第十四話『変革』
シュウ、マイヤ、ロザリアの三人が医務室を訪れると、昨日の様にアルケイデスがパイプ椅子に完全装備で腰かけていた。部屋中に、アルケイデスが放つ『英雄の気配』とでも言うべきものが満ち満ちている。窓から入り込む陽光が、『ウルスラグナ』の白い刃に反射してぎらり、と光った。相変わらず凄みのある光景だ。
ロザリアが白いカーテンの向こうに入る。リズベットとはルームメイトだという彼女。何かしら、思う者があるのだろう。
彼女の代わりに自分たちが、事の次第を報告せねば――シュウとマイヤは、アルケイデスに今朝の調査で得た情報を開示する。
案の定、とでも言うべきか。『魔術の姿をした法術』の話をした際、アルケイデスの方眉がぴくり、と上がった。
「魔術ではなく、法術だと?」
「はい。正確には、術式自体は魔術のものに見えるのですが、触媒にしているのは法力でした。これを分類上何と呼ぶべきなのかは良く分かりませんが……」
「イスラーフィールの言によれば、触媒に法力を使えば法術、魔力を使えば魔術、そして『己の意思』を使えば呪術となる。であるならば、それは確かに法術、と呼べるのだろうが……」
アルケイデスはしばし考え込む様子を見せる。脳内の記憶と情報を整理しているのだろう。一種彫像か何かの様にさえ見えるその横顔で、『英雄』は己の知り得る情報から事件解決のための重要な要素を精査していく。
やがて、アルケイデスはゆっくりと口を開いた。
「私は以前、少年が魔術を使った際に、それを『あり得ん』と断じたな」
「はい」
覚えている。
アルケイデス――マグナス・ハーキュリーとの戦闘の際、シュウとアリアを庇って自らが討って出たマイヤ。彼女を救うために、シュウはズルワーンから授かった『魔力と法力を操る呪術』を以て、アリアの提供してくれた魔力から、闇の翼を創り上げた。
翼の力で瞬く間に戦闘現場にたどり着き、マイヤをマグナスの必殺の一撃から救い出した時――上空を飛翔するシュウを見て、マグナスは戦慄く声でこう言ったのだ。
『馬鹿な、あり得ん、人間が魔術を使うことなど――』
と。
だがアルケイデスは今、あの時の己の言葉を否定する。その否定をの言葉を告げるアルケイデスの重々しい口調が、きっとそれは、下手をすれば大きな混乱を招くような秘密であるのだ、と、シュウに直感させるだけの力を秘めていた。
「あれは実は、半分嘘に近い。魔術を使う人間というのは存在する。最も、あの場面では間違いなくあり得ない出来事ではあったが」
魔術の触媒となる魔力は、怒りや悲しみ、憎しみといった、負の感情に反応する。これは魔族が本能的に魔術を発動させることの説明にもなっていた。彼ら彼女らは、非常に強い感情を抱いた時、半ば自動的にその魔術を起動させる場合がある。サーベルグリズリーに襲われた際、アリアが反射的にその魔力を解き放ったのは、この性質によるものだ。
ここまではシュウたちも知っていることだ。魔術の特性を説明するアルケイデスに、シュウとマイヤも小さく頷く。
その様子を一瞥した後、だが――と、アルケイデスは続けた。彼は己の手の内に、薄い光でできたガラスの様なものを生み出した。シュウも使える簡単な生活呪術だ。作られたガラスは一分もしないうちに消えてしまうが、コップが無く、かつ手も汚れている――といった場合に水を飲んだりするのに役立つ。
「この憤怒や憎悪の感情は、何も魔族だけに限ったものではない。我々人間も、日常的に抱くものだ」
アルケイデスは呪術の硝子コップの中に、徐々に、徐々に、別種の光を満たしていく。白いそのエネルギーは、アルケイデスが普段魔術を弾くための身体強化に使っているものと同種の、法術から作られるオーラだろう。やがてそれは、コップの内部を完全に満たし――
「積もり積もった悪意や絶望の感情が、やがて人間の耐えうるものを超えたとき――」
ぱりん、と。
