112. リフォーガの村①
妖精族が住む集落へと向かう途中で魔装車に異変が起きた。
経年劣化の所為か、配線に不備が生じ、速度が上がらなくなってしまったのだ。今は応急処置で保たせてはいるが、このままにする訳にはいかない。
だが現在地は広い風景がただただ続くだけの平坦な道、予備の部品は積んでいるが、腰を落ち着けて修理など望めるはずもなかった。そう考えながら時速十キロメートルまで制限された魔装車に乗りながら道を行くと、近くに小さな村を発見した。
予定していたルートからは外れてしまうが背に腹はかえられない。豊達は一旦その村に向かう事にした。村の入り口にある大きな看板には、
「ようこそ! リフォーガ村へ!」
と書かれている。
「リフォーガは花を使った香水や蜜蝋燭、石鹸などを作って生業にしている村だと聞いたことがある。私の知り合いが良く取り寄せていた」
「確かに辺りから、甘い花の匂いがプンプンしてくるぜ……。俺はこういうの苦手なんだよなぁ……お貴族様が付けてるキツイ香水を思い出しちまう」
「花の……匂い……好き……!」
「ロシィも大好き!!」
「花が安定して育つという事は、地形や気候に恵まれているんだろうな……。農作物との比率を考えるに、産業として成立しているという事は、上手くいっている証拠だ。この村では救済は必要ないかもしれない」
それぞれが感想を述べる中、第一村人を発見した。
「ここはリフォーガ村だよ、アンタら旅人かね?」
「はい、乗り物の調子が悪くて困っているのですが、この村に宿屋はありますか?」
「この村は丁度、大きな街の中間地点だからね。小さいながらも宿屋に酒場、雑貨屋だってあるよ。たくさん金を落としていっておくれ」
随分と正直な女性に道を聞き、村の中へと進んでゆく。途中入り組んだ道があったりして、たまたま通りかかった女性に道を、聞いたりしながら進む事しばらく、村で唯一の宿屋兼酒場にやってきた。
宿屋の前には雑貨屋がある。看板娘のお嬢さんが元気な声で、本日入荷の商品をお勧めしている。その隣にはパン屋があり、少し離れたその隣には男顔負けの力技で金槌を振るい、鍋を修理する金物屋の女主人。
食料露店もいくつか並んでいて、鹿や猪の肉を目の前でソーセージに加工するお姉さんや、色取り取りの様々な野菜を扱う人妻。川魚を売るおばあさんに、大きな籠に入った果物を売る少女。
村の丁度中央に位置するこの広場は、村で一番賑わいを見せる場所であった。
豊たちは、馬小屋の横を駐車スペースとして借り、魔装車が修理出来るまで、この村に滞在する事となった。宿屋の女主人は威勢の良く、親近感が湧く女性であった。
「久しぶりの団体客だ、たっぷりとサービスしないとねぇ! ウチの料理をジャンジャン頼んで、村を潤しておくれよ!」
「はっはっは、どうやらここの村の皆さんは、正直な方多いようですね……」
「お待ちどう様! エールとぶどう酒に、料理の大皿盛りだよ!」
宿屋兼酒場という事で店は繁盛しているようだ、豊達は魔装車の移動速度がある為、救済と補給以外の目的で、わざわざ村がある度に立ち寄りはしないが、徒歩や馬車で旅をする人達は、こういった村を多く訪れるのが一般的と言える。
大体は少数による行商人や旅人、冒険者などで、豊達の様に団体で、村を訪れる者は少ないという。
酒場では女性従業員が三人、あくせく働いていた。
豊の号令で、皆が料理に手をつける。肉と野菜の炒め物に、トマトソースとチーズをかけた料理は、それなりに美味しかった。
ふとここで豊は、この村に入ってから感じていた不自然な点に気が付いた。
「ところでウェイトレスさん、この村は随分と美人が多いですねぇ」
「あらぁ〜、私ったらそんなに美人かしらぁ〜! 嬉しい事言ってくれるお客さんにはサービスしちゃおうかなぁ〜♡」
