表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

不安なお茶会

「フォーリィ皇妃(マリカ)



彼が私を呼んでいる。思えば、彼と出会ったのは400年程前のこと。

こうして一緒に毎日暮らす日が訪れるとは、幼い頃の私は思っていなかったのだから。



「フォーリィ、昔話をしよう。」



彼と話し合えることも奇跡の一つ。二人でお菓子(ハルワ)を食べながらの会話は楽しいものである。



「貴方から話しますか?」


「いや…フォーリィ、お前から話せ。」



こうして、昔話が始まった。


■養母

ー昔、母(コルフィーヌ司教様)に聞いたことがありまして。ある日、血の繋がった母のことを知りたくて聞きましたら、『病弱で、優しい人。フェンネガリーヌお姉様に負けないくらい美しい方だったわ。』と言っていましたわ。そう言えば、フェンネガリーヌ様は、ファンテーヌお姉様と性格が全く違ったようで、こんなお話が残っています。



†.[外に出たい鳥]


鳥は空を自由に飛び、さえずります。ですが、鳥籠の中の鳥はどうしても飛べません。海の雫(フェンネガリーヌ)という名前を付けられるくらい青く澄んだ色をした鳥は、空を自由に飛ぶことが夢でした。ある日、(メール・アンテュール)と言う名の一羽のカモメがフェンネガリーヌの鳥籠を開けましたが、フェンネガリーヌは飛び立とうとはしませんでした。

「どうして、鳥籠からでないんだい?」と彼が問うと、フェンネガリーヌはこう答えました。

「外に出たいと私は今でも夢に見ます。ですが、この鳥籠が大きな籠を編み、皆を守っているのです。ですから、私は鳥籠の鍵が外れようとも、此処から出ることは出来ません。」

そう言って拒む彼女を、彼は(さら)い、外の世界を見せました。彼女は初めて、海の青さを知りました。そして、鳥籠を出た彼女は、大きな籠のことを心配しながら、徐々に息を引き取ったのでした。


†.[鳥籠が嫌いな鳥]


鳥籠が嫌いな鳥がいました。鳥には幼い頃に自由に飛び回ったことが懐かしく思えるのです。鳥籠が嫌いな彼女(ファンテーヌ)は、それを壊すために巣を飛び出しました。それを仲良しの(ヴィオレット)が止めようとしましたが、植物ですからその場を動けませんでした。

彼女は今でも、鳥籠を壊す方法を探しては外に飛び出すそうです。


このように、同じ鳥でも責任の感じ方は様々なのでございます。


「相変わらず、お前は話しが上手だ。俺も一つ、母の話しをしよう。」



そう言って微笑み、彼は母の記憶を語る。


■インルビン皇女


ー母は美しい人で、柳のように細く、桜のように儚げな人だった。難病にかかり、生涯を閉じたが…少しある話しがあってな。


†. [記憶]


お前の知らない秘密を、俺は知っている。全ては語らないことにするが……。数々の秘密の中から話すこととしよう。


ゼディリアを知っているだろう?俺の師である彼女が何故、お前ではなく俺を守ったか。その理由は…母が関係しているらしい。


昔の話だ…ゼディリアにとって母は『憧れ』だった。ゼディリアには、ある王命があってな。それが悪夢を見るほど、心苦しい内容だった。



「羨ましいねぇ…アンタは、さ。」


そう彼女が呟くと母も同じ答えを言ったらしい。


「ゼディリア、自由に駆け回れる貴女が羨ましいわ。」と。



この『無いものねだり』の会話が彼女に影響を及ぼしたようで、母の亡き後俺の養母となったテタルゥラに近づき、俺を殺さないように計らい、守ったらしい。


…人間とは、空を飛びたいと言ったとしても、空を飛んだとしたら、地上に戻りたいと言い出すように。何故か隣にあるものが、羨ましく思える生き物だということだ。



「……あぁ、我に帰れば……もう宵になる。もう寝よう、フォーリィ。」


「えぇ、もう寝ましょう。」



こうして、夜が訪れお開きとなったお茶会。……終わりを告げたはず、だったのに。



「……大丈夫か?」


「ごめんなさい……突然、歩けなくなっていたわ。」



驚いた…。


(私は……どうしたの?)


頭の中はもう、恐怖に取り憑かれている。



「……ほら、これで一緒に戻れる。」



不意に、横抱きにされる。…スティニスの温もりが、ゆっくりと染み入ってきて……少しだけ落ち着くことが出来た。



「ねぇ、スティニス……。お願いを聞いてくれる?」


「……お願いなんて久しいな。聞くだけ……だぞ?」



(聞くだけ、と言っているけれど…スティニスは少し嬉しそう。でも……哀しげな理由は教えてくれないのね。)



「今夜、私が寝るまで…お話を聞かせて……。」



子供の頃に戻ったみたい。こうしないと、彼が何処か遠く…手の届かない所に行ってしまいそうだったから。



「あぁ、良いよ。お前が寝るまで、昔話を聞かせよう。飽きても知らないぞ?」


「飽きないわ、きっと。」



(…私と生きている時間は、ほぼ同じ。何故、私より秘密を知っているのかしら?)


彼の話しが、私を楽しませるだろう。……拭いきれぬ、不安と共に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