108. 再び!救世主育成計画!
豊がフエール・ボルリッチから譲り受けた奴隷の兄妹。
活発な兄がクウェル十二歳。引っ込み思案な妹がイリス九歳。
二人とも赤みがかった髪色に、青い瞳をしている。
これらは、ヴァマルドの一般的な特徴である。
「紅の救世主様、この度は私達兄妹を、劣悪な環境下からお救いくださり、ありがとうございます! 先日は失礼な態度、謝罪します!」
兄、クウェルが見事な土下座を見せている。先日の態度を改めて謝罪している様であった。初め、救世主に対し、敵対心の様な感情を持ち合わせていた彼だが、自分はともかくとして、不出来な妹まで正式に買い上げる行為に、恩義を感じていた。吟遊詩人の奏でる歌を疎ましく思っていた彼ではあるが、いざ、自分たちの手が救い上げられたとなれば、その英雄歌が真実であると、希望を見出していた。
「私……からも……お礼……申し上げ……ます……!!」
吃音症を患っている妹、イリスも深々と頭を下げ豊に礼を言った。彼女の人生は生まれてから、兄の後ろで怯えて過ごす事しかなかった。しかし、今精一杯の覇気を込め、目の前に現れた救世主に見初めてもらおうと、自分を奮い立たせた。
「二人とも、手を差し伸べるのが遅くなって済まない。今は、この瞬間だけは、世の中の憂いを全て下ろし、糧を受け入れてほしい。それと、これはもう……!必要ない……!」
豊はその場で足枷を捻じ切り、破壊した。
「そ、そんな……【束縛の足枷】を素手で……!」
「す、すごい……!」
長年ふたりを縛り、苦しめ続けた【束縛の足枷】を引き千切った。本来、契約書を破棄すれば、魔術の効果が切れて解錠されるものなのだが、豊は力を以て、ふたりにこれからの道を示そうとしたのである。どんな困難があろうとも、自身の強さで跳ね除けて生きてゆく。この生き様を示したかったのだ。
「この足枷はふたりを苦しめた。今度は僕という存在が、君達を苦しめるかもしれない。通常ではない生き方を示し、視野を奪うかもしれない。でも、信じてほしい……君達を救うという、僕の意志と決意を……!」
ふたりは差し出された手を取り、自身に訪れた奇跡を噛みしめた。
いつもの様に二人を風呂に入れ、着替えを渡し、飯を食わせてから、レベル申請を行う。兄クウェルは、長い力仕事によりそれなりの筋力が備わっており、豊は彼を前衛向きと判断した。
一方、妹イリスには魔術の適性が存在しており、申請担当の受付嬢も驚いていた
属性は風と水という珍しい組み合わせだそうだ。年頃という事で、彼女の面倒はしばらくの間、ロシィが見る事となる。
レベル申請を済ませ、二人に改めて今後の在り方を話す。
今後豊は、二人が自立するまで鍛えるが、その代わりとして、フォルトゥナ教団出身の救世主として、人類の救済に貢献してもらう。という都度を話した。
「言ってみれば、君たち兄妹の様に奴隷として酷使されている人々を、正式な手続きを経て買取、その人々を自立できる様になるまで鍛えてもらうのが僕の考えだ」
「わかりました!」
「わか……り、まし、た!」
紅の救世主から繰り出された言葉は、二人の考えていた想定を大きく超えていた。よもや、自分たちが救世主となって世界を救う手助けをすることになるとは、夢にも思っていなかったのだ。しかし、気分はよかった。食事もろくに出来ず、人権を奪われ、搾取される人生が一転した。この真実さえあれば、このふたりは何処までも強くなれる。そう確信をしていた。
「しかし今、僕達は先を急ぐ身でもある。多少厳しくはなるが、移動をしながら二人を鍛えていく事になるから、ある程度は覚悟してほしい。とは言っても食事も寝床も教育も、僕が責任をもって与えるから安心してくれ」
ふたりは救世主の手厚い庇護に感謝を告げる。
こうして新しい仲間クウェルとイリスを加え、一行はリパランスへと向かった。
リパランスで豊がアニス・ボルリッチと共に、魔装艦の接続設定をしている間、ロシィとユピスに兄妹の指導を任せた。
ロシィは剣術をクウェルに、ユピスは魔術の基本をイリスに、それぞれ基礎を教え込んでいた。
「なんで! こんな小さい女の子相手に、こうもあっさりやられるんだ⁉」
「クウェルちゃん筋がいいよ! がんばれがんばれ」
豊と二年近く鍛えたロシィの実力は、既に最上級の剣士に匹敵するレベルにまで達していた。木剣を使い模擬戦を行うが、クウェルは攻撃をかすめる事も出来ない。縦横無尽に飛び回るロシィを、クウェルは信じられないものを見ている様な心境で眺めていた。
一方ユピスは魔術の発動と魔力の流れを教えていた。イリスは要領が悪いと言われていたが、単純な作業に向かなかっただけで、魔術のコツや要領を掴むのは飛び抜けて才能があった。一時間でイリスは風と水の魔術を使い、手のひらで小さな竜巻を起こすまでに至った。
「やや……この娘、稀代の大魔術師になるやもしれんぞ……」
しかし、才能はあっても基礎魔力がまだまだ低いため、ユピスの言う大魔術師までは遠い様な気がしてきた。しばらくイリスは魔力総量を増やす特訓をする事になるだろう。三時間の特訓を終え、豊が魔装艦の接続作業から帰ってきた。魔装車の改造により多少手順が変わった為、時間がかかったとの事だ。
一行は宿に行き、汗を流す。リパランスで一番の宿には大浴場が設置されており、旅の疲れを癒した。
