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69. 祭壇への道





 撃鉄を担いだゴダの案内で、祭壇への道を行く豊達であったが、

その道中は、溶岩地帯を横切る道の造りになっていた為、

移動でかなりの体力と水分を奪われたのだった。


 ドワーフであるゴダは比較的平気であったが、熱さに耐性の無いロシィとルルの口数が極端に減っていた。マリーゴールドの冷風術式の効果で、歩けない程の灼熱温度が緩和され、真夏日の日中くらいまでには納まっている。


 彼らは、基本能力値ステータスが高いおかげで、この探索を成立させているが、普通の人間がこんなところを歩けば、有無を言わさず焼け死ぬだろう。


「今ほど、能力値ステータスを耐久値に振ればよかったと後悔したことはありません……」


背丈が大きく、重量のある鎧を装備し、剣も担いでいるギャリオンが、珍しく音を上げている。能力値ステータスにおける、耐久値の値、通称【VIT】(vitality)は、環境に適応する能力と、身体の頑強さに由来する数値であり、加算すれば加算する程、体力が上昇して、厳しい環境に耐える事が可能となる。毒に関する抵抗力にも関与している。


「とりあえず、みんな、水分補給を忘れずに進もう」

豊は自身の魔術である【激しい発汗】の効果で比較的無事ではあったが、その流れ出る汗の量はどう見ても無事ではない。地面に汗が滴る度、勢いよく蒸発してゆく。


 豊が【過剰なる糧】を用いて、氷やスポーツドリンクを大量に作り出し、こまめに摂取しながら奥へと進む事しばらく、丁度、祭壇までの中間の位置にある開けた場所で、一旦休憩を取る事にした。


 慣れない温度の中での活動は、豊達の体力を極端に奪っていた。判断力が鈍り始め、脳が煮詰まるのを感じる。このままではいけないと考えたマリーゴールドは、豊にとある献立を要求した。


「ユタカ! こんな時はアレだ! アレを出せ! 特製カレーライスだ! 私が血迷って耐久値にポイントを分配する前に早く作ってくれ!」


 彼女が示しているのは熟練度向上により、【過剰なる糧】内で新しく追加された

【ユタカオリジナル】のことである。

 このメニューは、豊自身が現代で作った最高の味をそのまま顕現し、身体能力値及び、状態の補助と底上げ力を更に向上させた至高にして究極のメニューである。


 ドワーフたちが利用する、中腹の休憩所に到着すると、豊達は取り出された特製カレーライスを食べる。芳潤な香りにキリッとした辛さ、ただ辛いだけではなく、その中にはスパイスと具材の旨味が感じられ、あとを引く辛さと美味さが、津波の様に押し寄せてくる。


 ボリュームがありながら、さっぱりとした鶏胸肉に、甘味のあるタマネギ

ホクホクとしたニンジンやジャガイモが、見事に手を取り合う調和している。


 トッピングにトンカツとチーズを合わせる豊を見て、真似するロシィに、エビフライを注文するマリーゴールド。ひたすらその美味さに没頭するルルとギャリオン。


 ゴダも初めての味に感動し、大皿で二杯おかわりをした。この食事効果により、皆の顔に生気が徐々に戻ってゆく。更に、全員の能力値ステータスに補正が掛けられた。カレーライスの効果は炎熱耐性向上。これにより、普段と変わらない行動が可能となったのである。


「さすがはユタカさんのカレーライスです。補助効果により熱がほとんど苦になりませんよ」


「やっぱり私の選択は完璧だな! 暑い時は汗かいて食う、コレが美味いんだよなぁ〜!」


「おいしかったね〜」


「コレなら暑さも平気ケロ〜」


 食事を終えて小休止を挟み、再び出発する一行は、遠くに熱蜥蜴マグマリザード炎蛇ファイヤサーペントがいるのに気が付いた。

過去、豊の着ていた鎧の材料となっている、希少な魔物である。


 両者互いに睨みを利かせながら、対峙していた。

炎が効かない者同士の戦いは、必然的に力の強い方が勝つ。動きが早い蛇が蜥蜴に巻き付き、動きを封じ攻撃を繰り出すが、表面が鱗に覆われた蜥蜴には通用しない。

蛇が攻撃を締め上げる方法へと切り替え、ジワジワと蜥蜴を攻める。


「ごしゅじんさま、あのトカゲさん、鱗が硬いのに蛇さんの攻撃が通用するんだね」

ロシィの素直な疑問に答える。


「確かに熱蜥蜴マグマリザードの表面は、硬い鎧のような鱗で覆われている。だが、炎蛇ファイヤサーペントの様な、絞め技の圧力や鈍器による打撃の衝撃に対して、硬い鎧というのはあまり効果を発揮しないんだ」


