70. 鉄の巨人
豊とマリーゴールドが炎剛竜の周りを走り、床の石にチョークで術式を書いていく、豊は円と簡易術式を担当し、マリーゴールドは命令術式を担当する。
牙と爪、体当たりを数度回避しながら、
術式を作り上げると円の中心に誘き寄せる。
「マリー! やってくれ!」
「よーし! 即興だがいけるはずだ!」
マリーゴールドが術式に手をつき、魔力を流して発動させると、
空間全体を揺らす程の振動が起こる。床の大理石は、チョークで描いた円の形にくり抜かれる。
すると、下からとてつもない圧力が掛かった。この空間の下には、マグマ溜まりがあり、それを魔術式で超圧縮し、噴火させたのであった。
大理石をくり抜き強度を落とす事で、圧縮させたマグマが一気に噴き出し、
その圧倒的な大自然パワーは、大理石ごと炎剛竜を押し上げる。
開けた空に打ち上げられた炎剛竜は、
地上三百メートル程の高さまで上昇した。
「空のデートにはなかなかの天気だ」
炎剛竜の上には豊の姿があった。
「見せてやるぜ! 第五の術第弐派生!」
【鉄巨人降臨】
【怒りの鉄槌】発動時に現れる鉄の巨人の上半身を具現化し、操作をする魔術。
その怪力は、巨大な鉄槌を振るう以外にも様々な用途がある。
「見せてやるぜ‼ フェイバリットホールド‼」
豊は空中で、鉄巨人の剛腕を振るい、
炎剛竜の身体を捻り上げ、前後の足を封じ腹部に乗る。
必然的に背中は下になり、やがて自由落下がはじまる。
炎剛竜に逃れる術は無い。
いくら硬さが優れていようが、この高度では自らの重さが仇になる。
最大の武器であるはずの図体が、最大の弱点へと変わったのである。
下ではマリーゴールドと、傷を癒した万全のギャリオン。
そして超硬化した『円錐形状の岩の塊』が待ち受けていた。
「隕石落とし《メテオドライバァァー》‼」
落下と同時に爆音が轟き、地面に衝撃波が走った。円錐岩に背中を貫かれ、炎剛竜の背骨が豪快に砕け、悲痛な叫びが響き渡――らない。
「全力全開……!|全てを砕く、会心の一撃‼」
落下と同時に、ギャリオンがゴタの作品【撃鉄】を、魔法剣の要領で魔法鎚に変化させ、一気に振り抜いて頭を砕いた。寸分の狂いもない正確な一撃は、骨ごと脳を粉砕し、炎剛竜は絶命した。
目標である巨大モンスターは退治された。各々は満身創痍と言ったところだが、大物を目の前にし、マリーゴールドは歓喜していた。
「報酬時間……!」
マリーゴールドは手を合わせると意気揚々と心臓を抉り取った。
次々と加工処理を施し、使えない内臓はその場で金にする。
続けて豊も【素材変換】で各部位を解体していき、順調に加工整理されてゆく。
その後、ギャリオンとロシィがそれを包んで次々に保存していく。
「これが現役の冒険者たちか……」
大型モンスターを退治してすぐ、淡々とした解体作業を見せられ、ゴタは終始唖然としていた。
解体作業に引き続き、戦いで破壊された祭壇付近の修繕を終わらせると、
ゴタは祭壇に【撃鉄】を置き神に祈った。
すると、淡い光が祭壇の奥にある社から現れ神は顕現する。
『なかなかの戦鎚だ……これはゴードンの作品に良く似ているが、所々に作者特有の工夫が凝らされている。持ち手、頭、先切りの手法……無骨でありながら戦鎚としての美観を損ねない程よい装飾とデザイン……。魔鉱石の結合に鉄の純度……。まぁ、ギリギリ合格ってところか……これからも精進して物作りに励んでくれ!』
ゴダはトート神の恩恵を受け、彼は感謝を伝えた。
帰ろうとしたトートに豊は呼び止める。
「トート神様。僕達は創造神フォルトゥナの使徒です。是非お話をお聞かせください」
『ほぉ〜! フォルトゥナ様の! 道理で! 懐かしいなぁ〜! で、聞きたい事ってなんだい?』
豊はトートに、レベルと技能の関係性について尋ねた。
レベルに直接作用する技能の存在や、取得方法。
これから先現れるであろう、強大な敵に対しての対策なども話した。
『独裁者か……この世界の幸福度を下げる要因のひとつと、言えなくもない存在……まさかコスモライブラの作った概念が、こんな事になるだなんて思ってもみなかったよ。……君たちに力を貸そう。技能というものは【能力の概念】それを具体的に可視化したもので、身に付けた知識と経験、意識の持ちようでも、左右されるものだ』
トートの話によると、例えば村人が農業としての知識を深めると、技能【農作業】が開花し、更に知識を深めると、習得。
作業を繰り返す事で熟練度が上がって、やれることが増えたり、農作業の偏りによつて特化したり、新しく画期的な発想が生まれたりと、様々な事象が起こり得るとされる。
レベルと異なる部分は、自身で技能を確認する手段が存在しない事である。コスモライブラとは異なる観点で作り上げた理なのだが、それならば何故レベルカードには技能の詳細も表示されるのかというと、理を作り始めた順番がトートの方が先であり、後から調整する形で、コスモライブラがレベル表示の理を作り、技能も反映出来るように手段を講じたのだ。
しかし、人の手によってレベルが規制された為、連鎖的に、技能の存在も一般的には認知されておらず、レベルを持つ者、またはそれに準ずる者しか、それを活用する事が出来なかったという。
「その所為で世界全体の生産性が下がり、年代を重ねるごとに人類幸福度は低下していったという事に繋がるのですな……」
レベルを持つ者はレベルアップに伴い加算される【追加賞与】、技能値を用いることで習得し、その熟練度分を短縮しているに過ぎない。
この世界は本来、レベルを持たない者でも、努力すればする程技能は向上するのだ。
この話からすると、ギャリオンがレベルを手に入れる以前から強かったのも頷ける。それは自然の中で暮し、鍛え上げられ、偶然戦いのセンスが磨かれ、技能が開花し、習得たからであった。
レベルは指導者の特権であるが、技能は基本的に皆が持っているものである。ということが分かった。
成長系のスキルが開花した。という例も確かに存在していて、その人物の持つ願いや、想いの強さによって開花する事が多い。
成長段階の子供には特に、『強くなりたい』『早く大人になりたい』という願いから、成長速度が高まるという事例もある。
ただし『楽して強くなりたい』などの努力を必要としない想いは
技能として開花しない。運命を変えるのはいつも自分自身だという。
【努力した分報われる】
フォルトゥナの創造した世界は、そんな優しい願いが前提にあるのだ。
「『レベルは上がりにくいが上がった際に、努力した分だけ能力値に向上補正が付く』とかは可能なんですかね?」
この質問の意図は、自身に制約という名の縛りを設ける事で、得られる経験値を増やそう。という試みである。
『強い想いがあれば可能と言えるだろう、さっきも言ったが、技能を左右するのは知識と経験。想いの強さと確かな努力だ。頑張ってみてくれたまえよ』
トート神から話を聞き、祭壇を後にした一行は、村へと戻り、代表へ結果を報告をした。代表はモンスターの討伐結果を聞き、大変喜んだ。
報酬として、討伐隊結成の為に積み立てられた金銭が贈られ、
炎剛竜討伐を祝して宴が開かれた。




