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やがて天則の救世主  作者: 八代明日華
第二章:禁忌十字に愛を
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第一話『新しい平和』

 春の空気は心が落ち着くな、とシュウは時々強く思う。

 日差しがとても暖かいのだ。一応の故郷である極東大陸には、『春眠暁を覚えず』なる諺があったはずだが、先人たちがそんな言葉を考えるのにも納得がいく。

 勿論、極東大陸とこの中央大陸では、春の気候というのは若干異なる。けれども、精神を落ち着かせ、安らぎを授けるという点は、きっと世界中のどこでも変わるまい。


 だからこそ。


「……」

「……」


 しゃり、しゃり、という、彫刻用のナイフが動く音だけが響くこの状況に、長い時間耐えることができている。

 

 場所は法術師育成学園の演習場、その外れだ。近くに樹海ではないが森があり、人から離れて作業をするにはもってこいの場所になっている。

 少し離れた場所では、同じクラスの生徒達が、法術の発動訓練を行っていた。シュウは少しだけそちらに目を向けると、また手元に視線を戻す。


 季節は春。月は第四の月。新学期が始まってから、もうすぐ一か月となる。今日はその最後の日だ。

 マグナス・ハーキュリーとの死闘から、もうすぐで半年が過ぎようとしているのだ、と思うと、長いようで短かった時間に酷く驚かされる。


 呪術師としての頂点に立っていたのはあの戦闘の間だけ。以後、結局シュウは前と同じ、法術の使えない法術師として、育成学園での日々を送っている。実技は参加する事すらできないため、今の様に別の活動をしていることが多かった。

 その分を座学で補おうと、それなりに修練をしたのが功を制したのか。シュウは、なんとか三年生になる事が出来ていた。


 年度末の成績表を見て、少しは変わったと思ったのだがな、と、中々進歩しない呪術・法術、それから魔術の腕前に、イスラーフィールが苦い顔をしたのを覚えている。いや、全くダメ、というわけではないのだ。あの体験で何かしらコツをつかんだのか、呪術の腕前は前より明らかに向上している。何となくだが、法力や魔力の存在を感知する、と言ったことができるようにもなった。


 だが、あの時の様に法術や魔術を疑似的に使用する、と言った、超人的な業は、どうしても使う事が叶わなかった。シュウは役割が終わったのだろう、と思っているのだが、イスラーフィール曰く「そんなはずはない」、との事で。


 結局、代わり映えのしない日々をこうして続けている。


 ――いや。

 変わったことなら、在ったかもしれない。


「……」

「……むむむ……」


 それは、一定間隔で手を動かすだけで、他は微動だにしないシュウに対し、徐々に起源を悪くする、銀髪赤目の魔族の少女だ。


「しゅう、つまんない」

「悪い、アリア。もう少し待っていてくれ」

「むぅー……」


 可愛らしく頬を膨らませてむくれる彼女。その様子に、思わず苦笑する。


 アリア。アリア=ザッハーク。

 半年近く前、シュウとマイヤが助けた、魔族(トゥラン)の少女だ。悪性存在達の世界からこちらの世界に迷い込んだ彼女は、魔族撲滅を掲げる特級法術師(アスラワン)、『英雄(ザ・ヘラクレス)』マグナス・ハーキュリーに命を狙われていた。

 彼女を助けるため、シュウとマイヤは命がけで戦った。特にマイヤは、本気で命を投げ出すところまで

行ってしまったのだ。


 結局、シュウの決意に、世界を管理する神霊――最後の神核種(アイオーン)、『ズルワーン』が応えたことで、マグナスを撃退することができた。あの戦いで何かから解放されたのか。マグナスは本名であるアルケイデス・ミュケーナイを名乗り、現在はシュウたちの味方として活動してくれている。


