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105. 2年という月日

 リパランスに向かう途中、タリアに寄りたいというユピスの希望に応え、一行はタリアで二日間の滞在を決めた。


 タリアを訪れたのはロシィの両親を探しに来た時以来だが

今回は観光、休養という目的で楽しむ事にした。


 街中には、吟遊詩人や旅芸人が、観光に訪れた人々を楽しませている。

そんな漂う空気を切り裂くような要望が豊を襲う。


「ユタカ! 私は空腹だ! 何処かで昼食でも摂ろうではないか!」


「はーい! ロシィも賛成で〜す!」


「そうだね、じゃあ宿屋に魔装車と荷物を預けて食事に行こうか」


 タリアではこの地域の食材を使用した独特な料理が有名であった。数々の飲食店が建ち並び、それぞれが互いに料理の腕を競い、高め合っていた。そんな数ある料理店の中から、タリアで一番人気の有名店をユピスは知っていた。


「私が惚れ込んだ店なのだが、タリアを訪れる際には必ず立ち寄ることにしているんだ。なぁに、損はさせないと私が保証する」


 自信満々で店へと入るユピス。かなりの上客の様で店長自ら出迎え、一番見晴らしの良い席へと案内された。


「昔からよく父上に連れられて来たものだ。やはり此処からの眺めは最高だな……タリアの海が一望出来る」


 メニューを持ったウェイターがすかさず登場し、注文を受け付ける。


「いつものコースを頼む、量は多くな、料理長にはゼストールの娘が来たと伝えておいてくれ」


 慣れた様子で注文をしていく彼女の堂々とした振る舞いには何処となく品があり、上流階級のお嬢様であることが窺えた。


「かしこまりました」と一言告げると、ウェイターは厨房へを向かう。



「ふふふ、今回は私の采配に全て任せてもらおう」


 ユピスの自信は本物であり、他の二人は期待を寄せた。しばらくの間歓談を楽しむと続々と料理が運ばれてきた――


運ばれてきた。運ばれてきた。運ばれてきた。


 料理によってテーブルの隙間が無くなる頃、事態の思わぬ変化に豊が声をあげる。



「まってまってユピス! コースって言ったよね⁉」


「当然だ、我が家のコースは古より、スーパーフルコースと決まっている」


 気が付けばテーブルの上には料理の山が出来ていた。何段にも重ねられた特殊な食器に様々な料理が盛り合わせられている。イギリスのケーキスタンドをそのまま大きくしたようなイメージであり、料理を置く領域を二次元から三次元に拡大している。


「さぁ、頂くとしよう。あぁ、堪らないなこの食欲をそそる香り」


 上品ではあるのだがユピスの一口は、まるでフードファイターの様な大きな一口であった。その食べ方に即発されたのか、豊とロシィも遠慮なく料理を楽しむ事にした。


 常人では考えられない様な規模の量ではあるが、彼らのレベルと戦闘の技能スキルを考慮すれば大した問題ではない。エネルギーを効率良く体内に蓄積させ、長時間の戦闘を可能にしている技能スキル圧縮燃料プレスエネルギー


 この技能スキルは本来ユピスしか持ち合わせていなかったが、豊が技能スキルの仕様を解明し、今ではフォルトゥナ教団全員が所持している。


圧縮燃料プレスエネルギー

 この技能スキル効果により、見た目の数倍から数百倍の食事を可能にし、体内にエネルギーを蓄積する事が出来る。食べる量と回数により熟練度が上がり、蓄積出来るエネルギー上限が増える。魔力圧縮の体力版とも言えるもの。



「まだコースは続くからたくさん食べるといい、料金は私が払おう。気に入ってくれると嬉しいのだが……!」


「とても美味しいですユピス、タリアを訪れた甲斐がありました。ありがとうございます」


「むぐむぐ……おいしいよぉユピスちゃん!」


「それはよかった……! あっ! ユタカお前! 私が大事にとっておいた肉を!」


「もぐもぐ……! これだけの照りを放つ肉になかなか手を付けないから、てっきり油が苦手なものかと思いましてな。いや失礼。お詫びに僕が大事に隠しておいた大ぶりな海老ちゃんを差し上げますぞ。ささ、あ~んしてください」


