59. 船上の足掻き
クラリィクの理解を得て、パシリカへと航海に乗り出した豊達であったが、それ以外にも海には危険が溢れていた。
【オオシオマネクン】が行く手を阻んだり、【ライオールジョージョ】が戦いを挑んで来たり、【シオフキパーエール】が魔装艦を仲間と勘違いして求婚したりと、なかなかにスリルがあって賑やかな船旅となった。
魔装艦の操縦をギャリオンに任せ、マリーゴールドは、豊の魔力蓄積の操作修行を行なっていた。座禅を組み、魔力の流れが全身にある事を認識する。ここまでは、ルーティーン家で教わったものと然程変わりは無い。
しかし、マリーゴールドの修行法は、より論理的で実践に適した方向に舵を切る手法であり、言うなれば過酷であった。自分の身体が無意識によって動かされる様に、魔力の操作もまた、無意識で手足を動かす様になるまで、続けられた。
「これが出来る様になれば、血液中の魔力量を圧縮し、より多く体内に蓄積させる事ができる。そうすれば、あんな反動のある第六の術も危なげなく発動出来る様になるだろう」
「ぜぇぜぇ……。助力感謝しますぞ。マリー殿」
「ぶっちゃけ私達の中で、戦闘力の伸び代が一番あるのがユタカだ。並みの相手ならギャリオンがなんとか出来るが、あの変化猿の様な規格外が相手になると、人の枠ではどうにもならんからな」
「あれ以来、身体に脂肪が付きにくくなってしまったし、なんとかしなければ……」
言葉通りなら健康体そのものであるが、戦い、強いては魔力を伴う対人、魔獣戦においては、魔力備蓄の有無は戦況を大きく左右する要因に成り得る。
「これからは、あの莫大な脂肪魔力に頼れない。訓練を重ねて最大魔力量を増やせ。良いな!」
魔力圧縮の修行法は、魔力を圧縮するイメージで体内に溜め込むのを繰り返すだけだが、言葉が簡単なだけで、実際は毎日過酷な筋トレをするのと大差ない程には疲弊する。血液循環を行う心臓と、それを管理する脳にかなりの負担が生じるからだ。コレを毎日続ける事で、最大魔力量は底上げされる。
蓄積された魔力は、圧縮して保存する事が出来るが、展開するのに時間が掛かる為
性質を理解した上で使用しなければならない。
細かく説明すると、魔力限界値、百の人物が
百の魔力を圧縮して保存すれば、圧縮した分、新たな空きが生まれる為
また新たに魔力、百を溜める事が出来る。
圧縮した魔力は然程場所を取らないが、すぐには取り出せない。といった仕組みだ。
この話を聞いて豊は【皮下脂肪】と性質が似ていると感じた。
「ところでマリー。【怒りの鉄槌】に関して相談があるんだが……」
「あぁ、あの構成がデタラメな術な。私に言われてもどうしようもない。世界の理に関り、事象の書き換えとも言われる【具現化】は、私の専門外だ」
「大猿にはアレを避けられた。僕にはこれしか火力のある術が無い。対策がほしい」
深刻な目で求める豊を、マリーゴールドは邪険にしなかった。
「お前の術はまっすぐ過ぎる。術の系統や経緯から性質が分かり易く、殺意の方向と攻撃の結果に誤差が無く、正確で読みやすい。そういった術を相手に当てる為には何が必要なのか、考えてみろ」
「ありがとう。マリー」
「おう」
続いては魔力制御と操作訓練に、ロシィやルルも参加し、マリーゴールド指導の下、基礎魔術訓練が開始される。
マリーゴールド曰く、
「魔力はこの世界における力の根源だ。魔力を持つ者はそれを身体能力の強化へ応用したり、魔術を放つ際の媒介や糧にすることもある。まぁ、蓄積量には個人差と地道な努力が関係してくるから……取り込めば強くなるというものでもない。そこは追々教えてやる」との事である。
船旅四日目
ギャリオンは魔法適性が皆無なので1人思い悩んでいた。
「ギャリオンには魔力はあるが、魔術として放出する才能がない」
ハッキリとしたマリーゴールドの言葉に、項垂れているギャリオン。
「マリー、放出がダメなら魔力を糧にして身体強化とかは出来ないか?」
魔装艦を操縦しながら、豊はゲームとノベルで培った知識から案を出す。
「基礎向上ならともかく、一時的な状態変化系統は私の専門外でな。基本は教えてやれるが、それ以上は自分で編み出すか専門家に頼るしかない」
「あとギャリオンの剣は魔鋼で出来てるだろ? だからそれを媒介にして魔力を流し、属性魔法剣なんてどうだ?」
豊の一言でマリーゴールドの顔付きが険しいものに変わった。
「魔法剣……? なんだその発想は……大体、魔術と魔法には定義があってだな……それを言うならば魔術発動式属性……。いや、待てよ魔鉱鋼の伝達力を持ってすれば魔法とはいかずとも、それに近い再現は可能になるのか……?」
マリーゴールドは何か思いついたのか、紙にペンを滑らせ次々に魔力術式を書き込んでいく。
「本来鉄は魔力の伝達力が良くない。しかし魔鉱石で練り上げた鋼なら話は違ってくるかもしれない……少し待て」
ロシィとルルに訓練続行を伝え、マリーゴールドは部屋にこもってしまった。
「マリーちゃんどうしたケロ?」
「何か思いついたのかなぁ?」
数日の訓練で、このコンビは新しい魔術を体得していた。
以前、ルルが大猿戦で咄嗟に使用した障壁を、実用可能になるまで鍛え、
【プロテクション】として体現するまでに至った。
【プロテクション】
対象の身体に、対物理用の障壁を展開する魔術
重ね掛けは術者の熟練度次第で可能になるが、基本は一枚
完全防御には至らないないが、対象者を守り、衝撃を緩和する効果がある。
派生魔術として、火や水などの属性を付与する事で、
様々な耐性を得ることが可能となる。
ロシィとルルは、レベルリンクと契約による、【心の繋がり】により、魔術と魔力を共有している事が、マリーゴールドの見解で明らかになった。
以前ロシィが、ヒールを普通よりも早く習得したのもこれが影響を受けている。
「戦闘でもお役立ちです!」
「守りは任せてケロ!」
二人は、大猿戦で死ぬ思いをした。
ロシィに至ってはこれで二度、戦闘により命を失いかけている。
もう足手まといにはなりたくない、彼女達は今を懸命に踠いていた。




