61. パマリダと茶番
パマリダに到着した一行は、
マリーゴールドが所有する別荘で世話になる事にした。
魔装車を厳重に保管し、別荘備え付けの蒸気風呂を楽しんだ後、長旅と潮風に吹かれていた身体を癒す為に、休息をとった。
翌日、豊達はダンジョン入り口に存在する受け付け前に来ていた。
マリーゴールドは、受け付け登録を済ませている間に、街中を観光して来いと気を利かせてくれたので、豊達は遠慮なく好意に甘える事にした。
久しぶりの観光である。海を渡る際も戦い続きだった一同は、
羽根を伸ばしつつ、露店に並ぶ装備を見ていた。
「ダンジョンが存在しているだけあって、魔道具を取り扱ってる店も多いな……」
「地下迷宮で一獲千金を目指す者が多いのも頷けますね。オレは隣の防具屋で鎧を新調して……。ユタカさんの新しい鎧も探してみますね」
大猿との戦いで豊の鎧は全壊している為、現在は両国砦で貰った量産型の皮鎧を装備している。
「あぁ、後で合流な」
「ごしゅじんさま、ルルちゃんにも何か、装備を買ってあげてほしいです」
「武器は無理でも防具ほしいケロ!」
「そうだね、なら魔道具を買って、僕がサイズを調整加工しよう」
「「わーい!」」
「店主、長く使えて身躱しや耐久、回復や障壁の魔道具はあるかい?」
「先程のお話をお聞きいたしておりました。こちらの指輪には【生命の泉】という徐々に体力が湧き上がる効果が、こちらの布地には、風の加護により飛び道具を反らしたり、回避の手助けする効果があります。加工も簡単で、フードやマントにもなりますよ」
「頂こう。ギルダム銀貨は使えるかい?」
「可能で御座います。ギルダム銀貨ならば、この2つで560枚となります」
「なかなかするもんなんだなぁ……」
「迷宮産の装備や道具は大変貴重ですからね……。似た様な効果がある物は多数あっても、ひとつひとつが別の作りになっておりますし、この地の商人組合が掲示する相場価格を目安に、ご提供させていただいております。いかがですかな?」
「あぁ、納得したよ頂こ……」
豊が購入を決断した瞬間の事である。
「キミ、待ちたまえ! その指輪はこの私が先に目をつけていたのだよ! 私が金を工面している間に、横から購入とは礼儀を知らないのかね⁉」
突如商談に割り込んで来た人物は、妙に演技がかった大袈裟な動作を繰り出し、両隣に女を侍らせ、見るからに高級そうな装備品を纏う、成金風の男。
それを無視して豊は代金を支払う。
「はい、代金」
「確かに受け取りました、こちらを」
商品を受け取る瞬間、またしても声が割り込む。先程よりも何割か音声が大きい。
「キミィーー! 待ちたまえよ! 待ちたまえよ! 私が先に目をつけたって今言ったじゃないか⁉ 【生命の泉】効果のある代物は滅多に市場に出回る事が無い! それを見つけて早二週間! 必死の思いで銀貨を工面してきたんだよ!」
「お客さん、二週間は流石に長いよ。こっちも商売だからさぁ……」
「額が額なんだから長い目で見てくれてもいいじゃないか!」
確かにギルダム銀貨560枚はかなりの額であり、屋敷購入の前金くらいにはなる。
命を預ける装備品の値段にしては、破格と言えるだろう。
「あいにくですが、ウチにも必要な者が居るもんでね。失礼するよ」
話を切り上げ早々に店を出ようとする豊だが、それを男は身体でその行く手を阻む。
「その【生命の湧き出す指輪】は君の様な男、ましてやそんな小さい子供や見窄らしいカエルに買え与えるような代物じゃないんだよ‼ 私の様に実力のある迷宮攻略家にこそ相応しい逸品だ‼ 考え直したまえ‼」
「わからん人だなアンタも。僕はともかくとして、仲間の愚弄は許さんぞ」
「私も!ごしゅじんさまへの愚弄はゆるさんぞっ」
己が要求をひたすらに通そうとする男はこう言う。
「失礼! 私は昔から正直者でね! そして、欲しいものは絶対に手に入れる主義なんだよ……‼」
「イダーサさまぁ♡私、指輪欲しい〜‼ 私の命を守って~‼」
取り巻きの女が甘えた声でねだると、男は俄然やる気を出した。
「キミィ! 私と正々堂々男同士の勝負をしたまえ! 私が勝ったら、その指輪を頂く!」
余程この指輪は希少価値が高いのだろう。諦めそうにもないこの厄介者に、豊は半場諦めかけている。
「ならば、僕が勝ったらどうします?」
豊が誘いに乗ると、負ける気は毛頭ないのか、その男は自信たっぷりに、腰に携えた短剣を見せびらかす。
「この私の愛用する迷宮産装備のひとつ!【閃光の左手剣】をあげよう! パシリカ金貨2枚はする高級品だ、ルールは金的、目潰し、頭突き、噛み付き、【無し】の正統な決闘でいこうじゃないか!相手が戦闘不能になるか、降参するまで戦いは続行するものとする!」
「魔術は?」
「そうだね、街を壊さない術なら使用可。でどうかな?」
「いいよ。僕が勝ったら仲間に謝罪もしてもらおう」
ルールの確認が終わると、豊と貴族風の男は店の前で向かい合う。
「おっ、なんだなんだ喧嘩か⁉」
店の前にはギャラリーが出来てしまい、話し合いで解決する様な流れではなくなってしまった。古来よりパマリダでは、自分の欲しい装備品がブッキングした際、決闘で持ち主を決めるという取り決めが為されているので、地元の人達には日常茶飯事だったりする。むしろ、それを楽しみにしていたり、賭けをしたりする者も居る。
