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やがて天則の救世主  作者: 八代明日華
第二章:禁忌十字に愛を
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第五話『火花散らすは戦乙女』

「負けませんよ」

「それはこちらの台詞ですわ」


 樹海を進むマイヤとエリナ。互いの信念――というより恋心をかけて、吊るした得物に手をかける。

 自分たち(パルス)の気配を嗅ぎ付けたか、姿を現し始めた魔物たちを見る少女たち。その数、裕に三十を超える。それどころか、奥から奥から、図ったかのように大量の魔物が現れるではないか。紛れもない、『大群』と形容して良い魔物の集団。


 どうやら、俗にいう『モンスターハウス』というものに直撃したらしい。時折樹海の中に発生する空間で、一説によれば『門』の欠片、あるいはそれそのものが存在する場所なのではないか、とも言われる。極稀に法術師がその中に足を踏み入れてしまい、魔物を対処できず命を落とすという。


 実際、並の法術師ならば捌き切れぬであろう膨大な数。

 されど少女たちにとっては、その数ですら敵ではない。


 何故なら。

 ここにいるのは、二人とも、『並の法術師』ではないからだ。


我が正義に(ダエーナー・)光をくべよ(ウェイクアップ)

 

 ベルトに取りつけた革の鞘から、マイヤは一振りの直剣を抜き放つ。鈍色に光るその剣は、特に何の変哲もない片手剣だ。細工が施されているわけでも、特別なチューニングが施されているわけでもない。それどころか、街で武具店に行けば同型の品がわんさと見つかるであろう、どこにでもある量産品だ。


 だがマイヤが、ひとたび己の法術を起動させたならば、それは唯一無二のオーダーメイドへと変貌する。


 鋼の刃が、瞬く間にほどけて消える。彼女が刃の無い剣を構えるのとほぼ同時に、マイヤの背中に翼が広がった。淡く輝く光の翼。その燐光が、消えた刀身のあった場所に集う。


 そして次の瞬間には、しゃりぃん、という快い音を響かせながら、光の刃が形成された。

 スキル、『女神の光を(プロミネンス)』。物理的攻撃行動を補佐するための武器、特に刀剣の類を、光の刀身を持ったものに変換する力。

 マイヤの『アールマティ』が、『武装型(ブレイヴ)』に分類される由縁である。


 法術を発動させ、展開するだけならば、法術を扱う者は誰でもできる。

 だがそれを収斂させ、一つの形を持った武装として装備するのは、決して簡単なことでは無い。術のコントロールがどれだけできているか――法術師の実力を大きく分ける、武装型法術が「一人前の証」とされる理由だ。


「はっ――!」


 光の剣を振るう。その一閃で、とびかかって来ていたチェイサーは真っ二つになる。法術によってとどめを刺された証――灰化消滅が発生し、その姿は霧散した。

 そのまま体ごと反転、背後から仕掛けてきた個体を切り捨てる。


 両足を開いて腰だめに構えたマイヤは、木の上から様子を伺い、上空からの攻撃を企てる猿型の個体に斬撃を繰り出した。チェイサーが潜んでいた枝が、木の幹と泣き別れる。自身の存在に気付かれていないと思っていたのか。反応が遅れたチェイサーは、そのまま墜落。地面に落ちる寸前に、マイヤの光の刃に貫かれて絶命した。


「せッ……たっ……はぁぁッ!!」


 次から次へと姿を見せては、マイヤとエリナの姿を見て襲い来る魔物たち。その全てを、マイヤは一太刀で切り捨てる。

 光輝く翼を震わせ、くるくる、くるくると、踊る様に戦うマイヤ。飛び散る燐光の中を征く彼女の剣撃は、魔物たちの死の(ダンス・)舞踏(マカブル)


「――『光輝女神の(メーザー・オブ・)眼差し(シャイニング)』」


 背後を取った魔物たちに向けて、あまたの砲門が口を開く。発射された無数の細い光剣群(レーザー)が、慌てて逃げだす魔物の体を蜂の巣に変えた。

 

 不利を悟ったか。魔物たちの動きも鈍る。下級の魔物とは言えど、命を喪うことを恐れずに戦うほど馬鹿ではない。

 されど、少女たちの命を刈り取るための突進はもはや止められず。それが不可能と分かっていても、破れかぶれに続けるしかない。


「遅い」


 ――たとえ代わりに、自分たちの命を喪う事が分かっていても。

 その未来は現実となる。マイヤの剣が霞むような速さで動き、中途半端な突進を繰り出した魔物たちを切り裂いた。魔物に意識があるならば、最期に何を思っただろうか。よく考えずに行動した己の愚かさ? それを裏付けるだけの力の無さ?


