第十三話『マイ』
火花が飛び散る。金と銀の火花だ。金属同士がぶつかり合って発生するそれではない。互いに法力によって形成された、武装型法術の触媒兵装。それが激突の度に相手のそれを削り取り、形ある存在からエネルギーの渦へと還していく……舞い踊る粒子は、そのあらわれ。
「でぇぇえええぁあああッ!!」
「っ……!」
その滞留を、裂ぱくの気合いが鋭く切り裂く。振り下ろされる白銀の十字槌に、一切の小細工は無し。しいて言うなら、使い手自身の肉体を幻惑しての筋力増強程度か。武装のサイズを変換したり、幻想の茨で敵の動きを拘束したりすることは、ない。
理由は単純。『武装型ハルワタート』がもたらす認識改変は、一種暴走状態にある今のマイヤには通用しづらいのだ。ハルワタートもアムルタートも、見せたい景色と全く違う景色、あるいは本来の景色を、相手がはっきりと現実として認識している場合、その効果を殆ど無効化されてしまう。未だハレルヤザグナルの支配下にあったころの、エリナとしのぎを削ったあの夜のこと。シュウは彼女の認識改変によって、常軌を逸したサイズへと拡張された十字斧の刃を無力化した。「実際に刃渡りは変わっていない」と強く認識し直すことで、アムルタートの刀身増強を打ち消したのだ。あれと同じ原理。
要するに現実とは異なるレイヤー、アールマティの見せる『正義』が覆いかぶさったマイヤの視界では、エリナの認識改変は弾かれてしまう……そういう寸法である。
だから、方針を転換する。
相手を弱らせるのではなく、自己の強化をする。
「――銀の塔は高く、雷鳴は重く、青き薔薇は誇らしく咲く!」
紡ぐ声は涼やかに。さながら聖女の祈祷がごとし。
蒼電が集い、幻影の薔薇が玲瓏に咲く。大気を裂く。法力の鮮花が、虚空を土壌に咲き乱れる――
「至れッ! 『象牙の巨塔、魔動の巨峰』!!」
「ぐ、ぅう……っ!」
炸裂。全ての青薔薇が砕け散り、きらきら破片をまき散らす。それは急速に光の粒へと変換されると、エリナの小さな体へ吸収されていく。
途端、一撃の威力が増した。二倍、四倍、十六倍……加速度的に、それも乗算式で上昇していく十字槌の破壊力。振るう力が強すぎるのか、砕け散る破片には、床の大理石だけではなく触媒槌そのものの一部まで含まれていた。
それをマイヤは、驚異的な身体強化で避ける、或いは、強化倍率の低い一撃を見計らって、迎撃する。驚嘆すべき戦闘集中力だ。出会ったばかりの頃の、些細なことで油断しがちになる彼女はどこにもいない。それどころかつい先日までのマイヤでさえ、もう少し隙が多かった気がする。よほどアールマティの真の力は、効率的・機械的な戦闘に特化しているらしい。
ならば。
「『光輝女神の怒り』」
目には目を、歯には歯を。
大威力の一撃には、大威力の一撃を。アールマティの提案する戦術プランのままに、マイヤは両断の聖剣を顕現させる。
十字槌の軌道上に、対抗するがごとく開く砲門。瞬間、極太の光剣が射出され、『ハルワタート』の攻撃を完全に受け止めた。
「ちぃっ……!」
「はっ――」
交わされるのは舌打ちと息遣いのみ。両者、高い金属音と共に距離を置く。そうなれば必然的に有利なのは、遠距離攻撃を多数有するマイヤの方だ。当然、その背後の空間は既に揺らめき、『光輝女神の眼差し』を打ち出すための無数の口が、輝きを放つ時を今か今かと待ち望んでいた。
「遍く照らせ」
ザァァアアアアッ!!
