100. 渦巻く陰謀
豊は予め持ってきた材料に加え、過剰なる糧で取り出した料理を使い、【時を駆ける創造】を介して、オードブルを作る事で、短時間で大量の料理を用意した。
アジトに居た革命軍はおよそ百人。レヴォリオの呼びかけでその全てを一番広い部屋へと集め、宴は始まった。
皆は滅多にお目にかかれないご馳走を目の前にし、レヴォリオの許しが出るのを今か今かと待ちわびていた。
全員に飲み物も行き渡り、レヴォリオが言葉を放つ。
「俺は今一度、革命軍の在り方について、このホウジョウにより気付かされた。今日は彼の計らいにより、皆に料理が提供された。皆存分に食べて飲んでほしいとの事だ、遠慮なく頂くとしよう。さあ、杯を掲げよ!」
レヴォリオの合図に合わせ、革命軍の皆がそれぞれ『掲げよ』と叫ぶと、次々と料理に手をつけていく。肉に野菜、魚にパンと米、スープに果物。各々が口を揃えて豊の料理を絶賛した。魔術を介して軽く五百人分は作ったので、そう簡単には無くならないだろうと考えていたが、その食事のペースがおかしい。早すぎる。豊は熱気溢れる宴の中に、一抹の不安を覚えた。一心不乱に料理を口に運ぶマシュロ達メンバーをよそに、ショコララは何やら複雑な面持ちであった。
「お口に合いませんでしたか?」
豊は料理皿を持って、ショコララの横に座った。
「いや、美味いよ。アンタ料理も出来るんだね……。もっと早く……出会えたらよかった……」
暫しの沈黙を破ったのは豊であった。
「話してください。貴女の事を」
「今日会ったアンタに言ってもさ……」
「今日会った私にだからこそ話してください。貴女の心の奥にある哀しみ、想いを……」
しばし彼女は考え込むと、自分の事を語り始めた。
「そうだね……お言葉に甘えるとするよ……」
ショコララには妹が居た、境遇はレヴォリオと同じで、彼女は目の前で妹を失い、自分も息を引き取る直前で、レヴォリオ率いる革命軍に助けられたという。それが七年前。マシュロも家族を病と飢餓で失い、レヴォリオに拾われた境遇であった。
「ココの連中はほとんど、レヴォリオに命を救われた奴らさ、確かにレヴォリオの力に見せられてついてきた奴も居るがね……」
「その、レヴォリオの力とは一体……」
「ホウジョウ、それは俺が話そう。俺は弟を失い、自らも死に直面した際、ある人に助けられ、ハーフエルフの隠された絶大な力に覚醒したのだ」
誓約と制約の枷にとても近しい、元々ハーフエルフとして魔術の資質があり、
外的精神負荷や境遇による成長値の補正によって、レヴォリオは覚醒を果たしたと豊は考えた。
「俺を救った人物の名はネレイヴ、通り名は穢れなき外装、または白き外装の支配者だ」
「……なるほど、此処に来て奴らが絡んでくるわけか……。だとしたら相手側は長い間、水面下で計画を練ってきていた。という事になる……」
「ホウジョウ、彼を知っているのか?」
「ネレイヴを知った経緯よりも先にまずは、私の正体を明かしましょう」
豊は全身を覆っていた外套を取り外し、紅の鎧を露わにする。
「いやぁ〜! マントの陰から時折見せてはいたが、改めて見ると立派な鎧だなぁ……!」
「そ、その鎧は……!」
マシュロが紅の鎧に驚いている隣で、レヴォリオとショコララは豊の正体について、疑念から憶測、確証の手前まで答えを導き出していた。
「僕はユタカ・ホウジョウ。フォルトゥナ教団の団長だ」
「紅の……救世主……!!」
「やはり只者じゃなかったわね……」
周囲が宴の騒音に酔い始める中、豊の正体に三人は驚きを隠せずにいた。
「ホウジョウは、行商人をしていた時に少しの間使っていた呼び名だ。最初から正体を明かせば、王との友好協定を理由に、貴方達が警戒をして、僕の話を聞いてくれないと思い、この名を使った。騙すような事をして申し訳ない」
「紅の救世主自ら、俺たち革命軍の本拠地に足を踏み込むとは……何故、こんな事を……?」
「革命軍に所属する人達と会話を交わし、その在り方に理念や正当性、正義があるのかを見極める為です。レヴォリオと話して分かった。貴方達は自分で考え、自らの意志で行動し、過ちを正す事が出来る人達であると」
「だから今、俺たちに正体を明かしたという事か……」
「この先の話は、正体を隠したままで進める訳にはいかなかった。今後の事を考えるならばね」
「では改めて問おう……ホウジョウ、いや、紅の救世主ユタカよ。お前はネレイヴを知っているのか?」
「今回、王都で起きた、赤い月の結界については知ってますね?」
「あぁ……王都にいた連中から話は聞いている」
「ネレイヴは城壁監視塔にあった、結界を張る為の術印を守っていたのです」
「まさか……そんな事が……」
「結界により、魔術を封じられた状態で直接対峙し、なんとか退ける事は出来ましたが、奴は今回の事件に深く関わっていると考えられます」
「にわかには信じられん……何故、ネレイヴがそんな事を」
「ネレイヴは僕と戦いの際、勝利を確信していた所為か、色々と口を滑らせ、その情報と経緯から考えられる、幾つもの要素を導き出しました」
ひとつ、ネレイヴ自身がアリア教の狂信者であり、異教徒はすべて邪教と見なす相手だという事。
ふたつ、ネレイヴを含めた複数の人物により構成された組織があるという事。
みっつ、その裏にはヴァマルド、更にはロビエトとの繋がっている可能性かあるという事。
「俺はネレイヴの導きにより革命軍を立ち上げ、救援活動を始めた。俺たちの最終目的を、王に成り代わり国を動かすことに定めたのも彼だ……」
「奴には相手の心を読む力がある。人心を掌握すれば、導く事も容易い……目的はおそらくギルダム内部に混乱を招き、その隙に武力制圧を決行する事。ヴァマルド側からでは覇竜・グレイジオスが国境山脈を守っている。故にカザラキア側から両国砦を通過し、ギルダムを攻める算段のはず……」
「アリアスが、ヴァマルドと協力するとはどういう事なのだ? こんな事は奴らの神が許しはしないだろう。ネレイヴが狂信者というならば、猶更だ」
「アリアス内部にも様々な派閥があり。アリアの教えに対して、現実的な見解をする派閥と、改信しない全てを邪教と見なして、滅ぼす派閥が存在すると聞きました。ネレイヴ程の男が、己の信仰心だけで勝手に動いているというのは考えにくい」
「どう転んでも、アリア教全てがギルダムを滅ぼそうと画策している訳か……それ程まで……」
「僕よりもネレイヴとの付き合いが長い上、いきなりこんな事を言われても信用出来ないとは思う。しかし、僕達フォルトゥナ教団は、全ての人々が幸せに暮らせる世の中を実現させる為に救援活動をしている。信じてくれとは言わない、ただ、少しの間だけ、広い視野で様子を見てから判断をしてほしい」
「俺の心境すら考えての提案……分かった。お前の言う通りに様子を見よう。俺たちは引き続き、モンスターを討伐し、力を蓄えながら各地で救援活動を行うようにしよう」
「よろしく頼みます。レヴォリオ」
話がひと段落した事で、改めて二人は盃を交わし、レヴォリオは料理に手を付けてゆく。
「さぁ、折角ユタカが用意してくれた料理だ、俺も頂くとしよう」
その日、革命軍の宴は夜遅くまで続いた。