「『光輝女神の(グロリア・オブ・)威光(シャイニング)』」


 否。

 それは、否だ。


 ついに勢いを失った魔物たち。その首を、或いは胴をめがけて、光の翼が呼び出した、輝きの縄が飛翔する。

 まるで攻撃の号令を繰り出す、船艦の長のように。

 マイヤは、光の剣を大地に突き立て、告げた。 


「虚ろなる者に裁きあれ――『光輝女神の(リッパー・オブ・)断罪(シャイニング)』!!」


 瞬間――一斉に、魔物たちの首が、上半身が、ぶ。

 マグナス・ハーキュリーとの戦闘に於いて、マイヤは法術が持てる奥義というのは、あとから増やすことができると知った。シュウとの最後の一騎打ちの際、彼が繰り出したのは十三番目の奥義だった、と、あとからアルケイデスが話しているのを聞いたからだ。


 ならば自分も、新たな技を修めることができるはずだ。そう確信したマイヤが開発したのが、今の新たな奥義。即ち、『光輝女神の断罪』である。

 正確には、『光輝女神の威光』の派生技となる。これまで攻撃力を有さなかった光の鞭に斬撃性を付与することで、鎌のように攻撃をする。先程の様に、複数の魔物を一斉に切り捨てることも可能だ。


 『光輝女神の眼差し』も、『光輝女神の(カノン・オブ・)怒り(シャイニング)』も、光の剣を発射するための銃口を一度開くと、その向いている方向以外に攻撃を飛ばすことができない、という欠点を持つ。マイヤはこれまで、それを接近戦で補っていたのだが――例えば、動き回る敵から、遠距離に居るシュウを護るには、その戦い方は適さない。


 守護の女神。

 光輝の剣姫。

 

 そう――散りゆく魔物たちの思考が最後に思ったのは、マイヤ・フィルドゥシーの戦いざま。

 地上に降臨せし光輝女神の輝きである。


「なるほど……それが貴女の力という事ですか」


 その姿を見て、エリナ・フェリドゥーンは小さく呟く。

 碧い瞳を一度伏せると、少女はふっ、と笑った。


「認めますわ。貴女は確かにお兄様の傍に立つに相応しい力をお持ちの様子」


 しかし次の瞬間には、彼女の瞳に宿った色が変わる。

 即ち。称賛から、獰猛な戦意へと。


「ですが」


 彼女は腰のホルスターから、銀色の小さなハンマーを取り出す。それ自体は何の変哲もない、ただの小槌だ。どちらかと言えば手に握って戦うよりも、投擲に適したタイプの武器。

 されど彼女の使い道は、そのどちらとも大きく異なった。


「――(わたくし)の方が、何倍も相応しい!! 我が正義に(ダエーナー・)光をくべよ(ウェイクアップ)!」


 法術の起動を示す、宣誓の言葉が鳴り響く。

 振り上げた小槌に、虚空より雷霆が落ちた――そんな錯覚を、その光景を離れた場所から見ていたマイヤは抱く。


「清浄なる祈り、靂天の白塔、悪神百鬼打ち倒せし静嵐の禁忌十字――!」


 小さなハンマーを縁取る様に、全く別の姿が顕現していく。

 ミラーシルバーの素体を持つ、柄のやけに長い十字架。十字の中心を成すクロスに、白と碧の雷が集約していく。


 同時にマイヤは悟る。違う、と。

 あれは――あれは、十字架ではない。


「至れ、『白銀の鍵、(ハルート)万魔滅潰すは(・ネスハ・)碧の薔薇(イブリース)』!!」


 それは錫杖だ。それは破神の魔斧(ラブリュス)だ。それは、雷神の大槌(ミョルニール)だ。


 解き放たれた白き雷電が、一斉に魔物たちを焼き祓った。


「……なっ……!?」


 瞬く間に抹消された魔物たちの姿に、マイヤも思わず目を疑う。火力の次元が違う――と言えばいいのか。『武装型アールマティ』の中にも『光輝女神の怒り』による大火力殲滅攻撃があるが、あれは大型の魔物一体を貫くための奥義であり、このように広範囲を薙ぎ払うためのものではない。