「ば、ばかもの! そういった行為は恋人同士で……! でも折角の償いを蔑ろにするのも! 淑女としてあるまじき行為であるとは思うので! 致し方あるまいな! さぁ、ユタカ、私の覚悟は完了している。いつでもその海老を……!」


「もぐもぐ……。ユピスちゃんが食べないならロシィが食べてあげるね」


「ロシィ! お前! 折角ユタカが私にあ~んしてくれてたのに! お前!」


「ごしゅじんさまが待ってるの、見ててかわいそうだったから……♡」


「ゆ、ユタカ! 今のは流石にノーカウントだろ⁉」


「コココ……。海老ちゃんは今ので最後ですぞ……」


「うわ~~~~ん! ノーカウントォ!」


 しばらくの間、延々と運ばれてくる料理を楽しみ、

その後に運ばれてきたスイーツまで、ガッツリと平らげた。


 周りの席にはいつの間にか店を訪れていた客が集まり、三人の食事風景を温かく眺めている。その美味しそうに食べる様子を見て、他の客も続々と注文を出していく。


 食事を終え、豊は店のバルコニーから街並みとタリアの海を眺めていた。


 豊が救済を始めてから既に、二年以上が経過していた。ギルダム全体の食料自給率と平均偏差値、衛生観念の浸透率は向上し、失業者、死亡者も減ってきている。


【プルルルル……プルルルル……】


 女神フォルトゥナの最新情報によると、

人類幸福度は十九パーセントまで回復していた。


『たまには出番よこしなさいよ』

『ダメです。仕事してくださいフォルトゥナ様』

『ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! 早く来て! 長期休暇ぁぁぁぁぁ!!!』


【ガチャン、ツーツー……】



 新しい農業方法や土地の活用、先進的な技術の導入により、国全体はとても豊かになっていった。しかし、それと同時に、労働者として奴隷の需要は上がり、未だ人間として扱われない人々は、苦しみ続けている。


 豊達が食事を楽しむ裏で、下働きをしている少年少女は、厳しい労働を強いられていた。奴隷は大きく社会的な問題であり、歴史的にも覆すのは容易くない。


 人々に根付いた認識や見解、常識や概念、風土、習慣、伝統。これらを如何にして

誘導していくのかが課題となる。かの有名な古代ギリシャの哲学者である、【アリストテレス】は「生命ある道具」と、奴隷制を擁護していた。


 豊の住んでいた世界ですら、国連による世界人権宣言で奴隷制を禁止したのは、二十世紀の話である。


「僕は……この世界における本当の意味で、人々を幸せに出来るのだろうか……」


 沈んでいく夕日が、タリアの街並みを美しく染めてゆく。

豊は奴隷の子供達を遠くから眺め、不安に駆られていた。


「ぎゅ〜〜っ!!」


 ロシィが豊の腰にしがみつく

「ほら! ユピスちゃんもぎゅ〜して! ごしゅじんさまを助けてあげて!」


「わ、わかった……こうでいいだろうか?」


「ふたりとも、あるがとう……」


 二人に抱き締められ豊は礼を言った。ひとり異世界に招かれ、女神に言われるまま

人類救済の旅を続けた。共感性が極めて高い豊は他人の不幸を見過ごす事も出来ず、この世界に召喚されることを是とし、現在に至る。


 自分は紅の救世主として、人々を導く存在でなければならない。現代では人々を救い続け、超人と呼ばれた事もあった。


 しかし――


 豊の精神も既に限界だったのだろう。見知らぬ世界での二年以上に渡る戦いの日々、死と隣り合わせの毎日。安易な気持ちで【異世界で美少女にモテたい】。そう感じていたのは最初の三ヶ月だけだった。豊はロシィとユピスに抱かれて、声を殺して泣いた。


 女神の加護により、身体と魂の摩耗が無くなると言っても、それは永久に正気を保ち続け、傷付き、苦しみ続けるという事である。記憶と経験は壊れない魂に深く刻まれ、忘れることは決してない。豊は人々を救う為に、精神を削り懸命に力を注いでいる。


 では誰がユタカを救ってくれるのか――


 ロシィとユピスは、豊の人間としての弱さに触れて、憐れみ、

彼をとても大事に、愛おしく想った。


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