「ここにいる皆さんが証人ですからね」
「私は約束は守る主義だよキミィ‼」
いつしか人混みによるリングが作られ、戦いの場は用意された。
「さぁ! 覚悟したまえ‼」
イダーサと呼ばれた男。彼はパマリダのダンジョンを、十二階層まで攻略している。事実、なかなかの手練れであったし、自信があったのだろう。
他に誰も、自分の様に、十二階層まで潜る人物が、現在居なかった故の自信である。
観衆も、豊の身なりから迷宮の挑戦者と察し、イダーサがまた新人をいびっていると思ったのだろう。中には豊を気の毒に。と哀れむ人もいた。
イダーサが距離を詰め、素早く豊に襲い掛かる。彼の持つ二本の剣が、別々の軌道を描いて迫り来る。変則的で自在。フェイントも織り交ぜた良い攻撃だった。
「第二の術、第弐派生」
【ヘイストギア】
豊は次々と攻撃を回避し続ける。
「躱すのがやっとの様だね! 早く降参したまえ!」
勢いのある、縦振り下ろし。間髪入れずに、横薙ぎ払い。
側面に回り込み、斬り返し。踏み込みからの、連続突き。
様々な攻撃が繰り出される。
剣の速度が上がると同時に、豊もギアを上げる。
「二速」
周りの人間には、二人が何をしているのか、わからないだろう。
目まぐるしい、攻防と騙し合い。
この場で、彼らの動きを追えるのはロシィとルル
そして、今しがた自身の鎧を新調して戻って来た、ギャリオンだけであった。
「ユタカさんも人が悪いなぁ、対人戦の練習なんだろうけど……」
「ごしゅじんさまなんで遊んでるの? 楽しいのかな?」
「きっとアレ、見た目より楽しいんだケロ!」
航海中、黒鉄の竜巻と恐れられるギャリオンと打ち合いをしていた豊には、
この程度の重圧と速度は造作も無い。ギャリオンの殺気が大津波とするなら
今対峙している男の殺気は、小波に過ぎない。
豊は、ギャリオン以外の人間と戦い、対人戦闘の感覚を掴んでいただけの話であった。その中で、新しい術の糸口を探していたのだった。
最低限の動きだけで回避し、相手の様子から攻撃を先読みして弱点を探す。豊が攻撃する隙は幾らでもあったが、この攻防はイダーサが息切れを起こすまで続いた。
「イダーサ様! しっかり!」
女が微妙に体力回復の魔術と、障壁を張ったのをギャリオン達は見逃さなかった。
「相手、なかなかにズルいですね」
「たしかに、補助魔術を受けちゃダメって言ってはいないけど……」
「あんなのずるいケロ……」
ボロクソに言われながらも、イダーサは攻撃を続ける、豊は攻撃を弾いて隙を作り、足を払い。絶妙なタイミングですっ転んだ後
「縦四方固め!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ‼」
「袈裟固め!」
「ぁぁぁぁぁ‼」
「肩固め!」
「おわぁぁぁぁ‼」
「朧固め!」
「ぐわああああっ‼」
大勢に見守られながらイダーサは、豊による寝技の連続技を喰らって力尽きた。寝技に障壁は効かないのである。
「じゃ、マインゴーシュ貰っていきますんで……」
「ぜぇ……! ぜぇ……! なんだあの体術は……!」
力を使い果たし、喋る元気もないイダーサを無視し、公衆の面前で約束どおり
【閃光のマインゴーシュ】を頂いた。
長かった茶番、改め決闘が終了し、ロシィ達が駆け寄る。
【高速のマインゴーシュ】
イダーサが
【閃光のマインゴーシュ】と呼んでいた物の正式名。
左手用の魔力装備であり、武器での攻撃に自動で反撃し、
相手の隙を生みだす事に特化した剣。
その速度は光よりは早くない。
豊が素手で戦った事により一度も発動しなかった。
「ごしゅじんさまお疲れさま〜」
「勝ったケロ! 成し遂げたケロ!」
「ユタカさん、お疲れ様です」
「おう、おかえりギャリオン」
息も絶え絶えだったイダーサが起き上がる。
「ギャリオンだと……⁉ あの黒鉄の竜巻と呼ばれ、ジェネイラ武具大会の新しい覇者になった男か⁉ なんでこの国に⁉」
ギャリオンの名は国を跨いで轟いていたようだ。
「有名だね、ギャリオン」
「恐縮です」
そうこうしている間に、迷宮手続き等を済ませたマリーゴールドが合流する。
「お前らこんなとこに居たのかよ、手続き終わったからダンジョン行くぞ」
マリーゴールドが現れた事で、その場が騒然となった。
「八代目ビックハットだ!」
「賢者の弟子! マリーゴールドだ!」
「金の魔術師がこの国に帰って来たぞ!」
人々は各々の言葉で驚きを露わにしたのである。
彼女はボロボロになったイダーサの存在に気が付き、噴出した。
「なんだ,成金イダーサじゃねぇか、随分とヒデェ格好だな、誰にやられたんだ?ん? ユタカか? お前よりによってユタカにケンカ売ったのか⁉ あーウケる!」
ゲラゲラと笑い出すマリーゴールドを見て、顔がみるみる青くなるイダーサは
「マリーゴールド! お前の連れだったのか……! チクショウ……! なんてついてないんだ! もう帰る! 憶えてろよ‼」
半泣きになりながらその場を去った。イダーサはお決まりのセリフを吐き、早々と姿を消したのであった。




