第六話 ヅカと双子と人体実験
御使いが魔王を討伐してから万年に近い時が流れたらしい。
魔族は魔王亡きあとも新たな王を擁立してあがきつづけた。
祖神エルドベリアは神弓ケイローンを受け継ぎ、千年かかってこれを殲滅。
しかし大陸はなお平和からほど遠い。
魔王軍の生み出した魔獣の暴走、ドラゴン群の大増殖、天地を震撼させた《連環大災厄》――
危機的状況は枚挙にいとまがない。
エルドベリアは死力を尽くしてエルフを守り、天寿をまっとうした。
それが五千年前のことである。
最後に彼女はひとつの遺言を残した。
――森の外に出よ。
その言葉の解釈を巡っては様々な議論が尽くされた。
すくなくとも、森を捨てることは意味しない。
エルフにとって、緑豊かな森は生まれてから死ぬまでをすごす安息の地である。
ゆえにエルフはこう解釈した。
――森の外に覇を唱え、世界をよりよく治めよ。
偏執的なドワーフや奔放なパルメットには秩序を築く力はない。
ましてや人間は愚かしさの極み。友誼を結んだ同盟相手を平然と裏切る道理なきもの。
神が最初に生み出した完全なる知性種たるエルフこそが、低級な知性種を導くにふさわしい。
エルフは誇りをもって征服戦争をおこなった。
その後は一進一退である。
エルフの力は超越的なものだが、他種族は時に同盟を組み、時に卑劣な策を用いて対抗した。
文明が勃興し、崩壊し、荒廃した暗黒期をたびたびくり返して五千年。
現在、大陸の七割がエルフの森に覆われている。征服と植林をつづけて広げに広げた版図だ。
対エルフ同盟軍はすでに絶望的な状況だという。
「……というのが、神代から現在までの歴史です」
焚き火の向こうでユニが小さく頭を下げた。
すでに夜のとばりが降り、樹冠の隙間から満月が覗ける。
俺たちがいるのはエルフの森の一角。
木々が生い茂っているので闇がとびきり濃い。
「俺のいた時代って神代あつかいなのか……実感ないなぁ」
さすがに万年越しの転生は予想しなかった。
魔王の闇から解放されるまでに時間がかかったのだろう。
あのとき、神さまらしき光が俺を救い出してくれたのは覚えている。
なにかを伝えようとしていたのは確かだけど、よく聞き取れなかった。
「先日、夢でお告げを受けたのです……」
ユニは膝を抱え、地面を見つめて言う。
「光り輝く麗しいお姿……あれこそまさに祖神さまのお姿……」
「……麗しい? 妙齢の美人って感じ?」
だとしたら、残念ながらエルドベリアじゃない。
「わたしより背が低くて、余計な肉のついていない美しい肢体でした……」
「うん、エルドベリアだ。たぶんそれ高確率でエルドベリアだ」
「かのお方はおっしゃったのです……世界の危機を救う御使いが降臨するから、ケイローンを送り届けよ、と……」
ユニの表情は慎ましい。というか無表情に近い。
けれど俺をチラチラと見る目には、たしかに強い感情がこめられている。
「御使いさまはきっと、世界とわたしを、救ってくださると……」
「うん、安心しろ。ユニは俺が守ってやる」
「ありがとうございます……ほんとうに、わたしなんかを……ほんとうに、ほんとうに」
言葉にならないと言った様子でユニは打ち震えていた。
彼女を守ってやりたい気持ちに偽りはない。
だがそれはそれとして、差し当たっては現状の不明瞭さが問題だ。
「世界の危機ってのがわからないな。エルフは世界制覇寸前なんだろ?」
「はい……そう伝え聞いています……」
「人間視点ならともかく、エルフ視点では平和も間近ってことだよなぁ。あ、もしかして、ダークエルフたちが不穏分子ってことか?」
「だーく、というと……」
ユニは申し訳なさそうに問い返してきた。