潮の引く様な雄々しい音を奏でながら、針を思わすレーザービームが咆哮する。
防御が間に合わない。十字槌を盾のように構えるための時間も、『アムルタート』に切り替えて世界そのものを騙すための隙も用意されていない。悔し気に歪むエリナの顔。マイヤの方は冷静に、次に取るべき行動を見定めている。
その二人の間に、割り込む小さな銀の影が一つ。アリアだ。
歌うように高々と、魔族の秘術を発動させる。
「『×××××××××』」
響くアリアの祝詞。溢れ出る闇の奔流が、幾層にも重なり盾となる。王蛇のフードを思わすシャドウ・レイヤーは、光の剣を受けては消え、受けては消え。
「う、ぅ、ううううう……!!」
愛らしい顔が、苦悶の表情をとる。この聖堂で使えるだけの魔力、その限界値に近い力を注ぎ込んでいるのだ。ベールの下の黒曜石を思わす角が発光し、最低保証分の魔力さえも消費していく。
その分効果は絶大だ。アリアの防御障壁は、先ほど『眼差し』を受け止めたときとは比べ物にならないほどの耐久力で、マイヤの攻撃をしのぎ切った。光の剣は全て打ち出し終わったのに、まだレイヤーが何枚も残っていることがその証左。
そして対戦相手が、それだけの力を見せたのならば。アールマティの最高活用方法、現在のマイヤが取るべき最強の戦術とは――
「虚ろなる者に、救いあれ――」
さらなる破壊による、完膚なきまでの突破である。
マイヤの背中に、光の翼が開く。三対六枚のそれは、二秒もしない内に聖霊の図像を思わす白翼へと変貌した。天使――そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
ゆらり、と掲げられた触媒剣が、強烈な光を宿してシェイプシフト。より突破力を上げるためか、細剣を思わす鋭い刀身が形作られた。
「『光輝女神の救済』」
金属を擦り合わせたような、禍々しい音色が響き渡る。強引に収束させられ、一点突破、一撃必殺のイメージを込められた法力が通過する――その重圧に大気そのものが耐えきれず、おどろおどろしい悲鳴を上げているのだ。
「今です、お兄様!」
「ああ!!」
エリナが声を張り上げる。駆けだしたシュウは、彼女と入れ替わるようにシャドウ・レイヤーの終着点へと身を投げ出した。離脱するエリナ。それを見届けると、その場で両手を広げ、静止した。
回避行動はなし。迎撃のための技もなし。そもそも短剣は二本とも、腰のホルスターへと戻されている。
この姿勢は――完全に、マイヤの一撃を受け入れるためのものだ。
「え……!?」
流石のマイヤにも困惑と衝撃が走る。青い瞳は驚愕に見開かれ、その表情が戦慄に強張った。
「お、お兄様!? 何を――」
「しゅう、だめだよ、しゅう!!」
二人の悲鳴は、届かない。いくらその手を伸ばしても、距離を跳躍することは難しい。エリナが幻の腕を伸ばしたとしても、シュウの『現実』を惑わすことは叶うまい。今だけは、そう言い切れるだけの強い意思が自分にあると、確信できていた。
マイヤのブレーキも、当然だが間に合わない。あれほどの威力、この世界そのものをカタパルトとして射出される一撃だ。自らの意志だけで、完全に止めきることなど不可能。
故に。
光の切っ先は、寸分の狂いもなくシュウの胴へと吸い込まれる。
「ぐ……ぅぅううう……がッ――」
がほっ、と、己の口から、嫌な音と熱い感触が溢れ出た。びちゃり。純白の大理石に、目が覚めるほど赤い花が咲く。
みぞおちの辺りを貫く、焼けつくような感触。それを中心に広がっていく、相反するように冷たい気配。これは凄い、よくもまぁ、今の自分は生きていられるものだ。どんどん正常な思考力が奪われていくのが分かる。シュウの中の魔族の部分がじわじわと法力に浸されて、死んでいく。崩れていく。それを人間の部分が補い、再生し、絶妙なバランスで彼を生かす。