「ふふふ、その目をよく見開いて驚きなさい。これが私の法術――『武装型ハルワタート』の力ですわ」


 誇らしげな表情で胸を張るエリナ。右腕に構えられた白銀の十字架が、樹海にうっすらと差し込む陽光を受けて、神聖な輝きを映す。

 これが――これが、央都の武装型法術師。マイヤと同じ境地に、同じ年で到達した、もう一人の少女の力。


「どうしましたの? 勝負はまだ始まったばかりですわ。それとも、もう怖気づいてしまいましたの?」


 エリナが勝ち誇った笑みを浮かべる。悔しいが、あれほどの速度での殲滅を、一撃で行うことはマイヤには難しい。


 笑うエリナの薄金色の髪と碧の瞳が、シュウを思い出させた。悔しいが、似ている――本当に、兄妹なのだろうか?

 だが。なのだとすれば。


 自分が――自分がシュウの本当の『家族』になるためには、余計にこの少女を超えなくてはならない。


「何を馬鹿な。戦略を練っていただけですよ」


 マイヤも笑う。そうだ、超えるのだ。

 簡単なことだった。あの破壊力を生み出せないのであれば――


「あなたのその法術……広範囲を殲滅する性能に関しては、私の『武装型アールマティ』を大きく上回っていると判断しました。そしてその外見から推察するに、恐らくは一撃の破壊力も上でしょう」

「ふふ、その通りですわ。私の十字槌は万物を砕く――どんなに硬い魔物の外骨格でさえ打ち破ってみせます」

「ですから――」


 『光輝女神の眼差し』、と、マイヤの桜色の唇が小さく詠う。

 同時に発生した無数の光線が、居並ぶ魔物たちを次々と打ち抜いた。その攻撃個所は最小限――しかして、全てが急所を的確に射抜いていた。


 動きを封じられる、或いは、そのまま絶命する魔物たち。あたりが彼らの消えた証――紫色の灰に覆われ、少しだけ煙り始めた。


「どのように効率よく敵を倒せば、あなたよりも速く殲滅できるかな、と」

「なぁっ……」


 全てを焼き祓う破壊力が無いのであれば、弱点を的確に撃ち貫き、効率的に勝利を収めればいい。

 それはマイヤの、光を操る法術だからこそできる事。まっすぐにしか飛ばない光の細剣も、膨大な数を撃てば広範囲殲滅を可能とする。


 わなわなと震えるエリナ。余裕綽々、と言った風であったその笑みは崩れ、口角をぴくぴくと震わせた彼女は、一転して表情を整えると、満足げに笑った。


「や、やってくれますわね……いいでしょう、それでこそ戦いがいがあるというものですわ」

「それはこちらの台詞です。正直――少しだけ、嬉しくもあります。競いがいのある相手が、これまではいなかったものですから」


 マイヤは、幼少期を『神童』だとか、『天才』だと呼ばれながら過ごしたタイプの人間だ。マイヤ・フィルドゥシーは故郷に於いて、大人も含めて最強の法術師であり、中等部時代もマイヤより強い法術師は同じ年の生徒の中に居なかった。それどころか、追随するような法術師さえ、同学年には居なかったのである。

 さすがに上級生や先生ともなると話は変わってくるが、並の法術師よりは強かった覚えがある。

 実際の所、当時のマイヤでは『上級悪性存在』に分類されるような大型の魔物を一人で殲滅するのは難しかったのだろうが――それが可能になったのはシュウと出会ってからだ――大抵の魔物を瞬殺することは、その頃から可能だった。


 そして今でも――マイヤは、自分と同等の実力を持つ存在のいない生活を送っている。自分が特別な存在だとは思わない。けれど、マイヤは意図せずして、『特別な存在』になってしまっているのだ。その重圧に、シュウが居なければきっと耐えられなかっただろう。それほどまでに、きっとこれまでのマイヤは、周囲から『ずれていた』。


