72. 魔術の神を辿れ
何日か間を置きながら討論を重ねた結果。
必要経験値増加に伴う、能力値上方補正を実行する事となった。
開花に成功すれば、レベルカードに、その効果が表示されるだろう。
方法としては具体的な前例がなかったので、マリーゴールドによる案
【誓約と制約の儀式】を実施する事となった。
これは、自らに絶対の決まりを設ける事で成り立つ。
例えば、魔術師同士の契約や、重大な約束事を破らない為に行われる儀式のひとつである。この方法は、魔術師を通して、商人による、大型の取引契約などにも活用されている。
必ず、契約内容の見直しや期間、破棄の方法を明記し、緊急時は【必ず】解除出来る様にしなければ、発動しない仕組みである。
「まずは魔術に長けている私が、期限つきの誓約を設けて、実際レベルカードに技能として体現するかの確認をしてから、実用化するのがいいだろう」
「お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。マリー」
誓約実験の結果。誓約による取得経験値の増加及び、
レベル上昇抑制(必要経験値増加)による、能力値の追加賞与取得契約は成功した。
ただ、様々な縛りによる、【取得経験値増加】の方法は、使用する度
誓約の儀式をする必要があるらしく、長くて一日しか効果が持続しない。という事が分かった。恐らくは、急激なレベル上昇による【パワーインフレーション】を防ぐ目的で施された【世界構築の理】だと思われる。
「つまり、レベル上昇抑制(必要経験値増加)は長期間設定出来るが、取得経験値増加の技能は一日一日設定しなければならないと言う事ですね……。マリーさん。儀式って用意するの大変ではありませんか?」
「確かに面倒だが、手間という程でもないからな。ガッツリ予定を組んでレベル上げをする際に儀式をすれば、ある程度の効率化は図れるだろうな」
「みんな【レベル抑制】の実施について、異論はあるかい?」
「ないでーす!」「ないケロ!」
「オレもありません」「私も賛成だ」
満場一致で技能
【レベル抑制ボーナス】は四人と一匹分誓約された。
【レベル抑制ボーナス(必要経験値増加)】
正式名
【レベル上昇抑制による、上昇時における能力値の加算】
レベル上昇による、必要経験値が増加する代わりに、上がった時の能力値に加算される値が更に増える。低レベルから実施すると効率が良い。
「レベルカードに記載されている情報から察すると、一番伸び代があるのは、レベルが低い、ロシィとルルになる訳だな」
「ムッキムキになるケロ!」
「え〜! それは可愛くないよ〜!」
ロシィとルルが戯れ合う中、宿屋の主人を通して、豊達にゴードンからの連絡が入った、予定通りに武具が完成したので、取りに来て欲しいという内容であった。
まだ日が高かったので、豊はすぐにゴードンの工房へと向かう。
「おう、意外に早かったな」
丁度ゴードンが完成した武具をテーブルに並べている最中であった。
豊とロシィは、早速装備してみることにした。
ロシィの新しい短剣は、長さを少し伸ばし、幅を広げられていた。
剣の持ち手には、手を離しても落とさない様、ある程度手首に引っかかる細工が施されている。この細工は、刺突剣の持ち手の様に、相手の攻撃を受け流す役目も果たす事が可能だ。
一方、豊の新しい防具は、炎剛竜の丈夫な腹の皮を鞣し、吸着性と通気性に優れた全身スーツに仕上げてあった。
これだけでも十分な効果は得られるが、胸と手足と急所の部位を守る薄い魔鉱鋼に
熱蜥蜴と炎蛇の素材をふんだんに使った鎧装備であった。
配色は、素材を活かした紅と金具に施された魔鉱金で、大変美しい仕上がりとなっていた、豊はその見た目に幻想心をくすぐられ、すっかり気に入ってしまった。
彼の様子にゴードンも、大変気を良くした。
「ガハハハ!ここまで喜んでもらえたら作った甲斐があるってもんだぜ」
「コレは、おれからギャリオンさんに」
ゴダが差し出したのは、彼が恩恵を授かるに至った作品。戦鎚【撃鉄】であった。
「どうして撃鉄をオレに?」
「あの時、ギャリオンさんがコレを使いこなしているのを見て、是非使って欲しくてさ、……あと投資かな?」
ゴダが撃鉄の持ち手を指差すと、そこには、製作者であるゴダの名前と武具屋のマークが刻まれていた。
