104. 魔装車改
喰散蟲をものの見事に倒し、土へと還したユピス。彼女の恐ろしさを目の前で確認した豊とロシィは、しばらく動けないでいた。
「とにかく助かったよ。ロシィ、ユピス。ありがとう」
ロシィは笑って答えたものの、もう一人の方は若干機嫌を損ねているようにも感じられる。
「コレに懲りたら、今後は私を除け者にするのはやめるんだな」
「あ、はい……」
【あ、ヤバッ、逆らわんとこ】と、いう言葉を飲み込む豊。
その挙動は僅かながらに彼女へと伝わった。
「何か言いたそうじゃないかユタカぁ〜〜?」
「あっ! やめてっ! 排熱途中のガントレット熱いからグリグリやめてっ! せめておっぱい押し付けて!」
「ば、バカな事言ってないで帰るぞ……。全く、ユタカはスケベなんだから……。そう言うのは……二人っきりでするものだろうに……」
豊は、もじもじしながら、排熱するガントレットをアタッチメントに戻すユピスの反応に、形容し難い感情が生まれていた。
「このドキドキ……これが……恐怖……?」
「失礼な奴だなお前はっ!」
「痛いっ!」
本気ではないにしても、排熱中のガントレット攻撃は重くて熱かった。
「そんな事よりごしゅじんさま、倒した喰散蟲の体からなんだか光るものが出てきたよ?」
豊が喰散蟲の残骸を調べると、内臓部分にあたる箇所が著しく進化していた。
「アルミニウムを含んだスライムを大量に食べた事により、臓器が変化したようだね……なんで強くなるのかは相変わらず不明だけど……とりあえず残骸を調べて……ん?」
残骸に灯りを当てると周りの壁が視界に入った。よく観察してみると、壁全体が赤茶色をした石や土が重なって作られていた。
「ユタカ、この断層になっている壁は一体なんだ?鉄か?」
「それに近いね、コレはおそらく……。ボーキサイトだ」
【ボーキサイト】
酸化アルミニウムを五十二から五十七パーセント含む鉱石であり、実際は水酸化アルミニウム鉱物の混合物。アルミニウムの原料として有名。
アルミニウム合金のスライムは、この洞窟内部でボーキサイトを取り込んで変化し、更に、スライムイーターがそれを食べて変化した。というのが今回の騒動における話の概要である。
「採掘したいのは山々なんだけど、こんな補強もされていない自然坑道を掘るのは余りにも軽率なので、今回はスライムから取り出したアルミニウム合金と、変質した喰散蟲の素材を持って帰る事にしよう」
「そうだな、さっき私がやらかした戦いの所為でだいぶ洞窟が脆くなっているようだし、帰ろう」
「そうこうしてるうちに、落盤でもしそうです。一刻も早く帰りましょう」
洞窟にモンスターが住み着くと、後々面倒な事になりそうなので、入り口に豊が壁を作って塞いだ。
「事が済んだらまた採掘しに来よう」
そう決意をし、三人は村に帰った。山で起きた一部始終を村長に報告し、本来ギルドを通して支払う予定の報酬を受け取った。
豊は持ち帰った合金と素材を使って、魔装車の装甲を修理する事にした。
【時を駆ける創造】のサポート要員として、村で働いていた鍛冶屋を1人借りてくる。熟練度の向上により、豊の頭の中で表示される項目がいくつか追加されていた。
豊の頭の中には立体映像の様に、完成予想したプレビュー図がリアルタイムで表示され、追加された項目を確認しながら、魔装車に適したものを選んでいく。例えるならば、レースゲームにおける車体のカスタマイズ画面だ。
素材は魔鉱鋼とアルミニウム合金。喰散蟲の装甲を、対象を魔装車に合わせて、
カスタマイズを実行していく。喰散蟲の装甲はアルミニウムの特性に似ており、加工し易く強度に優れ軽い。そして何より透明なので、フロントガラスの代わりとして使用した。
魔鉱鋼とアルミニウム合金を幾層にも重ね合わせ、以前よりも軽くて丈夫な、腐蝕に強い装甲となった。それに加え、履帯部分も魔鋼アルミニウム合金へ変換し、【魔装車改】へと進化を遂げた。
以前の魔装車は、軽トラックの後部が無限軌道になった様な、【半装軌車】に近い外見だったが、改造により車体のデザインが、快速戦車や装甲車に近づいて来た。外部からの魔術攻撃に耐えられる様に、上から魔鉱石散布によるコーティングまで大掛かりで大胆な施工を繰り返した。
それでもアルミニウム合金の導入により、全体のバランスを失う事なく、軽量化に成功したのであった。
魔装車改は、二十一世紀の技術で産まれ、未だ移動手段が馬メインであるファンタジーの世界に、更なるギャップを生じさせることとなる。
結果として、怪我の功名と言うべきだろうか、損傷した魔装車は大幅な改装を経て生まれ変わった。
村での準備を済ませ、魔装車改に乗り込み。
豊達は再びパシリカに向けて出発する。次の目的地はリパランスだ。