 それに、法術における戦闘、というだけの話ではない。恋愛もそうだ——シュウ・フェリドゥーンに明確に恋愛感情を告げる相手は、これまで自分だけしかいなかった。シュウと長い時を共に過ごした人間がそう多くなかったからだ。彼は一目見た相手を恋に落とすような人ではない。もっと――長い間隣にいることで、気が付けば好意を寄せられている。そんなタイプの、優しいひと。

 アリアと出会ったころも似たようなことを思ったが、結局今、彼女がシュウをどう思っているのかは、今一良く分からない。


 だが、目の前の少女は明白だ。極めて分かりやすくシュウを想っているし、その恋心が本物だ、という事は、同じ男性を愛する身としての本能が告げてくる。


 だから——だから、少しだけ、マイヤの気分も、高揚しているのだ。自分と同じだけ『特別』な法術師が目の前にいるこの状況に。

 自分も、『ずれている』だけの人間では無くて、一人のひとを愛する、ただの女の子なのだ、と、自覚を持てるような気がして。


 故に。

 マイヤは、目の前にいるこの金色の少女を――エリナ・フェリドゥーンを、こう呼びたい。


「「宿敵(ライバル)」」


 奇しくも、口を開いたのは全く同時。告げた言葉も同じ物。

 自然を口角が上がるのを感じる。きっと今自分は、すごく好戦的な笑みを浮かべてるんだろうな、と、マイヤは悟る。先輩に見せたら驚かれてしまうかも――と思うと少し恥ずかしいが、けれどいつかは通る道。生涯を共にするとはそういうことだ。


 そしてそれを実現するためには、この宿敵(ライバル)を超えていかなければならない……!


「もう一度いいますね――負けませんよ」

「繰り返します――それはこちらの台詞ですわ」


 少女たちの、青と碧の瞳の間で、見えない火花が、散った。




 ***




「しゅう、ほんとうにわからないの?」

「ああ」


 マイヤとエリナを追いながらも、ゆっくりしたペースでシュウとアリアは樹海を進む。前方から聞こえる剣戟や爆裂の音が、マイヤ達の健在と、彼女たちが戦闘中であることを教えてくれた。

 対するこちらは非常に静かだ。アリアがいるため、並の魔物は寄ってこない。同時に、自分がマイヤとエリナの戦闘に食い込んでも、恐らくは邪魔になるだけだ、という自覚があるシュウは、足を速める必要はない、と考えていた。


 マイヤは恐らく今回、本気だろう。本気を出した彼女は、何というか、『(はや)い』のだ。それこそ、シュウでは追いつけない程に。


 さて、そんな思考でのんびりと歩くシュウは、アリアから寄せられた問いに答えていた。

 即ち、エリナがシュウの妹なのかどうか、本当に分からないのか、という。


「アリアには話していなかったか……俺は小さい頃の記憶が無いんだ。六歳くらいで、極東大陸のとある邑の、そのまた傍の森で目を覚ましたのが最初の記憶さ。親の顔も、名前も知らない。知っていたのは自分の名前だけ」


 思えば、よくもまぁそのような怪しげな子供を、あの邑の人々は快く迎え入れてくれたものだ。彼らに出会わなければ、シュウはもしかしたら今生きていないかもしれない。

 次に帰った時は、その辺りも含めて確りとお礼を言おう――そう心に決める。


「だから、あの娘……エリナが、俺の本当の妹だ、って言っても、否定できないんだ。覚えていないからな、俺は。真偽を見分ける術を持たないんだよ」


 エリナは、二人は極東大陸の片隅で生まれた、と言っていた。彼女は自分の幼少期の事を知っているのだろうか。それが真実だったとしても、虚構だったとしても、シュウには確かめる術がない。

 その場合は一体何が目的なのか余計に分からなくなるが、彼女が「自分はシュウの妹だ」と嘘をついている可能性だってあるのだ。


 最も――その場合には、自分の体をもっと大切にしてほしい、とは思うが。実際の所は何とも想っていない男に唇を捧げるのは相当な勇気がいることだと思うし、できればそんなことで勇気を振り絞って欲しくはない。


