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やがて天則の救世主  作者: 八代明日華
第一章:邪竜の巫女は唄う
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第八話『連なる言語達』

 今回の話は妙に長い上に大変読みにくいです。

 翌日。その日の授業を終えたシュウとマイヤは、再び学園長棟を訪れた。理由は単純である。


「さて、これから君にスプンタ語を教えていくことになるわけだが」

「……」


 ——この魔族トゥランの少女に、人間パルスの言葉であるスプンタ語を教えるためだ。文化を押し付けているようで少し気分が悪いが、背に腹は代えられない。

 アリアは相変わらずの赤い瞳で、じーっ、とこちらを見つめるだけだ。その目を見ていると余計に罪悪感に駆られる。

 彼女はひどく純粋な存在だ。それを、自分たちの都合で改変してもいいのだろうか、と。


 ただ幸いなことに、アリアはある程度スプンタ語をすでに解する。それを完全なものにする手助けをするのだ、と考えれば、ある程度は罪悪感も薄れた。


 ——全く、これではどちらが『悪』性存在なのか、まるで分らないな。


 以前イスラーフィールとの会話で出たその言葉を、シュウが内心で呟いていると、マイヤがアリアに問うた。


「……アリアさんは、私たちの言葉をどの程度理解していますか? どの程度の度合いまで、【聞いて】【分かる】か、という事です」


 いくらアリアがスプンタ語を聞き取ることができるからと言って、それが断片的なものであったなら、それなりの内容を教えなければならない。シュウはダエーワ語を理解することも喋ることもできていないが、何を言っているのか何となく把握することは可能だ。これと同程度だというのなら、それを『聞いて、分かる』という事は出来ない。


 しかし——例えば、ほんの少しだけでも共通する言葉が理解できる、喋れる、というのなら、話は変わってくる。その度合いを知りたい。


 そのつもりで、マイヤは恐らくアリアに聞いたのだと思う。

 思うのだが——アリアの回答は、予想外の方法で、予想外の結果として返された。


「……この、くरा()()……ना()रा()वा()का()ってる……」

「——!?」


 マイヤが息をのむ。当然だ、シュウもまるで声が出ない。

 今——今、アリアは、何語を使った? 何を口にした? ところどころよく聞き取れない箇所はあったが、あれはまさしく——()()()()()()()()()()


「もう話すこともできるのか!? いったいどうして……いや」


 驚愕の声を喉から漏らすシュウは、直後、彼女アリアが新たな言語を口にした理由に思い至った。

 だがそれは——それは、同時に、にわかには信じ難い答えだ。しかしそれ以外には考えられない。


 そうとも。アリアはスプンタ語を、恐らく——


「……俺とマイ、それから学園長の会話を聞いて、覚えたのか……?」

「うん」


 返ってきた綺麗な返答に、シュウとマイヤは再び絶句する。


 これは存外に教えることが少ないぞ、と、シュウは戦慄した。彼女はヒアリングだけでスプンタ語の会話を身に着けてしまったのだ。

 これはアリアが、外見通りに16歳だとするならば、空恐ろしいことである。人間の脳は赤子の頃や幼少期には、聴覚だけで大抵の言語を覚えることができるらしい(母国語獲得の云々という理論をどこかで見たが、旧文明の理論だったのでところどころ良く分からない部分も存在した)。が、大人になればなるにつれてそれは難しくなり、15歳程でほぼ不可能になるらしい。


 アリアが外見通りの年齢ならば、不可能な芸当に近い筈の、聴覚だけでの一つの言語の習得——彼女はそれを、半ば達成せしめているのだ。


 魔族に特有なのか?

 それとも、この銀色の娘が特殊なのか?

