81. 責任を取ってください
魔力の油が霧散し、早々とその場を離れた豊一行は、泊まっていた宿屋に戻っていた。ロシィとマリーゴールド二人は着替えて普段着に戻っている。
「まだ遊び回る予定だったのにとんだトラブルを抱え込んでくれたなぁ……」
「それは僕の所為なんですかね……」
「当たり前だろバカタレ! どうすんだよ宿屋にまで連れ込んで! コイツが起きなかったらお前は床で寝ろよ⁉」
「ふぇぇ……ロシィ……」
助けを求めるように豊はロシィの方を向くと、思惑とは違う言葉が発せられる。
「ごしゅじんさま……ロシィにはエッチなことしないの……?」
「あっ、コレはいけませんね、理性がしんでしまいます……」
相手が幼女でなければ豊の理性は遥か遠く、銀河の彼方まで吹き飛んでいた事であろう。必死に理性を総動員させ事なきを得る。
「ロシィもユタカを甘やかすのはやめろ!」
三人がそうこうしている間に、銀髪の美女は目を覚ました。小さな声を発し
己の身に何が起こったか未だ理解していない様子であった
「起きたか強情女。こっぴどくやられてたけど大丈夫かよ」
「ありがとねお姉ちゃん。助けようとしてくれて」
「ここは……何処だ……私は」
「ここは私達が泊まってる宿屋で、アンタは擽られて失神したんだぞ」
「私は負けたのか……。公衆の面前で……アレだけの辱めを受けて……。意固地になって……悔しい……うぅ……」
「悔しい……でも……(ビクンビクン)」
【ドゴン!】
余計な事を口走る豊に、マリーゴールドが容赦の無い鉄槌が下す。本体にデカデカと【100t】の文字が刻まれた巨大なハンマーは一体何処から出てきたのか、それは魔術師の秘密らしい。
銀髪の美女が落ち着くまでしばらく待った後、冷静に話をする事になった。
「私はユピス・ゼストール。二代目雷の魔術師だ、ある人物を探して旅をしている」
「私はロシィだよ、よろしくねお姉さん」
「マリーゴールド・タッチアップル。金の魔術師にして八代目ビックハットだ」
「貴女が有名な金の魔術師殿か……。まさかお目にかかる日が来ようとは……」
「そしてお前を擽り、大衆の面前で辱めたコイツがユタカだ」
「酷い言い草ですぞマリー。ユピスさん身体大丈夫? ゴメンね本気出して……」
「貴様には私を弄んだ償いをしてもらう、覚悟しろ」
「えぇ〜……。ユピスさんから手出してきたのに……僕が悪いの……」
「諦めろユタカ、あの場合、骨を折って倒した方がまだ救いがあった、お前が変に気を回さなきゃ、コイツは擽りで悲鳴を上げながら失神なんかしなかったんだからな」
「くっ……金の魔術師殿……あまり言わないで頂けないか……人生最大の汚点だ……」
「女性に痛い事するのは趣味じゃないんで……」
「当たり前だ、そんな趣味あってたまるか!」
再びマリーゴールドの厳しいツッコミが入る
「マリーさん! お願いだから100トンハンマーは勘弁してください!」
振りかぶった鉄の塊を豊は全身で受け止める。
「……貴様、ユタカと言ったな」
「はい、そうです」
「私と結婚しろ」
バフゥーーッ!!