「もしかして呼び方が違う? 褐色肌の……いや、ユニもそうだけど、そこは例外ってことにして、あの俺を殴った連中のこと」
「エルフの方々、ですよね……?」
会話が噛みあわない。どこかに致命的な認識の違いがある。
「あー、もしかして、褐色エルフは別種ではなく部族のひとつって分類?」
前々世の知識を参照するなら、ダークエルフの解釈も作品によって様々だ。
地下を住み処にしてるとか、邪神を奉じているとか、単に肌が黒くて戦を好むだけとか。
褐色でなく蒼肌のダークエルフなんてのもいる。
ユニはまだまだ申し訳なさそうな不可解顔だった。
「褐色の肌は……成人の儀で森の祝福を受けた証、のはずですけど……」
「ん? それはさっきの連中だけの話じゃない?」
「わたしの知るかぎりは、エルフはみなさまおなじかと……」
なんてこった。
一万年のあいだにダークエルフがスタンダードになっていたらしい。
小麦色の肌もセクシーだけど、全員一様ってことになると、すこしばかりもったいない。
「てことは、ユニも成人なのか」
「いえ、わたしはまだ……父がエルフなのですが、成人の祝福を受けるまえに森を飛び出して……旅のさなか南方系の人間をめとって、産まれた子どもがわたしだそうです……」
「お母さんが褐色だったんだな」
「はい、それで……もともと人間の国に住まわせていただいていたんですが、そこがエルフの方々に占領されて……」
過去をいとおしむ様子はない。たぶん人間の国でも異物扱いは受けていたのだろう。
両親とは死に別れだろうか。
彼女の過去は察するに余りあるものを秘めていた。
それにしても――釈然としない。
「もともとエルフは人間と普通に混血してたはずなんだけどなぁ……」
そもそも純血のエルフなんて、エルドベリアとその分身《十二の初子》ぐらいのはずだ。
どの時点から混血NGとなったのかは知らないけど、理不尽さを感じずにいられない。
ああ、理不尽だ。
わざわざウサモスとして転生したのに、なにをするべきかわからないのが理不尽だ。
世界の危機にしろ倒すべき敵にしろ、俺にはなにもわからない。
「とりあえずエルフの連中にあらためて話を聞くしかないか」
「でしたら……新月まで待ったほうが……」
「月が出てるとなにかマズイのか?」
「今月は《赤き夜祭》がありますから……もしかして、神代にはなかったのでしょうか……?」
「聞いたことはないな。どういう儀式だ?」
ユニの肩がかすかに震えた。
「生け贄を祖神の魂に捧げる、成人の儀式です」
俺は絶句した。
「……ま、待て待て待て! 祖神って、エルドベリアに捧げるのか?」
「はい、祖神の霊と新成人が分かちあうのです……二本足の種族を生け贄として、半月かけてじっくりと――」
「二本足って、人間とかドワーフとか?」
「場合によってはエルフのなかから選ばれることも……」
「ない! それはない! エルドベリアはそういうの喜ぶタイプじゃないって!」
俺だってエルドベリアのことを完全に理解してるわけじゃない。
でも、血に餓えて生け贄を求めるような性格じゃいことだけは確かだ。
裏切り者を圧倒的な力で薙ぎ払うことはあれど、半月かけていたぶるような真似は絶対にしない。
「ですが、何千年とつづく儀式で……本当なら、今年はわたしがなるはずで……」
「なら何千年のあいだに本当の儀式が失伝したか、そもそもデタラメだったかだ。そんなのエルフというか魔族のやることじゃないか」
口にしてから、ぞくりと寒気がした
世界の危機。
世界を征服せんとするエルフ。
正体不明の「敵」。
血に餓えた魔族のようなエルフ。
「まさか……」
断言はできない。したくない。
エルフハーレムを夢見て転生した俺にとって、受けいれがたい可能性だ。
「とにかく……エルフたちともう一度話しあう必要があるな」