「アンタ程の凄腕が、おれの撃鉄を使って戦ってくれたら、良い宣伝になると思ってさ。だから遠慮なく使ってくれ」
口では利口ぶってはいるが、これは心からの贈り物なんだと、ギャリオンは理解し、ありがたく撃鉄を受け取った。
「あと、これはウチの母ちゃんからだ。少し余った炎剛竜の皮から作った女性用の防具服だ。伸縮性があるから、お嬢さん達なら着れるはずだぜ。二人分あるから持って行ってくれ」
手渡されたのは、コルセットの様な補助防具であった。炎剛竜で作られた革は繊維が細かくて軽く、内臓を守り、刺突攻撃に対しても大変有効と言えるだろう。
「おぉ〜! ありがてぇ! 私だけ新しい装備が無いのも、寂しかったからなぁ」
「ありがとう! ゴードンさんのおくさま!」
ゴードンの妻による手厚い気遣いに、女性陣は大変喜んでいる。
「いいってことさね! 内側に着れるし薄いから今の装備を邪魔しないはずだ、旅は大変だろうが気を付けていくんだよ!」
一行は改めてゴードン一家にお礼を言うと、ドワーフの村を後にした。
魔装車に乗り込み、次の目的地へと向かう。
滞在時間中に仕入れた情報によると、エルフの村では魔術の神を祀っているとの事で、豊とマリーゴールドが興味を示していた。
ドワーフの住むバレル鉱山から更に、西へ西へと進む事六日。
途中、村を見つけては支援活動を挟みつつ、目的地であるエルフの住む森へと到着する。
森の前には門番が立っており、エルフの文化を学ぶ為という建前と、金の魔術師による知名度で難なく通してもらった。その際、排気や火が出ないので、木を倒さないと言う約束をして、魔装車で森に入る事を許可された。
森の中には他種族も訪れる事が出来る様に、馬車が交差出来るくらいの道は整備されている為、魔装車は難なく先へと進んでゆく。
森の中にはいくつもの集落が存在しており、それぞれが森から糧を得たり、畑や果樹園を作ったりして生活をしていた。
外から商人が訪れる事も多く、エルフ達は工芸品や装飾品、日用雑貨や弓などを作って商売もしている。酒も作るが、自分達が消費する分だけを独自の製法で作っている。
エルフは皆長生きし、この地の者の寿命は平均三百年と言われ、
弓の扱いと魔力量に優れている。長命故に魔術師を志す者も少なくはない。
オリジンと同じく、人の身で有りながら二千年近くを生き、神の座へと招かれた人物ソロモンは、好奇心旺盛なエルフであったという伝説が残っており、魔術の神としてこの地に祀られている。
伝承によれば、オリジンとソロモンは仲が良く、オリジンが他の種族を差別しなかったのは、親友であるソロモンがエルフだった事がきっかけであったと伝えられている。
最初に立ち寄った村には、その内容を歌にしたものが残っており、子供達が披露をしてくれたので、そのお礼に菓子を振る舞うことにした。
一応食べられないものは無いかとエルフの親御さんに確認したところ、宗教、種族、思想的に食べてはいけないものは無く。豊は、エルフの皆にその場で焼いたアップルパイを振る舞った。
酒かジャムを主に作ってきた彼らの中に、
【果実を窯で焼く】という発想は無く、物珍し気にその様子を観察をしていた。
アップルパイを口にしたエルフ達は、寄ってたかって、彼からレシピを聞きたがったので、その場でレシピを書き下ろした。
その中には、お酒を使ったレシピなども存在し、大人も楽しめる菓子が、エルフ達の間で流行する事になる。
皆はエルフ達に囲まれて料理を作っている豊を遠目に見ていた。
「毎度の事ながら、アイツの器用さには驚かされてばかりだぜ」
「まったくです。それにあの人を寄せ付け導くカリスマ性は、まさに指導者の風格に相応しいです」
「ごしゅじんさまは本当にすごいの……ムグムグ……おいしー!」
「うんまいケロ!」
「ロシィ! お前だけズルいぞ! 私もアップルパイ食べたいのに! ひとつ寄越せ!」
「マリーちゃん! 自分の分は自分でもらってきなさい!」
「行けばまだあるケロ」
「ちくしょおぉぉぉ! ユタカ! 私にもアップルパイくれ! ホールで!」
「あいよ、アップルパイ追加ね」
大量に作られたアップルパイは、エルフ達によって残さず平らげられた。初めて見る者に対し、好奇心が強いのは、やはりオリジンの教えを守っていのだろう。




