無
『「面白い物を見せてやる。」
と祖父に呼び出された高校一年の賢。どうせまたくだらない発明品でも作ったのだろうと祖父の趣味の研究部屋にやってきた。
賢を迎え入れた祖父は唐突に、
「ほぉ、賢はまだ童貞だったか。」
と笑いながら言った。
「な、いきなり何言い出すんだよ!! じいちゃん!!」
ズバリ言い当てられた賢は、恥ずかしさを隠しながら祖父を怒る。
「いやいやすまなかったな、実は面白い物とはこれなんだ。」
そう言うと、祖父は自分の掛けているメガネを指さした。
「これはわしが発明したメガネ型経験人数測定器といってだな…」
「ああわかったわかった、もういいよ。」
解説は聞かずとも充分に解るので、祖父の言葉を途中で遮る。賢は』
ここまでを原稿用紙に書いた小説家は、物語が面白くならない事を悟り、文字を消しゴムで消し、原稿用紙をビリビリに破き、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
それまでは確かに存在していた、賢も祖父も測定器も、全てが白い《無》の世界へと還っていった…。