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フォルトゥナ戦記~キモオタだって異世界でモテたい!~  作者: メアー
ギルダム王国式典 前編
85/254

84. ドラゴンの棲む山

 現在フォルトゥナ教団には、四人と一匹が所属している。

皆が式典に向けて準備を進める中、アリア教団、または他の組織による妨害工作に対抗するべく、自由に動ける強大な戦力を確保したいところであった。


 ギルダム王都から東に向かうと、兵士の派遣を必要としない、変わった村があるという話を聞いた。


 そこは、ある自衛手段により、兵士の派遣を辞退する事で、本来国に収める税の一部を、免除してもらっていると云う。


 その自衛手段というのが、【巨大なドラゴンによる防衛】

彼の者の実力は、歴史にも多数記される程に強力で、山ひとつを、吐息ひとつで吹き飛ばすなど、文明を一夜で滅ぼすとも言われ、各地で恐れられている。


 余程の採算が取れない限り、強大なる存在に手を出す筈はないだろう。


 時折、圧倒的な力に魅入られた存在が、

何処から出たのかも解らぬ世迷言を間に受け、不老不死の妙薬として高貴なる血を求めた結果。こっぴどい仕返しを喰う。といった話も吟遊詩人の歌にある。


 その村のドラゴンは、険しい山脈を越えた先に、以前の住処があり、東のヴァマルドに対し、武力侵略を牽制する働きもある。


 大いなる存在が、村のすぐ北にある山に住み着くまで、幾度となく、山脈の切れ目からヴァマルドの武力侵略が行われており、その度に甚大な被害が生じていた。


 彼、又は彼女が住み着いてからは、ヴァマルドが侵略する度、全て灰塵にされている為、ギルダム国側の明瞭な被害は確認されてはいない。


「そのドラゴンを仲間に引き込むって話なんだけど、ぶっちゃけ大丈夫なの?」


 豊の疑問はもっともな話である。ドラゴンは長い時を生き、時には人語を操るとは言われているが、逆鱗に触れた際には容赦無く、報復が待っているとも言われている。城の連中や、貴族が取り入ろうとし、失敗した例もいくつか報告されており、なかなか気難しい竜であるという話だ。


「取り入ろうとした貴族のバカ共は、ドラゴンを配下にするつもりで接した奴等だ。ユタカの様に、礼儀を持った相手にはそれなりの対応をするだろうし、フォルトゥナの使者に対して、手荒な真似をする程ドラゴンも軽率ではないだろうさ」


「あくまでマリーの見解だろ?」


「それにな、あのドラゴンは定期的に生け贄という形で人間を喰ってる。なんとか辞めさせたいが、東のヴァマルドとの関係もあって、ドラゴンの要求を邪険には出来ないのが現状なんだ」


「人間に代わる新しい贄を用意して、納得してもらうしかないって事か……」


「ごしゅじんさまの出番だね!」


「ユタカさんの料理で納得しない奴なんていませんよ、やりましょう!」


 彼の料理を普段から口にしているロシィとギャリオンは、長い経験によって裏打ちされた自信からか、料理を振る舞う考えに賛成の意を示した。


 その自信は、教団に参加してから日の浅いユピスには疑問だった。

「ユタカはそんなに料理に長けているのか?」


「紅の料理人で名が通ってるケロよ」


「ほう! ハガンカで有名な料理人は貴様であったかユタカ! 是非、私にも馳走してくれ!」


「わかった、じゃあ行ってみるか」


フォルトゥナ教団出動と思いきや、突如として、マリーゴールドに来客が入った。


 彼女が王都を空けている間に溜めこんでいた、仕事の山について、ギルダム王国管理大臣のひとりである、王政大臣が直接宿に乗り込んできたのだ。


 マリーゴールドは大臣に担がれ、王城へと向かう事になり、ギャリオンとルルが護衛として彼女につく事になった。


 結果として豊、ロシィ、ユピスの三人でドラゴンの村へと向かう。


 初めての魔装車に驚きのユピスは、終始豊に、このオーバーテクノロジーについてを質問攻めをしていた。二日をかけて村に到着する。


 ドラゴンの村は畜産として、豚とめん羊、鶏、耕作は麦とトウモロコシ、野菜を複数育てている。中でもトマトは育ちが良く、張りがあり、名産として王都に贈られる程であった。


 山に住まう脅威の存在が、野生動物や魔物を始めとした多くの害獣を一切寄せ付けない為、安定して畜産が可能だという。


 豊が土を調べたところ、他の地域とは質に圧倒的に違いがあった。人々によると、竜から得た知識をもとに、土壌改善を行なったとの事。


 村の外れにある、比較的新しく作られた肥溜めの大きさから、堆肥による土壌改善が行われたと理解した。豊が知っている、人糞や家畜糞による堆肥独特の臭いが無い。どうやらドラゴンの腸内には、優秀な微生物が存在しているらしい。


