49. 大群
「両国砦ってさ、なんでこんな特殊な構造をしているんだろうね」
魔物が沈静化したタイミングで、砦周辺を探索していた豊は、マリーゴールドに砦の構造について問いかけた。
砦の構造は正四角形、四つ角には見張り塔が設置されており、建物の外周には堀が施工されている。跳ね橋を上げてしまえば籠城も可能となる造りだ。
「ギルダムとカザラキアを分断するグレイジオス山脈。この山脈は遥か昔、完全に二つの国を分断していたんだ」
「今は山脈に隙間があって、砦を通じて国の行き来が出来るんだよね?地殻変動か何かで山が割れたのかな?」
「遠目で全体を見てみろ、山脈の隙間とも言われる山の端々をだ。何か違和感はないか?」
「確かに変だ。窪地で山の斜面が異様になだらかだ。これだから魔物は、砦を包囲して襲撃したり、国の境界線上で反復横跳びするような挙動をして、国が困ってるのか」
「聞き慣れないだろうが、こういった緩やかな構造の谷を【盆谷】と言うんだ。これは自然現象で生まれたものではない」
「自然現象じゃ……ない?」
「この山に隙間を作ったやつの名前は【グレイジオス】。【覇王竜】と恐れられた、この世界最大の厄災だ。嵐蛇なんかじゃ比べ物にならない程の怪物だよ」
「グレイジオスは、何をしたの?」
「伝承によれば、想像を遥かに超越する、爆熱の【ブレス】だ。たった一呼吸分のブレスが、国を分断していたはずの山脈を抉り取り、盆谷を作り出したんだ……」
「その竜の恐ろしさを後世に伝える為、畏怖の念を込めて、山脈に名前を付けたのか……」
「そういう事だ……。おい、ユタカ……やはりお前の勘は当たっていたぞ」
二人は急いで砦へと向かった。
魔獣達の動きにおける違和感を進言する為、
豊達は、両国砦の司令室に通された。
これもマリーゴールドの持つ、金の魔術師の名前があってこその特例である。
司令室では、両国代表である二人の人物が豊たちを迎え入れた。
「よくぞおいでくださいました。金の魔術師殿と、そのお連れの方々」
丁寧な物腰で対応するのは、カザラキア公国、両国砦代表の【スタン男爵】であった。銀髪を後ろでまとめ、背筋がしっかりと伸びた背の高い男だ。
「おう。それで、両国から手紙の返答は来たのか?」
貴族を相手に、いつもと変わらぬ態度で接するマリーゴールドに
彼女の地位と気位の高さが伺える。
それを気にするそぶりもなく、もう一人の男が話を再開する。
「先程、両国より早馬で書状が届いた。金の魔術師よ、貴殿へ正式に両国からの戦闘支援要請が入った。心してかかってくれ。報酬は問題解決時に、両国からギルダム金貨10枚ずつ、計20枚が支払われる」
この、やや古風な言い回しで話すのは、ギルダム王国両国砦司令の【バンダル将軍】赤髪で背が高く筋骨隆々、勇猛果敢な歴戦の【豪傑】と呼ばれているが、
それでいて、常に冷静さを失わない司令官としての才能を持っている。
彼の話を聞き受け、マリーゴールドは納得したかのように口を開いた。
「まぁこんなところだろうな……。よし、やってやる……。先日も言った様に、私達は貴様らの隊とは別行動させてもらう。魔術に巻き込んじまったら面倒だしな」
「承知いたしました」
「うむ!」
マリーゴールドの横柄とも受け取れる対応に、代表二人は素直に返事をした。
「私のツレは見た目はこんなんだが、私の邪魔にならない程度には腕が立つ、期待してもいいぜ」
「はい、金の魔術師殿のお連れの方となれば、嘸かしお強いのでしょう、我々から何も言うことはございません」
恰幅の良い紅の鎧の男に、幼き少女とカエル
剣を担いだ戦士の組み合わせはかなりの異質だが、
マリーゴールド自身が十六歳の若き天才少女である為、これ以上驚く要因とはならなかった。
続けてマリーゴールドが、今回のモンスター襲撃における話題を出そうとした。その時、山から大きな地鳴りが響き渡り、砦上部で見張りをしていた兵士が慌てて司令室に駆け込んできた。