真っ二つにならなかっただけ良しとする。マイヤ・フィルドゥシー、恐るべし。停止こそ叶わなかったものの、彼女はあの一瞬で、シュウをぎりぎり刺し貫いてしまう程度まで、加速と威力を減衰させてみせたのだ。ああやっぱり、彼女は本当に強くて、優しくて――なんて、いい子なのだろう。
ようやく……つかまえた。
もう、逃がさない。
「あ、ぁ、あ……」
しゅぅん、という、マイヤには似つかわしくないほど情けない音と共に、光の刃が掻き消える。
同時に、シュウの身体、証を奪われてもなお『そう在れ』と世界が位置付けた救世主の肉体が、彼を生かそうと全力を尽くす。具体的には、この一年間で培ってきた呪術の数々が、開いた傷口を高速で修復し始めたのだ。身を投げ出す直前、自らを対象として起動させた呪術たちが、主の為にその力を存分に振るう。
シュウは内心で、彼にしては珍しい壮絶な笑みを浮かべる。
どうやら、賭けには勝ったらしい。この先に続く未来、ほとんど全てを相手取った賭け。
内約は三つだ。
一つは、マイヤの攻撃が、自分を『殺し切らない』こと。シュウはこの作戦を思いついた際、最愛にして自慢のパートナーならば、彼が身を挺したその瞬間、可能な限りの威力減衰を試みると判断した。結果としてその、いっそ『過大評価』『過信』ともとれる推測は当たり、マイヤの触媒剣は、シュウの腹を突き刺すにとどまった。皮肉にも、二人の間に結ばれた、強い信頼関係が本物である、ということの証左だった。
もう一つは、自分の呪術がどこまで通用するか、という線引き。折角マイヤの攻撃を生きて受け切ったとしても、回復が間に合わなければ遅かれ早かれそのまま死ぬ。傷をいやすような強烈な法術が使えるわけではない。『スラエオータナ』が奪われた今、法力をそのまま治癒力に変換するような、とんでもない真似はできっこない。で、あるならば、可能な限りの回復呪術をセットアップしておけば、少なくとも命に係わる傷だけは、再生しきることが出来るはずだ、と。これもまた、成功した。世界呪術との接触以降、積み重ねてきた鍛錬は、いつの間にかシュウを、法術師とも渡り合えるほどの強力な呪術師へと成長させていた。
そして最後の一つは――
「せん、ぱい……どうして……」
どさり、と膝をついたシュウに、釣られるようにマイヤも崩れ落ちる。己が手で串刺しにしたシュウの姿に、余程の衝撃を受けているらしい。シュウの――予想通りに。だからこそ、命をかけて彼女の攻撃をこの身で受けた。
シュウの『賭け』、その三つ目の対象。
それは、マイヤが見せられた未来の形だ。最初シュウにはそれが何なのか、分からなかった。きっと自分にはあずかり知れない、破滅の未来を観たのだろうと想像していた。
だが違った、違ったのだ。ヒントなんてもうとっくの昔に出ていた。シュウはそれを知っていた。気付けるはず、気付けたはずなのだ。
なのにシュウは、そのヒントを辿ることができなかった。マイヤを思いやるあまり、彼女が本当に望んでいることを無理矢理聞き出し、傷つけてしまうことを恐れた……いいや、恐れすぎたせいで。
マイヤが見た世界。
それは、シュウ・フェリドゥーンが彼女のもとから、何らかの要因で去ってしまう、というものだったのだろう。恐らくは、『救世主』として戦いに赴き、そこで命を落とす道。二人で交わした約束、紡いだ絆、ずっと隣を歩いて行くという誓いが、果たされなくなってしまう未来。
彼女は『良い子』だから、それを引き留めることができなかった。ずっと私の傍にいてください、と、シュウを繋ぎとめることができなかった。
