36.人の罪と価値観
「お父さん……!お母さん……やだ……やだ……!助けて……だれか助けて……!だれか……だれか……!」
その夜、治っていた筈のロシィの夜泣きが再発した。
豊はロシィを優しく抱き締め、声をかけるが
彼女は過呼吸とパニックを起こしてしまう
ルルとギャリオンが心配した顔で見つめる事数分
泣き止んだロシィは豊に抱かれてベッドへと向かう
彼女を寝かしつけた豊は己の無力さに打ちひしがれていた
一番の解決策は彼女の両親を見つけ出し住む所を融通し、ごく幸せな家庭に戻してあげる事だがそれを実現させる要素はほぼ無いに等しい。
「今は出来ることをしましょう」
ギャリオンの言う通りである
豊は戦いに備えてもう一眠りする事にした
隣にはまぶたを赤く腫らした少女が静かな寝息を立てていた
夜明け前、豊達は拠点へと向かう
拠点である洞窟は林の中にあり視界が悪く
辺りには岩陰などの隠れる場所も多い
まずは見張りの1人を石を使い物音で誘導
続けて見回りも一撃で沈黙させ
口に猿轡をして木に吊るし自由を奪う
交代に来た3人目を襲い、内部構造と人質の人数、団員の総数を聞き出す
その際に盗賊を骨折させ、ヒールで治したあと縛り上げる
人質はどこから集めたのか15人もいるらしい、配置は各部屋通路毎に2人
豊とギャリオンが石を同時に投げ2人同時に倒し
丁寧に猿轡をして縛り上げ
それを何度か繰り返しながら進むと
洞窟の一番奥で話し声が聞こえた
「ーーっ!!ーーっ!!」
「ずるいぜアニキ……早く使っておれにも回してくださいよぉ……」
「まてまて慌てるなって、商品の味見も商人の大事な仕事だからよぉ!丁寧に扱ってやらないとなぁ!グフフ」
「ああ、もう見てるだけで出ちゃいそうだよアニキぃ!はやくぅ!」
次の瞬間
親玉らしき人物の周りにいた2人の盗賊が
頭を石で撃たれて吹き飛んだ
「そこまでだこの下衆野郎が」
裸にひん剥かれて盗賊のしつこいヒルの様な準備を受けていた女性を見た瞬間に
豊とギャリオンの怒りは沸点に達していた
もしコレが事遅ければ親玉の頭は石で貫かれていた事だろう
「だ、誰だ貴様ら!よくもおれの子分をやりやがったな!」
下半身丸出しの親玉が素早くズボンを直して武器を取ろうとしたその時
焦ったせいかズボンの裾を踏みそのまま盛大にすっ転んだ
「あわわわ……まて!待ってくれ!せめてズボンを……あっ!あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
人質の村娘を全員解放し
ひん剥かれていた娘にはあらかじめ用意しておいた衣服と布を渡した
幸い村娘は全員無事であった
丹念な準備を受けた村娘は気の毒だったが
最後の一線は守る事が出来た
「みなさん、無事でよかったです、私はギルドよりみなさんの救出を承ったフォルトゥナ教団の豊と申し……うわーっ!!」
村娘は豊を踏みつけギャリオンの元に駆け寄る
「ありがとうございます!戦士様!」
「私、怖かったです!どうか抱き締めてくださいまし!」
「ずるいわ!私だって!」
村娘達は豊に目もくれずギャリオンのハンサム力の虜となった
「悲しいなぁ」
自慢の鎧に足跡まで作られた豊は
少しばかり盗賊の親玉に怒りを向けた
「痛いっ!!!」
軽い平手打ちが炸裂した
「お前達にはかなりの罪状が積まれている、普通に考えたら死ぬまで強制労働か死刑は免れないだろう」
「そんな!どうかお慈悲を!せめて子分達は許してやってください!」
「お前らそんな自分の都合で言えた立場じゃないだろうが、一体今まで何人無関係の人間を殺めたか分かってるのか!更には人々を誘拐して奴隷にするなんて以ての外だ!」
「ごしゅじんさま、この人……」
ボスの顔を確認したロシィの顔が徐々に険しくなる
「私達を……!村を……!」
彼女の指差す先には2匹の蛇が絡みついた刺青があった
ロシィの脳裏に、あの日起こった惨劇が幾度も繰り返しよみがえる。その手は怒りと悲しみに震え、剣を取った。それを豊の手が遮る。
「ロシィ、待ってくれ」
ゆっくりと話しかける豊であったが彼女の眼には怒りしか映っていない
主人を押し退け、フラフラとした足取りで親玉の前に立つと飛び出す。
「うぅーーーーーーーーっ!」
彼女が素早く短剣を抜き
親玉の頭を割ろうとした剣を豊は止めた。
ロシィの気持ちはわかる
だが豊は彼女の為を思い、打算的になった。
ここで親玉が死ねばロシィの両親に辿り着く術は完全に失ってしまう。
「ごしゅじんさまっ……私は……私は……!お父さん……お母さん……!うっ……うっ……ひぐっ……!」
力が抜け、短剣が地面に突き刺さる。
豊はロシィを抱きしめると何度も何度も言葉をかけた