 村の代表から詳しい現状を聞き出し、生け贄を捧げ続けなければならない現状を打開する為の提案をした。


 今まで数々の事例があったのだろう。代表は豊の提案に難色を示したが、フォルトゥナ教団としての功績や、彼自身の料理の腕を実演した所、許可が下りた。くれぐれも粗相のない様にと強く念を押され、村人が住処を訪れる際に鳴らす呼び鈴を受け取ると、豊達は村で準備を整えドラゴンの棲む山へと向かう。


 山道の整備された林には、常に骨身に突き刺さる程、強大な竜の闘気が渦巻いている為か、野生のモンスターの姿は確認されなかった。魔力が充満しており、例えるならば、高温多湿環境の中に身を置いた時の様な、居心地の悪さを感じる。


 一行は、山全体が竜の縄張りという事なのだと、身体で理解する事が出来た。


 住処らしき巨大な洞窟には、滞りなく辿り着き、早々に呼び鈴を鳴らして訪問を知らせると、代表から教わった通りの道順を進む。


 更に洞窟内を奥へと歩き続ける事しばらく、三人は吹き抜けの広い空間に出た。奥には想像を絶する財宝の山をベッドに横たわる、翠の鱗が美しい巨大な竜の姿があった。


 その大きさは、且つて戦った炎剛竜をも遥かに凌ぐ、体長約二十メートル。


 竜は。来訪者の顔を一目確認してから口を開いた。人用に調整されているであろう音圧ですら、まるで地面に押さえつけられている錯覚に陥る。


『贄の日にはまだ、時間があった様に思えたがな……呼び鈴を鳴らした新顔よ、此度は何の用で我が住処を訪れたのだ』


 豊は人間を捧げる代わりに人間の作る料理を贄とする案を説明する。


『またその話か、以前にも同じ事を言ってきた奴等が居たが、どれも我が舌を満足させる事叶わなかった。人が竜に代々伝わる食事法を超えるなどとは烏滸がましい』


「この世界の人々は、料理に対する知識があまり十分ではありません。私は異国の地にて料理を長い間研究、追及をしてきました。正しい知識を要すれば、必ずやあなたの口に合う料理が出来るはずです。少しばかりご協力頂けませんか?」


『よかろう、良い暇潰しになる。我は礼儀を弁えた者であれば、例え矮小な人間であろうと邪険にはしない』


 竜が人間を喰らう件は、昔からの決まり事というよりも、効率良く栄養を摂取する、竜の間で流行った知恵として続けられてきたのだと云う。しかし、時代は流れ、それに取って代わる方法があるのだとしたら、竜は人間を食べる事を選ぶだろうか。豊の頭にはその考えがあった。


「ありがとうございます。ではまず、此方の合成した調味料をいくつか味わって頂きまして、どの味が好みに近いのかをお教えください」


 豊は、皿にいくつかの調味料をのせ、味見をしてもらい、その好みにあった料理を作ろうと考えた。人間を好んで食べるのならば、肉を使った料理が良いだろうと考え、村でも飼育されている豚の肉を使う。一説によれば、人間と豚の遺伝子はかなり近いという、食感までは、試したという記録は存在しないが――


 豊が居なくても、調理法さえ正しく学べば、これ以降も、その料理で竜を満足させる事が出来るであろう。


 まずはロシィのバックパックから、超特大の寸胴鍋取り出す。ドラゴンの大きさに合わせた特注品で、一回の調理で、【169リットル】作る事が出来る。


 豚肉は解体してすぐの新鮮なものを選び、おいし草とスパイス、ハーブで臭みを消してから、食べやすい大きさに切り分け、両面を丁寧に焼き上げ旨味を閉じ込める。


 カオリダケと呼ばれるキノコと、村で取れる野菜を順番に鍋に入れ煮込んでいく、水はこの山の綺麗な湧き水を使っている。豊が調べた結果、程良い軟水で口当たりが良く、スープに最適であった。


 調理中、空間に食欲を掻き立てる良い香りが漂い、心なしか竜も落ち着きがない様に感じられる。


 鍋の中に丁寧に濾したトマトを入れて、しばらく煮込むと、

【トマトとキノコのポークスープ】が完成した。


 しっかりと味見をして微調整してから、竜用に作った木の大皿に盛り付けられる。

『自信ありげに公言しただけあって、なかなかの見た目ではないか……香りも良い……頂くとしよう』


一口舐めると一旦動きが止まり、しばらくしてまた舐める。これを二度繰り返した後、ドラゴンは一言も喋らずにスープを平らげた。


 豊は何も言わずに大皿に追加すると、ドラゴンは勢いよくそれを平らげ、それは鍋の中身が無くなるまで続いた。


『大した奴だ。この料理を知れば、人間を喰う理由など見つからぬわ……。しかし何故、これ程このスープは美味いのだ。説明をしてくれ』


 豊はまず、味見をしてもらったいくつかの調味料について説明した。


 皿にはそれぞれ、おいし草から抽出した塩分と辛さが調整された調味料が入っており、その中からドラゴンに一番合ったものを選んでもらった。生物によって味覚は異なり、特に塩味における塩梅というのは異なる。体の対比と体内の塩分濃度によるものである。