「報告します! 今までの数とは比較にならない魔物の大群が、山から押し寄せて来ています!」
「「両国軍、各配置につけ!」」
将軍と男爵は、息の合った指示で各軍と傭兵に通達を出す。
砦に集まっていた傭兵達は、稼ぎ時だと猛り、意気揚々と飛び出していく。
手に入れた魔物の素材は、倒した者の手に渡るという決め事を守りながら、それぞれが素材を回収し、パーティ毎に塗料で色付けを施したり、時には即席で協力をしながら戦いを見せている。死んだら元も子もない戦場では、戦果よりも先に敵を殲滅させる事が肝要である。納得がいかない報酬は、戦いが終わってからゆっくりと殴り合えばよい。
ギルダム王国側は、山から降りてくる魔物の大群を、砦の最上部から長距離大弓で狙撃し、数を減らす。これが第一戦線。深く突き刺さった矢の色と形で報酬を分配するという方法だ。
矢の雨を抜けて来た魔物を更に、盾を持った傭兵が標的となって追撃し、各自対応して倒しつつ、全体が進む道を狭める、これが第二戦線。
それを抜けて来た残りを、砦前に構える歩兵隊が仕留めるといった、三段手法になっている。
一方、カザラキア公国側は弓兵と
魔術師団で長距離攻撃を仕掛け、全体数を減らし、傭兵が前に出て応戦する戦術だ
カザラキア側には歩兵隊が少ないが、それを兵士の質と傭兵の数で補っている。
特に歩兵隊は生え抜きであり、重装備の重歩兵揃いで、大盾を構えながら密集態勢をとることで強力なモンスターの攻撃を受け止め、弾き返した後に槍で仕留めていく
豊達は砦の外壁にある最上部から戦いの様子を伺っていた。
間近で展開する魔術部隊に興味を示している。
「ほう……古くから【メデューラ】に伝わる軍隊戦術だ。兵士達は良く訓練されている様だ。術式も正確で細かいな……」
「みんながんばってる〜!ふれ〜!ふれ〜!」
傍から見ていると、こちらの陣営が押している様に見受けられた。魔物の大群に対して敷いた陣形が上手く合致し、効果を示している。
「戦局はこちらの有利。この分ならオレ達が出しゃばる必要もないですかね」
「ギャリオン! それはフラグだ!」
豊は彼のその言葉に敏感に反応した。ギャリオンの軽率な発言の所為ではないが、
次の瞬間、山から二体の大猿が現れた。
体長およそ三メートルから四メートル、
二体はギルダム側とカザラキア側の二手に分かれた。
カザラキア側は、魔術師団と重歩兵隊がなんとか凌いでいるが
ギルダム側は少しずつ押されている。急いで加勢しようとしたその時、豊が叫ぶ
「伏せろーーーッ‼」
次の瞬間
火花と瓦礫が飛び散り、爆音が響く
咄嗟にロシィとマリーゴールドを庇いながら伏せる豊とギャリオン
気がつくと砦の監視塔には
【岩が投げ込まれていた】
大猿から砦までの距離はおよそ
【三百メートル】
「あの猿野郎……! この距離をガン無視して……【投擲】して来やがった……! おい! 被害はどうだ!」
「ダメだマリー! さっきの攻撃でギルダム側の大弓隊は壊滅だ……」
岩に直撃した者もいれば、砕けた砦の破片を喰らい負傷した者も多数存在した。この砦内で無事だったのは、豊達だけのようだった。
「僕たちが大猿の相手をする! ロシィとルルはまだ息がある兵士の治療、ギャリオンは動けない兵士を砦内に退避させてくれ! その後に、助太刀を頼む!」
「「はい‼」」
「マリー、カザラキア側もいつ破られるか分からない、先にギルダム側を二人で倒そう‼」
「任せとけ、私の力を見せてやるよ」
マリーゴールドは豊の首根っこを掴むと砦最上部から飛び降りた。
重力に従って少女と巨漢の男が空へと投げ出される。
予期せぬ浮遊感が豊へと訪れる。
「えっ⁉まって⁉嘘だろぉぉぉぉ⁉」
戦いの第二幕が上がろうとしていた。