硝子細工のコップが割れる。その中を満たしていた下手人、即ち法力の光は、何処へと霧散していった。
「――その人間は、法術を喪い、代償として魔術を得る」
アルケイデスは視線を手元からシュウ達に戻す。彼の表情は固く、その現象に対して何か複雑な感情を持っている事を予想させた。もしかしたらアルケイデスは、マグナス・ハーキュリーとして、魔術を手にした人間と戦った事があるのかもしれない。
あり得ない話では無いだろう。マグナスは魔族を始めとした悪性存在の殲滅以外にも、教会に仇を成す人間たちを排除する暗殺者としての側面も持っていたと聞く。であるならば、そう言った人間と出会ったことがあっても、なんら不思議ではない。
「『魔術師』となった人間が扱う魔術こそ、少年、君が把握したという『法力を使っているのにも関わらず魔術の体裁を取っている存在』なのだ。一部では魔術に堕ちた法術、などという意味で『魔法』などと呼ぶものもいるな」
「『魔法』……」
どこか神秘的でさえあるその響きを、シュウは口の中で小さく転がす。
旧時代文明に於いては恐らく、別の意味を内包し、別の意味で使われた言葉だ。だが今は、人間と魔族が本質的に同じものである事を示すと同時に、人間であっても容易に暴走を起こす可能性を示唆する、重みをもった用語として、それは伸し掛かってくる。
褐色の英雄は瞳を閉じて天を仰ぐ。かつての記憶を呼び起こしているのだろう。
「私の『ウルスラグナ』も、かつてはその魔法の域に足を踏み入れつつあった。魔族に対する、今の私からすれば驚くほどの憎悪――それは、法力を魔法へと変換するのに、十分だったのだろう」
シュウ自身、マグナスとのぶつかり合いの最中で感じたことだ。常軌を逸した悪性存在への悪意。悪性存在の絶滅以外に『絶対悪』の降臨、即ち善性存在の滅亡を防ぐ手段は無いと絶望し、人間たちの守護者として世界の前に立ちはだかった、鋼の英雄の末路――それはもしかしたら、やがて人間でも魔族でもない何かへと変わってしまう事だったのかもしれない。
いずれにせよ、今のアルケイデスはもう、あの頃の『マグナス』ではない。
彼はさらに、魔法の存在が初めて知られたのは20年ほど前だということを語った。当時の記録を央都の教会本部では上位の法術師のみ見ることができるそうだが、どうやら相当な大問題になったらしい。言ってしまえば『人間の魔族化』とも判断できるからだろう。
教会からすれば、善のみで構成された筈の人間が、悪の存在に堕ちる等あってはならない、という判断だったのだろう。
「現在魔法の存在は公表されていない。知っているのは教会上層部と、お前たちの様にそう言った立場、あるいはそう言った立場にあった者から教えられた者だけだ」
法術師育成学園の生徒の中では恐らく、マイヤは最強の戦力。即ち、『特別な生徒』だ。イスラーフィールと個人的に親しい立場にあるシュウも、ある意味では特別な存在かもしれない。加えてシュウは、ズルワーンから一度『世界の意思』を託されている。
アルケイデスはそんなシュウ達だからこそ、教会に隠匿された秘密を知っておくべきだ、と判断したのかもしれない。知らないではすまされない――もしかしたらいつか、そんな事態に陥るのかも知れないからだ。
この人はきっと本来、常に誰かの安全を心配できる人なのかもしれない。シュウは心の中でそう感じた。初めてマグナス・ハーキュリーと遭遇した時、彼の挙動からは人的損害よりも教会の正義を優先するような思想が感じ取れた。それが霧散していく。今初めて、シュウはこの鋼の英雄を、完全に信頼できるようになったのかもしれない。
それにしても――と、アルケイデスは話題を変える。
「妙だな……マッケンジーの肉体に毒素として侵入したものは、間違いなく魔力だった。しかし『魔法』を構成するのは法力だ。つまりマッケンジーを殺しかけた技が魔法であったのならば、彼女は魔力ではなく法力に苦しめられている、ということになる」