男女で仕切られた壁の向こうから、女性達の戯れる声が聞こえてくる。
「ロシィ、私の胸はそんなに好きなのか? この胸はもうユタカのものなのだから丁寧に扱ってくれよ?」
「ふわふわ〜たぷたぷ〜♡」
「ロシィ……ちゃん……気持ち、よさそう……」
「イリスももっとこっちに来い、ほら、触ってもいいぞ?」
「わぁ……重たい……!大きい……!」
不自然な光と湯気が、彼女達のチャームポイントを厳重に隠し、世界の境界線を超え、「不自然な湯気と光消えてくれ」という叫びが聞こえる様な、素晴らしい光景がそこにはあった。
「肩は凝るが、ユタカは毎日チラチラとスケベな視線を送ってくるからな、初めて大きな胸を良しとしたものだ」
「わかる。ごしゅじんさまは毎日スケベな視線でユピスちゃんを見てる」
「ユタカ、さま、は男性として……たくましい、だけ、かも……?」
イリスが精一杯のフォローを入れるも、虚しく一刀両断されてしまう
「いや、アレは単なるスケベだな」
「うん、スケベだよ」
「お前ら! 聞こえてるぞ!」
仕切りがあるとはいえ、浴場の空間は繋がっているうえに良く響く。不特定多数を巻き込み、豊がスケベであると広く知れ渡ってしまった。英雄色を好むとはよく言うが、その水準を軽く超えてしまっている。とても、居心地が悪い。
「聞こえる様に言ったんだ、スケベの救世主」
「酷くない? その呼び方。不名誉もいいとこだよ。それだとスケベを救う人みたいになっちゃうし!」
「悔しかったら早く手を出してみろ」
「それはダメ! ごしゅじんさまはロシィとケッコンするの!」
「私はロシィが第一夫人で構わんさ」
「なら、よし!」
「いいのか……(困惑)」
アニメなら大サービス回となりうるお風呂シーンを終えて、
一行は食事へと向かった
ユピスは意地でも豊の料理を食べると言うことを聞かないので、仕方なく厨房を借り豊は料理を始めた。リパランスはこの時期、【カイナッツ】と呼ばれる、以前食べ損ねた魚が漁の解禁により、よく取れるとの事で、それを調理した。
鰹によく似ている魚だったので、タタキ、竜田揚げ、カルパッチョ、バターソテー、刺身、酢醤油漬け、甘辛生姜煮などを試してみた。宿の料理人はカイナッツの新しい調理法に感動し、教えを請うた。豊が持ってるサブメニューの調味料が無ければ完全に再現出来ないので、特別な調味料がなくても作れる、甘辛生姜煮のレシピを渡した。
「米、食わずにはいられない!」
ユピスから名言が飛び出し、皆一心不乱に料理を口へ運ぶ。まるでご飯を食べるだけの存在になってしまったかの様な、見事な食べっぷりに、豊は自分の食べる分が無くなることを心配。山盛りのライスを片手に、食事に途中参戦した。クウェルとイリスもライスをお代わりし、何度も感謝を捧げた。
「おいしいよお兄ちゃん……」
「あぁ、生きてるって素晴らしい…」
「おかわり!」
ロシィはおかわり五杯目だ。カイナッツをまるまる一匹平らげ、苦しい腹をさすり上げながら、豊達はそれぞれの部屋で休んだ。
次の日、朝早くから豊達は、リパランスを出港した。約二日に渡る船旅の間
クウェルとイリスを鍛えつつ、豊自身も特訓を決意した。
前回、前々回の戦いにおいて、豊自身にも課題が生まれた。
彼の弱点は【大魔術の発動に時間がかかる】に加えて、
【発動コストの全体容量が少ない】点にある。
以前からマリーゴールドによる指摘を受けていたが、今回の件で明確に浮き彫りになった。ドレイン結界の中では低コストである事が裏目に出た第一の術。多用出来ない第二の術。発動に溜めが必要な第五の術。今は使う事が出来ない第六の術。
これらの改善が今後の課題となる
豊は第五の術、第二派生。【鉄巨人召喚】を常時発動させ、
コストの最大値拡張を図った。豊は彼を呼ぶ時に【鉄巨人】では味気がないとし、【フェルム・コロッサス】と呼ぶ様にした。
【フェルム・コロッサス】には、【怒りの鉄槌】と同等の魔力が必要であり、動かさずとも、顕現させるだけで消耗し続ける。その分、熟練度は上がっていった。
最終目標を【クイックアップ】と【フェルム・コロッサス】の同時発動に定めた。
これを成し遂げれば、超速度と超破壊が可能になり、
戦闘の幅が格段に向上するだろう。
一方、クウェルとイリスは、戦闘スタイルを確立させる為に、様々な武器を試していた。イリスは後衛からの魔術の攻撃と支援。クウェルはイリスを守りながらの前衛。イリスはともかくとして、クウェルは盾職になる事は決定だろう。
しかし、彼は剣のセンスがイマイチであった。長い奴隷生活により、基本的な筋力はある。だが、試しに剣を持たせたところ、どうにも足取りが重い。
思い立ったユピスはクウェルに対し、剣を槍に持ち替えさせた。するとベタ足と踏み込む力で戦う、ヘヴィスピアのスタイルに適性がある事が判り、ユピスが槍を仕込む事になった。ゼストール家には槍の術も存在しているとの事。
そしてイリスはロシィの教えで体術を学ぶ運びとなる。後衛であろうと、如何なる時でも体術は必要になる。最低限、前衛の足を引っ張らない様に、逃げる事位は出来なくてはならない。
船旅の二日間、食事による能力値の底上げと、ヒールによる超回復を利用し、兄妹は一気に成長を果たす。