思いもよらぬ彼女の発言に対して、勢いよく三人が噴き出した。
「我がゼストール家の女は倒された者の妻になるのが仕来りなのだ。色々と責任は取ってもらう」
「えっ……えぇ〜〜……」
「ふっざけんな! そんなの認めるか!!」
「そうだよ! ごしゅじんさまは私と結婚するんだから!」
「そういう事じゃねぇだろロシィ〜!」
「ほっぺ揉まないでマリーちゃん〜」
ユピスから投下された爆弾発言により、
一室の空気は一気にヒートアップした。
「ほ、ほらアンタにだって惚れた男の一人や二人いるだろ?」
マリーゴールドがユピスを落ち着かせるように話題を振る。
「私より弱い相手は好かん」
「ユタカはな! こんな羊みたいな顔してても、実はめちゃくちゃスケベなんだぞ! 狼なんだぞ! いいのか⁉」
「男性が子作りをしたがるのは自然な事だ……。ゼストール家にも後継ぎがほしい……。あの様な事は……馴れるしかあるまい……」
頬を赤らめ、何を想像したのか、ユピスは下腹部に手を当てて、瞳を潤ませた。
その悩ましげな動作は、男を狼へと変貌させるには十分過ぎる程に、艶かしいものであった。
「なんでもう受け入れようとしてんだよ! もう少しがんばれよ! ユタカもなんとか言え!!」
急いで豊に矛先が向くが、彼の頬には大量の涙が滝のように流れている。
「こんなにグイグイくる美人初めてなんで、感動しちゃって……」
「泣いてんじゃねぇよ童貞が!!」
「まだ十九歳だもん‼ 童貞でも恥ずかしくないもん‼」
その二人のやり取りを見て、ユピスは何を思ったのか、
「…………! おぉそうか、金の魔術師殿はユタカを好いているのか‼」
二個目の爆弾が投下された。マリーゴールドの顔は、今まで見たこともない程に一瞬で茹で上がり、真っ赤になってしまう。
「バ! ばぁーっかじゃねぇの! んなわけあるかよ‼ 私はユピスの事を思って……ユタカてめぇ! 何喜んでんだ! 違……違うっ! 違うからな!」
「マリー……そんなに必死になって僕への恋心を否定しなくたって……。」
彼女の否定発言を受け、豊は膝から崩れ落ち、がっくりと項垂れている。
「あ、いやっ! 別にお前がどうとかじゃなくて‼ 結婚なんて早いっつーか……ちくしょう! ユタカ笑ってやがるな! この私をからかったな! ゆるさねぇ! そこに座れ! その根性叩き直してやるっ!」
「マリー! 可愛いでござるよ! 可愛いでござるよ‼」
「ふざけんな! まだハンマーが足りねぇのか! このやろう待ちやがれ!!」
その後、照れ隠しに数発殴られた豊は、ロシィに傷を治してもらいながら話を進めた。
「で、ユピスの探してるって誰なの?」
前が見えねぇ程に腫れ上がった顔は、
ロシィのヒールにより、徐々に元へと戻っていく。
「フォルトゥナ教団の代表者だ。私は、見返りなしで救済支援を行ってる彼等に感銘を受け、手助けしたいと思い立って旅をしているのだ。しかし後を追おうとしたが、リパランスからパシリカに渡ったという話を聞いて、一度こちらに戻ってきたのだ。探すにはパシリカは広過ぎるし、実家もギルダム王国にあるしな」
「ユピスお前代表者の名前知らないのか?」
「助けられた人々は皆、名前を呼ぶのを恐れ多いと言ってな。神の使い、紅の使者、紅の救世主などと呼んでいて、名前は聞いたことがなかった」
「ここにいる、ロシィのごしゅじんさまが、フォルトゥナ教団の代表だよ?」
「は?」
衝撃の真実にユピスからは間抜けな声が出る。
「私が代表です」
「貴様が……紅の救世主……⁉ だと⁉」
「あ、はい」
「紅の救世主が……人々行き交う王都の広場で……私に、あんなスケベな仕打ちをする変態だったなんて……!」
「語弊があるにしても酷くない⁉ 僕の方も傷つくわ!」
「貴様には、私を辱めた責任があるはずだ。よって私を教団の一員にしてもらうぞ」
「なんという強引な入団……! もうツッコミ諦めていいかな……」
豊が肩を落とした瞬間、ユピスの所持していたレベルカードが眩く光りだした。
「おぉ、フォルトゥナ神の加護が追加されているぞ! 私も立派なフォルトゥナ教団の仲間だな! よろしく頼む!」
「よろしくねお姉ちゃん!」
「なんか、めっちゃ疲れたですぞ……」
「私もだ……」
豊とマリーゴールドは椅子に腰掛け項垂れる。




