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44. 嵐の魔物



【魔獣ストームブリンガー】


通称、嵐蛇。


十年周期にその姿を現し、呼び起こした嵐の中を、

縦横無尽に飛び回る巨大な魔物。


突如として空から現れた災厄の体現者は、

人々を襲い、家畜を食い荒らし、自然を蹂躙し尽くす。

この世の全てを破壊する恐怖の象徴として、各地で恐れられていた。


唐突ではあるが、その周期に直面している救いの村は

存続の危機に晒されていた。

嵐が吹き荒れ、上空には巨大な魔物が旋回している。



「人が懸命に村の復興頑張ってるって言うのに、そんなことある?」



 この緊急事態を乗り越えるべく、

内心滅茶苦茶にキレている豊は、各々に指示をだした。


「ロシィとリカンナ、ギャリオンは村人の避難誘導をしてくれ。ここは僕が出て時間を稼ぐから、避難が完了したらロシィとギャリオンは応援に来てくれ!」


「了解しました!」

「まかされました!」

「わかった!」


嵐蛇は翼が生えた蛇の様な魔獣で、今、現在

村の上空を執拗に旋回しており、明らかに村を狙っている。


 こんな切迫した状況下でも、金の魔術師は落ち着きを見せている。


「アレが噂の嵐蛇か。あんな上空に滞在されては、迷惑も良いところだ」


「マリー、どうやったらあいつに攻撃が当たると思う?」


「なぁに、なんも考えずにあいつに一発大きいのをぶち込んでヒィヒィ言わせてやるだけさ……」


「遠距離魔術が飛んでこない事を祈ろう……。こんな時ゲッゲーロがいたら水弾で撃ち落としたり出来ただろうに」


 この頃丁度、ゲッゲーロはやるべき仕事を終え

リレイン村に帰ったところだった。


「水の魔術師ではどうにもならんだろう。嵐蛇は水と風の適性持ちだ、相性が悪い」


「ちなみにマリーは?」


「私は火と金だからな、悪くはないがよくもない」


「そっか……」


 現在習得している豊の魔術では、どれも上空を自由に飛ぶ相手に対しては有効打にならない。故に、大地に引き摺り下ろして戦うことが前提となる。

そうこう考えているうちに、嵐蛇は翼を折りたたみ、

空気抵抗を減らしてから、一直線に豊へと向かって来た。豊はそれを回避。


「なんで一目散に、僕を狙ってくるのっ⁉」


「嵐蛇は家畜を喰らう為に集落を襲うと聞く、余程貴様が美味そうに見えたのだろうよ」


「そうと分かればなんとか……ならないっ‼」


 再び突撃して来た嵐蛇の牙を回避。


「早過ぎて避けるので手一杯なんですけど……」


 落下速度に、翼による推進力を追加した突進は、

嵐蛇自身の空気抵抗を、極限までなくした形態の所為で、

目では追えない、鞭のような速度を実現していた。

何度も回避可能なものではないと理解出来る。


「何度か見てわかったが、あいつの翼、水捌けが良い、鳥の様な形の羽で構成されているな、どうだ?」


「とりあえず、次の攻撃で仕掛ける」

「なんか思いついた様だな、私がお前に合わせよう」


 相手の突撃に合わせて第二の術、【クイックアップ】

続けて、第一の術第弐派生【溢れる体液】


 ゆっくりと進む時の中、

豊は、嵐蛇全体に大量の油を噴射し、塗りたくる。

時が再び正常な動きに戻ると、嵐蛇は突然訪れた体の異変に、戸惑いを見せた。


「ぜえぜえ……! 二重魔術なんて使うもんじゃない……!」


油に塗れた翼は、いつもの飛行能力を損ない、地面に落ち、

自ら行った突撃の勢いで、泥濘ぬかるみの大地を滑っていく


「いらっしゃ〜い!」


 滑った先には、マリーゴールドが魔術で作った深い泥沼が展開されていた。


 粘着性のある油で塗れた翼に、密度の高い泥が付着する事で、嵐蛇の翼は完全に機能を失った。この発想は、油と泥に塗れ飛べなくなった野鳥を、

環境と肌に優しい無添加石鹸で助けた。という記事を、

豊が憶えていた事で実行された。


「もがき苦しんで! 死んでいけ!」


 泥沼の中で盛大に暴れまわる相手に、マリーゴールドは追い討ちをかける。


「大地よ、深く混じりて鋭利なものへと姿を変えよ!我が前にて力を示し、かのものを屠れ!」

【荒れ狂う土槍の宴】!!


