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フォルトゥナ戦記~キモオタだって異世界でモテたい!~  作者: メアー
ギルダム王国式典 後編
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99. 革命児


 革命軍の幹部であるマシュロに連れられ、やってきたのはハガンカを出て西の街道外れにある洞窟であった。


 この洞窟は元々、凶暴なモンスターの巣であったが、レヴォリオが退治してからはずっと革命軍により使用されているアジトとなっていた。


 マシュロは顔パスで入口を通り、奥へ奥へと進んでいく。通路には要所要所に、ロウソクが灯されており、歩く事一分、開けた場所へとたどり着く。その場には、複数の構成員と他の幹部がいた。


「マシュロ、また誰か連れてきたのかい?」

 幹部らしき女が話しかけてきた。

「おう、ショコララ、こいつは行商人のホウジョウだ。中々に気前の良い奴だぞ」


「よろしくどうぞ」

 豊が軽く挨拶をすると、ショコララの目付きが鋭くなる。


「行商人の割には大層な装備じゃないか、私達の装備に匹敵する品だ」


 全身を覆うマントの隙間から、紅の鎧の一部が見え隠れしている。ショコララはそれを見過ごしてはいなかった。


「こんな世の中ですからね、自分の身は自分で守らなければなりません」


「そう……」

と、心底興味がなさそうにしているが、ショコララは豊に対して警戒を強めていた。


 彼女の思惑も関係無く、マシュロはずんずんと奥の部屋へと進んでいき、豊もそれについてゆく。


「レヴォリオ! 行商人を連れてきた! お前に話があるそうだ! 面会してやってくれ!」


 マシュロが何回か扉を乱暴に叩き声をあげる。


 部屋から複数の鍵を開ける音がする、革命軍のリーダーは慎重な人物なのだろうか、と思案していると扉の向こう側から男の声が聞こえた。


「入れ」


 マシュロが扉を開けると、中には一人の男がいた。扉が閉まると自動的に鍵が閉まる作りらしく、結果的に豊は洞窟の最奥に閉じ込められる事となる。


「行商人といったな、俺は革命軍のリーダー、レヴォリオだ」


「ホウジョウ、と申します。活動範囲はハガンカからリパランス、必要に応じてドガルドやキエーボにも向かいます。商品は日用雑貨と武器、食料も扱っております」


 背が高く、目付きの鋭い金髪の男。身体的な特徴を挙げるとすれば、一際目立つのが長い耳。しかし、エルフのものにしては短い。



「ハーフエルフを見るのは初めてか?」


「そうですね、長い事行商人をやっていますが、初めてお目にかかります」


「ハーフエルフをどう思う?」


「我が神はオリジン様故、偏見や差別意識などはありません。どの種族であろうと私は個を尊重しております。よってハーフエルフに対して特別な感情は持ち合わせていません」


「ただの行商人らしからぬ教養と対応力だな。マシュロが連れてきたのも合点がゆく……話があるのだったな、そこの椅子にかけてくれ」


 豊は軽く会釈をすると言われた通り、椅子に腰かけた。



「して、俺にどの様な話だ」


 話を切り出したレヴォリオに対して、豊は率直に革命軍の在り方を問いた。


「今の王政について、貴方達組織に思うところがあるのはマシュロ氏から話を聞いております。噂によりますと、革命軍はその規模を着々と拡大させ、武力により王に取って代わろうとしているとか、それは事実でしょうか?」


「事実だ、俺も質問をしよう。何故、いち行商人のお前がその様な事を考える必要がある」


「至極当然です。武力により王が変われば、民衆の混乱は避けられず、その混乱に乗じて各国々が、ギルダムに攻め入る事が想定されます。現在フォルトゥナ教団の救援活動で各地域が立ち直りつつある中、国が戦火に巻かれれば、たちまち飢えと病にのまれてしまう事でしょう」


「行商人ならば戦は商売の好機、そう受け取るものだと思うが」


「確かに、戦による莫大なる消費は経済を動かし、金を動かす起因となります。しかし、それは安定した生産力があって初めて成立するものです。疲弊から回復し始めている現在のギルダムでは、食料や物資の調達が満足に出来ず、下手をすれば商売人自身が飢えて死ぬ可能性の方が高いのです。貴方達は王に取って代わり、国を滅ぼすのが目的なのですか?」