「ですがあの場に残留していたのは、間違いなく法力でした」
「ふむ……」
アルケイデスはまた、考え込むような表情を見せてしまう。
法術及び法力が、魔術及び魔力に変わる、あるいはその逆、もしくは両者が共存するといった現象を、シュウは見たことも聞いたこともない。シュウがズルワーンの力で法力と魔力を同時に操ったのは、出所がシュウではなく他の人物であったから成し得たことだ。
シュウは二年生の、まだ法術の覚醒という形でマイヤの役に立とうと躍起になっていた頃に、自身の法術獲得や法力の存在考察に役立つかもしれないと、過去の法術師やその法術について熱心に調べていた時期がある。もともと実技試験の点数を座学で補っていたため、ある程度暗記は得意だった。そのため、当時調べたことは大抵今でも覚えている。
その中に、『魔術に変化する法術』などというモノは存在しなかった。アルケイデスの言う通り『魔法』が隠匿されていたのだから、当然の話と言えば当然の話ではあるのだが――恐らくは、本当に存在しない、或いはアルケイデスほどの立ち位置であっても知り得ないレベルで存在が隠されているのだろう。
シュウ自身の仮説としては、先のアルケイデスの「法術を喪い、代わりに魔術を得る」という言葉から推測するに、恐らく人類が一度に操れるのは、法力か魔力かのどちらか片方なのではないか、というものを立てているのだが――実際の所は、神のみぞ知る、というしかないのかもしれない。
アルケイデスは沈んだ空気を一度切り換えるように、がちゃりと白銀の巨剣を鳴らす。
「其れに関してはおいおい考えるとしよう。私の方でもある程度情報を集めておく。今から飛ばせば、三日もすればイスラーフィールからの返答が帰ってくるだろう――ああ、そうだ」
そこで彼は、はた、と何かに気付いたように表情を変えた。続けて告げた言葉は、シュウとマイヤ、そして今はカーテンの向こうにいるロザリアが、ここを訪ねた理由でもあった。
「数日前に来たイスラーフィールからの返信で、纏まり次第送ると予告されていた央都近郊での連続傷害事件に関する情報が今朝届いた」
法術師連続傷害事件。昨日アルケイデスの口より語られた、以前から此度のリズベット・マッケンジー殺害未遂と同様の、魔力を帯びた道具か、あるいは魔術そのものによって、複数の法術師が殺害、或いは意識不明の重体に陥っているという話だ。
どうやらアルケイデスはもともと、今回の事件とは無関係にそちら側の情報提供を受けていたらい。シュウ達が最初に医務室を訪ねたときも、彼は両者の関連性を疑っていた。
「それによれば、これまでに起こった同様の事件の数は十六件。犯行現場の位置は広域だが、どれも央都を大きく離れてはいない。キュリオスハート翁暗殺に関していうならば央都のど真ん中だ。マッケンジーのものを含めれば、合計で十七件になるな」
「十七件も……!?」
マイヤが思わず、といった様子で悲鳴混じりの叫び声を上げる。シュウも驚愕に目を見開いた。それだけの人間を襲って、一体何をしようというのか。もしも快楽殺人めいた動機であったのならば、救いなど何もないかもしれない、という疑惑さえ鎌首をもたげる。
「しかしこちらも、検出された反応は間違いなく魔力だな……イスラーフィールによれば現場に残されていた反応も魔力だそうだ。考えれば考えるほど、犯行現場に残っていた反応が法力のそれであることに疑問が出てくる」
どうやらイスラーフィールは、キュリオスハート翁暗殺事件だけでなく、近郊で起こった殺人事件についても関連性があるとして解決に駆り出されているらしい。彼女の持つ『顕現型スラオシャ』は一見万能だが、本人曰く解析できる情報にある程度の制限があるらしく、一定以上の時間が経過したり、何か常軌を逸した変化が当時の状況に起こった場合は解析が阻害されると聞く。具体的にはイスラーフィールは旧時代文明の遺産を見たり、当時から残るとされる土地に行っても、何か旧時代文明当時の情報を得ることはできない。『世界が分裂する』という驚くべき事態によって、前述の『常軌を逸した変化』が該当し、情報を手に入れることができないのだ。