 無数の槍が容赦なく嵐蛇に襲い掛かる。

土槍は全て直撃し、決定的な有効打になったかに見えたが、

嵐蛇は雄叫びをあげながら、泥の中を暴れ回る。


 その最中、嵐蛇の周囲に着々と空気が集約してゆくのを感知する。


「デカいのが来るぞ! 絶対に回避しろ!」


「ヘイトを取りながら、絶対に攻撃回避とか、無理を言い過ぎですぞ!」


 恐るべき質量の空気と、魔力の集約、今から放たれる攻撃が、

【ストームブリンガー】と呼ばれる所以ともなった、最悪の地形攻撃。


「【暴風剣モーンブレイド】が来るぞ!」


 刹那、想像を絶する爆音と重なった衝撃波が嵐蛇の口から放たれた。

鼓膜が未来の分すら清算するかの様に劈かれる。急激な大気圧の変化も相まって、耳を塞いでいたとしても、そのダメージは計り知れない。しかし、それはこの攻撃の余波ですらない。


 恐るべきは周辺への被害だ。発生した爆音と、魔力により強化された風と水を含んだブレスは、音速を超えて鋭利な刃を射出した様に周辺を地獄へと変化させた。攻撃の発生源である嵐蛇の周辺半径二十メートルと、直線距離およそ数キロが跡形もなく破壊されたのである。豊が標的となっていた為、村に直接的な被害はなかったが、森が一直線に伐採され、山の一部に大穴が開通した。


「普通に死ぬかと思った……」


「話には聞いていたが、頭がおかしい破壊力だぜ……!」


 先程の攻撃で泥沼を消し飛ばした嵐蛇は、無数の槍に突かれて飛行能力を失ってもなお、その巨体に余力を残していた。


「後は地上戦になるだろうな。私はちょっと魔力切れだ。すまん」


 嵐蛇を飲み込む、泥沼の大規模展開と、広範囲である土槍の魔術で、マリーゴールドの魔力はかなり消耗していた。


「僕も結構やばいんだよなぁ……」


 数度の緊急回避に、クイックアップ中の二重詠唱により、豊は息切れしていた。デブの辛いところである。


「遅くなりました!」


 そこに、村人の避難を終えたギャリオンが颯爽と現れた。


「ナイスギャリオン! 後は頼む!」


「はい! 頼まれました!」


ダルタニアスの剣を、小枝の様に軽々しく振り回すギャリオンの姿は、まさに黒鉄の竜巻。重さと速度に加えて、魔鉱鋼で作られた剣の頑丈さたるや、応戦している嵐蛇の連撃を尽く弾き返し、一撃一撃が着実かつ、無慈悲に命を砕いていく。


「うぉぉおおおぉおっっ‼‼」


 その素早い回転攻撃は、剣の影すらも終えぬ程に鋭く、重たい。

一太刀、剣が肉体を滑る度、鮮血が吹き荒れ、鈍い音が響き、肉の断裂音がする。

骨が切断され、神経が吹き飛び、嵐の絶叫が轟く。


 嵐蛇は、全身が筋肉であり、瞬発力持久力ともに優れたパワータイプであったが

豊とマリーゴールドに痛めつけられた所為か、動きが次第に鈍っていく


 いつしか嵐蛇は肉片となり、目の光は失われていく。


「どっせいっ‼」


 振り下ろされた魔鋼の剣は、容赦なく嵐蛇の頭をカチ割り、トドメを刺す。


 それと同時に、荒れ狂う天候は姿を変える。

雲の隙間から一筋の光が差し込み、黒鉄の勇者を眩く照らした。

まるでそれは、天が、勝者を称えるかの様であった。


「おぉ〜こえぇ〜見事なモンだぜ……。嵐蛇を此処まで無残にバラすなんてよぉ」


 さっきまで命だったものが、辺り一面に散らばっている様子を見て

マリーゴールドは飄々と軽口を叩いた。


「ギャリオン助かったよ。僕たちだけではどうにもならなかった」


「はい、間に合ってよかったです。しかしすみません、オレ、此処までバラバラになってしまうとは思いませんで……素材回収は無理かも……」


「仕方ないさ、とにかく村のみんなも無事で助かったし」


「お、心臓は無事だな! 急いて加工しなきゃ〜! あと牙と目玉、後はゴミだな!ほい、ほい、ほい!」


「マリー、何をする気だ?」

「まぁ見てろよ」


 マリーゴールドが素材を剥ぎ、死体を一ヶ所に集めると魔術を唱える。


「贈り物を憎め、発狂せよ、渇望は癒えず、触れたものを改めよ」

【ゴールドタッチ】!


マリーゴールドが嵐蛇の死体に触れると、

それは急激に圧縮され、金の山へと姿を変えた。

「これだけあればしばらくはメシに困らないだろう?ユタカ、楽しみにしてるからな♡」


「はい……」


 二百キロ程の金の山を村に持って帰った後、村人は豊達の帰還を喜んだ。


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