「そーなんだぁ〜」


 豊は解説を終えると、戦い疲れた炎蛇ファイヤサーペントを仕留め、

熱蜥蜴マグマリザードと共に【素材変換】して、ロシィの収納にしまう。卑怯とは言うまい。彼は漁夫ではなく、紛れもない救世主である。



更に奥へと歩を進め、祭壇のある最深部へと到達する。

遠目に魔物の姿を確認すると、代表から聞いていた情報通りである。

その巨体は、超硬度の皮膚を持ち、炎を吐き出す亜竜が祭壇の前を徘徊していた。



【マグマディアマントス】

体長、八メートル程の大きさに、

十トンを超える体重を持つ巨躯は、まさにモンスター。

炎剛竜とも呼ばれ、火山などに生息し、

自分より弱い魔物を食べて生きている、獰猛で縄張り意識が強い。


 腹部の皮膚は薄くて丈夫な構造で、幾重にもなっている為、衝撃にも強い

美しい黒をしているので鎧を着る時の、インナーなどに使われるという話もあるが、討伐数の少ないのと、オーダーメイドが殆どなので、市場に出回る事はほぼ無い




「ロシィとルルはこの場に隠れて援護を頼む。武器の種類的に攻撃が通りそうにないから、下がってきた仲間の回復、いざとなったら全力で逃げよう」


「「りょうかい!」」


「ギャリオン、見た感じ、あのモンスターは硬い。魔法剣はいけるか?」


「ちょっとばかり、溜めの動作が必要ですが可能です。通じるかどうかはやってみない事には……」


「僕とマリーで隙を作り、動きを封じる、その間に一発頼む」


「わかりました」


「ユタカ、この空間では間取りと地形条件により、私の魔術は制限されるぞ、気をつけろ」



祭壇のある空間は、天が開けていて、地面は大理石を敷き詰めた造りになっており、その周りを溶岩が囲っている。地形や土を利用するマリーゴールドの魔術は、必然的に制限され、すぐ下は溶岩なので、泥沼や蟻地獄などの足留め系魔術は使えない。



「マリーには溶岩と石を利用した術を考えて使ってもらう、期待してるよ」


「簡単に言ってくれるな。私くらいの天才でなければ、環境に則した即興で術式なんぞ組めないぞ」


地面にチョークを使い術式を書いていくマリーゴールドであったが、瞬時に三つの魔術を完成させた。


「状況を見て発動させる。後はユタカとギャリオン次第だ」


それぞれプロテクションを2枚施し、豊が飛び出すことで先制を取る。


「第五の術ッ!【怒りの鉄槌】!」


 第五の術【怒りの鉄槌】が炎剛竜に振り下ろされる。

体長と重さのある相手に、この術を躱す方法はない。

鉄巨人の超撃は炎剛竜を通して、地面の大理石をも撃ち砕いた。


『バォォォォォ‼』


悲鳴にも聞こえる咆哮が最深部に響き渡り、

炎剛竜が長い尻尾を薙ぎ払うが、豊はそれを回避する。


 巨大な身体を支える為に発達した、強靭な全身の筋肉から生み出される破壊力は、風切り音のみで、その威力を十分に理解することが出来た。当たればひとたまりもないという恐怖が脳裏に刻まれる。


 炎剛竜が鋭い牙をガチガチと打ち鳴らし、大きく息を吸い込んだ。



「やばい!」



回避したばかりの豊は、姿勢を直している最中にあった。



「我が前にそびえろ!【石の巨城(ストーンキャッスル)】」



 豊の前に、マリーゴールドの魔術で生み出された巨大な壁が現れ、次の瞬間、炎剛竜より放たれた灼熱の炎から身を守る。壁は曲線を描いた造りにより、炎を受け流した後、音も無く崩れ去った。