 どちらにせよ、アリアという少女は、想像以上に高い性能を持っている、という事だけは確かだ。


 だが——だとすれば、一つ新たな疑問が湧いてくる。

 アリアがシュウとマイヤ、イスラーフィールの会話だけを聞いて、スプンタ語を覚えた、というのはあり得まい。そもそも、聞いただけは意味が理解できないはずだし、なにより—— 


「アリアさん。あなたは最初から、先輩が口にする言葉を理解していましたよね? 一体、どこでスプンタ語の()()()を覚えたのですか?」


 シュウの話したスプンタ語を、最初に出会ったあの時点で、アリアは完全に理解していた。となれば、彼女はそれより以前に、スプンタ語をダエーワ語に訳すことができる、或いは、スプンタ語での思考が可能になっていた、という事になる。


 その回答も、意外な——しかしこちらは、ある程度の予測が可能であった範囲からもたらされた。


「……वाताशि(わたし)ताचि(たち)のことबा()と、अनाता(あなた)ताचि(たち)のことबा()、とても、よくनि ()()る……दाकारा(だから)वाका(わか)るの。दाकारा(だから)()हा()किइ(きい)ておぼえるदा()け」

「ふむ……確かに単語はかなり共通しているように聞こえた。やはり大本の言語が同一なのだろうな。何の知識もない俺達でも、アリアの言っていることが何となく推察できるほどだ」

「ですが難易度が段違いです。ダエーワ語の文法や法則は、スプンタ語とは違いすぎて全く理解できません」


 マイヤが眉を潜める。シュウもそれには頷かざるを得ない。

 なるほど、ダエーワ語の単語は確かにスプンタ語のそれと似通ったところを持つ。

 持つが——文法は殆ど違うものだ。語順や変形が違うし、そしておそらくは、それらを描くための文字も、まるで別のものであるのだろう。


 ここまでくると、アリアのスプンタ語が文法的にもかなり綺麗なことに背筋が冷たくなる。


「……待てよ?」


 と、シュウはある一つの仮説にたどり着いた。


「逆に、だからなのかもしれない」

「ああ、なるほど……」


 マイヤもその考えに行きついたのだろう。

 単純な話だ。

 アリアは非常に頭がいいため、文法難易度の高い言語を習得しているがゆえに、同系統の言語ならば習得するのも非常に速いのである。難しいことをすでにこなせる人物が、ほぼ同じ原理のことで、より簡単なものを、ある程度訓練すれば習得できるのと同じ理論である。


 もっとも、そう簡単にいく話ではない。シュウが呪術が使えても法術や魔術を扱えぬように。その辺りはやはり、アリア本人の素質に関わってくるのだろう。


「となると……ふむ。問題になってくるのはアリアから俺達に向けての会話か」

「はい。発音がところどころダエーワ語のそれと混雑しているように聞こえます」

वाताशि(わたし)ताचि(たち)のことबा()と、しゅうとまいやのことबा()चिगा(ちが)うおと、()इपाइअ(ぱいあ)る……」


 それはそうだろう、とシュウも内心で頷いた。寧ろそうでなければ、スプンタ語を教える意味はいよいよ無くなってくる。逆に言えば、その状況でなお、かなり聞き取ることがたやすいスプンタ語を話すアリアの潜在能力が窺え、空恐ろしい気分になってくるのだが。


「正しい発音を教えていこう。それから、文字も。読むことはできるけど、書くことはできないんだろう?」


 さすがのアリアも頷いた。因みに、彼女が文字を読めるようになったらしい、というのは、アリアがシュウの持っている本の中身を理解したらしい、という部分から察した。勿論、完全ではないようなので、そちらも教えていくことにする。


「文章を書くことができるようになれば、よりコミュニケーションがとりやすいだろうからな」


 シュウは、持ってきていた己の鞄を開くと、一冊の本を取り出した。カラフルな絵が描かれた、少し大きめの判のそれは、スプンタ語の初期入門の本だ。それをみたマイヤが、少し懐かし気な表情と共に微笑んだ。


「中央大陸の初等学校で使われている教科書ですね」

「ああ。俺は初等学校には通っていないので、これは後から購入したものだがな」

「そういえば、先輩は極東大陸の山奥の出身だ、とおっしゃってましたね。長老の方に勉学を習ったとお聞きしましたが」

「そうだな。最も、読み書きを然程教わった覚えはないのだが……」


 一年も経っていないはずなのに、あの邑での生活が、ひどく懐かしいものに感じられる。皆は元気にしているだろうか、などと思いを馳せながら、ふと、シュウは考える。


 長老に教わったのは、殆どが呪術関連の技術だ。ならば逆に、一つの疑問が出てくる。

 ——自分はなぜ、初等学校に通っても居ないのにスプンタ語が話せ、読み書きができるのだろう、と。

 シュウに存在する邑での記憶は六歳前後からのものであり、その時点ではすでにスプンタ語の読み書きができた。つまり、長老から読み書きを習わなかったのは、()()()()()()()()()()からなのだ。