イスラーフィール本人は今回の事件に際して、出かける直前に問題なく解析できる範囲だろう、と示唆していたが――実際の所は、範疇外であったらしい。
ふと、シュウは不思議に思ったことを口に出す。
「しかし……良くこれほどの短時間で十七人も襲撃できたものだな……結構距離があるだろうに」
「もしかして、両者は別の人物の犯行によるものなのでしょうか? 手口の共通性から、勝手に私たちが同一人物の手によるものだと誤解しているだけで……」
マイヤが思案の渦に陥りながら、眉をひそめて唸った。
実際彼女の考えも、あり得ない話ではないのだ。共通点は『いずれも被害者は法術師である』こと、『魔力の付随する何らかの手段による殺害・襲撃である』ことの二つだけであり、襲撃のパターンや使われている道具は異なる。何より、リズベット以外の十六件は央都付近で起こった事件なのにも拘らず、リズベット襲撃だけは遠く――とはいえ馬車で一週間以内ではあるが――離れた法術師育成学園での犯行だ。おまけに前者は魔力、後者は法力が残留するというのなら、普通は両者は別の犯人の手によるものだ、と考える方が妥当だろう。
だがもしも、そうなのだとすれば。
「その場合、相手は最低でも特級法術師クラスの実力を持った魔族が一人と、『魔法使い』の人間が一人、ということになるな……」
昨日立てた、特級法術師の結界を打ち破れるほどの魔族、という推測だけでも最悪に近かったのに、そこに新手の可能性まで加わる。
「……どんな相手が来ても、私が先輩を護ります。だから――」
「ああ。俺も、君を護ろう」
「はい……!」
決意の滲む声で宣言するマイヤに、シュウもまた答える。力強く頷いた彼女の姿を見れば、どんな相手が来ても負けはしない、という、不思議な安心感を抱くことができた。
「もしも犯人と戦闘になることを想定するならば、お前たちは今から対人間の戦闘を意識しておけ」
そんなシュウとマイヤの様子に、アルケイデスは一つの忠告を下す。
その理由はシュウにも理解できた。もし相手が本当に魔法使いであった場合、呪術や法術の特性上効果は薄くなる。魔法使いだろうと何だろうと、法力を操ることに変わりはない。法術はその特性上、法力を操る相手には効きにくい。教会に曰く人間の同士討ちを防ぐための機構らしいが――アルケイデスは、「まぁそれは眉唾だろう」と切り捨てた。正直な話、法術が法術師に効きにくいのがどういうロジックによるものなのかはいまだ正確な理由は分からない。呪術なら、単純に対象が呪術師からの干渉を受け付けるほど脆弱でない、と判断された場合に弾かれる、というだけなのだが。
もしかしたらかつて人間たちと共に魔族と戦ったという聖霊たち――それも人間に法術を齎したという聖霊ティスティアは、本当に人間同士の争いを無くすためにその機能を付けたのかもしれない。だがそうなのだとしたら、そこに存在する理由は何か思いやりや優しさといったものではなく、もっと邪悪で、自分勝手なものであるように思えるのは――シュウが、世界の二元性を強く否定しているからだろうか。
加えて、特級法術師の結界を無力化するほどの魔族が、もし本当に相手になるのだとすれば、生半可な法術はかき消されてしまうかもしれない。そう言った場合、エネルギー攻撃系の法術は意味をなさないだろう。
兎も角として――
「人間を相手にするならば、お前たちは普段の力を発揮できない場合がある。特にエネルギー系の攻撃は、余程の出力が無い限りは減衰するだろう。逆に、武器に法術を付与するタイプであったり、肉体強化系は問題なく効果を発揮するはずだ」
