第四話『人、それを修羅場と』
新年最初の投稿です! 今年中に完結したらいいなっ!(志が低い)
週明けの最初は、迷宮探索だとの事だった。迷宮探索は全校合同で行われる授業だ。もっとも、教官が同行するわけではないので、授業、とは言えないかもしれないが。まぁ、実習授業という事である。ここで得られた経験をもとに、新たな訓練や戦闘方法を確立させていく。
シュウとマイヤのパーティーは、学園の周囲にある迷宮の中でも、最も巨大な森林地帯――『樹海』を主な探索対象にしていた。最近ではアリアも時たま参加している。今回もついてくるのだろうか。
シュウは呪術を発動させるための触媒となる、『光の木剣』用の木簡を始めとした小道具を腰につるすと、キャンプキットの入ったリュックサックを背負い、首からプリズムを下げ、集合場所となる学園の正門前に向かった。
「そう言えば、例の転入生の方ですけど」
隣を歩くマイヤが、ふと口を開いた。
「今回の樹海探索から参加する様ですね」
「ほう……最初の授業がそれとは……それなりに経験のある法術師なのか?」
なんだかんだで樹海探索というのは難しい。樹海型の迷宮は、他のタイプの迷宮と比べると地形が平坦な代わりに、生い茂る木々で見通しが悪いのだ。死角が多く、凶悪な魔物に気付きづらい。出会ったばかりのころの話ではあるが、マイヤですらそのミスをした程なのだ。
「分かりませんが……先生から聞いたところでは、どうやら央都の法術師系の学校ではかなり優秀な成績の方だったそうです。なんでも、武装型法術をすでに使えるとか」
「ほう」
武装型法術。展開型法術よりも一つ上のステップであり、法術師として一人前である証。年若い法術師がこれを使える、というのは、かなり驚くべきことだ。少なくとも今、この育成学園に於いて、武装型法術を使える生徒というのはマイヤを含めて数人しかいない。
「そういえば、他の育成学園の話は殆ど聞いたことがなかったな」
「私もあまり詳しくは無いですね。一応、南方都市の、法術師科を設けている学校に、知り合いが居ないこともないのですが……卒業してしまったので」
「ああ……以前話していた人か?」
「はい。制服を譲ってくださった方です」
あれは大変良い文化だと思った。シュウはあまり服装に頓着しない人間だが、マイヤが普段と違う服装や髪形をしていると、やはりドキドキする。その辺り、自分も一応男として機能しているのだ、と実感することが無くも無い。
三の月の終わりくらいだったか。マイヤが、知り合いから譲り受けた、と、別の学校の制服を、普段着の代わりに着てみていた事がある。なんでも「夫婦の営みにはコスプレも必要」と言われたらしく。二人して真っ赤になったことを覚えている。
大きな襟を持ったそれは、俗に『セーラー服』というらしい、とその時知った。金色の装飾の入った黒いセーラー服は、いつものマイヤとはまるで違った雰囲気を彼女に与え、柄にもなく心臓の動悸が激しくなってしまった。
南方都市の法術師達は、海から上がってくる魔物との戦闘が多いと聞く。セーラー服はもともと水軍の兵士たちが使っていたものだと聞くが、何か関係があるのだろうか。
しかし、それくらいの事しか、シュウはほかの都市の法術師達について知らない。
「この法術師育成学園は、法術師の育成にのみ力を入れている唯一の学校ですし……他の学校の法術師科と比べたら、やはり規模も、生徒の技量も、何もかもが違うと思います」
「逆に色々と情報が入って来そうなものだと思うが」
「どうでしょう……現在、教会に重用されている上級法術師達のほとんどがこの学園の出身です。法術師として高い地位に就くには、必須のキャリアと言っても過言ではありません」
「ふむ……」
学歴社会とは、身分にかかわらず実力を見てもらえるという善の側面と、それだけで運命が決定するという悪の側面を持つな、と、シュウはぼんやりと考えた。こんなところにも二元世界の法則が現れているようで、少し妙な気分になる。
