75. 再びギルダム王国へ
魔力の油が霧散した頃、仲間達と合流し宿屋に戻ってから、
謎の集団に狙われた話をし、その際に取得した冊子を見せた。
マリーゴールドは表紙を見た時点で眉を顰め、それがなんであるかを話始める。
「アリア教団の聖書だな。最近活発に救援活動をしている、【フォルトゥナ教団】の存在と影響力により、立場が危うくなったんだろう。あそこの教団は閉鎖的にも関わらず一部の連中が神の名を語り、野心をもった貴族や欲の深い金持ち相手と、好き放題やってやがるからな」
「それってまずくないですか? 創始者であるユタカさんの暗殺が失敗したと分かったら、今度はフォルトゥナ教団の教えを受けた村々が襲われるんじゃ……」
そのギャリオンの言葉に、豊は別の意味で驚愕する。
「えっ……アリア教団ってそんな軽率で短絡的な行動を実行する、バカの集まりなの?」
「アリア教団は規模がデカイからな。内部には派閥もあって、教養や考えの無い末端が勝手に神の教えを曲解し、行動を起こすなんて事は、この手の信仰宗教団体にはよくある話だぜ」
「怖っ、なにそれ……」
「アリア教団は、アリアを唯一神とし、それ以外を邪教と排斥する過激派だからな。今後は異端審問に掛け、異教徒と難癖をつけて襲ってくるかもしれん」
「宗教戦争なんかに巻き込まれたらたまったもんじゃ無いですぞ。絶対こっちが手を出した事にされて、正当な理由をこじつけた後に殴ってくる、当たり屋方法使ってきますぞ!」
言葉が通じても話が通じないのが争いの常。
宗教を他人に強要する時点でもう諦める他ないだろう。
それが己を信じる善意によるものであれば、なおさら質が悪い。
「しかし、実際フォルトゥナ教団は、オレ達含めて三人と一匹な訳ですから……宗教戦争にはならないのではありませんか? フォルトゥナ教団は信者を募っている訳ではありませんし、信仰しろとも言ってません」
「きっとまた、ユタカを襲った様な刺客を仕向けてくる。アホ集団はあの手この手でやってくるだろう。今現在、フォルトゥナ教団の正式な団員ではなくとも、考えに賛同した奴等が集まり始めているのも事実だ」
「早めに手を打たないとダメですな。オリジンの手があるパシリカならともかく、ギルダムには決まった宗教がない。奴等国境を越えて、異教徒と難癖をつけてくる可能性すらありますぞ」
「【無知は時として賢者を殺す】ってのは師匠から教えられた言葉だ。一旦、蜂蜜の件は保留にするしかねぇな」
「アリア教団の本拠地は、カザラキア公国の北にあるアリアス王国です。探ってみましょうか?」
「そうだな……。一度ギルダム国に戻って旦那様……。ビットマンさんにお会い出来れば、ギルダム王にも話を通してもらえるかもしれない……」
「またハイネちゃんとアンリエットちゃんに会えるー!」
「ケロー!」
方針は決まった。
一度ギルダム王国へと戻り、豊が何者かに命を狙われた事をビットマン氏に伝え、ギルダム王国にも予め事情を説明し、あわよくば、技術や知識を手土産に後ろ盾になってもらえる様、画策する運びとなった。
豊の目的はあくまで人類の幸福。余計な争いは避けるに越した事はない。
「方針は決まった! 僕は宿の台所を借りて食事を作ってくるよ! みんなは楽しみに待ってて! 」
「【過剰なる糧】を使わないユタカの料理かーこりゃあ楽しみだな」
「この村では、質の良い小麦が取れる様ですからね。俺、飯時まで技能分配と装備の整備をしておきます」
「ロシィも、ルルちゃん連携の練習します!」
「私は戦闘用魔術回路の予備を作っておく。それぞれ作業にかかれ!」
「僕は買い出しに行ってきますね~」
――――――――――――――――
豊が買い出しの為に宿を出発すると、残りのメンバーで話し合いが始まる。
「お前らには改めて言っておくが、私はフォルトゥナ教団団員ではない。故に、外からお前らの置かれた状況を客観的に見ることが出来る。このままではこの教団は遠くない未来に瓦解する」
