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102. 鋏とスライムは使いよう

『新種のスライムが大量発生している』



 そう話を聞いてやって来た豊とロシィは、山道を一時間程歩き、偵察隊から聞いていた洞窟に、次々とスライムが入って行くのを発見した。


 攻撃のフリが大きい二人にとって、狭い洞窟内で戦うのは明らかに不利なため、洞窟の入り口前に落とし穴を掘って、その下に大量のスパイクを仕込んだ。


「なんだかこの罠も懐かしいですね」


「二人で旅をしていた時を思い出すなぁ……。あの時はよく二人で罠を駆使しながら、モンスター討伐したっけ……」


 手際良く罠を仕掛け、火を焚き、洞窟内に向けて煙を扇ぎ入れてゆく。


 スライムには、周りの環境を感知する為、人間とは異なる特別な器官が備わっている。その器官は、生木を焼いた時に出る様な大量の煙に反応する性質があるので

誘き寄せるのにはうってつけであった。


 しばらくすると、大量の新種スライムが続々と洞窟から溢れ出し、次々と落とし穴に落ちて行く。習性に抗えない生物の末路を二人は複雑な気持ちで眺めている。


「なんだか可哀想になってきますね……」


「うん……」


 落とし穴から飛び出してきた一匹を始末して、改めて新種を観察する。


「何か、体内に金属が含まれているな……。取り出してみよう」


 死んだスライムの身体に手を突っ込み、金属の塊を取り出して観察する。


「軽くて硬いな……他のも見てみるか……」


 スライム一匹に対して、取れる物質の量は個体によってまちまちであった。穴に落ちたスライムを調べていくうちに、生きたまま取り出す方法がある事を発見し、途中からは全て殺す事なく、森へと返すことにする。


 全てのスライムから取り出した物質は合わせると百キロ程になった。


 その場で物体の一部を、【時を駆ける創造】の素材変換を使い、材料に戻してみると、ケイ素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、ニッケルなど様々な物が含まれていることがわかった。その中で1番多く含まれていたのが、【アルミニウム】であった。


「まさかアルミニウムを発見出来るとは思わなかったなぁ……」


「ごしゅじんさま、アルミ……ニウムってなんですか?」


「えっとね……鉄より軽くて、雨とかにも強い金属……って言ったらわかるかな?」


「それで武器とか鎧とか作るんですね! さすがはごしゅじんさま!」


「ん〜……武器や鎧には向いてないかな……そもそも電解炉がないから……いや、アルミニウムには既に出来てるから、加工だけ魔術で出来れば良いのか……?」


 アルミニウムの加工は本来ならば、化学的な行程を踏まなければならないが、【時を駆ける創造】の長い間培った熟練度により、その過程を全て短縮してくれる超魔術になっていた。もし、召喚されてすぐ、一番最初にアルミニウムを見つけたとしても

この様な結果には至らなかっただろう。


 調べた結果、スライムの体内から取り出した物質は、アルミニウム合金である事がわかった。数あるスライムの中には、身体の中でルビーを作る個体もいた。


「恐らくは体内に取り込んだ物質によって、スライムが進化したと考えるべきだろうね……。どういう理屈でそうなるのか、どうして他のスライムより強いのかは分からないけど……」


「スライムってなんでも食べちゃうんですねぇ……食いしん坊なのかな?」


「とりあえず、調べている間に煙も収まったし、洞窟内を調べてみようか」


「はーい!」


 洞窟の中は不自然な構造をしており、途中から何かが洞窟を掘り進めているかの様に複雑化していた。


「幸いこの洞窟内には、風の通り道がある様だ。目印として何箇所か火を付けた松明を立てかけていこう」


「どうぞ、ごしゅじんさま」


 すかさずロシィが、バックパックから木の枝と布切れを取り出すと、豊が油と火を付けていく。ガッシリと土と石で固定した松明を設置しながら、奥へ奥へと進んでいくと、一際大きな空間に出る事が出来た。