「となると、向上心というか、出世欲の強そうな子だな、その転入生というのは」
「どうでしょう。先輩の様に、特にそういった目的が無くてもこの学園に入ってくる人はいますから」
ふむ、と思案顔になるシュウ。なるほど、確かに自分に出世欲らしきものは無い。そもそも教会に反する考えを持っているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。イスラーフィールからの誘いが無ければ、今も極東大陸で畑を耕していただろう。
そんなことを考えていると、迷宮探索のために集まった生徒たちが見えてくる。その中に、黒いベールを被った、星屑色の髪の少女、一人。彼女は赤い目でシュウとマイヤを捉えると、花の咲くような笑みを浮かべ、ぶんぶんと手を振った。
「しゅうー、まいやー」
「アリアちゃん」
「おはよう、アリア」
にこにこと笑うアリアの服装は、いつものフリルドレスではなく、動きやすいワンピースだった。黒いスカートから伸びる両の脚を、黒いストッキングとブーツで覆ったその姿は、どこにでもいる普通の街娘に見えなくもない。
だが、その腰にはシュウの持っているそれと似た小道具のホルスターが。彼女は別に呪術を使うわけではないが、探索を楽にするための道具や、携帯食料を入れているのだろう。
「そうか、今日はアリアも一緒に来てくれるんだな」
「うん! がんばる」
自信ありげにガッツポーズをするアリアに、シュウも思わず笑みを漏らす。
アリアは魔族――悪性存在達の頂点に立つ者。その存在そのものが『最強の悪性存在である』という価値を持つ。悪性存在は強さに敏感だ。その実力に関わらず『最強』の価値を持つ魔族は、多くの悪性存在を無力化する。付け加えるならば、アリアはアリアでかなり強い。伊達で甲種指名手配を受けていたわけではない、という事だろうか。
これは存外に楽な探索になりそうだ、と思うと同時に、自分の身の回りには強い女性が多いなぁ、と思うシュウ。自分が戦闘で役に立たないという自覚がある分、非常に良く心に刺さる。
やがて、各々のパーティメンバーと集合した生徒達が、探索する迷宮に向けて出発していく。
俺達も出発しよう、と、シュウが談笑するマイヤとアリアに声をかけようとすると。
「お前達、ちょっとこっちに来てくれないか」
近くの建物(イスラーフィールがちまちま外見を変えるのでわかりにくいが、確か予備の武器や装備品を入れておく倉庫だったはずだ)から出てきた男が、こちらに向かって手招きをしてきた。
銀色の髪に、褐色の肌。改造法衣は普段着でもあるのか、大体いつも纏っている。今日は銀色の大剣を背負っていない――アルケイデス・ミュケーナイ。かつてマグナス・ハーキュリーと呼ばれた男。この世界で最強の法術師だ。
今は学園の教官の一人として仕事をしているが――いったいなぜ、彼がそんなところから顔を出しているのだろうか、と疑問を感じる。
「今回だけでいいんだが、転入生をパーティに入れてやってくれ」
その疑問は、彼自身がすぐに解消した。背後の倉庫を指差すアルケイデス。その親指の先に、倉庫内で武器を選んでいる人物がうっすらと見える。纏っている服は女子生徒用のものだ。彼女が、転入生だろう。
法術師だからと言って、小道具が一切要らないということは無い。マイヤだって、『武装型アールマティ』の能力を十全に使用するために、常に何本かの直剣を携帯している。転入生は武装型法術を操るというから、何らかの触媒武器を必要とするのかもしれない。
「まだ来たばかりで慣れないだろうから、強い者達がいるところに入れた方がいいと思ってな。お前達なら、一人増えても対応できるだろうと判断した」
「それは構いませんけど……大丈夫でしょうか? 今回はアリアも一緒ですけど」
