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やがて天則の救世主  作者: 八代明日華
第三章:善と悪の境界に
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第九話『今の俺は』

 バルガスの使う漁船は、最大で二十人を収容できる程度というイスラーフィールのプライベートシップよりも、より小柄だった。まぁ、本来ならば客船の類にあたる機種を改造したらしい学園長専用船よりも、漁のためにそう多くない人数を乗せるのみのバルガスの船が小さいのは当たり前と言えば当たり前なのだが。


 しかし、その潮風に当たって少しだけ錆びついた白い船体からは、長い時間を海と共に過ごしたことに由来する、確かな信頼性を持っていることが見て取れた。何と言えばいいのか、『強い』のだ。この船は、きっと。単純に強度的な問題だけではない。時には穏やかな海面を滑るように掻き分け、時には荒波の中に在って不動を貫く、そういう事ができる船。

 そしてそれを成し遂げることは、船だけでは不可能だ。団長のバルガスを始めとした、彼の仲間たちが居て初めて達成できる偉業なのである。


 シュウたちがバルガスの指示で、荷物——具体的にはエリナのリュック――を漁船へと詰め込んでいると、その『仲間たち』が、騒音を立てながらやって来た。


 酒瓶を片手に大声で笑う、バルガスと同じくらいに見える壮年の男性。

 その男性に肩をバンバン叩かれながら縮こまる、新人と思しき青年。

 リヤカーに釣り道具や、海洋調査に使う機材を乗せて運ぶ、三十代程度の男性。

 そして、どこかで見たようなモスグリーンの髪と、銀縁眼鏡が特徴的な、学者然とした青年。


 全員の顔がはっきりと見える位置まで彼我の距離が近づいた時、最初の反応は意外なところから上がった。


「……アローン兄さん!?」


 学者風の青年の顔を見た瞬間、ロザリアが大きく目を見開いて驚愕。彼女の叫び声に気が付いたのか、青年は『航海記録』と書かれた手元のノートに落としていた視線を、シュウたちの方向へと向け――


 盛大に、ひっくり返った。


 それはもう一種芸術的と言っても過言ではない。青年の視線がロザリアの顔を捉えた瞬間、彼の足が急激にもつれ、崩れた姿勢を正そうと両腕をわたわた振り回し、されど結局効果は出ずに、勢いよく尻餅をついたと思ったら眼鏡が飛翔。数秒の滑空を経て彼の額に激突し、背中から波止場に倒れ込んだ彼の手元より、例のノートが吹っ飛んだ。


 アローンと呼ばれた彼は慌てて上体を起こすと、おでこに向かって落ちてきた後、片耳だけが引っかかる形で装着されていた眼鏡を、元の形にかけ直す。航海記録を素早く携え直すと、足を延ばして振り上げ、曲げて振り下ろす。その一連の動作の勢いのまま立ち上がると、ぱんぱんと複に着いた塵を払い、今までの謎挙動、その一切がまるでなかったことであるかのように、眼鏡の中央を押さえて格好をつけた。絵物語にしたら、グラスが光ってキラーンと効果音が鳴りそうである。


「ひ、久しぶりだねローゼ。どう……どうしてここにいるんだい?」

「兄さんこそ! 吃驚してしまったよ……法術を活かすために天候予報士になったとは聞いたけど、まさかバルガスさんの船に乗ってるだなんて」


 アローンの前に駆け寄るロザリア。二人はそのまま、親し気に会話を続けた。しかし互いに抱く感情は異なる様で、それがシュウをして見た目からも察せる。ロザリアは終始興奮した様子で。青年の方は頻繁に眼鏡をかちゃかちゃと鳴らしながらかけ直し、位置を調整している。どうやら予想外の再会に、前者は喜びを感じ、後者はやたらと焦っているらしい。