アールマティが増幅させたのは正義の感情などではない。その未来を垣間見たマイヤの抱く、『未来の後悔』。いつかこの時間軸でも、そうなってしまうのではないか、という恐怖。だから彼女は、ここでシュウから戦う力を完全に奪い去ろうとしたのだ。自分とあれほど果敢に切り結びながら、シュウの頬に切り傷が奔っただけで強烈に取り乱したのは、シュウを喪う最悪の未来を思い出してしまうからだろう。
ファザー・スピターマの増幅法術がそんなイメージを見せたのは、きっと彼女自身の恐れの表れだ。
教会の本部に赴くまでの馬車の中、マイヤは何かを我慢している様子だった。あのとき、シュウがもっとマイヤを問い詰めていれば。彼女を、素直にしてあげられたなら。彼女の願うことが、「もっと一緒に居たい」「たくさん甘えたい」「離れたくない」……ともすればはしたないとさえ思える、けれど単純で、シュウだって狂おしいほど同じことを思っている、そんな小さな望みだと、分かったはずだったのに。
そうすれば、最愛の恋人は、こんな風に、「あり得るかもしれない未来」に怯え、嘆き、涙することもなかっただろうに――。
ではどうすればいいのだろうか? 決まっている。その未来を変えてしまえばいい。
マイヤが望むもの、彼女が欲しくて、どうしてもシュウに強請りたくて、でも彼女自身の思考回路が故に伝えることを『我慢』してきた想い。『良い子』過ぎる恋人が、ずっと抑えつけてきた願いに応える。そうして今度は、何も我慢しなくていいような関係を、結び直せばいい。
「嫌……嫌です、嫌、先輩、行かないで、待ってください、私を、置いて行かないで――」
零れ落ちる鮮血が止まらない。赤々と開いた刺し傷は、既に命に別状はないはず。けれどもその流血から、シュウの命が溢れて消えるように、マイヤには見えてしまうのだろうか。これまでの一年半で、一度も見たことがないくらいに大粒の涙を、ぼろぼろと瞳から溢れさせながら、彼女は最愛のひとに縋りつく。
もう法術は停止しているはずだ。彼女を操っていた、アールマティの慟哭はどこにもない。けれども彼女の錯乱状態が終わらないのは、あの不安感が、光輝女神の影響など関係なく、もともとマイヤの中に巣食っていたものだからだろう。きっとそれを払しょくしない限り、彼女はずっと泣いたまま。
「……どこにも、いかないよ」
だから、安心させるように、告げる。
ぎゅっ、と、マイヤを抱きしめ返す。流れた血が、アイボリーホワイトの法衣をべったり汚すが、罪悪感は意識の外へと追い出した。だってそんなことをする必要があるほどに、今、シュウはマイヤのことを、自分に密着させていなければならないから。
二人の鼓動、吐息、触れ合う体温――それを全力で、感じ合わなければならないから。
自分はここにいる。他のどこかではなく、ここにいる。マイヤの隣に、ずっといる。それを全身で、表現したかった。
「俺はどこにも行かないよ、マイ。勿論、物理的に離れ離れになってしまうことはあるだろう。そもそも日がな一日、四六時中一緒にいるのは難しい。でも――そうだな、心は、と言えばいいのか。俺の想いは、常に君のもとにあると誓おう」
返ってくる嗚咽を消してあげたくて、両手にもう少し、力を籠める。
「救世主なんて荷が重い。世界を救い続けるなんて、とてもではないけど俺にはできない。俺は君を、誰よりも大切な君を救える、君だけの救世主であれれば、それで嬉しい」
どこかに行ったりなんてしない。自分に与えられた役割のために、マイヤを置いていくことはない。シュウ・フェリドゥーンは何よりも、他のどんなものよりも、マイヤ・フィルドゥシーのためにこそその力を振るう。
その誓いを、ここに立てよう。
シュウはマイヤに回した両腕を緩める。密着状態から解放された彼女の、青い瞳をじっと見つめる。海原のようなその目の奥に、自分はどんな風に映っているだろう。そう考えるようになったのは、いつごろからだっただろうか。