この学園で、魔族は全て危険な存在、という認識を有する生徒や教官は大分少なくなった。アリアが決して危険な人物ではない、という事が分かったからだ。実際、彼女と暫く話してみれば、素直で愛らしい、邪悪な存在ではない、ただの女の子だ、というのが分かるはずだ。
しかし央都からきたばかりの少女では分からない。もしかしたら、魔族即滅すべし、の思考を持っているかもしれないのだ。
その思考を持っていた人物筆頭であるアルケイデスは、痛いところを突かれた、といったような苦笑いと共に告げる。
「構わんらしい。というより、お前たちの班に加わるのは、向こうの希望だからな」
ふむ、とシュウは内心で思案する。
シュウの班には、マイヤがいる。アリアも強い。シュウはまるで役に立たないが、班全体で見た樹海探索の成績はかなり良い方である。法術師科のある一般の学校から、専門の育成学園にやってくるような娘だ。そう言った、所謂『優秀なグループ』に属しておきたいのかもしれない。
と、思ったのだが。
「血縁者が居た方が、安心するのだろう。私にはいまいちよく分からない感覚だが――」
アルケイデスは、続く言葉でシュウのその推測を切り捨てた。同時に、疑問も植え付けてきた。
「……血縁者?」
それは初耳だ。イスラーフィールは、転入生の情報を殆ど語らないまま行ってしまったから。という事はあの時、彼女はこの情報を伝えようとしてくれたのかもしれない。できれば事前に知っておきたかったな、と、ギリギリまで仕事をためていた学園長を少し怨む。
となると、疑問になってくるのは、彼女と面識のある者がこの中にいるのかどうか、だ。
「……マイの親戚か?」
「い、いえ……私の親戚の方では無いはずです。央都に同年代の親戚がいる、という話は聞いたことがないので」
「では誰のだ……?」
アリアの、というのはあり得ない。彼女は魔族だ。この世界とは元を同じくする別世界、『異郷』からやってきた少女だ。彼女の家族がこの世界にいるわけがない。
しかしマイヤの親類でもないらしい。彼女が知らないだけで、央都にフィルドゥシーの家に連なる人が住んでいた、というだけなのかもしれないが、もしそうではないのだとしたら。
その、転入生というのは――
「――お兄様!」
「うわっ……!?」
喜色をにじませた、というべきなのか。そんな声――半ば叫び声に近い――が響いたかと思うと、腹部にどん、と衝撃。見れば、シュウの胸に頬をすり、胴に手を回して力を込める、白い頭巾を被った少女。西方大陸の女性司祭が被る、というものに良く似た装備だ。
「ああ、お会いしとうございました。今日この日の再会を、私、何年夢に見たことか——」
少女はシュウを抱きしめる腕に力を込めながら、シュウの顔を見上げてくる。潤んだ目、上気した頬、白い肌――これほどの近距離にマイヤ以外の女性を感じたことの無いシュウは、反射的に赤面してしまう。
美しい少女だ。マイヤの研ぎ澄まされた怜悧さと温かさとも、アリアの硝子めいた繊細さと活発さとも違う、何といえばいいのか――陶磁器のような滑らかさと、優美さ。
薄金色の髪と碧空のような瞳は、どこかで見たことがあるような色。
そう――知っている。シュウは知っている。誰よりも知っているのだ、この色を。
だってこれでは――
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どういうことだ!? 俺と君は初対面じゃないのか?」
「何をおっしゃっているのです? 私とお兄様は兄妹、極東大陸の隅で生まれ、そして幼いあの日、永遠の愛を誓い合った相手ではございませんか!」
俺と、まるで同じ色ではないか。
シュウがその思考にたどり着くのと、少女が言葉を発するのはほぼ同時だった。
兄妹。誰と、誰が?
シュウが兄で、この娘が、妹?