 勿論、不完全ではあったが。幼いシュウに、さすがに大人並の会話をこなすことは不可能だ。


 ——いや。

 どちらかと言えば、あれは不完全というよりは、『不安定』——


「……先輩?」

「……ん、ああ。すまない、ちょっと考え事をな」


 マイヤが覗き込んできたことで、シュウは我に返る。その様子に、アリアが心配そうに問うてきた。


「しゅう、ぼーっとशि()てるの、よく()る。ぐअइ(あい)वारुइ(わるい)の?」

「いや、そういうわけではないんだ。どうも変なことを長々と考える癖があってな」


 特に最近は多い。アリアと出会って、初めて『魔族』というモノを直に見たことで、余計に善性存在と悪性存在の違いについての境界が、シュウの中で薄れ始めたせいだろう。以前にもまして、教会の理念への理解ができなくなっているのだ。

 もともと長々と考え事をするのはシュウの悪い癖だが、その『共感の欠如』とその理由考察をする場面が増えたことで、以前よりも自分のことについて余計に長く考えるようになってしまった、ということだろう。


 この数日で、何度マイヤの手で我に返ったことか。直さなければな……などと、彼が内心でため息をついていると、


「へんना()こと……? まいやのことका()んがえてता()の?」


 アリアが純粋な目で、首を傾げた。


「!?」


 マイヤは真っ赤になって「な、な、何を言って……何を言っているんですかっ!」と慌てだしてしまう。


「……何を言っているんだ……」


 復唱するかのように、シュウも同じことを口にせざるを得なかった。恐らく、子供の様に清らかな疑問からきた発言だったのだろうが……。

 ——これはアリアがスプンタ語をきちんと話せるようになったら、面倒なことになりそうだな、と、シュウは心の中で頭を抱える。

 と、マイヤがまだ少しあかい頬をごまかすように、少し俯きながらこちらを見てきた。上目遣いが意外と破壊力があり、シュウはうっ、とたじろいでしまう。


「……先輩は……私のこと、考えたりはしないんですか?」

「そんなことは無いぞ。大切なパーティーメンバーのことだ。いつでも気を配っているとも。」

「……パーティーメンバー、ですか。そうですか」


 すでに面倒なことになっていた。

 そもそもマイヤは自分に彼女のことを何だと思ってほしいのだろうか。シュウは女性の内面を察知する能力は絶望的に低いため、もともと考えていることが分かり()()()マイヤの言葉から、所謂『行間を読む』のは大変に難しいのだ。

 彼女もそれが分かってくれているのだが、ときたまそれでも分からない行動をとることがある。今がまさにそうであり、こうなるともうシュウは対応できない。


 そんなことより、パーティーメンバーとしてさえ見てもらえていない可能性が浮上して、シュウとしては大いに焦らざるを得ない状況なのだ。これはまずい。既に風前の灯火と思っていた存在意義は、シュウが予想していたよりもはるかに前からもう無かったのだろうか?


 精進しなければ——と内心で決意しながら、シュウは咳ばらいをして場を正した。


「ではまずは、スプンタ語がどういうものなのか、改めて説明しよう——」


 目下の所は、アリアに新しいコミュニケーション手段を持ってもらうところから。 



 ***



 スプンタ語は、この世界に住まうすべての人間(パルス)の共通語だ。方言のような物が存在するため、一概に全く同一の言語とは言えない所もある。事実、西大陸訛りと東大陸訛りでは、時々意思疎通が難しい場合があるほどだ。しかし、根本的には全く同じ言語である、と言っていい。


 それはある意味ではダエーワ語との間にも言えるのかもしれないな——


 そう思いながら、シュウはテキスト相手に奮闘するアリアと、それに付いてアドバイスをするマイヤの様子を見た。


「……()、b、p、t……」

「違いますよ、アリアさん。()ではなくa、です」

「うぅ~……むずका()しい」


 アリアの発音は、まだどこか不明瞭だ。特に『a』音の発音が非常に苦手なようで、何度も躓いている。ダエーワ語とは違う発音なのだろう。


「だがとても良くなってきた」


 シュウは二人に近づきながら褒める。嬉しそうな表情をとるアリア。だんだん彼女が、どういう事を言うとどういう反応を返すのか、理解できるようになっている気がする。やはり幼い子供と接するように会話をするのが一番の様だった。知能は大人並なので、単語などを選ばなくてもいい、という点では大きく異なるが。

