなぁ〜! 慢心時期かぁ〜!」
「やめてよ兄さん、冗談でも僕達じゃユタカさんには勝てっこないよ!」
「やってみなきゃワカンねぇだろアル! なるなら最強! 目指すなら世界一だろうが!」
「エドワルドの言う通り、目指すなら世界一だ。しかし、二人にはいかなる時も慢心せず物事に向き合ってほしい。この世界で幸せに生きていくために」
「はい! ユタカさん! ほら、兄さんも!」
「……はい!」
こういったやり取りも師弟関係には必要不可欠な要素である。
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ある夜の事、小屋を抜け出して兄弟は水辺で月を見ていた。
「アル、お前ロシィの事どう思う?」
「えっ……? そうだなぁ……ロシィは可愛いよね……元気で明るいし、僕達と歳全然変わらないのにすっごい強いし……」
「それによ……たまになんだけどすごくドキッとする位、大人びた顔するんだよな……」
「するよね……僕達なんかよりよっぽど大変な人生歩んできたんだろうね」
「オレ、ロシィの事めちゃくちゃ好きだわ……」
「僕も……めちゃくちゃ好きかも……村にはああいう感じの子居なかったし……」
「オレ、あの子より強くなったら、絶対告白する……!」
「僕も……早く彼女を守れるくらい強くなって……お嫁さんになってもらう!」
「どっちがお嫁さんに出来るか勝負だな!」
「負けないよ兄さん!」
その日兄弟はなかなか寝付けず、遅くまで組み手をした。
「ふにゃ~ん……ごしゅじんさま……♡」
「……よく眠っておる……ロシィ。幸せになってくれよ……」




