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106. 認識の乖離

 食事を終えて宿へと向かった一行は、途中、人々が集まる広場へと足を運んだ。吟遊詩人の一人が、【フォルトゥナの使い第二章】という歌を披露し、周囲の人々から拍手を受けていた。


 この歌は、豊がこの世界に降り立ち、一年程経った頃に作られた歌であり、豊が如何にして村々を救い、人々に救いの手を差し伸べたのかが、調べとして表現されていた。ギルダム国内では既に広まっている歌のひとつである。


「やっぱりこういう話は、多少話が盛られているんだな……」


「事実とは違うのかユタカ?」


「確かに剣牙獣は倒したけど、十匹も居なかったよね。ごしゅじんさま」


「変異体一匹が限界だったなぁ」


「あのモンスターの変異体を倒したのか……。なんと……私ですら苦労する相手だぞ……」


「あの時はギャリオンも居たし」


「ロシィと、ルルちゃんもね!」


「あぁ、そうだな」

 豊はロシィを撫でると、彼女は子猫の様に甘えてすり寄った。人々が吟遊詩人の奏でる音楽と歌に耳を傾けていると、観衆の中から不意に、泥の塊が飛んで来た。


「この嘘つきめ! 救世主なんかいるもんか!」


 吟遊詩人に向かって泥を投げたのは、ひとりの少年であった。彼は粗末な服装に奴隷の印である、【隷属の足枷】をつけていたため、彼が奴隷であると周囲の人々にはすぐにわかった。


 少年はその場に駆け付けた衛兵により取り押さえられた。


「離せよ! 救世主がいるならなんで! 両親から引き離され、憶えの無い罪で俺たちがこれだけ苦しんでいても、助けは来ない!! ちくしょう! 離せぇ!!」


 少年は抵抗も虚しく地面に抑え付けられた。


「手間を掛けさせるな奴隷め! 持ち主は誰だ! 早く答えろ!」


 衛兵の振り上げた拳が少年へと、振りかざされた瞬間、豊が手を取り話に割って入った。


「暴力はいけませんよ衛兵さん」


「な、何をする! お前も仲間か⁉」


 豊は全身を覆うマントを翻した。金と紅をあしらえた鎧が夕日に照らされ神秘的な光を生み出すと、周りの人々は騒めき始める。


「貴方はもしや……!」


「ユタカ、お前は今日休暇のハズだ。余計な事に首を突っ込むな。この地域で奴隷の粗相は犯罪として扱われる」


 ユピスの発言に周囲の人々は、己の疑問を確信へと変え、辺りは豊の出現により騒然となった。


「この地に救世主様が!」


 豊の登場で周囲の観衆は一気に熱気を上げた。吟遊詩人の唄にある様に、紅の救世主がこの地に現れたのだから、当たり前だろう。以前タリアを訪れた時はロシィの両親を探すので手一杯だったため、この地は救済されてはいなかったのだ。


「みたことか……!」


 彼女の声は冷たいが、これがこの世界における、

一般的な奴隷に対する対応なのだろう。


「目の前で子供の奴隷が悪事を働き、衛兵によって取り押さえられ尋問を受けた。それだけの話だ。お前が関わる様な案件ではない」


「いや、行動に移せば必ず仕打ちがあるのは、奴隷ならばわかっている筈。それを省みず行動をとった。と、いうからには彼にも、相応の事情があるに違いない」


 豊は少年を擁護するが、それに対して背後から反論があった。

「いいえ、奴隷風情にその様な考えはございませぬぞ」


 そこに現れたのは奴隷少年の持ち主を名乗るひとりの商人であった。

「皆様、私の所有物がお騒がせし、大変失礼を致しました」


 吟遊詩人に頭を下げ、謝礼として金銭を握らせると民衆は、

【奴隷の失態を正しく謝罪出来るとは対した人物だ】と感心した。


 この時点で奴隷に対する認識が、豊の持つ常識のそれとは乖離している。

ギルダムの人々は奴隷を命ある人間を、根底から、物として認識しているのだ。


 引きずられていく奴隷の少年を尻目に、豊は民衆に囲まれ何も出来ずにいた。このままでよいのか、確かにこの世界には、非人道的な認識や文化が深く根付いている。人々の常識を覆し、本当の意味で、人間としての権利を主張し、納得をさせるにはまだ人々は倫理的ではない。


 だからと言って今、目の前で、奴隷制により苦しんでいる子供が存在している以上、豊は見逃す事は出来なかった。


「ロシィ、あの商人の後を追い、情報を集めてくれるか?」


「お望みのままに」


 人々をかき分け、ロシィは商人と少年を追う。


 豊はそれとなく人々の話を聞き、簡易フォルトゥナ教聖書を希望者に渡した。個人の悩みまで全て聞いてあげる事は、さすがに出来ないのが事実だ。


「貴様ら! 折角日頃の激務から解放され、久々の休暇を取っている救世主様に申し訳ないと思わないのか!」


「ユピス、気持ちは有難いが、抑えてくれ」


「何を言う! ユタカが築き上げた功績を考慮すれば、人々はそれを讃える事はあっても、休息を損ねる事はあってはならん事態だ! 皆の者! 私は雷の魔術師、ユピス・ゼストール! 紅の救世主の休息を妨げる事は、この私が許さんぞ!」


「皆、彼女は真剣に僕の身を案じてくれているだけなんだ、気を悪くしないでくれ」


 如何に、豊が救世主であろうと、彼はれっきとした人間である。人々は救世主にも安息は必要だと納得し、これ以上の接触は諦める事にした。焦らずとも、フォルトゥナ教団は訪れた場所で必ず救済活動を行っている。安心した民衆は豊に最大限の礼儀を試み、その場から立ち去った。


 中には豊とのコネクションを諦めきれない輩もいたが、ユピスの雷を恐れ早々に退散していった。


 豊達はロシィの情報を待つべく、宿屋へと帰ってきた。


「ユタカよ、ああいう輩にはズバーッと一言を言ってやれ、つけあがるぞ」


「救世主っていうのは、皆に寛大でなければならないんだ。ユピスが大体言ってくれて助かったよ。ありがとう」


「ふふん、未来の夫の為だからな。これも妻の務めであろう」


「あっ、まだ有効だったんだそれ」


「ユタカが煮え切らないならもう……既成事実を作り上げるしか……」


 ユピスが豊を路地裏へと連れ込み、優しく頬を撫で上げながら、耳元を――


「あっ、ダメですダメです。そんなエッチな身体で誘惑されたら、お猿さんになってしまいます。脱がしたらダメ」


「許しませんよごしゅじんさま」


 ユピスが豊の装備に手を掛ける直前に、ロシィは帰ってきた。


「おかえりロシィ。首尾はどうだった?」


「このユタカの切り替えの早さよ……いけずな奴め……」


 ロシィの話によると、あの少年は、昔起こった戦争の時、ギルダムに攻め込んできたヴァマルド兵の子孫との事。両親が戦争中に捕まり、戦争を仕掛けた罪により、永久奴隷に堕ちるという一連の流れは、雛形と言っても過言ではない程に、この世界の常識であった。


「私とは違い彼は、この世に生を受けた時から奴隷として扱われていた様です。両親とは引き離され、今は妹とあの商人の下で雑用奴隷として働いています」


 詳しく話を聞くと、少年の妹は要領が悪く、力仕事が出来ないので、このままでは売り飛ばされるか、慰み者に堕とされるしか道はないとの事。知ってしまったからには豊は動くしかない。豊は再び【救世主育成計画】を実行する事にした。


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