「でも、悪い子には見えなかったな……俺を誰と勘違いしてるのは知らないけど、素直に指示を聞いてくれるのは助かる」


 エリナはシュウの指示に従ってくれている。純粋な思いなのか、それとも策略あっての事なのかは分からない。分からないが、彼女はどうやら基本的にはシュウのいう事に従うスタンスを取っているらしいからだ。

 自分の考えることよりも、マイヤやエリナの練った作戦の方がずっと効率が良いだろうと思っているシュウとしては、いっそ自分の考えを無視してもらっても構わないのだが――指示が行き届いていた方が、万が一の際に対処が楽だ。例外行動が少ない、ということは、命の危険があるような状況に遭遇した時、指示が行き届きやすいことを意味するのだから。


 そんなシュウの様子を見て、アリアは純真な目を向けると同時に、興味深そうに眼を瞬かせてから、とんでもないことを言い出した。


「しゅうはおんなたらし?」


 思わず吹き出してしまう。近頃のアリアは変な言葉ばかり覚えてきて困る。本当に困るのは、それを教え込んでいるイスラーフィールの方なのだが。


「学園長はそろそろ君にそういう言葉を教えるのを止めた方がいいと思うよ、俺は。……少なくとも、俺は自分自身では違うと思いたい」


 ふぅん、と呟いたアリアは、直後に小さい微笑みを浮かべる。 


「でも、しゅうのことすきなおんなのこ、いっぱいいるよ。まいやもそうだし、えりなもそう。わたしもすきだよ?」

「はは、ありがとう」


 世の中の父親は、娘に「おおきくなったらパパとけっこんするー!」と言われるのが夢だ、と聞くが、きっとこういう気分なんだろうな、などと思いつつ、シュウは苦笑いする。なるほど、これはなんだかんだで気分が良くなるものだな、と。

 最も、アリアの『すき』はラブ的な意味合いではなく、ライクてきな意味合いなのだろうが。


 その時。

 樹海の茂みが揺れ、ずるり、と這い出す影が、二つ。

 紫と灰色の体表と、生き物のそれとは乖離した腐臭――屍鬼(ナス)だ。蛇のような姿をした個体が二匹。


 屍鬼には殆ど知能が無い。目に入った動物を襲うのが、彼らの唯一の行動パターン。アリアの『魔族であること』という強さの証が、大きくは影響しない数少ない魔物だ。もっとも、数は減るだろうが――ということは、今ここにいる屍鬼は、それを掻い潜ってきた個体という事だ。それなりの強さを覚悟せねばならない。 


 今日最初となる魔物との邂逅に、シュウは腰に装填した木簡を抜く。


「お出ましのようだ。アリア、俺が時間を稼ぐから、その隙に撃破を頼む」

「はーい」


 片手を上げて返事をするアリア。彼女はそのまま立ち止まると、祈るように両の手を組み合わせた。白銀の髪が揺れる。黒い服と合わさった神秘的な光景は、彼女を何かの巫女の様に見せていた。


「――闇より出でよ、(カルマ・)我が罪業(ドライヴ)


 アリアが真紅の目を閉じ、祝詞を告げる。空気が変わった気がした。

 同時に、アリアの周囲に闇が集い始した。彼女の足元の影が、まるで沸騰した液体のように泡立ち出す。


अन्कोकुनो(まっくろな)किबा(くち)

 

 紡がれた言葉は、シュウたちの知る言葉ではない。あれはダエーワ語……魔族たちの話す、異郷の言葉。かつてはシュウたちのスプンタ語と同じ言葉であった、生き別れの言語と言える。


कुराइ(ぜんぶ)त्सुकुसे(たべる)

「――我が敵に災禍あれ」


 背後から響くアリアの祝詞を頼もしく思いながら、シュウは光の木剣を解き放った。

 そういえば、ものは試しと感想欄と評価欄を閉鎖していたのですが、執筆環境にあんまり変化が無かったので解除します。

 「感想欄と評価欄を無くせば、批判とかポイントを気にせず自由に書けるかも――」と思っての行動だったのですが、正直そんなめんどくさいことするくらいだったら公開しなければいいわけですし、そもそもの話としてこの作品身内の方がた以外誰も読んでないので批判も感想も来るはずがなかったわけですな。

 

 相変わらず次回更新日は未定です。更新に間が空く癖を「鬼は外」したい……

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