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00.プロローグ
「――君」
まだ昇りきっていない太陽が、それでも世界を鮮やかに演出する。
「――崎君!」
雲一つない空。青い、どこまでも青く吸い込まれそうな空。澄み切ったその情景の影響か、柄にもなく僕の心も高揚していた。これからの生活に。これまでと決別した、新しい人生に。
「――神崎君!」
だから、その声に反応してしまった。透き通るほどに美しく、けれども力強く僕の名前を呼ぶ声に。
「神崎君……だよね? 久しぶり。私のこと、覚えてる?」
振り返った僕の目には、柔らかな笑顔を浮かべた少女が映った。ああ、忘れるはずもないさ。
君は、
僕が、
――最も憎んだ、人なのだから。