「……なんだお前ら、知り合いだったのか」

「あー、そういえばそうだったな……ルーズヴェルト、どっかで聞いた名前だと思ってたらそういうことか……」


 バルガスが意外だ、と言わんばかりに目を見開く。その後ろで、イスラーフィールが眼頭を押さえた。何かしら思うところが在ったらしい。

 

 ロザリアがアローンの腕を引っ張りながら、一行の輪に戻ってくる。今にもるんるんと歌い出しそうな、機嫌の良いときの表情。彼女はそんなにこにこ顔で、青年を仲間たちと引き合わせる。


「紹介するよ、アローン・ルーズヴェルト……三歳上の従兄なんだ。アローン兄さんの家の都合で、本物の兄妹みたいに育った」

「し、紹介にあずかり光栄だ。アローンという。彼女……ローゼの母君が私の伯母に当たる人でね。その、ルーズヴェルト家は騎士爵家だから、後継育成のために本家に私も預けられていたんだ。よろしく頼めると幸いだ」


 ロザリアとアローンの実家であるルーズヴェルト家は、中央大陸でも有名な『騎士』の家である、らしい。シュウはあまりその辺りの事情に詳しくないため、以前マイヤから聞いた程度であるが……形容としての騎士ではなく、本物、役職としての騎士の一族だそうだ。


 騎士。自らの主との間に、極東大陸風に言えば御恩と奉公の関係を結んだ戦士たち。ときに主君を護る盾となり、ときに領民たちと共に戦線を駆けあがる旗印となる――そういう存在。

 御伽噺の中にも出てくるような、かつての戦の英雄たち。


 そう、かつての。教会の権力が行き届き、人と人、国と国との争いが極小にまで減った今では、その役割は薄くなった。よしんば戦が起きたとしても、戦場の主役は最早法術師となった時代だ。いくら法術師対法術師では、各々の性能がダウンするとは言え、法術を持たぬ一般の騎士、その法力纏わぬ剣では、新時代の戦いについて行くことはできない。

 時は流れ、戦士としての騎士という役職は事実上消滅し、残ったのは栄誉と栄光、そして伝説と名前だけ。

 ルーズヴェルト一族は、そんな時代に在ってなお、『騎士』の名を守り続けてきた稀有な人々なのだ。騎士道と法術を組み合わせた新たなる道へと到達し、騎士と法術師、どちらもの役割を勝ち得た一門。

 

 簡単なことではない。

 一言で「法術師を兼ねる騎士」と言えば、極めて単純なハイブリッド構造に聞こえるだろう。しかしその実態は別だ。戦闘に於いて騎士らしさを追求すれば、法術師の利点が薄れ、その法術師の利点を突き詰めれば、騎士の意味がなくなってしまう。両者を合一させ、均衡を保つのではなく同時に昇華させる、というのは、意外かも知れないが大変な事なのだ。

 

 それを体得するのは、普通の法術師と同じ訓練ではかなり難しいと推測できる。それはロザリアの戦闘を見るだけで分かる。彼女の戦いは、紛れもない法術師のそれであるが――しかし、法術ではなく『剣術』の方に本体が在るように見えた。武装型法術を操る法術師たちや、単純に武器を携えた展開型法術師のそれとはわけが違う。剣法一体、と言えばいいのか。どちらか片方に性能が突出しているわけでもなし。単純な合一でもなし――相乗効果。そういうものが、ある。


 まぁ、とロザリアが笑う。


「結局ボクも兄さんも、継承は出来なかったんだけどね。ルーズヴェルト流『騎士術』」

「ロザリアは剣に、私は法術に寄り過ぎたんだ。今は先代継承者であった彼女の父君から、彼女の姉君へとその志が受け継がれている」


 騎士階級、という存在—―つまりは前述の、法術に頼らない騎士、というのは、今でも一定数存在する。西方大陸ではまだきちんとした組織も残っているそうだ。

 しかし中央大陸では違う。騎士ではなく法術師の大地である中央大陸では、剣と盾を構え、槍を携え、鎧を身にまとい弓を撃つ――そこに法術の介在しない戦士たちは立場が無い。


