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やがて天則の救世主  作者: 八代明日華
第二章:禁忌十字に愛を
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第三話『央都動乱』

 翌日は休日であった。七曜表というのは、意外にも旧文明時代の世界と共通である。つまり、魔族の世界とも変わらない、極めて少ない要素の一つなのだ。基本的には、一週間のうち六日が平日、一日が休日。法術師育成学園を始めとする、学校の殆どは、五日間授業があり、二日休みだ。もっとも、休日授業がある日も少なくはないため、その制度が守られているかは不明であるが。

 今日はその二日間の休みのうちの前半である。


 シュウとマイヤは、アリアを訪ねるのも兼ねて、イスラーフィールの住まう学園長棟を目指していた。寮から学園長棟までは少々離れている。穏やかな日差しと共に、涼し気な風が頬を撫でる――そんな平和な、育成学園の道を歩いていく。


「何というか、ピクニックにでも行きたい天気だな」

「そうですね……でも、先輩はこういう時、眠気に負けてしまうのでは?」

「むっ」


 マイヤにからかわれる。そんなことは無いぞ、と言おうとして、実際に自分が出先で昼寝をしてしまう場面を想像すれば、あまりにも自然にそれが想起されてしまったため、「そんなことは……いや、在るかもしれないな……」と、言葉を濁すことになってしまった。


 尻すぼみになる言葉を受けて、マイヤがじと、っとシュウを見る。


「先輩ったら……」

「むぅ……」


 呆れた、と言わんばかりの表情を取るマイヤに、シュウは唸る事しかできない。シュウは穏やかな天気に大変弱い。徐々に気分がふわふわしてきて、気が付けば眠ってしまうのだ。空に未雲でも浮かんでいたらもうアウトだろう。完全に昼寝の体勢は整ったと言っても過言ではない。


「……でも、その時は私もご一緒しますね」


 そんなシュウに、マイヤは思わず、と言う風に笑う。可愛らしい笑顔に呼応して、鼓動を早くする心臓に、これは容易には寝付けないかもしれないな、と内心でシュウは苦笑した。

 

 現在、シュウとマイヤのベッドルームは別々である。これは付き合い出す前からなのだが、実は数か月ほど前――丁度交際を始めて一週間ほどの時に、一度同じベッドで寝てみよう、という話になったことがある。

 その時は――眼が冴えてしまって、とてもではないが眠ることができなかった。間近にある青い髪と白い肌、触れているわけではないのに分かる温かさと柔らかい感触。うっすらと首筋に感じる彼女の吐息。自分の心拍だけでなく、マイヤの心臓の鼓動さえも手に取る様に感じられるその時間は、二人の安眠を不可能にするのに十分過ぎた。全身がこわばってしまい、呼吸すら危うい――そんな瞬間もあったくらいだ。

 これはいけない、二人にはまだ早い、と、結局寝室は元の様に別々にすることにしたのだ。


 普段手をつないだり、睦言を紡ぎ合う分には、大分気恥ずかしさが薄れてきたというのに、これは一体どうしたことなのだろうか、と、時々考えざるを得ない。

 

 ああ、きっとまた、イスラーフィールにからかわれるのだろうなぁ、などと、シュウは苦笑したくなってくる。

 だってほら、もうそこに、学園長棟が見えてきた。この学園の玉座たる、石造りの尖塔が。

 


 ***


 

 結論から言うと、そんなことは無かった。同時に、結局そういう事態にもなった。


「……先生、何をなさっているのですか?」


 シュウたちが学園長棟の最上階たる、イスラーフィールの執務室にたどり着いた時。彼女は、部屋のドアを開けっぱなしにしたまま、机の上に大量の書類を広げていた。その中から何枚かを引き抜いてはファイルに入れ、そして机の脇に置いた数基のトランクに突っ込んでいく——という動作を、すでに何回も行っている。

 イスラーフィールの表情は鬼気迫っていて、とてもではないが話しかけられそうな状態ではない。が、いつまでもここで見ているわけにもいかず、五分ほどたったところで、マイヤが彼女に声をかけたのだ。