「ユタカ! 私とロシィという者がありながら、他の女に目移りとは良い度胸だ! 今夜こそ既成事実を……!!」
「いやぁ〜! 乱暴はやめてぇ〜! 男の人呼んで~!」
「馬鹿者! 乱暴は、お前が私にするんだぞユタカ……! しっかりしろ!」
「はっはっは! いやはや! そうだったね!」
「ごしゅじんさまったらお茶目ね!」
「「はーっはっはっは!」」
何処ぞのコメディーの様に、豊達は食卓を囲みながら、
愉快な時を過ごしたのだった。
「兄さん……フォルトゥナ教団って……思っていたよりも楽しいね」
「みんな変わってるよな」
食事を済ませた後、豊はひとり、村の様子を見て回った。魔装車の修理をしている際に、通りかかった旅の商人が、リフォーガ村には娼館があると話をしていたのだ。
別に豊の目的は女ではない。如何に大きな街を繋ぐ村であっても、こんな小さい規模の村に娼館があるのはおかしかった。そもそもパシリカは多種族多宗教国家。
豊の様なヒューマンの割合は二割を下回る。
この世界は成人向け作品の様に、オークがエルフを陵辱する様な伝統は無く、美的感覚では種族を跨いで種を残す様な事はない。環境や境遇による恋愛は少なからずあるが、以前出会ったリザードマンたちの様に、共通する趣向はあるものの、基本はその種族同士の好みが存在している。
娼館があるならば、全種族まではいかずとも、パシリカのおいて総数が多い、オークやアニマ、リザードマン族などの娼婦がいるはずだが、この村にはヒューマンしかいない。考えれば考えるほど要素が集まり、謎が深まっていくばかりであった。
豊が思いを馳せていると、目の前には煌びやかな装飾と、怪しく光る照明の建物を発見した。建物自体はそれ程大きくないが、美女に誘われ、次々と男性客が入っていく。
一旦報告する為、豊は宿に戻る。
「みんなも気が付いたとは思うが、リフォーガ村は不自然だ」
「確かにこの村はおかしい、村を訪れている他所者の男は居るが、この村に住んでいる男が全然見当たらない」
「そう言われてみれば男の人少ないよねぇ……。杖ついたおじいちゃんはたくさんいるみたいだけど……」
豊達の発言に対してクウェルが意見する。
「そりゃあ、若い男達は出稼ぎに出ているとか、徴兵されてるとかじゃないのか?」
「それにしても……子供が……いないのは……おかしい……よ」
「それと、この村の女性は【美し過ぎる】色々な土地を見てきたけど、リフォーガ村は不自然だ。如何に食料が安定して得られたとしても、皆肌と髪の美しさが村人のそれを遥かに超えている」
それが豊の感じた違和感の正体。村一番の美人なら一人いてもおかしくはないが、種類は違えど女全員が都市一番クラスの美人なのだ。
「何か秘密の美容法があるに違いないな……!」
「絶対違うな、そうじゃないな」
ユピスへのツッコミが炸裂したところで、
拭えない違和感を抱えながらも、全員はとこについた。
その夜、ふと目を覚ました豊が便所で用を足していると、
宿に自分達以外の気配が無い事に気が付いた。
「みんな、様子がおかしい」
即座に皆を起こし状況の把握をする。宿の窓から外を見渡すと、村の女達が揃って何処かへ向かっているのが見えた。
「一体何があったのですかユタカ様」
「……まだ……真夜中……だよ……」
「こんな時間にお散歩かなぁ?」
「まさかこれが美容の秘密では……」
「そうじゃないだろう、だが、様子からしてただ事ではない事がわかる」
豊は四人にいつでも戦える準備をさせて待機を支持し、正確な村の全体図を
描き下ろした。
「二時間以内に戻る。そうでなければみんなでこの地図にある娼館を叩いてくれ、此処に村の秘密があるはずだ」
「「了解」」