 それ故の『騎士術』。

 それ故に、一子相伝。


 ロザリアは、『騎士術』を継承できなかったから、己の中の剣術と、『足りなかった』法術を養うために、育成学園にやって来たのだと――マイヤから、友人たちの話を聞いた時、彼女はそう言っていた。


「その過去を受けて、私は騎士ではなく法術師の道を選んだ。それも魔物討伐ではなく、この力を他者のために活かしたいと」


 対するアローンは、『足りなかった』剣術を補うのではなく、法術をさらに伸ばす道を選んだ。戦いのための法術ではなく、誰かのために使う力――俗に生活系法術と呼ばれる類を突き詰めたところが、騎士らしいと言ったらおかしいだろうか。シュウはそんなことをふと思う。


「私の法術――『武装型ソティス』の力は天候の予測。在学中、イスラーフィール学園長に相談したところ、船に乗るのが一番だ、というアドバイスを頂いた。故、今こうしてバルガス殿の船で、航海師をやらせていただいている」


 航海記録を持っていたのはそういうことらしい。

 生活系法術で武装型の領域に到達するのはかなりの困難だ。多くの場合、武装型法術へのステップアップは戦闘面でのブレイクスルーが起因する。それが、別の要因で覚醒を促したというのであれば、この青年は想定外に……いや、ロザリアの事を思えば、予想通りの実力者である、ということを示す。


 聞けば、アジ・クールマとの遭遇の際、その出現を予兆したのも彼であったらしい。

 法術による探知では一切見つけることができない、彼方に浮かぶ黒い暗雲――その下に、島を背負った蛇亀は鎮座していたという。マイヤが表情を硬くしたのが見えた。今の話が本当なら、アジ・クールマは『索敵に引っかからない』可能性を持つ。視認するまでその存在を感知できなかったということは、魔物としての気配や、何らかの魔術的作用を周囲にもたらさない、ということが考えられる。

 アリアを見ればわかるが、強大な悪性存在は自身の業、その気配を殺すことができる。エリナのように疑似的な魔族化を行った場合は、明らかな「魔の気配」が周囲にばらまかれる。しかしそれも、扱いに慣れれば話は別だ。御伽噺の魔族たちの様に、そして他ならぬアリアの様に、他人の目でその魔族的特徴を捉えなければ、悪性存在としての気配を探知することができなくなる。


 海洋性悪性存在の全てを司る、最強の『王』。

 その形容は既に受け取った後だったが、改めて、自分たちが相手取る魔物の強大さを思い知る。


 緊張感からか、妙な震えが来た。シュウは拳をぎゅっと握り、否が応でも通ることになるだろう激戦の予感に覚悟を決める。


 と、視界の端で、アローンとイスラーフィールが会話をしているのが見えた。顔を寄せ合って内緒話をしているようだ。以前はマイヤとイスラーフィールがこうやって会話をしているのをよく見たものだが、一体何を話しているのだろう。

 仲間たちはロザリアの昔話に興味を示したのか、そちらへ流れている。バルガスとアルケイデスは、他の船団員の男衆と作戦会議。結果としてシュウは会話相手もおらず、手持無沙汰になってしまったため、学園長と気象予報騎士の会話が気になってしまう。


 丁度いい感じに座れそうな、堤防の端に腰掛ける。そのまま、失礼、と心の中で謝りつつ、二人の会話に聞き耳を立ててみた。

 

「すまんなルーズヴェルト。知っていたら連れてこなかった」

「いえ。丁度良い機会だったのかもしれません」


 どうやら、此度の海洋調査にシュウたちが同行していることについて話しているらしい。先程本人が言っていた通り、アローンは育成学園の卒業生。シュウたちの先輩にあたる人物のようだ。彼をバルガスの船に乗せるように手回ししたのも、どうやらイスラーフィールのようだ。

 

 二人の会話を聞くに、アローンは後輩たちとの早期遭遇を望んでいなかった模様だ。得にあの動揺具合。ロザリアには何か思うところが在るのだろう。

 

 当然、と言えば当然なのかもしれない。

 騎士術の後継者として育てられた二人。剣と法術の合一の道を、己の流派とは異なる形で目指すロザリアに対し、アローンは法術一本で生きていく道を選んだ。これまで歩んできた道を逸れることに、罪悪感や葛藤もあったに違いない。

 その、自身が捨てた道の象徴とでもいうべき人物が目の前に現れたなら?

