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54. 神の酒



【命の器】


 人には、【寿命】と呼ばるものがある。

それは一般的に、人が生きられる日数と認識されているが、怪我や病気が自然治癒してゆく際にも、摩耗してゆくものだった。


 人には、人体を構成する細胞に、新陳代謝の限界値が存在していて、

日々、細胞が生まれ変わりを繰り返しているが、限界を迎えると、その活動は停止。

つまりは、肉体的な死を迎える事となる。


それを、マリーゴールド達魔術師は、【命の器】と呼んでいる。




「ロシィとルルは、あの大猿の攻撃を魔術障壁で受けた。本来なら貫通した攻撃の威力は、私の時の様に、肉体へと向かう。しかし、こいつらの症状は、【急激な魔力欠乏症】の症状を示している。つまり……!」


「マリー! 掻い摘んで説明してくれ!」


「こいつらは、何らかの方法で、【器から、命の前借り】をして肉体の保護を行ったことになる。本来肉体に掛かる筈の損傷を、【寿命を消費する事で、肉体の死を免れたんだ】。原因があるとすれば、ユタカ、お前はロシィと契約を結び、魔力につながりがある。ルルもそうだ」


豊には思い当たる節があった。


「まさか、あんなサラッと流された加護の効果が……?」




 過去の女神通信にて――


『世界救済自体に期限はないし、《《ユタカ青年は私の加護で歳をとらないから》》、実質勝ったも同然よ! 後はユタカ青年のテクニカルな機転で幸福度を上げるだけね!』


 救世主育成計画を話した際に、この話題は出ていた。



 彼がこの世界に現存している間は、女神の加護によって、肉体と魂は摩耗しない。

女神が気軽に与えてくれた摩耗の加護が、二人の命を繋ぎ止めてくれたのだ。



「全然説明してもらってない‼」


「お前から女神の話を聞く限り、そうじゃないかとは思っていたんだ……」


「つまりは、女神様の加護で二人はまだ助かるって事なの⁉」


「安心するのはまだ早い。【命の前借り】は二人の寿命を代価に命を繋ぎ止めてる。つまりこのまま放置すれば、こいつらは老衰で死ぬことになる。今は魔力欠乏症で気を失っているが、それと同時に寿命も迫ってる。クソみてぇな状況だ」


 豊は、自分の道具たちを引っ張り出し、製薬の準備に取り掛かり、

マリーゴールドもまた、自分の錬金道具を展開した。

「【時を駆ける創造】展開完了。いつでもいける」


「調合は私がサポートする。お前は温度と魔力を一定の状態に保て、いいな」


ギャリオンはマリーゴールドの指示で

ロシィとルルを綺麗な布地の上に移動させる。

身体の傷は治っているが意識が戻らない。


彼女は手持ちの道具類を手早く準備しつつ、各々に指示を出す。


「ギャリオン、大猿の死体を一箇所に集めてくれ、他のやつも! 動けるものは魔物の死体を全部! 一箇所に集めてくれ!」


マリーゴールドの指示で死体が集まると、彼女は魔術を発動させる。



「贈り物を憎め、発狂せよ、渇望は癒えず触れたものを改めよ」

【ゴールドタッチ】!


