64. モンスターハウス
【モンスターハウス】
それは階層がひとつの大部屋になっており、モンスターが大量に待ち構えている、
ダンジョンの代名詞とも言える定番のトラップである。
何階層まで落ちて来たのかは現在不明だが、迷宮内にも関わらず、天井が三十メートル高く、光源も広く確保されている。壁や床は、金属板で施工されており、何処となく大規模な研究所を彷彿させる。
「ふざけんなよ……あのクソジジイ……とんでもねぇ罠作りやがって……‼」
ラビィにワグマにライガー、リザード
抜け殻鎧におばけ大樹、に狂い泥に岩巨人
合製怪獣、一つ目巨人、炎蛇、熱蜥蜴など、多彩である。
大きさ種類を問わない魔物の群れが、豊達を見定めている。
異なる種類が群れを成し、一斉に襲い掛かってくるのには違和感があったが、
いつ戦いが始まってもおかしくない緊張感の中で、着実に態勢を整える。
魔物が一斉に飛びかかるのと同時に、豊の【怒りの鉄槌】が炸裂した。
「モンスターハウスの鉄則その一。初手は強力な範囲攻撃で数を減らすべし! みんな! こっちだ!」
豊の誘導で走り出すと、やってきたのは行き止まりであった。
「ユタカ! どうすんだよ! 逃げ道がねぇぞ!」
「モンスターハウスの鉄則その二、壁を背にして挟み撃ちを防ぐべし!」
一度に襲いかかれる数には限りがある。本来であれば、背後を壁にすることは逃げ場を無くす愚策になるが、逃走が不可能である事が多い、モンスターハウスにおいて、それは妙策へと変わり、前面の敵のみに集中可能となる。
相当な実力差が無ければ、敵から逃げることは叶わない。ならば戦うしか生き残る術はないのだ。
前衛のギャリオンが、次々にモンスターを処理していく、レベルアップと疑似魔法剣の効果により、破壊力は数段階上がり、辺りにはさっきまで命だったものが無惨に散乱していく。
「モンスターハウスの鉄則その三、弱い奴から処理して数を減らすべし!」
なるべく一箇所に固まり、死角を無くすことで着実に数を減らしていく。
足止め、回復、前衛の交代を繰り返し、無理なく処理を進めていくと、徐々に魔物の数が減少し始める。
ロシィが回転斬りからの連撃で、グレートワグマの首を刈り落とし仕留め、ギャリオンが竜巻斬りで合成怪獣の四肢を吹き飛ばす。
ルルがプロテクションとヒールで支援をこなし、マリーゴールドは戦闘おにぎりで補給しつつも、後方から範囲魔術で足止めと数減らしを図る。
豊は迫りくる魔物に対し、可燃性の油を撒きながら着火しつつ、隙を見てみんなのおにぎりをこしらえる。ひとりだけ作業の種類がおかしい。
側から見ていると、激戦とは程遠い完全な作業が成立していた。これも、戦術と個々の役割が完璧に成立している結果である。
ロシィを休憩させ、豊が前衛に出て、その間に戦闘おにぎりで回復を図る。
二時間半が経過し、モンスターハウスは力を失いかけていた。
「どうやら、ボスのご登場みたいだぜ」
一つ目巨人を泥沼に沈めたばかりのマリーゴールドが、ボスに気がつく、まだ数体残っている魔物の後ろには、人物らしき影が見える。
『ふっふっふ……まさか人間が、我が精鋭たちをここまで倒すとは……なぁぁぁぁぁぁ‼ 私が手塩にかけて育てたサイクロプスがぁぁぁぁぁ‼ 研究に二年も費やしたキマイラがあああああああぁ‼ お前ら本当に人間かぁぁぁぁぁ⁉』
ボスの登場に躊躇いなく、首を刈りに行くロシィとギャリオンを
キマイラCとサイクロプスBが身を呈して守る。
『ひぃっ‼ お前らには情緒というものが無いのか! 階層の頭領である私の名前すら聞かぬうちに、切り捨てようとは何事だ‼』
満を持して登場したこの階層のボスであったが、問答無用で攻撃が放たれた。
「ふざけんな! コッチは落とし穴からの連戦でイラついてるんだ! 早く死ね! 私の為に死んで経験値になれ!」
容赦無くボスに対し、渾身の土槍をブッ放すマリーゴールドは相当頭に来ていた。
休憩なしの忙しない二時間半の戦闘は、人間性を著しく損ねる様だ。
『ふふふ! お前らの悪足掻きはここまでだ! 見せてやろう、人工魔物研究家にして、天才錬金術師である、【ミシェレ・クレイガー】の究極の僕にして最強のモンスターを‼ 出でよ! グレートパラケラテリウム‼』
巨大な山脈を彷彿させる、体長二十メートル超えの巨大な魔物が、息を荒げて現れた。その四足歩行は大地を踏みしめる毎に地震を呼び起こし、その長い首と尻尾でありとあらゆる生物をなぎ倒す。
『あまりの迫力に声もでまい! 行け! グレートパラケラテリウム! 奴等を踏み潰すのだーっ‼‼‼』
勢い良く大地を踏みしめる、巨大な魔物。その迫力は怪獣映画から飛び出してきたかの様な……
「あ、そこは……」
踏みしめた先は、豊が散々撒き散らした油により、摩擦係数が限りなゼロに近い状態にあった。金属の床板と油はとても相性が良い。
【グキリ!】
【ズドーーーーーーーーーーン!!】
「うぎゃああああああああああああああああああああ‼‼」
滑った魔物は足をくじき、見事ボスを巻き込んで転倒した。その際の衝撃と自重で息を引き取り、踏みつぶされたボスは断末魔をあげて即死した。
「なんだったんだコイツ……」
ボスが死んだ事により、全ての魔物は逃げ出し、この階層は攻略した。
マリーゴールドは、その場でグレートパラケラテリウムの心臓を取り出し、丁寧に保存した。死体は心臓を取り出した後、ダンジョンに吸収され、金にする事は叶わなかった。
その後、階層クリアにより休憩所と帰還転移扉、宝箱が現れ
早速宝箱の中身を確認した。
【現身の指輪】
装備者にそっくりの実体を作り出すことが可能。
一定の損傷を受けるか、一時間程経つと消える。
何度でも利用可能。
「また使い所の難しい迷宮産魔道具が出やがったなぁ……。ユタカならなんか有効に使えるだろ、持ってろ」
「了解ですぞ」
試しに実体を作ってみると、判別がつかない程、精巧な造りをしており
若干マリーゴールドが引いていた。
魔術で動かしたりとかは出来なかった。本当に【身代わり】にしか
使えない様である。
その後、豊達はレベルアップ後の能力値確認を行い、帰還転移扉で無事脱出した。