 辺りは真っ暗で、松明無しでは視界はゼロになる程であった。すかさず大量の松明を設置し辺りを見渡してみると、奥から何やら咀嚼音の様な物が響いてきた。


「ロシィ、戦闘用意」


「はい」


 暗闇に蠢く何かに対し、松明の光を当てるとそこには――


「組合の手配書にあんな型のモンスターいたな……たしか名前は……【スライムイーター……だったか」


「あわわわ……デッカい……」




【スライムイーター】


 別名、喰散蟲くいちらかしむしと呼ばれていて、

全長二十メートルを超える、細長いムカデの様なモンスター。

暗闇を好み、目が退化しているが触覚により周辺を探知する事が出来る

スライムを好んで捕食する習性があるが、基本雑食でなんでも食べる。



 ふと、喰散蟲がこちらに触覚を向けると、目と目が合った様な気がした。



「お食事のところ、失礼致しました……」


「さ、さようなら〜」


【キシャアアア!!!!】


 金切りにも似た奇声を上げ威嚇が始まった。


「やっぱダメだったかぁ!!」


「ごしゅじんさま! どうしましょう! 食べられるのはイヤです!」


「狭い道を逃げれば、奴はこの洞窟を崩落させるかもしれない。こりゃあ戦うしかないだろう。ロシィ、火を絶やすんじゃないぞ! 灯りがなければ僕達の負けだ!」


「了解しました!」


「よっしゃああ! いくぞぉぉ!!」


 喰散蟲目掛けて紅が走る。百足に良く似た形状をしている事から、豊は胴体の繋ぎ目を狙って攻撃を仕掛けた。速度と体重を乗せた渾身の刺突が炸裂したが難無く攻撃は弾かれた。


「嘘だろっ!?」


 弱点と思った節々の繋ぎ目は、よく見ると弾力性のある毛に覆われており、武器による攻撃を限りなく無力化する。胴体に攻撃を試みるも、その箇所は単純に防御力が高く、体格差によりほとんど効果が見られない。


「せやぁぁぁぁっ!!」


 ロシィも豊に続き、回転斬りを繰り出すが、全ての斬撃は甲殻と剛毛により吸収されてしまう。以前、変異大猿と対峙した際にも、この様な状況であった。


「武器がダメなら油と炎だ! ロシィ! 灯りを持って離れていろ!」


「はい!」



 豊は一の術。第弐派生と第参派生の混合魔術【乱れ狂う獄炎】を放った。


「こんな事もあろうかと、新しい術を開発しておいたんだよ!!」


「やったー! ごしゅじんさま素敵〜!」


「我が身に流れし、浄化の炎よ、立ちはだかる者を焼き尽くせ!」


【乱れ狂う獄炎】は、術自らが意思を持っているかの様に、対象者へと襲い掛かり、焼き尽くすまで消えない炎を纏わせる――


――筈の魔術であった。


【しゅん……】


「嘘だろぉぉぉぉぉぉ⁉」


 纏わり付いたはずの獄炎は、焼き尽くす対象物を認識できず消えた。喰散蟲の身体は完全な不燃性であり、単純に千数百度程度の炎では燃えなかった。


 それを目の当たりにするのと同時に、相手は長い身体を鞭の様に振り払い、鋭くも重たい攻撃を仕掛けてくる。


「どわぁぁぁぁっ!!」


 喰散蟲の攻撃をギリギリで回避するも、豊は次の一手を出せずにいた。


「ダメだ……第五の術をっ! 溜める時間がないっ!」


 巨体に似合わず素早い連打を放つ相手に対し、豊の術は異常に相性が悪かった。


 第二の術で素早さを上げようと、効果のある攻撃方法がなく、第五、第六の術は魔力の溜めに時間がかかる。喰散蟲は、全身が甲殻と剛毛に覆われており、前回の様に悪魔のソースが効く様な相手ではない。


 豊は着々と追い詰められていった。



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