 それも、まだ自身の過去に割り切れていないほどの時期であったのなら?

 聞けば、アローンはロザリアの三歳上だという。シュウからすれば二歳上。彼が育成学園を卒業したのは、たった一年と少し前の話なのだ。

 他の道が在ったのではないか—―そんな後悔を抱かせたくはない、と、イスラーフィールは思っていたのだろう。


 対するアローンの方では、学園長の心配事は全く気にしていない様子だった。どこか安心した様な雰囲気を纏わせながら、眼鏡の青年は苦笑する。


「幻滅されていなかったのだ、と知れたのは、私としても嬉しい」

「剣術の授業はやめて、完全に法術特化にするって決めたとき、気にしてたもんなお前」

「ええ。唯一の心残りだったのです、それが」


 また、苦笑するアローン。その笑みには、他人の感情の機微に疎いシュウでも分かるほどに濃い、自嘲の色が混じっていた。

 一体どうしたことだろうか、と、シュウが思案を巡らせる前に。


 かつては騎士であった、そして今気象予報士である青年の口から零れた答えは、少し、想像とは違っていた。


「——騎士になれない、ということは、『白馬の王子様』にはなれない事を示します。ローゼの望むような」


 ぴしり、と。

 自分の周囲の空気が凍り付き、ついでに身体まで動かなくなる錯覚を覚えた。


「……」


 どういう、ことだ……と、内心で繰り返してしまう。

 いいや、いいや、繰り返す必要などどこにもない。シュウにはアローンの言葉が痛いほど良く分かる。というより、現在進行形で時たま自分も感じる。


「……先輩?」

「マイ」


 ふとかけられた声に顔を上げれば、マイヤがシュウを覗き込んでいた。白色の麦藁帽子の下から、背後で船を浮かべる海と同じ、煌く青髪が流れ出る。波止場の風に揺られてぱたぱた揺らめくその様子が、さざ波を象徴しているようで。少しだけ、シュウの動揺が落ち着いた。マイヤにはふとしたときに感謝の言葉を述べたくなるが、それが今だ。


「ありがとう、マイ。おかげで助かった」

「……? はぁ、どういたしまして……」


 拙いものを見てしまった、というか、聞いてしまった、というか。

 やはり聞き耳を立てるなどと言う行為はするべきではないなと強く反省する。

 

 以前、マイヤの授業が終わるのが、夜遅くだったことがある。実習で遠出するとのことで、二年生たちは皆帰ってくるのが遅かったのだ。

 その時、シュウが帰ってきたマイヤを校門まで迎えに行くと、丁度リズベットとロザリアが一緒だった。流石に夜道を一人で帰らせるわけにはいかない、との事でか、生徒たちは固まって行動していたのだが、マイヤは二年生では唯一、使っている寮の場所が違う。というわけで、ロザリアとリズベットの二人が付いていてくれたようなのだが。