「……石って燃えて灰になる事あるんだな」


「私の城が一回しか耐えらないだなんてアホみてぇな威力だ‼ あんなの人が当たったら消し炭すら残らんぞ‼」


「サンキューマリー!」


 豊は、炎剛竜が炎を吐く際に見せた予備動作を思い出していた。

「鋭い牙を火打ち石にして吐かれた炎……と言うことは……」


二人に合図を送ると、何か思いついたかの様に豊は行動を開始する。


 彼らの様子を見ていた炎剛竜は、自分の放つ炎が有効な手段であると判断したのか、再び予備動作に入る。大きな口を開けて空気を取り込もうとしたその時


「そおい!」


 豊はあらかじめ【時を駆ける創造】で用意しておいた、石のスパイクボールを

炎剛竜の口へ大量に押し込む。流石の炎剛竜も、一撃ではスパイクだらけの石の塊を砕く事は出来ず、閉じることの出来ない大きな口と、口内に突き刺さる大量の石に苦悶の表情を浮かべる。


「第弐派生! 【溢れる体液】!」

石に続けて、大量の油を流し込む。油の激流で必然的に飲み込む事を強要された炎剛竜は、呼吸が出来ずに暴れ出す。

 豊はしっかりと口の周りにしがみつきながら、魔術を発動させる。


「第参派生!【迸る煉獄】!」

右手から油、左手からは炎の塊。流れる様な魔術の連続発動、次の瞬間

豊の油に引火、大爆発が巻き起こる。




「ユタカーーッ‼ やりすぎだー‼」


 身体を回転させながら、大爆発の衝撃で吹き飛んだ豊ではあったが、

第一の術【激しい発汗】を発動させていた。無事ではあったが、予想以上の爆炎に、豊の鎧は全て吹き飛んでしまった。

「新しい鎧と汗、プロテクションが二枚がなければ即死だった……」


「バカヤロウ! 死ぬつもりか!」


豊がやってのけたのは、炎剛竜が体内に持っている可燃性ガス袋

通称『火炎袋』の破壊である。


 竜は、その種類によって炎を吐く仕組みが異なる。

魔術をドラゴンの言葉で唱えて吐き出す『魔術式』と体内に取り込んだ養分を特殊な液体へと変換し圧縮し溜め、ガス化してから吐き出し歯で引火させる『火炎袋式』がある。


 炎剛竜は後者であり、それを豊は歯を鳴らす予備動作一回で見抜いた。

体長から火炎袋の大きさを考えると、大体数十リットルの可燃性液体が溜められていたと豊は考えた。


 ガス化したものに対し、単純に火をつけても、火炎袋まで引火する確信がなかった為、石で口を開けさせ、油を大量に流し込み火を付けることで、体内にある火炎袋が確実に爆発する手順を踏んだのだ。これには、石を飲ませる事で爆発の際に内部から破壊する事も考慮されていた。


「ユタカの作戦で火炎袋は完全に破壊された。というかここまでやられてコイツはまだ動けるのかよ⁉ 不死身か⁉」


 体内で火炎袋を大爆発されたにも関わらず、炎剛竜はその巨体を崩す事なく立っていた。しかし、劇的なダメージは負わせた。


 さっきよりもはるかに動きが鈍い。

ここぞとばかりにマリーゴールドは仕掛けた二つ目の術式を発動し、

炎剛竜の動きを封じる為、溶岩で前後の足に絡め、急速硬化させた。


 続けて、待機していたギャリオンが魔法剣を発動させながら、死角から攻撃。

気配を消してからの奇襲は成功し、炎剛竜の長くて鋭い尻尾を根元から切断した。


「身体の箇所で一番細い尻尾でも、この硬度なのか⁉」


結果的に尻尾は切れたが、ギャリオンの腕には強大な衝撃が返ってくる。

両腕から血が噴き出し、筋肉の繊維が引き裂かれる。


「すみません! 一度下がります!」


ロシィの治療を受ける為ギャリオンが下がる。


「マリー! まだ魔力は残っているか」


「三つ目の術式を使う分はまだあるぜ‼」


「こちらが力を加えるだけでは限界がある。あいつ自身の力を使って倒すより他ないだろう、協力してくれ‼」


 手早く作戦を説明すると、マリーゴールドは渋い顔をした

「お前! あいつの重さがいくつあると思ってんだ! 出来るわけないだろう!」


「任せろ、僕の鉄巨人は出来る子だ」


「どうなっても知らねぇからな!」


 同時に駆け出す豊とマリーゴールド。

戦いは最終局面を迎える。



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