そんな馬鹿な、と思う。だが同時に、否定することもできない。
何故ならばシュウには幼いころの記憶が無い。自分の家族の名前も、顔も知らないのだ。だからこの少女が、自分が記憶を喪う前に共に暮らしていた実の妹だとしても、なんら不思議ではないのである。
そしてそれを裏付けるかのように、そっくりな色の瞳と髪――
「悪いが人違いだと思う。俺は少なくともそんなことをした覚えはない」
「そ、そんな……」
もし本当の兄で無かった場合、彼女には辛い経験を強いることになる――そう考えて否定したのだが。
どうにも、彼女はシュウに「人違いだ」と言われたことの方がショックだったらしい。ずざざざ、と後ずさると、さめざめと涙を流し始めた。
「酷い……嗚呼お兄様、私の事をお忘れになってしまったのですね……? どうして、こんな……愛の聖霊は残酷な方ですわ。あれ程深く愛し合っていた男女を、こうも身勝手に引き裂くだなんて……!」
「すまない、本当に訳が分からない」
流石のシュウも困惑を示さずにはいられない。なまじ完全に人違いだと否定できない分、どこからともなく白いハンカチを取り出して涙をぬぐう彼女の姿に罪悪感を覚えてしまう。
涙を拭き終わった少女は、きっ、と顔を上げると、両手をシュウの頬に沿えながら、ふわりと妖艶な笑みを浮かべて近づいてくる。
「今、このエリナが眼を覚まさせてあげますわ、お兄様」
「いや、ちょっと待ってくれ、本当に人違い――むぐっ!?」
唇に甘やかな感触。思考が徐々に白い海に沈んでいくような感触。
マイヤのそれとは、味も感触も違う。まさか二人以上の女性とすることになるとは思わなかった、意外にも個人差があるのだな――ぼんやりと最低なことが脳裏に浮かんでくる。
「な、な、ななななななな」
「わぁ」
視界の端で、動転するマイヤと、両手で目を塞ぐアリアが見える。マイヤのほうはまだしも、アリアはその手の隙間から微妙にこちらを見るのをどうにかしてほしい。それくらいなら助けてくれ――などと思っていると。
「んちゅ……ん……くちゅ……お兄様……ん……」
「む、んぐ、んん……っ」
やがて少女の柔らかな舌がシュウの唇を撫で、隙間を空けようとうごめく。これはまずい。ここでされるがままにしていては大変まずい。何故だかは分からないがそれだけは分かる。
だが存外に少女の舌使いは巧く、あと数秒もすれば唇はこじ開けられて――
「ストップ! ストップです!」
と、その時。マイヤが駆け寄ってくると同時に、少女――エリナを引きはがしてくれた。
「ぷはっ……何ですか貴女は。私とお兄様の感動の再会を邪魔するだなどと」
「それは私の台詞です! いきなり現れたと思ったら、私の先輩に何て事をするんですか!」
頬を真っ赤にしながら、マイヤはエリナに抗議する。シュウから引き離されたせいか、不貞腐れた表情をしていた彼女は、きょとん、と首を傾げた。
「何って……それは勿論キスですわ。唇と唇の。愛する人の存在を確かめ合う、当然の行為です。何か問題でも?」
「大有りです! 少なくとも兄妹ですることでは無いかと思いますが!」
「うるさい女ですわね。貴女は私のお兄様の何だというのです」
エリナはシュウの左腕に腕を絡めると、しかめ面でマイヤを批判する。頭巾に隠れた薄金の髪からは、うっすらと甘い匂いが漂ってくる。彼女自身の匂いだろう。女の子というのはどうしてこういい匂いがするのか、と、以前にも思ったようなことをもう一度考えてしまう。
それに対抗するかのように、マイヤも反対側の腕にしがみついてきた。こちらも青い海のような色の髪から石鹸の匂い。風呂場に置いてあるので品種が分かる。確かそれなりに有名なメーカーの品で、彼女が意外と髪の手入れに拘るのだ、と驚いたところ、「先輩が褒めてくださってからですよ、気を使っているのは」とはにかまれて、赤面した覚えがある。
「私はお兄様の妹。永遠の愛を誓い合った相手。ぽっと出の女に私とお兄様の愛を邪魔されるいわれはありませんわ」
「普段は恥ずかしくてとてもではないですが堂々とは言えません。ですが今だけははっきりと言います。私は先輩の恋人です。先輩におかしな女性が近づいたら警戒するのは、私にとって当たり前の行動です」
「――何ですって恋人?」
シュウを挟んでの言葉の応酬が、徐々に剣呑な雰囲気になって行く。それはそれとして二人とも一応は年頃の女性なのだから、男の腕に身体の一部が触れるような体制で掴まらない方が良いと思う、俺はこれでも一応思春期の男子――などと混乱するシュウに、エリナが叫んだ。