 シュウが振った手に、マイヤが気づいて手を振り返す。そのやり取りを見ていたロザリアが、言ったのだ。


『ははは、まるでお姫様を迎えに上がる王子様だ。いいなぁ、ボクも憧れちゃうよ、そういうの』

『ローゼは昔から夢だもんねぇ、白馬の王子様との運命の恋』

『だっ、黙らないかリズ!! そういうのは人前で暴露するもんじゃない!』

『えぇー、墓穴掘ったのはローゼじゃ~ん』


 あの夜の光景を思い出す。

 するとつい今ほど聞いた言葉が、再び耳の奥にこだました。


『——白馬の王子様には成れない――』

『——ローゼの望むような――』


 間違いない、と思って良いだろう。流石のシュウでも、疑うことができない程に。


 あの言葉を口にした時、アローンが内に込めていた自嘲の念は、きっと、シュウがこうやってマイヤと話している時に、ときたま感じるそれと一緒なのだ。


 ——自分は、愛する人の隣に立つのに、相応しい人物ではないのではないか、という、強い不安と。


「どうかしましたか、そんなばつの悪そうな顔をして……あ、すみません、もしかして何か考え事を? だとしたら、邪魔をしてしまった事をお詫びします」

「いや、大丈夫だよ。話し相手が居なくて暇だっただけだ」

「それは……」


 自分は幸せ者だと、そう思う。

 マイヤは、シュウのそんな不安を吹き飛ばすように、自分の方から手を取ってくれる。歩み寄ってくれる。先に進み過ぎていたなら、立ち止まってシュウが追い付くのを待ってくれる。シュウが先に進み過ぎていたら、「待ってください」と確り声を上げて、それからすぐさま追いついて来る。

 

 いつでも隣にいてくれる。それが分かっているから、不安になることは、今はもう無い。


 シュウの言葉から、彼が独りぼっちにされたことを不満に思っていると感じたのか。マイヤは申し訳なさそうに眉根を寄せた。


「ごめんなさい、先輩を放り出して、一人だけ話の輪に加わってしまって……」

「問題ないよ。マイが友達と仲良くしている様子を見るのは俺も好きだからな」

「そ、そうですか? ん……」


 少しだけ頬を緩めて、彼女はシュウの隣に座る。

 そのまま、困ったように……いや、その表情は違う。照れた様子で、マイヤはシュウの目を見て問うた。


「じ、じゃぁ……先輩と、お話している時の私は、どうですか」

「む」


 何を当たり前の事を聞いているのだろうか、この子は。と思うと同時に、そんな当たり前のことをいちいち聞いてくれる恋人への愛おしさが倍増する。

 そのせいか、妙な緊張感が口の動きを鈍らせた。言葉がどもってこぼれ出る。


「……す、好きだぞ、勿論」

「良かった……ふふっ」


 笑いながら、マイヤはシュウの、堤防に置いた右手へと、その左手を被せてくる。海辺の少々冷たい風のせいか、シュウの指は冷えていた。自分でも気づかなかった。だが、マイヤの手の温かさが、相対的に自分の体温低下を示す。


 もう少し、その温度を確り味わいたくて。

 シュウは、手を繋ぐ形を変えると、マイヤの手をぎゅっと握った。


 波止場を見れば、アローンとイスラーフィールもロザリアたちの輪に加わっていた。バルガスたち船団は、アルケイデスを加えて船の方を指差しながら、まだ熱く議論を交わしている。


「もう少し、時間がかかるみたいですね」

「ああ」

「先輩、その、何か話すことがあるわけではないですが――」


 にこり、と。

 ささやかではあるが、幸せそうに微笑むマイヤ。


「お話、しませんか」

「……そうだな」


 今、シュウは、幸せだ。

 規模のほどは知らないし、誰から見てもそうなのかは分からない。けれど、シュウ自身の感想としては、今彼はこの上なく幸福であった。

 マイヤと言葉を紡いでいく度に、ゆっくり、ゆっくり、それでも確かに、その幸福感は高まっていく。


 アローンはどうなのだろうか。

 ロザリアと言葉を交わすとき、いったいどんな感情をその心の内に秘めるのだろうか。

 

 それが、明るいものでないのなら。

 明るい感情を抱きたいと、彼が望んでいるのなら。


 一種、話を盗み聞きしてしまった罪滅ぼしとしては変だが――協力できることがあればいい。そう、思うのだった。

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