「そんな……!確かに教団の規模は小さく、団員も三人と一匹……!それでも、ユタカさんの能力と人間性があれば……!」
「確かに、ユタカの能力は高い。だが、お前らはユタカの行動に一切の抑止力を掛ける事出来ない。謂わば、この集団はワンマンプレイで成立しているんだ。」
「だって、ごしゅじんさまが一番えらいし。しょうがないんじゃないの?」
「このパーティが単なる冒険者であれば、リーダーが権限を持っているというだけかもしれん、それでも、仲間に行動の有無を相談したりするのが集団と言うものだ。ここに来るまで、あいつは何人の人を救おうとした?そのうち何回が罠だった?お前たちはそれを気に掛けたことはあったか?」
「マリーさんの言いたい事はよく解ります。しかし、教団の目的が人類の救済である以上、物事の真意を確かめる為には、実際に問題と対面しなくては……!」
「あぁ、ただ、私はな。教団や神なんてものを盲目的に信じるつもりはない。数度話しただけだが、神なんてものは我々人間の高次元に居る存在だ。気まぐれで自由、自分勝手で我が儘だ。それを許さざるを得ない理由が、圧倒的力の差にある」
「俺も、この耳で聞くまでは神の存在を信じてはいませんでした。元々、村には信仰と言うものが無かったし、神に助けて貰えた瞬間なんてなかった。でも、ユタカさんが、俺の前に現れ、そして救ってくれた。これは誰が何と言おうと、神の取った行動の結果なんです」
「ロシィも同じ! 奴隷だったロシィを救ったのはごしゅじんさま! 神の思し召しって言ったし、強くなれと、必要なものを全てをくれて、売られた家族も見つけてくれた!」
「お前らは神ではなく、ユタカに救われたんだ。間違えるな。ユタカに感謝をしたとしても、神に感謝する事なんてありはしない。私はな、何度もアイツが人を救う所を見て来た。だがよ、思い出してもみろ。【《《一体どっちが救われた様に見える》》?】あんな優しい男が、世界の命運を賭けて、人類の幸福の為にどれだけ身と魂を削る想いをしないとならねぇんだ?」
「あ……! っ……!」
二人は言葉を詰まらせる。豊が人を救う時、彼もまた救われた様な、嬉しそうな顔をする。それは、相手に対して共感を持ち、同じ痛みを想像し、傷つき、感じているからだ。
「あんなの、いち人間がする顔じゃない。無理だ、心が壊れてしまう。それを見ても尚、お前らはずっとユタカに心酔しきっていた。私は違う、アイツがあの顔をする度に、苦しかった!そこまでしなきゃならないのかと問いただそうとした。だけど、アイツの心の奥底には、私たちの知らない想いがあるんだろう。この世全ての不運な人間を、家族やそれ以上に愛し、助けようとしている。異常だ」
「心の内なんて聞けませんよ! 俺達は救われただけだ、少しでもユタカさんの力になりたくて付いてきたけど、あれだけの人を救える彼の心情を汲める程強くない!」
「……ごしゅじんさまは、ロシィが心の支えだって、言ってたよ? いっぱい迷惑を掛けた。ずっと治まらなかった夜泣きも、おねしょも、ごしゅじんさまは優しく包んでくれた。ロシィは何をされたとしても、ごしゅじんさまのもの。でも、優しく撫でて、抱きしめてくれるだけ。ロシィには何が出来るの?」
「わからねぇ……! 私は、もうアイツと親友のつもりでいた。魔装車を作る時もバカやるときだって滅茶苦茶楽しかった。でも、旅について来たらあの顔を見ちまった。この旅は、もう危険な域まで来ちまってる。私達は変わらなければならない。強くなって、アイツの側にいる為に、アイツを壊れるのを防ぐ為に考えないとならないんだ」
「……みんなは……ユタカにどう思われているか、怖くて聞けないケロ?」
三人は言葉を失った。
一行は魔装艦に乗り、再びギルダム王国へと向かう、
ここまで一気に書きました
四章はまだまだかかります。
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