「それは違う。具体的で効果的な政策が行えず、日々衰退していく一方であり、フォルトゥナ教団に頼るしか出来なかった無能な王に対して制裁を与え、より迅速且つ、具体的な方法で民衆を導き、ギルダムを再生するのが我々の目的だ」


「その具体的な方法とはなんです?」


「私が手に入れた力により、ヴァマルドを打ち滅ぼし、領土とするのだ。奴らは幾度も国境を越えて我が国を武力支配しようと試みた蛮族だ、遠慮する必要などない」


「やられたから、やり返してもいいなどとは思えません、戦争は子供の喧嘩ではないのですよ?」


「ならば何故、ヴァマルドは仕掛けてくるのだ、こちらは被害者なのだぞ? 何故一方的に殴られて、泣き寝入りをせねばならんのだ? 何故、我々だけが我慢を強いられるのだ? 答えてみろホウジョウ!」


「それは我々ギルダムの人間がヴァマルドの人間よりも、恵まれているからです」


「恵まれているだと⁉ 痩せた大地に病に飢え! 死にゆく人々に無能な王! どこが恵まれているというのだ!」


 レヴォリオは豊の放った答えに対して怒りをあらわにする。


「何故ヴァマルドは武力に頼り、このギルダムを欲しているのかはお解りかと思います。ヴァマルドは技術こそ進んではいますが、食料を十分に自給するだけの地形と気候に恵まれず、品種改良などによって、食料問題を解決しようと取り組んではいます。しかし、それにも限界はある」


「食料に関しては大なり小なり各国々が同じ様に抱えている問題だ、ヴァマルドだけが特別視される要因にはならない」


「果たしてそうでしょうか」


「どういう事だ」


「先程貴方が無能とおっしゃったエウロ王は、パシリカ国やカザラキア公国などに働きかけ、僅かながらも食料の融通を取り計らっていました。一方、ヴァマルドには隣国ロビエトと交渉し、食料を融通するだけの考えが国のトップにはなかった。或いは出来ない事情があった。コレがどれだけ恵まれていないのかお解りでしょう?」


「国の頭による差か……」


「はい、無ければ奪い取れば良い。などと判断を下す国と同じ心持ちでは、たとえ奪い、その場を凌いだところで、ギルダム国は略奪しか出来ない愚かな国へと成り下がってしまう。確かにヴァマルドは、そうせざるを得ない窮地に立たされているのかもしれませんが、ギルダムの王は最終的な武力に逃げずに足掻き続けました。王は決断をします、だが直接手を汚すのは国民なのです」


「綺麗事を言うな! 俺ならば例え手を汚そうとも、飢えに苦しんでいる愛する家族の為ならば無関係な他人など殺す!! その覚悟がある! 人が死に直面する瞬間を王は見たのか⁉ 何日も食事が取れず、死んだ我が弟の最後の言葉は【パンが食べたい】だった!! 王にこの想いが、哀しみが!! 分かるのか!!」


 理性ではレヴォリオも分かってはいたはずだが、彼が今まで目にして来た現実が、彼を行動へと駆り立てた。深く考えての決断だったのだろう。握る拳に血が滲む程、悲惨な人生を歩んで来たのだ。



 ここで豊は、ビットマン氏から預かった情報を開示した。パシリカ国やカザラキア公国の封蝋が施された羊皮紙の契約書類である。


「こ……これは……! 各国代表の直筆証明……!」

 革命軍を成し、情報も取り扱うレヴォリオにはそれが本物であると理解できた。


「バカな……ギルダムが所有する水源の分譲や鉱山の収益分譲を条件に、食料物資や農作の技術を各地に流布させる契約を結んでいる……! こんなの情報には挙がらなかった……!」


 国の資源の一部を切り崩し、権利を移譲する代わりに食料を融通する契約。あるかも判らない未来という不確かなものを切り、今現在を生きる為の手段。王は文字通り身を削り、民を救おうと動いていた証拠でもある。


 目の前にある書類や契約書はほぼ原本である。それがどれ程の危険を冒しているのか、レヴォリオは豊の正気を疑う。そして各国の極秘である契約交渉を執り行う人物が自分の目の前にいるのだと彼は感じたのだ。