「あぁん!? なんだ、今私に話かけるなと――」


 法術師育成の頂点に立つ、特級法術師第四位の女性は、その美しい容貌を台無しにするような酷い顔の歪ませ方をしてこちらを見る。

 

 と、直後、来訪者に初めて気が付いた、と言う、呆けた表情を取った。

 彼女はシュウとマイヤの姿を捉えると、みるみるうちにいつもの余裕ある――というより、悪戯っぽい表情に戻った。


「ああ何だ、フェリドゥーンにフィルドゥシーか……いや、それともフェリドゥーン夫妻と呼んだ方がいいか?」

「なっ」


 にやり、と口角を上げたイスラーフィール。その口から放たれた爆弾発言に、マイヤの顔が凄まじい速度で茹で上がる。一瞬だ。ほんの一瞬で、彼女は首から耳の先まで真っ赤になった。


「な、な、ななな、なにを言っているんですか、そんな、私と先輩は、まだっ」


 混乱を抑えることができないのか、しどろもどろになりながらマイヤは抗議する。が、それはイスラーフィールの気分を良くし、彼女はますますマイヤを茶化す。


「何だ? 結婚を前提に付き合ってるんじゃなかったのかお前ら」

「それはっ! そうですけどもっ」

「なら予行演習だと思っておくことだな、マイヤ・フィルドゥシー・フェリドゥーン。あるいはフェリドゥーン夫人とでも言っておくか」

「ひゃぁぁっ」

「おいおい、そんなんじゃ子供の保護者会に出るときどうするつもりなんだお前は……待てよ? まさかやる事なにもやっていないというんじゃないだろうな」

「やってるわけ無いじゃないですか‼ 未成年ですよ私たち!」


 今にも泣きだしそうなマイヤ。本気で嫌がり始めたようだ。シュウは彼女を庇うように少しだけ前に出ると、無意味だろうとは思いながら、少しだけ殺気を込めてイスラーフィールを睨んだ。目上の人間に対してとる行動としてはどうかと思うが、マイヤの方が大切である。


「……俺の恋人をからかうのもその辺にしていただけますか」

「おう、堂々と言うようになったなお前も。良い変化なのか悪い変化なのか分からん」

「それは俺にも分かりません」


 実際は、良い変化だと思っているが。

 少なくとも、前のように、およそ男としての生殖本能がほぼ仕事をしていないような状態では無くなった。マイヤが可愛らしい格好をしているとドキドキするし、たまには彼女との夫婦生活を想像してみたりもする。


「まぁそんなところだろうとは思った。しかし少しは自覚があるのだと安心したよ。今度の連休は遊びにでも連れていってやれ」

「一応、その予定ではありますが……それより、急いでいらしたのでは?」


 満足気な表情を浮かべ、足を組んで椅子に座ったイスラーフィールは、直後のシュウの言葉で顔を歪めた。天を仰いで大きくため息。その瞳に浮かんでいる感情は、見るからに彼女が面倒ごとに巻き込まれたのだ、というのを直感させた。


「ああそうだった……お前らで遊んでいる場合ではなかったんだったよ畜生め」

「今私たちで遊んでいるとおっしゃいましたか?」

「言ってないよ。聞き間違いじゃないか?」


 確実に嘘である。

 マイヤの指摘をあっさりと躱したイスラーフィールは、一転して生真面目な表情を取ると、告げた。


「丁度いい。お前達には伝えておこう。私は今日、この直後から二週間ほど、最低でも一週間は学園を留守にする」

「なっ……」


 思わず飛び出たその驚愕の吐息は、マイヤのものか、それとも自分自身の声だったのか。

 シュウが知る限り、イスラーフィールが長期休暇でもないのに学園を空けるのはこれが初めてだ。

 春・夏・冬にそれぞれ一回ずつある長期休暇の間なら、彼女は良く学園を空ける。シュウがイスラーフィールと出会ったのも、彼女が春季休暇で極東大陸に赴いていた時だ。


 だがこれは一体どういうことか。寄りにも寄って五の月、しかも一週間が丸々休みとなる連休は、更に来週である。


 その驚きへの回答を伝えないまま、イスラーフィールは面倒くさそうに言葉を続けた。


「留守中、私に伝えたいことがあればアルケイデスに頼め。奴は奴である程度の情報網はあるし、元特級法術師(アスラワン)というだけで、新任のくせに教師からの信頼が厚いしな。法術の特性上私に直接連絡が取れるというのもある」