いまは判断を保留するほかない。
自然としおれる俺の耳を、ユニは心配そうに見あげていた。
明け方、俺は怪しげな音を聞き取って目を覚ました。
風の音に、ほんのわずかな乱れがある。
距離は二百メートルといったところ。
ケイローンを引いて五感を研ぎ澄ませば、そこにエルフの気配が浮かびあがる。
耳自慢のウサモスでなければもっと接近を許していたところだ。
「おのれ……せっかく抱き枕にされて気持ちよく眠っていたというのに」
「ふあ……御使いさま、どうかなさいましたか……?」
ユニが寝ぼけまなこをこする。
たわわな双房がよじれて、俺に押しつけられて、ぷにゅぷにゅで、ふおお。
ふおおじゃない。
気配はさらに近づいてきている。
ふたり分――体臭からして女。
「偵察か、暗殺か、どっちにしろ不用意なやつらめ」
光風の矢を紡いで狙いを定める。
あちらさんは足を止めた。こちらの動向に気づいたのだろう。
耳を澄まして声を拾ってみる。
「気づかれたわ、セルドリリィ……!」
「へえ、トルルカの《風の足音》に気づくのか。じゃあ例のアレいこうか」
「任せてちょうだい!」
トルルカとやらが地面に手を置き、引っ張りあげれば、地面が粘っこく伸びあがる。
土のまとわりついた両掌を、セルドリリィの背に押しつける。
「――弾け!」
「――飛べ!」
土が瞬時に膨張してセルドリリィを弾き飛ばした。
巻き起こる疾風によって加速。
その勢いはさながら砲弾。
風の流れにしたがって木々を避けながらも、速度が落ちることはない。
「聞こえているかな、キモい獣クン! このセルドリリィの高速飛行剣術と!」
「このトルルカの操る土の精霊の力があれば!」
「音に迫るほどの速度で首級を刈り取り死をもたらすのさ!」
「そうか、すごいな」
俺は適当に返しながら弦を離した。
「見えた!」
あろうことかセルドリリィは片手剣を振るって光風の矢を捉えんとした。
タイミングはバッチリあってる。大したもんだ。
ただし今回の矢は《開花せよ蜘蛛の巣》。
刃の餌食となる寸前、パッと蜘蛛の巣状に拡散した。
「なんとぉ!」
飛んで火に入るダークエルフは絡めとられて墜落し、俺たちの足下まで転がってきた。
「うきゅう」と妙にかわいい声で失神。
見た感じは男勝りの金髪長身美人といった外見なのに。ギャップ萌え?
「お、おのれ、よくもセルドリリィを!」
トルルカは怒りの気炎を吐き、両手をひらひらと舞わせる。
指先の行く先は懐。なにかを取り出し、顔に運んだ。
鼻と耳に引っかけるこの形状は……眼鏡?
「見える! すべてが――! おまえの魂魄の色までもが――!」
また両手をヒラヒラさせてる。
波間に漂う海藻みたいな動きが、ちょっと面白い。
「お気をつけを……! トルルカさまは黒銀騎士団でも名うての精霊使いです……! 魔法具《蛇神の双眸》があれば、一里先の敵を呪術の餌食にすることも可能だと……!」
「呪術はこわいな……ユニ、ちょっと目閉じて」
「は、はい」
俺も目を閉じて、光風の矢を手元で破裂させた。
閃光が森を埋めつくす。
「まぶっ! まぶしッ! 目っ、目がっ、まぶ目があああああッ!」
眼鏡?で視力を強化していたトルルカは、背後の川に倒れこんで悶絶する。
流されていく。眼鏡の川流れ。
気の毒なので助けにいくべきだろうか。
「あ、あの……御使いさま……!」
「どした、ユニ」
「セルドリリィさまが……ヘンです……!」
何事かと思えば、そこに斑模様があった。
粘着光に囚われたダークエルフの褐色肌が、ぽつぽつと白く変色していくのだ。
その現象には苦痛がともなうようで、セルドリリィは身悶えをしている。
「あぁああッ、くひッ、ぃいい……!」