それは彼女が落ち着きを取り戻すまで続けられ、しばらくの時が過ぎた
「ロシィ、僕に任せてくれるね?」
「……はい……」
空気を弾く様な炸裂音が響き
気迫によって髪を逆立て、豊は凄みを露わにする。
彼が誰かの為に怒りを燃やす時
それは五感すべてを震わす恐怖へと繋がる。
「何処で人を誘拐して何処に売ったのか吐け」
首が吹き飛ぶ様な平手打ちを喰らい
既に息も絶え絶えな親玉は答える
「ウチの子分に売買の記録を取るのを趣味にしてる奴がいる、そいつの帳簿にはおおよそ何処で狩りをしたか、何処の商人に売ったかの記録が残っているはずだ……おい……!」
親玉は首で手下に合図を送ると、1人の男が声を上げた。
「へ、へい、あっしです!」
指名された手下の持ち物を探ると
その帳簿には確かに誘拐した村の場所と日時
売った商人の情報が記されていた。
「この情報は確かなんだな?」
豊の放つ迫力にビビりまくる手下は、ただ首を縦に降るだけで声は出さなかった
下手なことを言えば殺されると思ったのだ
「わかった」
豊はロシィを抱きあげた
「ご両親を探そう、ロシィ」
「ごしゅじんさまっ……!」
遠くから足音が聞こえる。
その足先は此方へ向けられている様だ
多くの気配に、引き続き空気が張り詰める。
程なくしてその足音の主達は豊達のもとへと辿り着き、揃って足を止めたのであった。
「全体!止まれ!」
足音を響かせながら、騎馬の団体が目の前に現れ、1人の男が名乗りを上げた。
「馬上より失礼する!我はギルダム王国、白竜騎士団団長!ギース・マカダミアンである!」
「私はフォルトゥナ教団長ユタカ、王国の騎士様がこんな田舎に何用ですか」
名乗ったギースは馬から降りて豊と対面する
「我々は王直属の名により、ここいら一帯を荒らし回っている盗賊団の討伐のために参上した。フォルトゥナ教団長ユタカ殿、お噂は予々……」
豊へと向けられた視線は時折、拘束された盗賊団へと向けられている。この時点で豊にはある程度推測が浮かんでいたが、絞り込む事までは出来ていなかった。
「見ての通り私達フォルトゥナ教団により盗賊団は捕らえました、全員生きています。処分の方法は国の意向に任せようと考えております。」
【死人が出ていない】という一点にギースは驚きを露わにした。本来盗賊団の討伐で被害を0に抑えるというのは、戦力差が余程なくては成し得ない結果だからだ。
「なんという手際の良さ、盗賊団を誰一人殺さずに捕らえるとは……貴殿らの女神様は嘸かし慈悲深いお方なのでしょう………いや、お気に障りましたら失礼」
騎士団が現れたタイミングに疑問を持ちながらも
その真意を見抜くまでには至らなかった。
「しかし、この数の罪人を率いて牢獄の存在する大きな拠点まで向かうのは非常に骨がおれる事でしょう。よろしければ、私どもがここで盗賊団の連行を引き継ぎます。手続き等の手間もこちらにお任せください」
「頼めるならばよろしくお願い致します。」
「承りました……」
まるでこうなる事を待っていたかのような手際の良さ。これによって疑問は確信にひとつ近く。
「この依頼はギルドに別案件で盗賊団の討伐依頼と行方不明である村娘の捜索依頼なども存在しています。今回我々教団に直接依頼があった分の報酬は発生しませんし村の人々は私達の存在を知っては居ましたが盗賊団を取り押さえた現場は目撃した訳ではない、つまり組合及び、国にはどの様な報告も可能ではありませんか?」
「流石は人類の救済を掲げているだけはありますね……確かに可能ではありますが我々はそんなに安い立場ではない、そんな報酬など……」
「ギルダム王国は年々その国力を落としてる。今国には野党や傭兵崩れが溢れ、秩序は乱れ始めている。信頼の回復は国益に直結する。」
「そこまでわかっているなら是非ともこの事はご内密にお願い致します。国としても今、必要なのは力の誇示とそれによる秩序の回復。我が軍が例え一つでも盗賊団を壊滅させたとなれば効果は少なかれど多少悪い虫を牽制する事はできます故……どうか……」
「わかっては居ましたが状況は芳しくなさそうですね……」
「はい……」
国の抱えている問題を、いち冒険者がまとめて解決したとなれば国の信頼は下り坂となるだろう。
それを情報操作で回避するのもひとつの政治方針と言えなくも無い。
民草に要らぬ心労を掛けても国は改善しないものだ。
「私の望みは人々の救済です、貴方方にとっては面白くないかもしれませんが教団は望まれれば救済に伺います、気に留めておいてください……」
「……全軍!盗賊団を連行し城に帰還する!!ゆくぞ!!」
騎士団は盗賊団を連行し、その場を去っていった