 確かアルケイデスの法術『武装型ウルスラグナ』の奥義の中には、鋼の鳥を飛ばす、という物があったはずだ。それの事を言っているのだろう。

 マグナス・ハーキュリーはアルケイデス・ミュケーナイに戻ったことによって、力の大部分を喪った。法術というのは、誰かへの『信仰心』を基盤に強くなる。『天則(サダメ)』を狂信する教会の使徒だった頃の彼は、圧倒的な法術強度を誇っていた。今、その狂信を捨てた彼は、かつてほどの絶大な力を持たない。奥義の多くも使えない状態になったという。

 それでも、流石は元特級法術師、というべきなのか。いまだ、彼は全法術師の中でも、最強と言って差し支えない戦闘力を持つ。それだけあの人物が、こと戦闘という面に於いてずば抜けていた、ということの証左である。


 兎も角、それだけ強力な法術師なのだ。イスラーフィールの人選だからか、比較的魔族擁護派の多い今年の教師たちからも頼もしく思えるだろう。シュウたちにとっても安心できた。


 最も、イスラーフィールにとっては、自分よりも人気が高いことが気に食わないようだが。


「分かりました。ですが……どうして急に?」

「用事が出来たんだよ。面倒なことに教会の本部がある央都に行かねばならん」


 なるほど、それなら留守にする時間が長い事にも頷ける。央都は育成学園から、片道で三日ほどの距離がある。アリアの様に樹海を突っ切ればそうでもないのだが、いかにイスラーフィールがアスラワンとは言え、単身での行軍は厳しい。人にらみで上級の魔物を霧散させられるとは言え、彼女は本来戦闘に向いた法術師ではないのだ。


 しかし、まだ何故央都なのか、という疑問が残る。最寄りの街にも教会の支部はある。イスラーフィールは大抵の場合、そちらで教会と連絡を取っていたはずだし、何よりアルケイデスの鋼の鳥が、伝言などを運んでくれるはずだ。


 その理由は、面倒そうな、しかして真剣な表情と共に目を細めた彼女によって、即座に明らかにされた。


「いや――招聘された、という方が正しいか。情報を司る、特級法術師としての私の出番というわけだ」


 彼女は片手に持っていた書類をファイリングすると、口を開けたトランクの中に放り込んだ。そして両手の人差し指をぴん、と立てると、己のこめかみに当てる。まるで、思考をしている時の人のジェスチャーの様だ。


「私の役割はね。探偵の真似事だよ」


 なるほど、だからあのポーズか……と、シュウは一人納得する。

 しかし、探偵とはどういう事だろうか。職業の意味ではない。事件が起きたとき、専門の法術師達と共に捜査を行う探偵職の人々は、今の世界にも存在する。

 するが――なぜ、イスラーフィールがその代わりをするのだろうか?


「探偵の……? では、央都で何か事件が……」

「ああ。あった。それも、特大のな」


 そうとも、それは、よく考えれば、すぐに分かるはずだったのだ。


 情報の女王が。第四席特級法術師、『伝令の調律者(テスタメントテラー)』のイスラーフィールが、態々捜査をする、などという事は。 


「――キュリオスハート翁が……特級法術師第七席、ハレルヤザグナル・キュリオスハートが暗殺された」


 ――それは、彼女の『情報操作』を応用し、その場所に残された過去の記録を読み取る、といったレベルの行動をとらなくては、解決しない事件だという事だ。


「――ッ!?」


 マイヤが息を呑む。驚きを隠せぬ、と言ったように目を見開き、彼女は震える声でイスラーフィールに問うた。


「あ、暗殺……? それは、どういう……」

「言葉通りの意味さ。理由や動機は私が行ってみないと解析できないが、ともかくあの怪物は殺されたという事だ」

 