 シュウたちの味方――そう、魔族廃絶ではなく、善と悪の共存を願う者達。いうなれば、魔族擁護派である。

 この存在こそが、この半年で最も世界を大きく変えた存在だと言えよう。


 今、この法術師育成学園で、アリアが魔族であることを知っている人物は、シュウたちだけではない。生徒の全員が、とは言わないが、八割近くがそれを知っている。

 その中で、彼女を嫌悪の目で見る者達は五割。しかし——残りの三割は、アリアを好意的に扱ってくれているのだ。


 アリアは、『人間の敵対者』『最強の悪性存在』と言われる魔族の肩書に反して、非常に人懐っこく、愛らしい少女だ。聡明で、幼い言動に反して知性も高い。可愛らしくも賢い彼女は、一部の可愛いもの好きの女子生徒たちから大変な人気を誇ると聞く。

 魔族としての彼女を差す『ザッハーク』の名を、今のアリアが苗字として名乗っているのも、そうして人々が彼女を受け入れ、そしてアリアがそう呼ばれることを望んだから、という理由がある。

 それだけ、彼女はこの学園に受け入れられていた。


 そんな現状に満足しながら、シュウは膝の上に置いた大判の紙に視線を落とす。

 そこに書きこまれているのは、左側がシュウの知らない文字群。右側が、シュウの慣れ親しんだ文字たちだ。それぞれが対応しており、翻訳が可能となっている。

 良く似た二つの言語を表すのに、しかし全く別の文字が使われる、というのは、中々面白いものだな、と、分裂以前の人類の生活に、シュウは少しだけ想いを馳せた。

 

 そう――ここに書かれているのは、現在の二元世界に於いて、ほぼ唯一となる各世界共通の文字。


 左は、アリアたちの世界で使われる、ダエーワ語を記すための文字、『ブラーフマナ』。

 右は、シュウたちの世界で使われる、スプンタ語を表すための文字、『ヴェンディダート』。


 これは、今回の作業をするにあたって、アリアに作ってもらった対応表だ。

 ブラーフマナ文字の方が、ヴェンディダート文字よりも圧倒的に文字数が多い。理由は不明だが、恐らくはダエーワ語の方が複雑な発音が多いのだと推測される。そして――認めがたい事ではあるが、魔族の世界というのが、こちらよりも若干、原始的なのだろうことの証左に成り得る。旧文明時代に於いて、文字というものは、得てして文明の発達と共に整理されていくものであったというから。

 シュウの個人的な意見としては、そいういうのとは関係なく、アリアたちの世界は文字を書いて意思疎通を図る必要が無い世界だったのかもしれない、という物を掲げている。『向こう』の情報はアリアの話を聞く以外では分からないため、シュウが知っていることは数少ないが、あまり文章を使ったコミュニケーションは取っていない様に思えた。どちらかというと、会話が中心となっているようだ。


 さて。そんな資料不十分な状況で、シュウが対応表と睨めっこをしてまで何をしているのかと言えば。


 ――端的に言ってしまえば、加工業(こうさく)である。


「ここを、こうすれば……」


 シュウの手に握られているのは、まるで黒曜石のような漆黒の物体だ。しっとりとした質感を持っている様にも、鋼のような光沢を持っている様にも見える、それでいて手触りはそのどちらとも違う、極めて不思議な物体。驚くべきことに、シュウの腕ほどの太さと長さを持つそれは、殆ど重さを感じない程に軽かった。

 事情を知らない者が見れば、こんなものが世の中に在るはずがない、と言うだろう。

 それもそのはずである。何故なら、この物質は、()()()()()()()()()()()()()のだから。


「……よし」


 一つ呟くと、シュウはナイフをしまう。鑢で丁寧に表面を磨いた後、取り出したタオルでそれを拭いた。

 陽光にかざすと、黒い刃はぎらり、と怪しげな、しかしどこか神聖な雰囲気を纏って、その輝きを反射した。

 

 その様子を見ていたアリアが、身を乗り出して問う。


「できた?」

「ああ、一応は、な」


 それは、短剣だ。

 奇妙な金色の文様が刻まれた、漆黒の短剣。


 シュウがここ最近、ずっと自由時間に作っていたのは、この短剣だ。少々面倒な代物なので、マイヤよりもアリアに付き添いを頼んでいた。マイヤでは、この短剣が万が一()()した場合、対処できない可能性がある。

