月光の街8
「命懸けで満月に恋をするのを止めたら、僕には何も残らないじゃないか。母さん…」とヒロは言った。
満月の手の温もりにも似た母の手の温もりがヒロを目覚めさせた。
病室の中、母がヒロに語りかける。
「ヒロ、今回は本当に死ぬところだったのよ。死なずにこうして生きていられる事に感謝して、もう満月に恋をするのは止めなさい。ヒロ」
ヒロが包帯を巻いたかぶりを力なく振り否定する。
「母さん、それは無理だよ。僕は満月に恋をする為に生まれて来たのだから、命懸けで満月に恋をするのを止めたら、僕には何も残らないじゃないか。母さん…」
母が繰り言のように言った。
「何度も言うけれども、満月のように美しい心を持った女性など、この世にはいないのよ。ヒロ、分かって…」
ヒロが辛そうに顔をしかめ答える。
「でも母さん、空に浮かぶ満月はいつも満月ではないし、その分僕との一体化を拒み、僕は悲しいから、女性の満月を殺して満月の心といつでも一体化していたいのだよ、分かってよ、母さん?」
「満月を殺したって、満月とは一体化なんか出来ないのよ、ヒロ、それよりも刑事罰を受け、下手をすると死刑になるのよ、分かって」
「でも満月の心を持った女性が言っているのだから死刑になんかならないさ。母さん?」
「だからヒロ、満月の心を持った美しい女性などこの世にはいないのよ。殺す価値なんか無いのよ、ヒロ、後生だから分かって…」




