113. リフォーガの村②
隠密用の黒いマントに身を包んだ豊は、村の女達の後をつけていた。
彼女達の目的地はやはり娼館。十数人が続々と中に入っていく。
しばらく待つと、更に十数人が娼館へと入っていく。建物自体はそれ程大きくないにも関わらず、さっきから人が入る一方で、人が出てくる気配が無い。
「(中で一体何が……)」
覚悟を決めて豊が娼館に入ると、中はこじんまりとしたテーブルと椅子複数備えられただけの空間であった。娼館というには設備が余りにも少ない。一般的な飲み屋であったとしても、不足している程度の数だ。
「(誰もいない……?)」
豊が内部を探索すると、その過程で、燭台のひとつが稼働する事に気が付いた。試しに捻ってみると、細工が起動したのか、酒の入った棚が大きくスライドし、地下への階段が現れた。
「(なるほど……彼女達はこの下か……)」
深く、長い階段を降りていくと、通路に差し掛かり、道なりに進んでゆく。奥から何やら話し声が聴こえる。しばし歩くと広い空間に出た。豊は素早く、その場に雑多に積んであった荷物の陰に姿を隠す。
其処には、複数の女達から乱暴を受けている男達の姿があった。
「助けてくれぇ! もう無理だよ!」
「無理って言っても勃たせるんだよ!」
「助けてくれ‼ うわぁああぁあっ‼」
鞭を打たれ、薬を盛られながら、複数の美女達に代わる代わる乱暴を受ける男達。中には悲鳴を上げつつも、恍惚とした顔をする人も居たが、女性達による積極性に窶れ細り、大体の男が既に虫の息である。
よく見ると奥には一人の男性が、何かの像に祈りを捧げ、何やら薬品の実験を行っている様であった。豊は聞き耳をたてる。
「完成したぞ……我が野望を果たす霊薬が……。コレでワシも……ふふふ……はーっはっはっは! はっはっは! ゲホッ! ゴホッ! ゴホッ! 時間がないが霊薬はふたつ出来た……後は実験だな……」
「(どうやら、アレが黒幕らしいな……)」
「隠れてないで出てきたらどうかね、招かれざる客よ」
「(……あれ? バレてる?)」
「膨大な魔力の気配だ、いくら身を隠そうとも、この場に足を踏み入れた時点で、お前の存在は感知していたのだよ……」
「お見通しって訳ですか……」
豊が諦めて姿を見せると、男はやはりな、といった顔を見せた。対峙して初めてわかったが、男性はかなりの年寄りで、真っ白な頭に曲がった腰、杖を使わねば支えられぬ程弱々しい老人であった。しかし、一目でわかるその顔の造形は、且つて、相当な美貌を持っていたと想像に難くない。
「折角手を出さないでおいたのに、自らこの場所へ足を踏み入れるとは、探究心は身を滅ぼす事になるぞ若造……」
「そうかな、探究心あっての向上、成長だと僕は思うな。ところで何の実験をしていたのですかね?」
「ふふふ、お前に話した所で理解は出来まい。ワシの崇高なる理想はな……」
「この村に美女が多い事に、関係があるのかな?」
「ほう、なかなかに賢しいではないか、名を名乗れ小僧」
「僕はフォルトゥナ教団団長、ユタカ。人は紅の救世主と呼ぶ」
「ふむ……お前が噂に聞く、紅の救世主……」
「以後お見知り置きを」
「まぁ、よい。話をしてやろう。ワシの名はナオーン。ナオーン・ライク・ギャルビッチだ」
「嘘でしょ……? なんてすごいインパクトなんだ……!」
「ワシの名ひとつでこの狼狽えよう……流石に名を馳せ過ぎたか……」
【ナオーン・ライク・ギャルビッチ】
ロビエト、ヴァマルドではその名を知らぬ者は居ない。
歴史上名高い、魔術研究家である。
彼は先祖代々、人々の長寿や健康を守る研究を行っていた。とは言っても第一の目的は、権力者を長寿にし、その力を長く繁栄させる為の研究であった。
その七代目にあたる。彼は実に天才であった。今まで先祖が成し得なかった魔術を体得し、彼の功績で人々の平均寿命は、十歳は増えたとされていた。
しかし、その天才とは裏腹に、彼の趣向は人のそれとは逸脱していた。美しいものを好み、自分自身も美しくあろうと努力を惜しまない。特に美しい少女を愛し、いつも側には選りすぐりの美少女が控えていた。
その中でも特にお気に入りだったのが、落ちぶれた貴族から買った娘。
【ディアナ】であった。
毎日の様に自らで手入れを施し、愛情と情熱を注いだ。
いつしか彼は美少女好きが転じて、自らも美少女になろうと研究を始める。周りはそんな彼を見て見ぬ振りをした。
「彼は天才だから、我々の様な凡人には理解出来ない事をしているのだろう」
と、誰も気に留めていなかった。
しかし、事件は起きた。