 ――まぁそもそも、マイヤはこの時間帯、法術が扱えないため時間が余るシュウと異なり、普通に授業があるため、頼むことができなかったというのもあるのだが。


 先程までの退屈さを隠そうともしない表情とは打って変わって、興味深そうに眼をキラキラさせるアリア。その様子に微笑みながら、シュウはゆっくりと立ち上がった。 


「さぁ、きちんと()()か試してみよう」

「うん」


 そのまま背後に佇む森へと少しだけ侵入する。前述の通り樹海ではないため、魔族などは出現しない。出現しないが――この学園の敷地内にある森だ。ただの自然の森であるはずがない。


 ここは、一種の演習場なのだ。イスラーフィールの手によって、内部に空洞を設ける形で育つように『情報操作』された森。シュウとアリアが、一般生徒達から離れて作業をしていたのは、何も彼らの邪魔にならないようにするという配慮だけではない。可能な限り早く、この森の中へと入り込みたかったから、というのもあるからだ。

 イスラーフィールにこの実験を行いたい、と打診した時、ならば使え、と指定されたのがここである。それはつまり、シュウたちにとって安全な場所だ、という意味を持つ。


 開けた場所に出る。シュウはその広場の中央に立つと、黒曜の短剣を構えた。 


「事前の打ち合わせ通りだ。上手く行かなかったら、その時は頼む」

「まかせて!」


 張り切った調子のアリアの声に、思わず笑みを浮かべる。

 だが直後、シュウは気を引き締めるように、その表情を硬くした。


「まぁ、失敗しない様にはしたはずだが――」


 腰を落とし、足を踏ん張る。重心を固定する。短剣を握った右手を前に。左腕は、体に近く。

 胸の前で両腕が交差するような体勢を取ったシュウは、一つ息を吸うと、厳かに唱えた。


闇より出でよ、(カルマ・)我が罪業(ドライヴ)。『灼毒たるは汝の魔刃(タルウィ)』」


 その祝詞――いや、この場合は『呪詛』というべきか。詠唱が紡がれると同時に、短剣に刻まれた文様が、徐々に強い輝きを放っていく。

 この刃を造るにあたってその()を借りた、アリアたちの世界で信仰されているという聖霊(デーヴァ)――つまり、シュウたちの世界から見た場合の『悪魔(ダエーワ)』――を表すブラーフマナ文字。文様の正体はそれだ。

 

 発光しているのは、短剣の素材となった、()()()()を構成していた魔力(プラーナ)


 そう。

 この短剣は。


 疑似的に魔術(ヴェーダ)を起動させるという、あのマグナスとの戦いにおいて、シュウが世界(ズルワーン)から託された呪術を、一時的に再現するためのものなのだ。


 やがて。

 ぼうっ、という重い音と共に、クリムゾンレッドの焔が、黒曜の短剣へと付与された。その炎は消えることなく、ゆったりと揺らめきながら燃え続けていた。燃え広がる事も無く、ただそこに佇むだけ——法術で創り上げた火と良く似た現象だ。これがきっと、魔術の焔。


「おおー……」

「……成功した、か……?」


 目を真ん丸にして息を呑むアリアの姿に、シュウも少しだけ気を緩める。だが、ここで油断してはいけない。実験は、まだ終わっていないのだから。


 消えぬ焔の短剣を再び構え直すシュウ。


「うん。維持は上手く行っているようだな……では、次は奥義を撃てるか試してみよう」

「はーい」


 少しずつ、少しずつ、心を落ち着かせていく。

 思い出すのは、マグナスとの戦闘で使った、黒炎(アグニ)の魔術。

 マグナスの攻撃を喰らい、己の力へと変えたあの技を、発動させた時の感覚を、手探りながらも己の中に回帰させていく——


「―――『赫毒神の(デーシャ・)怒り(ダスラ)』」


 そうして、ある一点で、シュウは口を開いた。

 自分でも驚くほどに静かな、暗い声が漏れる。それに反応して、黒剣の焔が凄まじい勢いで燃え上がった。


「ぐっ!?」


 シュウの口から、思わず苦悶の声が漏れる。あまりにも強すぎる魔炎の勢いに、短剣を取り落としてしまったのだ。短剣は大地に突き刺さると、一層その火を強くする。

 直後――足元の草木が、急速に枯れ始める。腐食の原因は刃に灯った業火と、そこから飛び散る火の粉だ。大地に堕ちた火花は、周辺の植物たちを、まるで呪うかのように滅ぼしていく。


 まずい――!