 人間の舌に合わせて作った料理が、必ずしも同じ様に感じる訳ではないと思い、豊はこの方法をとった。身体が大きいかの竜は、それを維持する為、かなりの塩を必要としている。よって、塩分をかなり濃い目で調理をした。


 次に、選んだ食材。豚肉、カオリダケ、トマトであるが、

これら類には、アミノ酸における旨味成分、イノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸が含まれており、豊は、長い異世界生活の間で、現代料理をどう再現するかを日々研究していた。鰹節や昆布が一般的な食材として出回っていない為、用意可能な材料から、如何にして旨味を取り出すのかが悩みどころではあったが、長い旅の中でそれが確立されたのであった。


 豚肉は本来、時間と手間を掛けて熟成しなければ、イノシン酸が多くは生まれないが、この世界の【おいし草】にはそれを増やす効果があり、ドラゴンから生まれた堆肥を使った畑で採れたトマトには、ビタミンとグルタミン酸が豊富に含まれている。


この世界特有の種であるカオリダケは、生でありながら、干し椎茸にも匹敵するグアニル酸が多く含まれている。干せば更に旨味は増すが、中毒性が在る為、使用する量には注意しなければならない。広く、アミノ酸と言っても、中には美味すぎる毒キノコなどもあるので、キノコを使うときには細心の注意を払った。初見、豊はカオリダケを食べ過ぎて爆裂な腹痛を起こした事もある。


 また【アミノ酸旨味成分】という知識がないこの世界で、この美味さの集合体を独自に再現するのは、まだ数世紀先になるだろう。


『気に入ったぞ新顔、名を名乗れ』


「ユタカと申します」


『ユタカ、貴様に我が名を明かしてやる。有り難く頂戴しろ、我が名は【覇王竜・グレイジオス】嘗て、魔大陸とズクにおいて、恐怖の体現と呼ばれたドラゴンの中のドラゴンよ……‼』


 ドラゴンにとって、名を明かし合うのは友好の証明であり、末代にまで語り継がれる名誉ある恩賞だ。しかし、豊は今までドラゴンに会った事がなかったので、その事に気が付かず、友人と認められる事となる。グレイジオスはそれを教えると豊は納得。これからは人間の代わりに、美味しいスープを贄として用意する事を約束した。


『これは友好の証だ、持っていけ』

グレイジオスは数ある財宝の中から、豪華な装飾が施された《《魔法》》の小盾

【サイグリア】を贈った。


【サイグリア】

魔術が基本とされるこの世界で、【《《魔法》》】を実現させた奇跡の盾。世界の理に逆らう強い力は、持ち主を認めない限り力を発揮することは無い。


『お主が望むのであれば、長寿になると云われる我が血をくれてやろうと思ったのだが、既に最大級の祝福が施されている様だな』


 グレイジオスが言う祝福とは、フォルトゥナの加護の事である。その事について説明をすると、『お前も人が悪い。何故早くそれを言わんのか』と小言を言われた。


【称号、【覇王竜の盟友】が顕現しました。各種、能力値ステータスに補正が発生します。各、技能スキルの熟練度に賞与ボーナスが発生します。特殊技能スキル【竜の威を借る英雄】が開花しました。この称号の発現により、覇王竜グレイジオスと任意で連絡を取る事が可能となりました】

 天の声がいつもより長い声明を出し、豊のレベルカードは且つてない程の光を放った。まるで連続でレベルアップし、ファンファーレが多重演奏された時の様だった。


【竜の威を借る英雄】

覇王竜グレイジオスと盟友関係となった事で発現した技能スキル

使用者が殺気を放つとき、任意で竜の覇気を含ませる事が可能となる。

自分より弱い魔物を退け、戦わずして勝つことが出来る。



 豊は心から感謝をし、村に戻って事の次第を説明した。今後、生け贄に人間を差し出さなくてよくなると分かると、皆大変喜び、次の生け贄に予定されていた娘は豊に感謝と抱擁を繰り返した。


 豊は村人たちへ、ドラゴンに振る舞ったスープの作り方と味を覚えてもらう為、絵付きのレシピを残して実際に作って振る舞った。濃いめの味付けは外で働く者達の評価は高く、子供達にも人気となった。この後、トマトとキノコのポークスープは、

【ドラゴンの舌鼓】という名前で村の名物となり、村の外からはスープを求める人々が訪れる様になったという。


 本来の目的とは多少差異はあったが、豊達は覇王竜グレイジオスとの友好を築く事に成功した。


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