ナオーンはあれ程手塩にかけたディアナを、あろう事か、一時の激情に任せて壊してしまったのだ。
「彼女の美しい瞬間をもっと見たかったんだ。私は絶頂を迎えるディアナが何よりも美しく思い、好きだった。恋していた。愛していたのだ!」
絶望と失意の中、彼はそう言い残して姿を消し、そして、数十年の時が流れた。
「ワシの願いはようやく叶う」
「僕も美少女は大好きだけど、アンタはちょっと度が過ぎると思うよ」
「ワシは! ディアナの様な、可憐で美しい、誰もが羨む、史上最高の美少女になるのだ!」
豊は必死になって「やべぇ~、コイツ」という言葉を飲み込む。
「それで、この村を実験に使ったと?」
「そうだ、過程として女を美しく変化させ、保つ研究が必要だったのだ。皆が歓喜した、村はワシの作った花の石鹸などで潤った。村人全てがワシに感謝しておる」
「代わりに村から、男が居なくなったんだろう?」
「若い状態を常に保つには、男の精気が必要不可欠。美しさに溺れた女は恐ろしいものよな……カカカ! 例え少年であろうと精の歳となれば……程々には抑えられぬ」
「老人に見えた人々は、単純に精を奪われた若者だったという訳だな……。得たものもあったが失ったものも大きい、か……それで、この後はどうするつもりだ?この様な現状を知った今、僕は人々を見過ごしたりはしないぞ!」
「研究は最終段階に入っている。後はこの薬を男に試し、成功すれば終わりだ」
「男って言ったら……」
【し~~ん……】
女性に弄ばれていた男性達は既に皆、虫の息であった。
「あれ? 今は僕しか居ないのでは?」
「かかれ」
ナオーンの合図と共に裸の女達が、一斉に豊を取り囲み押さえつけた。
「皆さん! 正気に戻って! あっ! 其処はいけません! やめてぇ!」
若い女達がわらわらと豊に群がる。
「救世主様ったら、可愛い声あげちゃって……あぁ……乱暴したくなっちゃう……♡」
「なんて逞しい肉体なの……! こんなの食べなきゃ失礼じゃない⁉」
「フーッ! フーッ! いい男! 犯す‼」
中には明らかに正気を失った女性も居たが、豊は抵抗できずにいた。
「しっかり抑えておけよ。最高の実験体なのだからな……!」
美しい裸の女性が、豊の全身を柔肌で抑えつける。下手に抵抗すれば、彼女達を傷付けてしまう。時魔術を使おうにも、目の前のたわわな実りが思考を奪う。
「あっ! あっ〜! 助けてぇ〜ゴボゴボッ!」
声を上げるのと同時に口へ薬が流し込まれた
「ごくっ……ごくっ……ごくっ! うわぁぁぁぁぁぁぁ! まっ!不味い! 不味い不味い不味い! 不味過ぎて意味がわからないよ!」
豊が薬を飲み干したと同時に、ロシィ達がその場に駆けつける。
「カカカ! 救世主の仲間か、遅かったな」
女達に抑え付けられ、苦しむ豊を目にしたロシィとユピスが怒りを露わにする。
即座に女たちを跳ね除け、ロシィが豊の身体を支える。
「ユタカに何をした! 事と次第では生かしてはおかんぞ!!」
「ごしゅじんさま! しっかりして!」
「ユタカ様! お気を確かに!」
「ユタカ様ぁ……!」
「あばばばばばっ……! 不味い! 不味い! 不味い!」
仲間たちの声は届かず、豊の身体を跳ね、仰け反り、苦しみながら床を這い回る。
「(身体中が熱い……骨が溶けているみたいだ……!)」
「なんてこった……! この苦しみ方は異常だぜ……!」
「ユ……ユタカ様……!しっかり……!」
豊の全身から蒸気が一気に噴き出した。蒸気は辺りを包み込み視界を奪う。驚いた女達はその場から離れると、しばらくして蒸気は収まった。
「あぁ〜! 不味かった……! 一体何を入れたらあんな不味い薬が出来るんだよ……! 早く口直ししないと死んじゃうよ~!」
蒸気の中から現れた豊は、皆がよく知っている彼ではなかった。
「ユタカ、お前……」
「あわわわ……」
「みんな! もう二時間経ったのか……僕は無事だ、一気に奴を倒すぞ!」
「「全然無事じゃない!!」」
「美少女薬の完成じゃあーーッ!」
豊の姿を見たナオーンが、狂喜の絶叫をあげた。
美しく、毛量の多いバッチリの睫毛と宝石の様な紅い瞳。透き通るシルクの様な美しさのエアインテークと神々しい金髪の縦ロール。頭より遥かに大きな張りのある胸。勤労意欲をそそるしっかりとした腰つきと、まるで桃の様な丸くて大きなお尻。肉付きの良い鍛え上げられた筋肉質なふとももに、小さくて可愛らしい足先。声は張りがありながらもよく通る。どんな属性の美少女でも再現が可能な、七色の美少女ボイス。究極完全な美少女がそこにはあった。
「な、なんじゃこりぁぁぁぁぁぁ!」
豊の姿は完全に美少女と化していた。