 シュウが戦慄と共に、対処のための呪術を、脳内で検索していると。


「――『憎悪ノ顎門ハ(×××)万物ヲ喰ウ(×××)』!!」


 アリアの口から、鋭い言葉が飛び出した。音が全く理解できない。ダエーワ語は、スプンタ語と起源を同じくするためか、極めて良く似た音を持っている。そのため、理解こそできずとも、言っている意味や、単語の音程度は理解できたのだが――今は、それすらできない。

 今の言語は――と、シュウが驚く暇もなく、さらなる衝撃が彼を襲った。


 アリアの足元の影が、恐ろしいスピードで拡大したのだ。それは毒の焔に侵された大地全てを包み込むと、直後に霧散した。まるで幻であったかのように、アリアの影は元のサイズに戻る。


 魔術(ヴェーダ)だ。発動型の魔術。アリアに頼んでいた通り、短剣の暴走を彼女が鎮めてくれたのだ。


 悪性存在は、より上位の悪性存在を恐れる。アリアは魔族――その存在、概念そのものが、常に他の悪性存在よりも上位にある、『最強の悪性存在』だ。

 アリアとシュウたちが最初に出会ったとき、彼女が意識を失っていたにも関わらず、魔物蔓延る樹海で生きていられたのはそういうロジックである。逆に、マグナスと戦った時にアリアを襲った魔物たちは、彼に操られていたためにその原則を無視したのだろう。


 つまり。

 魔物の角から作成されたこの短剣は、上位の存在であるアリアからの干渉によって、機能を停止するというわけだ。マイヤでは対応ができない可能性が高い、としたのはそういう理由だ。短剣を破壊することはできるだろうが、マイヤでは、法術では、短剣を『止める』ことは出来まい。

 

 その判断は間違っていなかった。同時に、より良い結果も齎してくれた。アリアの影が覆った大地は、もとの緑を取り戻したのだ。


「しゅう、だいじょうぶ!?」

「あ、ああ……」


 駆け寄るアリアに頷き返しながら、シュウは己の使った業と、それの起こした災禍を思い返す。


 アリアは短剣の方に向かうと、それを恐る恐る手に取った。

 だが直後、短剣は一度身震いをするような現象を起こした後、ぱきん、と音を立てて、粉々に砕け散った。アリアの魔術に関わらず、シュウが発動させた奥義に耐えられなかったのだ。


「だめになっちゃった」

「ああ。どうやらまだ、奥義を使うのは難しかったようだな」


 しゅんとした様子のアリアに、シュウは己の準備不足と、想定の甘さを悔いる。


「……また作り直しか……いや、この実験は中止にした方が良いかもしれないな。少し、残念ではあるが」

「いっぱいじかんかけてたもんね」

「ああ……アリアにもたくさん迷惑をかけたからな」


 危険すぎた。

 まさか魔術を無理やり発動させることが、あそこまでの惨事を引き起こすとは想定していなかったのだ。コントロールができる、という前提で実験を開始したのだから、全くコントロールが効かない、という事態は予想外だ。


 これは、自分には無理な話なのかもしれん——と、シュウは内心でため息をつく。戦闘面で仲間たちの役に立てない状態が続くかと思うと、少し気が遠くなる。


 その姿を見て、アリアは安心させる様に慈母の笑みを浮かべる。


「だいじょうぶだよ。まってるあいだはつまんなかったけど、わたしもたのしかったし」


 それに、と、白銀の娘は言葉を切った。


「しかたないよ。しゅうは『わたしたち』とはちがうもの」

「それは……分かってるつもりなんだがな……」


 魔族と人間は違う。人間と魔族は違う。そして——シュウは、恐らくそのどちらとも違う。

 生まれが、という話ではない。心の持ちようが、だ。

 『信じる』ことで力を得る人間とも、『恐れる』ことで力を発揮する魔族とも、シュウは違う。『狂信する』人間とも、『憎悪する』魔族とも、勿論。

 

