73. 蜂蜜とソロモンの鍵
森に存在する各集落を訪れ、交流と情報収集を行う事三日。
一行はいよいよ、魔術の神ソロモンが祀られている祠があるという、【最奥の集落】へとやってきた。
そこではエルフの森代表である、【長老バナン】が、豊達をもてなしてくれた。
物静かな雰囲気と、内から僅かに漂う膨大な魔力が、バナンの迫力に拍車をかける。
「お話は他の集落から幾度も伺っております。我が一族に新しい知識と未来の糧を授けて頂きまして、誠に感謝いたします。お話によりますと、あなた方は魔術の神であるソロモン神様について知りたいとか……」
「はい、私達は既にコスモライブラ神とトート神の下を訪れ、この世界を構成する概念について、直接話を聞き、調査をしてきました」
「ほう、巨人族の神とドワーフ族の神の所へ……話を聞いたというのは一体……」
「私は歴史に残らない女神である、創造神フォルトゥナの使いであり、その権限により、現界した神との対話が可能となるのです」
「なんと……にわかには信じられませんが……。あなた方から感じられる、強大な力の流れを見れば信じるしかないでしょうな……」
実力者は対峙した際に、相手の力をある程度読み取ることが出来る。
無用な争いを避ける為に編み出されたのだろう。
「それで、ソロモン神の祀られている祠へ入る許可を頂きたいのですが」
バナンは顎に手をやると少し考えてから口を開いた。
「……実は今の時期ですと……祠への扉は閉じたままなのです」
「一体何が?」
「生前、ソロモン神様は、蜂蜜を大変好まれておりまして……。祠の仕掛け扉を開けて祈りを捧げるには、贄として、大量の蜂蜜が必要なのです」
「今、蜂蜜が無いと?」
「先月、ソロモン神様を讃える祭りを催しまして、扉の解除に必要な、貯蔵していた分の蜂蜜を全て切らしております……。次の祭りはまだ当分先でして……」
「ここでは、蜂蜜はどの様に集めていますか?」
「村の者が少しずつ、野生の蜂の巣から拝借し、集めております」
「ちなみに、…………集まるのにはどれくらいの期間がかかりますかね?」
「蜂蜜は我が里でも日常生活に使われております故、半年は……」
その半年という言葉を聞いて、一瞬、マリーゴールドの眉が吊り上がった。
「半年も待てるかよ……ユタカ。こういう時はお前の出番だ! なんとかしろ!」
「えぇ〜……少なくとも僕にある知識では、蜂蜜を得られる量は増やせても、早く集められるかまでは保証できませぬ……。バナン代表、私が蜜蜂を増やし、効率的に蜂蜜を得られる知識と技術をお教えしますので、必要量の蜂蜜が集まったら、祠への道を通り祭壇へ向かう許可をいただけませんか?」
「わ、分かりました、蜂蜜の量が増えれば我々も助かりますので……お約束いたしましょう……」
豊が行おうとしているのは、いわゆる養蜂である。
蜜蜂を飼育する事で、効率良く蜂蜜を手に入れようという算段であった。
この世界、この地域における、蜜蜂の巣を観察すると、
その習性、生態的な特徴共に、ニホンミツバチに近しい事が分かった。
ドキュメンタリー番組と、養蜂体験ツアーで学んだ知識を
なんとか思い出しながら【時を駆ける創造】で重箱式巣箱を作っていく。
鉄製の台にぴったりと合うような底板と、巣門枠を作り、蜂に合わせた7㎜の巣門を開ける。天敵になりえるスズメバチの様な存在の有無は定かではなかったが、一応、蜜蜂だけが通れる様に、幅を調整するなど工夫を凝らした。
断熱効果や重さ、耐久性を考慮し、適切な規模で板を組み合わせていく。重箱内に適切な大きさの棒を設置し、巣が内部で落下しない様に対策をする。
天井部のスノコと天井板取り付けて、板にある隙間を蝋で塞ぎ、巣箱に蜜蝋を塗って入居を促してゆく。日除け版なども用意して、蜜蜂が快適に暮らせる様に試行錯誤した。
活動範囲等を考慮し、複数の巣箱を風が少ない要所要所に設置していく。
運が良かったのか【分蜂】の時期らしく、新しい女王蜂が部下を引き連れ、新たな住処を探していた。
数日、巣箱を追加しながら設置した場所を確認すると、いくつか住み着いた巣箱を発見した。こっちの世界の蜜蜂は実にパワフルで、活動時間と効率が良く、既に巣の基本が形となっていた。
順調に蜂蜜がとれる事を祈り、エルフ達に養蜂の知識と世話の方法を教え、豊達は一旦、エルフ森を後にした。この試みが上手くいけば、短い期間で大量の蜂蜜が手に入る事だろう。
気の短いマリーゴールドは、仕掛けを解除する為、蜂蜜を購入することを薦める。
「ただ半年だか一年を待つのは癪だ。蜂蜜を商売にしてる地域を商人から聞いてきたんだが、どうやらギルダム王国にあるらしい。もうめんどくせえから大金でも積んで買おうぜ」
「滞在中にバナン代表と話してみたけど、蜂蜜なら産地を拘らず好物だった記述が残っているらしい。養蜂が成功する確証も無いし、購入もしておこう」
扉の解除に必要な量は、小さな壺1つ分。大体300gが必要らしく、物量と効率的な養蜂で蜂蜜を得ている現代とは異なり、かなりの量が必要であった。
蜂蜜を得る為、一旦パシリカでの活動を休止し、一行は、魔装艦が停泊している港町へと向かう事にした。
豊はエルフの森にいる間、美人のお姉さん達と良い感じにならなかった事だけが心残りであった 。