「お兄様! どういう事です!? 嘘だと言ってくださいませ。私という者がありながら、他の女と交際するなどと――」
「い、いや、だから落ち着いて話を聞いてくれ。俺は多分君の兄では無いし、君と永遠の愛を誓ってはいないし、彼女――マイヤとは去年の冬から交際させてもらっている。将来の結婚を考えている間柄だ」
「な、な、な……」
フリーズ、そして額を抑えてくらり、と傾くエリナ。彼女には珍しい勝ち誇ったような表情をとるマイヤ。
「……何だこれは」
「しゅらば?」
「アリア……君は一体どこからそういう言葉を拾ってくるんだ?」
「うーん、りえ?」
「なるほど。帰ってきたら仕置きをせねばならんな」
「でもりえにおしおきできるひとなんているの?」
「いる。私だ――と言いたいところなのだが、なんだかんだと逃げられる未来しか見えない」
のんきに会話をするアルケイデスとアリア。殺す者と殺される者の間柄だったとはとてもではないが思えない平和な応酬に心が和む。と同時に、少しは助けてくれてもいいのではないか、と怨まなくもない。
「別れてくださいまし。お兄様は私のものです。他の女には渡しませんわ」
「お断りします。私は先輩の恋人です。私には先輩をお守りする義務があります」
「痛い痛い痛い、マイも、そっちの君もやめてくれ。俺がちぎれてしまう」
左右から別々の方向に腕を引っ張られて、シュウの体が悲鳴を上げる。なんだかんだ言って二人とも力が強い。まさか法術による肉体強化まで使っているのではなかろうな、と危惧する。流石にそんなことはないと思うが、武装型法術使い二人が全力を出したら、まず間違いなくシュウは真っ二つに裂ける。縦に。それはまずい。大変まずい。
「あー……修羅場の最中に悪いが、そろそろ出発の時間だぞ。他の生徒はもう全員出た」
と、流石にその様子を見兼ねたのか。アルケイデスが手を叩く。その音で、ようやく緊迫した状況が中断した。
助かった、けどもう少し早くても良かったのではないか、なんだかんだ言ってアルケイデスさんは俺のことを怨んでいるのではないか——などと思いながら、シュウは自分の左右で、名残惜しそうに服の裾をつまむマイヤとエリナをそれぞれ見る。
改めて、本当に可憐な少女たちだと思う。加えて二人とも才気あふれる法術師だ。何故自分のような良く分からない落ちこぼれが、こんな娘たちに好かれているのだろう、と疑問に感じつつ、シュウは二人に探索における行動指針を告げる。一応、シュウが班長という事になっているからだ。くり返しとなるが、戦闘ではまるで役に立たない。
「その、二人とも、一端切り上げて出発しよう。何が何なのか俺にも分からん。詳しいことは道中で聞くよ——えっと……エリナ、と言ったか?」
シュウの問いに、白いシスター服の少女は、にこり、と微笑み、一礼。手慣れた動作だ。育ちが良いのだろう。
「はい。エリナ・フェリドゥーンと申します。忘れてしまったというのならば——以後、お見知りおきを。お兄様。昔の様にエリナ、とお呼び下さい」
「本当に面識があるのかは分からないが――そう呼ばせてもらおう。エリナは、武装型の法術を使えると聞いた」
「はい。ある程度戦闘の心得もありますわ」
そういうと、彼女は腰のベルトに装填した、何本かの小さなハンマーを見せる。倉庫で探していたのはこれだろう。なるほど、彼女は打撃系の武器が得意なのだろう。
これはますます俺の出番が無くなるな――と、本格的に役立たずになりつつあることに冷や汗をかきながら、シュウは彼女に対して頷いた。
「そうか。なら、マイと組んで魔物の討伐に当たってくれ。マイもそれでいいな」
「了解しました」
「不本意ですが、お兄様の頼みならば」
もっと反発されるかと思ったが、二人とも素直に飲み込んでくれた。
「ありがとう、二人とも。二人が優しくて、俺は嬉しい」
反射的に、感謝の言葉を告げる。すると、何故か二人とも頬を赤くしてそっぽを向いてしまった。
何故だろうか。特に照れさせるようなことも、怒らせるようなことも言ったつもりはないのだが。
「……手柄は渡しませんわよ」
「望むところです」
二人は火花を散らし合うと、樹海への道をさっさと進んでいってしまった。ああ、連携が――と心配に思わなくもないが、二人なら大丈夫だろう、とも思う。
「……俺達も行こうか、アリア」
「うん」
あとに残されたアリアと共に、シュウもマイヤとエリナを追う。
樹海への道はそう長くはない。草原が徐々に湿地へと変わり、暗い色の樹が増えてくる――そんな小道を進むだけだ。
だが、あまりにも唐突な展開に困惑するシュウにとっては、少しだけ、いつもより長く感じた。