「俺を諭す為に……! 国を揺るがす情報を! この場に! 持ち込んだというのか……!」


 王が現在を見据えて行動したのに対し、豊は未来レヴォリオを見据えて危険を冒した。強引な手段ではあるがこれで揺さぶりは出来た。次はレヴォリオの根幹にある動機、行動原理へと切り込んでゆく。


「貴方がどの様な人生を歩み、どれだけの哀しみを背負ったのかは、私には想像する事しか出来ません。しかし、今はギルダムが立ち直ってきた時なのです。貴方が武力に頼り、王政に取って代わると言うことは、再びギルダムに混乱を招く事でしかありません。貴方がやりたい事は、国を救う事ではなく、助けられなかった弟の復讐を王政を潰す事で、晴らそうとしている事にすり替わっていると受け取れます」


「そうではない!」

『お前に何が分かる』と彼の目は訴えていた。


「貴方がそうでないと言っても結果がそうなるのです。現在もギルダムが立ち直っていなければ、王を転覆させる言い分は通ったでしょう。だが、そうではない。私は行商先で救われた沢山の人達の笑顔を見ました。貴方はその笑顔を戦火で奪うつもりなのですか?」


「お前の言う事はわかる! 事情も理解した! 正論だ! だがどうすればいい! 俺は死にゆく弟に何も出来なかった! 今の俺の気持ちはどうすれば晴れるのだ! 俺が王となり、弟の様な哀しき存在を生まない様に身を粉にして戦うのが! 弟に対して、魂の安らぎとなるのではないのか⁉」


「貴方が弟さんに対して出来る事はひとつ、彼の死にけじめをつけることです。親しき人が亡くなる時、哀しみを覚えるのは、その人に対しての後悔があるからです。それに正しく向き合い、私に後悔を打ち明け、言葉にして吐き出し、泣き、喚き、乗り越えてください。私はそれを受け止めましょう」


 豊の淡々とした受け答えにレヴォリオは堪らず椅子から立ち上がる。


「何故だホウジョウ、何故そこまで出来る。何故割り切れるのだ!」


「……そうしなければ、人は前に進めないからです」


 一瞬だけだが豊の陰りを見たレヴォリオは、言葉を飲み込み座り直して頭を掻きむしった。対峙する彼もまた、大切な人の死を乗り越え強くなったのだと、そう感じざるを得ない雰囲気を豊は持っていたのだ。


「俺が人に後悔を口にすれば、弟に対する想いを軽んじてしまう様に感じる……それは、違うのか?」


「その様な事はありません。弟さんが亡くなったのは、貴方の所為でも、誰の所為でもないのです。弟さんは貴方に、一生自分の死を背負って生きてほしいと願う様な人物でしたか?」



「そんな事はない……弟は……リュシオは思いやりのある、優しい子であった……」


「話してください。私でよければ……」


 その後、レヴォリオは弟であるリュシオの事を語った。貧しくも二人で手を取り合って生きた日々、共に泣き、笑い、励ましあった過去を豊に赤裸々に告白した。


 豊とマシュロはただただ、彼の言葉に耳を傾け、時折相槌を打った。


 そして気が付けば三時間の時が流れていた。レヴォリオは心の内に秘めた想いを全て吐き出し、憑き物が落ちたかの様に晴れ晴れとした様子だった。


 ただ話を聞いていた様にも思えるが、豊が行った行為は、カウンセリングによるメンタルの治療であった。いや、それよりも遥かに拙いものであった。レヴォリオはその立場から、腹を割って話す間柄の人間関係を構築できずにいた。それ故に、彼の中で精神的負荷を蓄積し、思い悩み、計画を実行に移そうとしたのだ。


 彼に必要だったのは、友という全てを分かち合える相手だったのかもしれない。


 この世界では精神医療に関しての認識や知識が進んでいない為、側から見ていたマシュロには豊が魔術でも使ったのではないかと思える程、見違える効果が見られた。


「さぁ、話をしたらお腹が空いたでしょう、私が料理を作ります。厨房をお借りできますか?」


 黙っていたマシュロに連れられ、豊は部屋を後にし、厨房へと向かった。豊が部屋を去った後、残されたレヴォリオは椅子へ座り込み、大きく息を吐いた。


「弟よ……私を……憎んでいるか……」

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