 正確に言えば、『子供っぽい』、ということなのだろう。


 ふと、あることが気になったため、シュウはアリアに問うた。


「ところで、スプンタ語を聞いて覚えたということは、どの単語がダエーワ語と対応するのか、という知識がある程度あった、という事になると思うのだが……実際、どうなんだ?」

「しゅうता()ちのことबा()、わता()ता()ちのことばと、すごく、नि()てる。だから、わ()る」


 彼女から帰ってくる答えは、シュウたちが先ほど聞いたものと酷似した、というより、殆ど同じ答えだ。恐らくはそれ以外の回答などないのだろう。

 つまり。


「スプンタ語の知識が向こうに伝わっていた、というわけではなさそうだな」

異郷(ノド)へ行ってしまった人間(パルス)の話は、極めて少ないですが事例があります。もしかして、と思ったのですが……」


 マイヤが落胆したような声を漏らす。


「しゅうたちとनि()てるひとは、むこうにはいないよ。みんな、わता()しとおなじ」

「ふむ……残念だが、異郷に行って生き延びた人間(パルス)はいないという事か」

「もりにいたのとおなじおっきいどうぶつ、いっぱいいるもん」

「大型の悪性存在が闊歩する大地……当然と言えば当然ですが、恐ろしいですね」


 異郷は、こことは違う悪性存在の世界。そしてこの世界に顕れる悪性存在達は、皆異郷から門を通ってやって来て、そして樹海や迷宮といったダンジョンに住まうのだ。アリアの話から察するにすべての悪性存在が好戦的なわけではないらしい(まさにアリア本人がそうである)ので、恐らくシュウたちと戦っているのは、善性存在を敵視する一派なのだろうが。

 

 あるいは、善性存在を自動的に敵として認識する、単純な思考をしているのかもしてない。

 

 その点、大型の悪性存在はタチが悪い。彼らは高い知能を有するが、それでもなお善性存在との敵対を選んだ者たちなのだ。

 自分の意思で暴れまわる邪悪——大型悪性存在は、居るだけで脅威となる。


 ……いや、マイヤはそれをも秒殺する実力の持ち主なのだが。本当に頼りになる後輩だ。


 そのマイヤも、今は少しだけ残念そうな表情を隠せないでいる。彼女を笑顔にしたくて、シュウは話題を探した。

 すると、鞄の中にある本を入れてきていたことを思い出す。ああ、これは彼女にとっても、面白そうな話題だ——と、シュウはその本を手に取りながら口を開いた。


「だが、アリアの言葉から得たものも多い。マイ、経典の古いものを読んだことはあるか?」

「あ……はい。学園の図書館にあるものを、一度。非常に古い時代のスプンタ語で書かれており、大変難解でしたが……って先輩、それ……」


 マイヤが驚愕の表情を浮かべた。無理もない。シュウが手に持っているのはかなり古い版の経典——それも、図書館から借りた物などではなく、私財だ。

 善性存在の理念が理解できなかったシュウが、古いバージョンの経典を読めば変わるかもしれない、と、悪性特効呪術の勉強もかねて読んでいたのだ。呪術は、経典の一節を詠唱として代用することで、法術めいた効果を発揮するタイプのものがある。バルスマンがまさにそうであり、それがあるからこそ、シュウは法術・呪術・法力の間に、何らかの関係性があるのではないか、と睨んでいるのだが。


「そうだな……アリア、この誦句を、ダエーワ語で読んでみてくれないか」


 シュウはアリアに、経典の一節を見せた。初代ファザー・スピターマが、聖霊に自らの守護を訴えるその場面。結界を敷く呪術の元となった箇所とされるそれは、シュウも慣れ親しんだ誦句だ。


कमिनिहि(調停者に)कारिअरे(奉る) सेइरेइनिहि(聖なる者に)कारिअरे(奉る) वाताशिओ(我を)मामोते(護り給え) मामोते(守り給え) मामोते(衛り給え)