マイヤの法術の持つスキル、『女神の光を』は、装備している武器の刀身を光の刃に変える力がある。『眼差し』や『怒り』は弱体化してしまうだろうが、そちらは問題なく使えるはずだ。マイヤは、流石に近接戦闘を専門とする戦士ほどではないにせよ、剣での戦闘もかなり強い。彼女に関しては心配はいらないだろう。
問題はシュウの方だ。魔族も魔法使いも、確実に呪術の適用外――『圧倒的格上』に当たるはずだ。必然的に己を強化して戦うことになる。
「しかし……そういう意味では厄介だな。力を十全に使えないことがここまで面倒だとは……」
「なら、ボクは――実力の差は兎も角、相性の面では問題ないということですね」
と、そこで。
白いレースカーテンを開けて、ロザリアがこちら側に戻ってくる。彼女は深緑色の髪の下で、確かな覚悟に満ちた表情をしていた。
そう言えばロザリアは展開型の法術師――それも、話を聞くに彼女の法術『展開型ランスロット』は、自己強化型の術らしい。であるならば、同族を相手にすることによる威力減衰は起こりづらいだろう。
「フェリドゥーン先輩、フィルドゥシー、それから、アルケイデス先生も……もし、犯人と戦闘を行うことになったら、無理を承知です、ボクにも一緒に戦わせて貰えませんか」
「構わないが……危険な戦いになると思うぞ。正直俺もついて行けるかどうか不安なレベルだ」
「……分かっています。ボクの実力では、恐らく殆ど相手にはならないだろうと。でも――話を聞く限りなら……『魔法使い』には、それぞれ魔術を手に入れるに至っただけの背景があるはずです。きっとそこには、同情の余地があります。けれど……」
ロザリアはそこで、一度言葉を切って俯いた。
どろどろの、沼の様に――彼女の中には今、無数の感情が渦巻いているに違いない。怒りや憎しみと言った負の感情だけではなく、もっと純粋な、思いやりや優しさといったものまで。
「いや、だからこそ、ボクは……ボクはこの手で、そいつを一発殴ってやりたいのです。できることなら、それで――そいつが感じた絶望を、打ち払ってやりたいのです。きっとリズも、同じことを言うはずだ」
シュウはその時、自分の中で決意が固まるのを感じた。この感覚を抱くのは二回目だ。以前のマグナスとの戦闘の前――ズルワーンと対話する時にも、この感情が己の下を訪れた。
『救う』のだ、という感情。それが味方でも、敵でも、関係なく。一方的に悪だとして断罪するのではなく、相手を理解し、別の道を一緒に探す必要があるのだ、ということ。もしかしたらとても上から目線で、失礼な考えなのかもしれない。それでも――
それでも、たとえ誰かを傷つけた罪人でも、未来は、救いはあるのだと。
もしもリズベットがロザリアの予想と異なり、復讐を願っていたのだとしたら、シュウの決意はきっと悪いモノになってしまう。その時はまた、別の未来を探さなくては――シュウはそう考えながら、まるで氷に凍てつく湖の様に、微動だにせず眠るリズベットへと視線を向けた。
(……ん……?)
と、その時。
シュウは、彼女に対してわずかな違和感を覚える。以前医務室を訪れたときは感じなかった違和感だ。位置だとか格好だとか、そういう面での違和感ではない。寧ろもっと、感覚的で、眼に見えない何かの――
「では引き続き調査を頼む。とはいえ、得られる情報はもう余り残っていないようだが……私も昨日、イスラーフィールに別件の調査を頼んでいる。明日になれば届くはずだ」
その思考はアルケイデスの、その場を締める一言によって中断された。
最も、考えても答えにはたどり着けない様に思える、そんな曖昧で微妙な違和感ではあったのだが。
***
後にシュウは、その時の違和感を徹底的に検証しておくべきだったのだと、後悔することになる。
ここでその理由にたどり着いていれば――もっと早く、事件を解決することができたのに、と。