「なんだこれ。なにかの病気?」
「ど、どうしましょう……」
「えーと、とりあえずトルルカを助けに行こう。こっちはよくわからんけど、あっちはほっといたら高確率で溺死するから」
俺たちは川へ走り、溺死寸前のトルルカを引きあげた。
彼女も女性にしては長身で、濡れた紫色の髪がなかなかに色っぽい。
そしてその肌は、セルドリリィとおなじく白黒まだらに変色中。
「どうなってんだろう……」
焚き火のそばに引っ張ってきて並べるころには、どちらも満遍なく白に染まっていた。
苦痛のあまりに失神したようだが、いまは呼吸も鎮まっている。
「まるで未成年のような色です……」
「成人エルフが突然白くなるようなことは普通ないんだよな?」
「わたしははじめて見ました……」
「となると、ケイローンの矢か神性弓術の影響と思ったほうがいいか」
ケイローンにはいくつかの特性がある。
光と風を編んで矢とすること。
魔を打ち祓う力を有すること。
神性弓術も神の御技なので、全般的に破魔の性質を有している。
「ってことは、もしかすると……」
まだ憶測でしかないけど、可能性はある。
一万年のあいだにエルフの文化はおろか生態まで変容してしまったのだ。
おそらくは《赤き夜祭》が元凶となって。
俺たちは気絶したふたりを蔓で後ろ手に縛りあげた。
当然、武器も取りあげる。
剣士のセルドリリィは男性的な鎧の似合う大柄な美人。
術士のトルルカはスラリと長身で、女性的な衣服の似合う美人。
体型的には和製ファンタジーよりも指輪系洋風ファンタジーを想起させる。
ふたりは目を覚ますなり、白くなったおたがいの顔に驚愕する。
「そんな……! トルルカ、キミの艶やかな小麦色が消えてしまうなんて……!」
「ああ、セルドリリィ、アナタの勇ましい黒い肌がお子さまじみた色に……!」
ふたりは身を寄せあって嘆いた。鼻が擦りあうほどの距離感。
洋風ファンタジーというか百合というか、芝居がかったところはヅカ系の空気感かもしれない。
容姿端麗なエルフの絡みは目の保養になるけど、観察するのはべつの機会にしよう。
「ほれ、ごはんを貪り食いたまえ」
ふたりのまえに放り出すのは、近くで狩ってきた鹿の内臓。
《剥ぎの一射》で解体しただけで、焼いてもいないし血がしたたっている。
ユニによれば成人エルフはこういうものを好むのだという。
だが、ふたりは内臓に口をつけず、憎々しげに俺を睨みつけてきた。
「……こんな屈辱的な扱いは初めてだ」
「やっぱり俗悪な畜生ね。皿という文明の利器を知らないなんて」
ちょっと地面に投げ置いただけなのにあんまりだ。
仕方なく川の水で土を落とし、葉っぱを皿にして置き直す。
「さあ、おあがり」
「せっかくの血が落ちてるじゃないか、もったいない」
「ケダモノは頭がよろしくないのよ。耳ばかりムダに尖って脳が小さいんじゃない?」
ふたりで頬を擦りあわせながら嫌味ったらしく半笑い。
いちいち腹立つなコイツら。
「ユニ、そこら辺からミミズを捕ってきてくれ。コイツらの鼻に入れて目から出す」
「ミミズ取りなら得意です……よく土をいじっていたので……」
「ハハハ、やっぱり御相伴にあずかろうか、トルルカ」
「もてなしを受けないのは非文化的だものね、セルドリリィ」
ふたりはミミズのように這って内臓に口を寄せた。
かぶりつき、咀嚼して、
「おえええーっ」
吐いた。
「ぐふっ、な、なんだこれは! どんな魔法を使ったんだい、キミは!」
「まっずぅ……これ本当に鹿なの? 子ども舌に戻ったみたいだわ……」
エルフは《赤き夜祭り》を境にして味覚が変化するという。
つまり血肉嗜好は褐色化とセットということだ。
後付けで生態を変化させる儀式となると、ますますきな臭い。