 彼女が死体の山に触れると、それらは全て圧縮され金へと変わった。

周りの皆が圧倒されていると、マリーゴールドは全ての金を錬成釜へと投げ入れた。


「ネクタルの材料には金を魔術で溶かした際に出来る特殊な毒が必要なんだ……しかし……倒した魔物を集めてもまだ……。金が足りない様だな……」


 辺り一面に散らばっていた魔物は、全て金に変えたが、必要数には届かなかった。

そんな中、周りを囲っていた群衆から、ひとりの傭兵がマリーゴールドに問い掛ける。


「あの、金か、魔獣の死体があれば! 天使様は助かるんですかい⁉」

 その問いに彼女は答えた。


「あと一トン近い素材が必要になる……金で言えばあと200キロあれば……」


 その言葉を聞いた傭兵は、背嚢から下処理をした魔物の皮を取り出す。

「俺の報酬素材、使ってください! これも一応死体なはずです!」

この男は命をかけて稼いだ報酬を、自ら差し出したのだ。


「俺のも出す! だから! その娘を死なせないでくれ!」

「俺もだ!」「俺もだす!」「ロシィちゃんとルルちゃんを救ってくれ!」

「俺らも、彼女のヒールに救われたんだ! これを使ってくれ!」

「こんな若い子をこのままにはしておけねぇよ!」

「娘と同じ歳の子だ。それに返しきれない恩がある!」


各々、様々な想いがあった。


 傭兵に兵士、はたまた商人までもが、

ロシィとルルを救う為に魔物の素材を出し合い

結果として、それらはひとつの山となった。


 二週間という短い時間であったが、豊達は共に戦う仲間として

両国砦を守り続けて来た。そしてその場にいた誰もが

ふたりを失いたくないと心から願ったのである。


「みんな……ありがとう……。」

人の優しさが身に染みていく、これまでの救済は無駄ではなかった。

この苦しい世界でも、人々の心には、他人を思いやる心があるのだと豊は感謝した。


「贈り物を憎め、発狂せよ、渇望は癒えず触れたものを改めよ」

【ゴールドタッチ】!


 魔物の素材は全て金へと変換された。その量は約200キロにもなった

「……これならば足りるはずだ! やるぞユタカ!」


「はい!」


 大量の金を錬成窯へと投げ込むと、一瞬にして少量の毒薬が錬成された。

それを使い更なる錬成術の工程へと進んでゆく。

「アンブロシア、それは蜜よりも甘く混じり合い、天界の宴を再現する、青春の女神よ、我と盃を交わせ!」


「いでよ!【ネクタル】‼」

【時を駆ける創造】を介し、マリーゴールドに豊のサポートが入る。


完成までの五分


 たったの五分が、永久にまで感じる程に、ネクタルの製造には集中力を消費した。

温度、魔力、素材を混ぜるタイミング、

すべてが一片も欠けずに合わさる時。


 神の酒はこの世に顕現する。



 ネクタルは3つ完成した、このネクタルだけは、豊の効率5倍の影響が少ない。



【ネクタル】


 不老不死の伝説が残されている霊薬のひとつ。

人々はいつの世も不老不死を求める。特に権力を持つ者は己の衰退を恐れ

ありとあらゆる手段で延命を望んだ事が歴史でも記されている。


 八代目のビックハットにして稀代の天才、

マリーゴールド・タッチアップルは、師の文献を読む過程で

自らが最も得意とする金の毒の記述に触れた。


 私なら作れる! 師よ! これであなたは!

師は彼女の目の前から姿を消していた。


あくまでこの霊薬は伝説の再現に過ぎない。

飲めば、不老不死、とまでは行かないが、寿命を百年程手に入れる。

【命の前借り】が如何なる負債であろうとも、ネクタルの分まで

持って行く謂れはない。




 出来上がったネクタルを、ロシィとルルの口に流し込むと

突如眩しい光が身体を包み込み吸収されていく。


光が収まると同時に、

ロシィとルルは何事もなかったかの様に、むくりと起き上がり目を丸くする。


「わたし、どうなったの……? えっ? 誰? ごしゅじんさまなの? なんでそんなにやせてるの?」


 豊は混乱しているロシィを抱き締めた。

どちらが救われたのか分からなくなる程、

泣き散らかしてしまった主人をロシィは優しく抱き返した。



「助かってよかったぁ……ロシィ……よかったぁ……よ゛がっだぁ゛!」


「……ごしゅじんさま……よしよし……」




「「うぉーーーーーーッ!」」


ロシィとルルが生き返った事により、砦中に歓声が響き渡る。


「やった……ロシィちゃん……!」「我らが天使よ! 助かってよかった……!」

「お゛ぉ゛ーー! よかったぁぁぁぁぁ!」


 泣きながらロシィとルルの無事を祝う砦中の人達


その日はロシィ、ルル復活祭と魔物討伐達成記念として砦内で宴が催された。


 豊も痩せた身体がボロボロになりながらも、

高揚した気持ちで腕を振るい料理を作ったのであった。


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