50. 泥と油の処刑台
参戦する為、外壁のてっぺんから飛び降りた二人は、
マリーゴールドの魔術で無事着地し、魔物と対峙する。
「皆は他の魔物を相手してくれ! このデカイのはマリーと僕が引き受ける‼」
砦の見張り台から飛び降りて来た二人に戦士達は驚き、戸惑っているが、暴れまわる大猿の大進撃を目の当たりにし、即座に反応を示した。
「紅の料理人! アンタ戦えるのか⁉」
「無理すんなよ!」
「終わったらお前の飯を食うんだからな!」「危なくなったら逃げろよ!」
後ろで戦士達が、豊を心配しているようだ。
「……僕ってそんなに弱そうですかね。マリーさん」
「ユタカは見た目からして、普通に弱そうだぞ」
「しゅん……(´’ω’´)」
「しょげてる場合ではない!」
「そうですね、ここはまた一つ。泥油作戦で行きましょうかね」
「地味だが確実だな。私はユタカに合わせよう」
「行きますよ! 第二の術第弐派生、【ヘイストギア】!」
豊の速度が上がる、早い動きで翻弄させるが、大猿はその動きについて来る、豊の斬撃をものともせず、反撃を繰り出してくる。その度に、豪腕から発する風切り音が豊の肝を冷やしていった。
「なんで、いつも相手側には痛恨の一撃があるんですかね……!」
襲い来る敵に対して不満を漏らす豊ではあるが、
相手の振り終わった腕を蹴り上げ、顔へと攻撃を集めていく
瞬時に大猿は反応し、もう片方の腕で防御する。
「投擲する程賢い上に、戦いの勘もあり、一撃が重いとかどれだけ欲張りなんだこの魔物はっ‼ 二速ッ‼」
地面を蹴り豊の巨体が弾かれる。幾度となく繰り返される攻防
時折混ぜられるフェイントにも、悠々と追いついてくる大猿は、反射神経と野生の感で徐々に豊を追い詰めてゆく。
勢いと体重を利用した渾身の刺突は、大猿の腕に深々と突き刺さるが
「ぺぐおッッ⁉」
ショートソードは筋肉で挟まれ、大猿のタイヤの様な手が豊を捕らえる。
動きを止められ【ヘイストギア】は速度を失ってしまう。
徐々に速さを上げていくこの派生魔術は、一度動きを止められるとニュートラルに戻り、また一速から速度を上げなければならない。
早さの勝負においては、止まった時点で豊の状況は悪くなってしまうのだ。
しかし、これはタイマン勝負ではない。彼の行動には理由がある。
「ユタカ‼ 時間稼ぎ、ご苦労さん‼」
マリーゴールドが合図を送ると、豊が身体を捻り、大猿の手からにゅるりと滑らせ
ショートソードを回収してその場を逃げ出した。
【溢れる体液】
豊は攻撃の間、ずっと油を巻き続け、鎧にも潤滑油を塗装していたのだ。
「発動‼【泥蟻地獄】‼」
次の瞬間、大猿の足元が急激に窪んだ。それを察した大猿は跳躍を試みるも、泥に足を取られて動けない。ならばと泥へ豪腕を振り下ろし、その反発力を利用しようとする。
パァァァン!!
泥は弾けず豪腕も呑み込まれた。
さっきから撒き続けていた豊の油は、嵐蛇で使用した粘着性があり纏わりつく油である。それは、豊を手で掴んだ際、手の表面と体毛へ大量に付着していたのである。
「ユタカ、やれ……!」
彼女の指示で豊は構える。
「第一の術! 第参派生!【迸る煉獄】」
称号【炎の料理人】から発現した術であり、
掌から炎が弾け出し油に引火していく。
この炎が対象者を焼き尽くすまで、豊の油は霧散せずに纏わりつく。
現代で言う、液体燃料の火炎放射器である。
余りにも残酷過ぎて、戦争において使用が禁止されるのも納得がいく。
炎は対象者を焼き尽くすだけでなく、周囲の酸素を奪い炎上を続ける。
それは、呼吸を奪うのと同意であり、やがて大猿は、粘着泥の中で倒れた。
身動きも取れず延々と燃えていく大猿を尻目に、豊達はカザラキア側の大猿を仕留めに行く。