「サンプルがふたりだけだと心もとないな。おまえたち、仲間は来てるのか?」
「私たちが口を割ると思ったかい?」
「黒銀騎士団の名にかけて、死んでも情報は渡さないわ!」
「ユニ、ミミズを。目から入れて鼻から出す」
「ここに四十匹います……がんばりました」
「ハハハハハハ! やっぱり話してやらないこともない!」
「そ、そうね、セルドリリィ! あのふたりなら対処できるでしょうし!」
情報ゲット。
ありがとうミミズ。
ヅカ系コンビは先日出会った黒銀騎士団ヒルデガルト小隊の先遣とのことだ。
謎の珍獣の動向を確かめ、可能なら始末するもよし。
難しければ連絡役の接触を待つべし。
連絡役は双子のナイアとネレイア。
ナイアは短髪でホットパンツの少年的な出で立ち。
ネレイアは三つ編みでヒラヒラスカートの少女趣味。
ともに水の精霊との対話に長け、川に潜んで気配を隠す。
以上の情報をもとに、俺は速攻でふたりを捕獲した。
「卑しい獣と思ってたけど、案外やるじゃない?」
「セルドリリィとトルルカが拷問されて情報吐いたんじゃない?」
「キャハハッ、ほんとだ、肌が子ども色になってるね!」
「キャハハッ、みっともなーい!」
子どもじみた口調が示すとおり、外見的にはユニよりも多少年長といった雰囲気。
バストサイズはユニにやや劣るけど背はすこし高い。
腰尻のラインが育ちはじめた、十代中盤の体型。
昨年《赤き夜祭》で成人になったばかりの四十一歳。
当然どちらも美少女だし、肌は褐色だ。
彼女らには光風の矢を当てていない。武器だけ壊し、退路に延々と矢を放って動きを封じたのだ。
俺がケイローンで脅しているあいだにユニが蔓で縛りつけてくれた。
そしてまた、鹿の内臓をお出しする。
「さあ、お食べ」
「言っとくけど、エルフに多少の毒は無意味だからね?」
「美味しくモグモグしちゃうだけだからね?」
宣言どおり、ふたりは内臓にかぶりついて、おいしそうに咀嚼し、平然と嚥下した。
無理して食べている様子はない。うっとりと食の悦びに耽っている。
「はい、じゃあ実験第二段階でーす。オラ食らえッ」
威力を調整してそよ風レベルの矢を至近距離で浴びせる。
「キャッ、なにすんだよぅ!」
「なにを考えてんのよぅ!」
不平はすぐに苦悶の声に変わった。
ふたりの肌に白い斑点が浮かび、見る間に大きくなっていく。
やはりセルドリリィとトルルカの変色は俺の矢の影響だったらしい。
まもなく気絶して、完全に白化する。
彼女たちが目を覚ましてから、俺はまた内臓をお出しした。
「おあがんなさい、お嬢さんたち」
「コイツなにがしたいんだかわかんないよ、ネレイア……」
「ていうかなんか白くなってるよ、ナイア……」
ふたりは不気味そうに内臓を食べて、吐いた。
とても食べられる味ではないと喚き散らして。
実験終了。
俺のなかで確信が強まっていく。
「いいか、ユニ――エルフは長い歴史のなかで歪みをねじこまれたらしい」
「歪み……ですか?」
「ああ、それが偶然なのか、だれかの画策によるものなのかはわからないけど……」
言葉を濁しながら、俺はそこに何者かの意図を感じていた。
エルフという種を穢しつくそうという邪悪ななにか。
もしその存在がエルフを征服戦争に駆り立て、世界を破滅に導いているのだとしたら。
「――エルフは《赤き夜祭》によって、たぶん魔族化しかけてるんだ」
一万年前は魔王をもってしても洗脳が限界だったというのに。
いまやエルフという種そのものが穢されている。
エルドベリアの愛し子たちが、魔に染まりつつある。
しかし、俺の矢にはエルフを救う力がある。
「やるぞ、ユニ……エルフたちを漂白するんだ」
ユニは理解してないようだったが、うなずいて俺の決意を支えてくれた。