34.ジェネイラの名工
レーヌという少女に連れられ
彼女の祖父が経営している武具店にやってきた豊達は
話通りの業物の数々を目の当たりにした
「ウチは昔からこの作り方なの、すごいでしょ!おじいちゃんの剣は!」
「確かにすごい……鉄の密度が尋常ではないぞ……コレは、鋼か……この国に鋼鉄を作る技術があったのか」
「鋼を知っているとはお主この国の者ではないな……」
豊達を鋭い視線で見定める老人
「俺は鍛冶職人のダルダニアスだ、よろしくな」
店の奥から現れた老人はドワーフにも似たたくましい身体付きであった
豊のいた世界で鋼の発明は紀元前1400年と考えられているが
その技法は長い間秘匿とされ、その製造難しさから
長い事大量生産は出来なかった。
しかし、この異世界では剣を作る程の大量の鋼を作る技術が一部に伝わっていた
「鋼は俺のいたエイジミアから伝わった技法だ、この国では俺と、孫のレーヌしか技術者は存在しない」
「ごしゅじんさま、はがねってなぁに?」
豊はロシィの素直な質問に答える。
「鋼とは鉄に別の金属を混ぜ合わせた合金と呼ばれるものの一種だよ、加工性、強度に優れているがその製造には高い技術が必要とされているんだ。」
ダルタニアスは豊が鋼を知っていることに気をよくしたようだ。
「コレは俺しか知らない分量で鉄に魔鉱石を練り込んだ独自の合金だ、斬れ味は落ちず剣の腕さえあれば石の魔獣だって斬ることが出来る代物よ。まぁ、流石に過度な負荷を掛ければ壊れるがな。」
「石の魔獣すら……」
ギャリオンはその話を聞き、明らかに高揚している。
男とは強さの象徴である武器に惹きつけられる運命にあるのだ。
しかし、その名剣について豊には疑問がわいた。
「あの……何故この様な技術がありながらジェネイラの人々はこの店を知らないのですか?僕なら鋼を作れるこの店を真っ先に訪れます。」
ダルタニアスは大きなため息を吐いたあと、煙管に火をつけ遠い目をする。
「ウチの武具をちゃんと扱える奴が居ないからだよ、何度か大会には出たが誰一人ウチの武具の力を引き出した奴はいなかった、だから名が知れ渡らないのさ」
レーヌは店の中に飾られた武器たちを指して言う。
「おじいちゃんの剣は強くて頑丈だし斬れ味も抜群よ!でも大会で負けるとみんなは武具の所為にする……私悔しくて……ぐずっ……!」
「あの……ユタカさん、オレ……」
「ギャリオン、君の好きにしたらいいよ」
「……!……お爺さん、オレにその剣、預けてみませんか?」
ギャリオンがジェネイラ武具大会に出場する事になって大会までの間
豊達はしばらく滞在する事となる
その間フォルトゥナ教団は街を観光するのと同時に救済活動も行なっていた
幸い他の地程深刻な状態ではなく
怪我人や病人を治療し
食料の支援をする事で街の状態は安定した
そして武具大会当日
集う腕自慢達、飛び交う歓声、響く鉄のぶつかる音
会場は訪れた人々の熱気に包まれていた
いつもと変わらぬ様子のギャリオンを送り出し、豊達は観客席で見守る事となる
パーティとはいえバトルサーベルライガー変異種を倒しているギャリオンに勝てる相手がいるはずもなく、順調に勝ち進んで行き
辺りにはハズレの賭け札が散乱した
豊はギャリオンにガッツリと賭けたのでかなりの額を儲けた
あらかじめ、ギャリオンには余裕過ぎない程度に手加減をする様にいってある
相手の力を最大限にまで引き出し
自分も高めながら勝利を進める
流石に決勝戦は全力で挑んだ
相手は前大会の優勝者
巨大な大剣を振り回しギャリオンを追い込んでいくが次の瞬間
ギャリオンの怪力から放たれる鋼の一撃は
竜巻を呼び込んだかの様な破壊力を持ち、対戦者の鎧を粉々に打ち砕いた
今まで手加減をしていた分
力を一気に解放したギャリオンに
会場中から盛大な拍手が送られる
勝利者に魔導拡声器を持った主催者側の人間が駆け寄るとインタビューを始めた
「前大会優勝者をこうもあっさりと倒されとは本当に見事でした」
「いえ、この武具がオレの力を十二分に引き出してくれた結果です、ダルダニアスさんは名工です、店名は名工の穴蔵、武具通りの一番奥でお待ちしております。」
「完璧な支援者広告ありがとうございます、大会には各地の貴族や大商人も訪れておりギャリオン選手の腕を見込んで多数の個人、団体から申し出があると思われますが如何ですか?」
「オレは今現在フォルトゥナ教団に所属して居ますので申し訳ないですがご期待には応えられません」
「中には既に国からのスカウトも主催側を通じてありましたが、それ程にフォルトゥナ教団には魅力が?」
「はい、フォルトゥナ教団は決して見返りを求めず、勧誘せず、権力に媚びず、力に溺れずとのしっかりとした理念があります。人々の救済を一番に考え、世の中を良くしようという団体です」
「流石噂に名高いフォルトゥナ教団ですね」
「皆様、力というものは大きくなるとそれを利用しようとするものが必ず現れます。今後我が教団の名を騙り悪さを働く者が必ず現れます!ですが我々教団は人々を救う事を目的としています!弱き者に金銭を要求したり、高価な物を売りつけたりは絶対に致しません!我々の目的は人々の救済です!見返りは求めません!助けが必要な方は手を差し伸べてください!全てを救う事は今の教団の規模では難しいですが必ず、必ず救済に現れます!」
ギャリオンのマイクパフォーマンスは終わった、仕込みは勿論豊である
この演出は今後教団を悪事に利用しようとする輩に人々が騙されぬ様考え出されたものである
見返りを求めず徹底した救済の現在
教団の名を騙る事にはなんのメリットもないが
後から勝手な事を付け加えられ利用される事も考慮している
「フォルトゥナ教団は見返りを求めず、布教せず、権力に屈しず、力に溺れず、振りかざさず」
この大前提は吟遊詩人にも歌にされ各地を駆け巡る事となる
助けが必要な場合は冒険者ギルドを窓口にする様にも手回しをしておいた
この一件でフォルトゥナ教団の名前は更広い範囲で広がる事となる