 ハレルヤザグナル・キュリオスハート。

 その名は、流石のシュウでも知っている。


 先代ファザー・スピターマの時代から教会に仕える特級法術師。上位の法術師達に、戒名とでもいうべき特殊な称号を与えるのは彼の役割だ。今のファザー・スピターマにとっては後見人に当たる立場だと言い、身寄りのない央都の子供たちを引き取り、育てていると聞く。

 それだけを聞けば、教会を支える長老、と言った印象しか抱かないだろう。だが、かの人物は、それだけでは言い切れない、非常に不穏な肩書を持つ。


 彼は――この世界で唯一となる、『精神干渉系法術』の使い手なのだ。

 『展開型ウォフ・マナフ』。対象の精神に干渉し、無意識下で行動をコントロールしたり、感情を操作することを可能とする、邪道の術。アルケイデスが暴走に近い形で『天則』を妄信していたのも、この法術のせいではないか、と、イスラーフィールは以前言っていた。

 

 それだけではない。現在の、魔族排斥の世界は、彼の法術による煽動あっての結果ではないか? とさえ言われるのだ。


 その邪言を以て、世界を操る老獪――『言の葉の(メフィスト)継承者(フィンブル)』。


 そんな人物が、この世を去ったという。

 それも、暗殺、という手法で。


「何百年も生きそうな気配すらあるジジイだったが……まさか殺されるとは。あっけないものだ」


 イスラーフィールの表情は、故人を偲ぶ、というよりは、怪物の消滅に安心しているようにも見えた。が、だからこそ、その原因を突き止めたい、と、彼女自身も思っているのだろう。

 犯人が特級法術師の駆逐を考えていた場合、彼女にも、そして元特級法術師である、アルケイデスの身にも危険が及ぶかもしれない。情報戦に於いて彼女は無敵だ。凡そ死角からのあらゆる暗殺は、彼女には通用しない。先程、自分たちがやってきたときに、マイヤが声をかけた際初めて気が付いた、といった表情をしていたが、実際の所、彼女はこの建物に自分たちが入ったその時点で、何を出合い頭に言うかまで考えていたはずだ。


「……その犯人特定に、学園長の法術が役に立つと」

「そういうことらしいな」


 だからこそ、捜査には彼女は向いているのだ。『顕現型スラオシャ』の権能も相まって、本職よりも優秀なほどに。


「一応秘匿すべき事柄だ。お前たちは私の関係者、という事で伝えたが、一般生徒には公表するなよ。公式発表もまだされていない」

「了解しました」


 マイヤが頷いたのを確認すると、イスラーフィールは再び天を仰いだ。相当気が滅入っているのだろう。正直無理をしてほしくはないが、彼女なりに仕方の無い事、と妥協しているらしい。


「先程は一週間と言ったが、まぁ、実際の所二週間くらいはかかるだろうな。どのみちアリアの経過観察に関する報告もしてこなくてはならなかったし、調べものを央都でしたかった、というのもある」


 アリアは無条件でこの学園に通っているわけではない。彼女はあくまでも、「人間(パルス)に友好的な魔族(トゥラン)の、周囲の人間がその魔族にとって好意的な状況における行動パターンの観察」という名目で生きることを赦されているのだ。シュウはそれを、歯がゆく思う。故にイスラーフィールは、経過観察でアリアの危険性の低さを説いているのだ。


 そしてそのためには、顔を突き合わせてのプレゼンが、最も効果があるに違いない。それは彼女にも分かっているはずだ。


「だがそれとこれとは話が別だ。ああ面倒な……正直な話行きたくない。さぼっていた事務も山積みだし、転入生の顔も拝んでおきたかったんだが」


 何だってこんな時に来るかな、と、イスラーフィールは天を仰いでため息をつく。事務をさぼっていたというのも大変気になるのだが、そちらよりも興味をひくキーワードがあった。反射的にシュウの口から疑問が漏れる。