 触媒に悪性存在の一部、即ちは魔力(プラーナ)の塊を使うのは間違ったアプローチでは無かった、が――それだけでは、魔術を使える様にはならないらしい。


「一度は掴んだコツだ。何か、役に立てば、と思ったのだが……」


 あの戦いの様に。

 ありとあらゆる法術と魔術に干渉し、仲間たちを護り、敵を救う――そんな領域にまで到達しようとは、思わない。あれはあれで危険だ。シュウにとっては過ぎた代物だ。

 それでも、その一端だけでもあれば――と思わずには居られない。未練があるわけではない。そうではなく、大切な人たちを護るために、大切な人たちと並び歩くために、必要なのだ。シュウにも、戦う力が。


 ――とはいえ。

 今は、思い悩んでも仕方は無い。


「まぁ、急ぐようなことでは無いからな。また色々試してみよう」

「うん!」


 アリアの元気な返事に笑みを浮かべながら、そうは言っても何を試すべきか――と、シュウが思索にふけろうとすると。


「……む」


 丁度、今日の授業の終了を告げる鐘が鳴った。時計塔と呼ばれる、学園内にある尖塔が音を鳴らしているのだ。

 見上げれば、いつの間にか空はうっすらとオレンジ色に染まり始めていた。


 シュウはアリアの方を見ると、時間を忘れていたことに苦笑する。


「今日はここまでにしようか。学園長棟まで送って行こう」

「ううん、だいじょうぶ。もうなれたよ」


 アリアは自慢げに笑うと、胸を逸らしてふんすと息を吐いた。

 その様子に、思わずシュウは笑ってしまう。


「そうか。じゃぁ、俺は演習場を出るまでだな。気を付けて帰るんだぞ」

「うん!」


 学園への滞在が認められた時のことだ。


 教会は、あまりにもあっさりとアリアの存在を赦した。マグナス・ハーキュリーによってその身を抹殺しようとしていたにも拘らず。その任務失敗の責を以て、マグナスを特級法術師から除名したにも拘らず。

 当初、その異様な事態に困惑した物だが――後からイスラーフィールに事情を聞いてみれば、至って簡単な絡繰りだったのだ。


 これまで、魔族という物は大抵の場合、発見後即座に抹殺されてきた。捕獲及び研究対象となった者も居たはずだが、それらは大昔の話であると同時に、厳重な管理下に置かれた存在だ。アリアの様に、周囲の人間と親しくする魔族は居なかったのである。

 

 現代の魔族の、日常生活――その経過観察、という名目で、イスラーフィールはアリアの自由を勝ち取ったのである。


 以後、監視という建前で、アリアはイスラーフィールの住まう学園長棟で生活をしている。アリアを最初にかくまったあの客間が、今は彼女の自室だ。

 最近はそこでの生活、および登下校にも慣れてきたのか。彼女自身が先ほど言った通り、自分一人でも動けるようになってきている。


 家族も、寄るべき友人もいなかったこの世界で、アリアが『帰る場所』を得た、というのは、とても感慨深い事だ、と、シュウは時々強く思う。


 ――帰る場所、と言えば。


 シュウ・フェリドゥーンにとっても、『帰る場所』の意味は、以前とは大きく変わっていた。


「おっと、俺も急がなくてはな……」


 アリアを見送ったシュウは、学生寮エリアの端に在る、かつて教員寮だったという建物――今は自分とマイヤの、二人だけが住むそれがある方向へ、ゆっくりとつま先を向けた。


 これが今の、シュウの日常。

 掴み取った、新しい平和だ。

 やっぱり予約更新にしないと予定した時間の投稿を忘れますね……

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