きっと結構、早い段階だったはずだ。東の島から出てきたばかりの少年は、この海色の少女と一緒に過ごす日々が、どんな幸福よりも大切なものだと感じるようになっていた。彼女と過ごす明日を、彼女を幸せにできる明日を、探したいと思うようになっていた。
それを世の中では、きっと。
恋といい、それから、愛という。
「マイ、君が好きだ」
噛みしめるように、そう告げる。
「マイ、君が大好きだ」
揺れるマイヤの瞳の奥、何もかもを振り切るように。どんなしがらみや不安からも、彼女を解き放つことができるように。
「マイ、君を愛している」
もう一度、告白する。
誰から誰へ? シュウから、マイヤへ。
何の? 勿論――愛の。
「俺は君のお蔭で幸せになれた。そして、これからも幸せだ。君も同じように思っていてくれたなら俺は嬉しいし、そうでなかったのなら、これからは『そうできるように』する」
「でも……でも、私、私は……我儘で、本当は、凄く自分勝手で……自分が幸せになりたいから、先輩のことを幸せにしていただけで……!」
「ん……? そのことの、どこが悪いんだ? 結局二人とも幸せになれてるなら、それでいいんじゃないのか?」
「違います! だって私、先輩の気持ちも、考えないで……」
尻すぼみになる声は、こんな場面だというのに申し訳なさそう。というより、殆ど泣きそうな声だった。
ああ、なんだ。君は、そんなことを気にしていたのか。
やっぱりマイヤは良い子だ。彼女と出会えて、本当に良かった――そう思いながら、シュウは優しく微笑んでみる。マイヤの右手をふわりと掴み、そのまま自分の頬へ持っていく。細くて、軽くて……儚いけど、頼りになる。誰よりも大事で、愛おしい、彼女の手。今度こそ離さない。
「じゃぁ、こうしよう。君が俺に幸せをくれる分、丸ごと俺が君に返す。君は俺を幸せにして、自分も幸せになる。俺は君を幸せにして、それで俺も幸せになる。それでおあいこ、わけあいっこにしたい――駄目か?」
「そんな……そんなこと、駄目なわけ、ありません……っ!」
分かっていた。その答えが返ってくることは、今のシュウとマイヤの間にある強い想いが、簡単に推測させてくれた。
だって約束したから。これから降りかかるどんな困難も、どんなに辛い出来事も、二人で分け合って生きていく、と。
それが、並び立って生きていくことだから。たとえどんなに、互いの戦闘力に差があっても――大事なのは、心の在り方なのだ。分かち合うということは、何もキッチリきっかり、なんでも同じ量を回し合う、ということではないのだから。苦手なことは、得意な方に助けてもらいながら。逆に得意なことは、率先して自分がやりながら。
「もう、もうっ……先輩のばか、鈍感……!」
「君にそう言われたのは、久しぶりだな……どうしてだろう、昔からそうだったけれど、不思議と傷ついたりはしないよ。やっぱり、愛情が籠っているからだろうか?」
可憐な顔が、思わず、と言った調子でほころんだ。別に冗談を言ったつもりはないのに。
でも、ようやく笑ってくれた。やっぱり君は、笑っている方が泣いているよりも、何倍も、何十倍も、何百倍も素敵だ。
「約束ですよ? ほんとのほんとに、ずっと一緒ですよ?」
「ああ。約束する。絶対に、だ」
これまでマイヤとの間に結んできた約束は、全部守ってきた。そしてこれからも、全部守り続けるだろう。だからそんな、生涯を掛けた彼女との『契約』に、この一文も加えたいと思う。
「きっと君を、幸せにしてみせる──ずっと、ずーっと、一緒だ」
それでようやく。
マイヤは、安心したように、ふわり、といつもの、向日葵みたいな笑顔を浮かべてくれた。
展開していた『聖霊』の翼が消える。増幅していた法力は元に戻る。マイヤを蝕んでいた、絶望の未来は掻き消える。
シュウ・フェリドゥーンは、最愛の恋人を、取り戻した。