「転入生?」

「ああ、言ってなかったか。週明けから、二年生に新しい生徒が加わる。直接顔を合わせていないから、詳しい『情報』は分からんが――一応警戒しておけよ」


 二年生、という事は、マイヤと同い年ということだ。シュウにとっては一歳年下となる。あまりかかわることは無いだろうが、自分自身が途中入学であったこともあって、少しだけ興味が湧く。

 が、同時に与えられた警告に、シュウは首をひねった。


「警戒、とは?」

「ああ、こいつだが、経歴が若干――」

 

 そう、イスラーフィールが口にしかけたときだ。


「りえー! ばしゃ、きてるよー!」

「ぐあぁぁぁ、もうそんな時間か!? 畜生、すぐ行く!」


 向こうの部屋から、アリアがイスラーフィールを呼ぶ声がした。彼女の部屋の窓からは、学園の敷地に近づく馬車の姿が見えたのだろう。央都の馬車は常に予約でいっぱいだ。少しでも遅延させると面倒なことになる、と、以前アルケイデスから聞いたことがある。こういうことにルーズそうなイスラーフィールがやたらと焦っていたのはそういう事なのだろう。


 ならもっと早く準備をしておけばよかったのでは、と思うのだが、面倒くさがりの彼女の事だ。どうせ「また明日しよう」「今日の夜でいいや」「いや、やっぱり明日で良いな」などと言って先延ばしにしてきたのだろう。

 予定を建てたら早めに消化するのが吉だな――などと、シュウは暢気に考えてしまう。


 と、荷物を纏め終わったのか。イスラーフィールが物凄い勢いで立ち上がる。高級そうな高足椅子を蹴飛ばして、彼女はトランクの柄を掴んだ。


「というわけだ。後のことは任せた! じゃぁな!!!」


 焦った口調でそう叫ぶと、学園の長たる特級法術師は、本当に彼女が戦闘職では無いのかを疑いたくなるような神速で、執務室を飛び出した。情報を最後まで語らないまま彼女が場を後にする、というのは極めて珍しい。相当急いでいたのだろう。


 ……あとには、蹴飛ばされた哀れな椅子と、訳も分からず呆然とするマイヤ、そして椅子を直そうとしゃがむシュウだけが残る。


「……随分と、急な話だったな」

「はい……」


 乱暴に扱って壊れたらどれほどの損失が起きるのだろうか——そんなことを思いながら、シュウは椅子を立てる。


「全く……あれほど急ぐなら、俺達と長話をしている余裕など……特にマイをいじる必要はなかったと思う」

「うぅ」


 イスラーフィルに言われた恥ずかしい言葉の数々を思い出しているのか。マイヤはうっすらと頬を赤くする。

 

 そして、若干潤んだ瞳を上目遣いにしつつ、シュウに向かって問うた。


「……その、先輩は……やる事、やりたいですか?」

「むぐっ!?」


 思わず咳き込んでしまう。まさか今聞かれるとは思わなかったのだ。


「それもまた急な話だな……まあ、急ぐ必要はないんじゃないか。二人ともまだ学生だし」


 将来を誓い合った恋人なのだから、いずれは『そういうコト』をする、と考えると、今から本当に大丈夫なのか不安になる。いざという時になって、緊張して体が動かないのではないか、と。

 ただ――それは、きっとまだ先の話だ。その時までに、どうにかすればいい。きっとどうにかなる。どうにもならない気もするが、どうにかして見せる。


 それに。


「その――家族は、ゆっくり増やしていこう」

「……はい」


 きっと、急がなくても、『家族』の形が崩れたりはしない。

 シュウは知っている。急いたところで、良い事は早々ないと。



 ***




 この時のシュウに、予想をすることなど不可能だったのである。

 まさか――


「――エリナ・フェリドゥーンです。以後お見知りおきを」


 その数日後になって、突然に、


「――お兄様」


 家族が、増えるだなどと。


 金色の髪に、空のような蒼い瞳をした少女は。

 怪しげな雰囲気を纏いながら、シュウに微笑んだ。

 昨日は更新できずすみませんでした。

 明日はクリスマス短編を投稿予定です。ストックが無いため、その後は暫くお休みかな……(

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