 そして——アリアが読んだそのダエーワ語は、経典のこの場面を、別に暗記しているわけではないシュウでも、完全に意味を理解できるほどに、古代スプンタ語に酷似していた。


「これは……」

「似ているだろう。俺はこう推測する——スプンタ語は素体言語から遠く離れ、ダエーワ語は殆ど原型を遺しているのではないか、とな」


 恐らくは文化の差というのもあるのだろう。

 人間パルスは素体となった言語から大きく離れた場所まで、言葉を『改造』してしまった。

 対する魔族トゥランは、素体言語から然程変わらぬ場所で『停滞』してしまっているのだ。


 ここまでくると、異郷の生活がどんなものなのか知りたくなってくる。シュウはアリアにそれを問おうとして、彼女の方を振り返り——


 ——瞠目した。


「なっ……」

「先輩、これ……!」


 マイヤも気づいた。


「わ……ぁあっ?」


 最も混乱しているのはアリアだろう。自らの周囲が突然、白い光を放ち始めたのだから。半透明の輝きの壁は、呪術『祈りの障壁(ディザイアシールド)』——否。あれは、そんなものではない。もっと、もっと強力なものだ。


「汎用結界法術『正義の聖神、(ホーリー・オブ・)我に守護あれ(アヴェスター)』!? どうして? アリアさんは魔族……法術は使えないはずでは……!」


 当然だ。法術(ティスティ)は、人間ではないと使えない。魔族が使うのは『魔術(ヴェーダ)』という、全く別の術だ。今目の前で起こっている現象に、驚きを隠すことなどできはしない。

 だが——だが、驚いているだけでもいられない。


「あ、あ、あああああああっ!!!」


 アリアが悲鳴を上げる。じわじわと痛みが彼女を苛んでいるのだろう。当然だ。法術は、悪性存在への特効。いくらアリアが善良な性格でも、彼女は魔族——法術によって滅ぼされるはずの存在。


「くっ……」


 シュウは己の持つ呪術を探る。法術を打ち消す呪術は無いか? ——ない。呪術を打ち消すための物ならばあるが、法術には圧倒的な出力差で打ち負けてしまう。同時に、結界を破壊することも不可能だ、同様の理由で破壊するには火力が足りない。

 結界は物理的な作用も遮断するため、今、シュウはアリアに近づくこともできない。

 

 ——状況を動かしたのはマイヤだった。


我が正義に(ダエーナー・)光をくべよ(ウェイクアップ)——アールマティ!」


 彼女の右手に光が集まる。輝ける刃が現出し、純白を纏って長剣を成す。光の剣を構えたマイヤは、青い髪を揺らして素早く水平切りを放った。

 白き刃の燐光が、芸術品の様な弧を描く。直後、ぱきん、という音を立てて、アリアを覆っていた結界は崩れ落ちた。


「あ……うぅ……」

「アリア!」

「アリアさん、大丈夫ですか!?」


 どさり、とその場に膝をつく彼女に、マイヤとシュウは駆け寄った。どうやら意識を失ってしまっているようだ。


「今のは、何だったんだ……?」

「分かりません……経典を読んだら、法術が発動した——としか、思えませんが……」

「……とにかく、学園長に報告しよう。俺達では手に負えないぞ、これは」


 シュウはマイヤにアリアを看ていてくれ、と頼むと、学園長室にいるはずのイスラーフィールの下へと向かう。

 

 道中のシュウの脳内にはずっと渦巻く考えが一つ。

 

 やはり、法力(ガーサー)は存在するのではないか? アリアは、経典を読んだことによって結界呪術を発動させたものの、彼女自身の持つ高い素質が発揮。そして大出力の呪術によって、法力を無理やり操ってしまい、結果として法術が起動したのではないか?

 もしそうならば、誰がアリアに呪術を教えたのか、という疑問もまた出てくることになるわけだが——




 ──そう言えば。

 アリアは、スプンタ語を聞いて覚えた、と言っていたが──




 ──そもそも、シュウとマイヤに出会う前は、誰の話したスプンタ語を聞いて、覚えていたのだろうか?

 更新お待たせいたしました。本来はもうちょっと後に執筆を再開する予定だったのですが、なんと初めて本作に感想をいただいたため、「これは放置してはおられぬぞ」と、ちょっと早めにPCを開いた次第にございます。

 今回も読んでいただきありがとうございました。

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